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砂漠の死闘

「動け、ブレイズ!!」

「お願い、リリエル!」


 グォオオオ───ッ!

 プラズマリアクターの起動音が艦内に響き、鋼鉄の巨人が目を覚ます。


 砂漠の嵐が唸りを上げる。

 その中で、エリシオンの戦士たちは戦闘の準備を整えていた。


〜〜〜


 遥か遠く、砂漠の荒れ地にそびえる岩陰。

 シグマ帝国の三機――ゲイルのバーキッシュ、ルシアのウィンディア、ドレッドのギガローダー。

 三機は、砂塵に紛れて潜んでいた。

 光学センサーの映像は、嵐の向こうにヘルメスの小さなシルエットを辛うじて捉えている。


「……」


 ゲイル・タイガーはバーキッシュのコックピットで、モニターを冷徹に見つめていた。

 金髪がヘルメットの奥で揺れ、切れ長の目が僅かな動きを感知する。


「ん……?」


 モニターに映るヘルメスの周辺で、微かに動く影があった。

 砂嵐の乱流の中で、普通なら見逃すような僅かな揺らぎだ。

 だが、ゲイルの鋭い感覚は、それを逃さなかった。


「まさか……」、

『ゲイル様、どうかしましたか?』

「動きがある。まさか、この距離で、悪天候の中、我々に気づいたのか?」


 その声は低く、信じがたい仮説を呟く。

 ヴァーミリオンは遠く後方で待機させ、奇襲のために最小限の三機で動いている。

 索敵を徹底的に避け、岩陰に身を隠したはずだった。

 だが、ヘルメスの動きは、まるで彼らの存在を察知したかのように素早い。


『ゲイル様、敵の反応です! 二機……いや、三機目のリアクター起動を確認!』


 ルシアの声が通信パネル越しに響いた。

 ウィンディアのセンサーが、ヘルメスから発せられるプラズマリアクターの熱源を捉えたのだ。

 ドレッドの豪快な声が続く。


『マジかよ!? こんな嵐の中で、オレらの気配を掴みやがったってのか!?』


 ゲイルは唇を歪め、思考を高速で巡らせる。

 エリシオンのパイロットたちの異常な感覚……それは、単なる技術や機体の性能を超えた何かだ。

 何か、特別な力……例えば、五感を超えた超感覚のような……そんな力を見いだされ、パイロットに選ばれたのではないか?

 それならば、これまでの超人的な戦いぶりも納得がいく……。


((いずれにせよ、このままでは、奇襲は無意味だ))


 ゲイルは冷静に状況を分析する。

 三機での奇襲は、敵がこちらの存在に気づいた時点で効果を失う。

 小型輸送艦は単体では脅威ではないが、エリシオンの機体三機が相手では、厳しい戦いになるだろう。


『ゲイル様、指示を! このまま突撃しますか?』


 ルシアの声に焦りが滲む。

 ゲイルは一瞬目を閉じ、深く息を吸いこんだ。

 そして、冷徹な声で答えた。


『いや、後退だ。全機、ヴァーミリオンへ戻る。奇襲が失敗した以上、正面からの戦闘は避ける』

『撤退ッスか!? せっかくここまで来たのに!』


 ドレッドの不満げな声が響くが、ゲイルは動じない。


『愚かな突撃はイオの二の舞だぞ、ドレッド。ヴァーミリオンに戻り、艦ごと一気に攻め込む準備を整える。エリシオンが砂漠に留まるなら、必ずその機会は来る』

『了解しました、ゲイル様。ウィンディア、帰投準備に入ります』


 ルシアの声は冷静さを取り戻し、ウィンディアは岩陰から静かに動き出した。

 ドレッドも渋々従い、ギガローダーの重い足音が砂を巻き上げる。


『チッ、覚えてろよ、エリシオンのガキども!』


 ゲイルはバーキッシュを最後尾に置き、後退を監督する。

 その視線は、モニターに映るヘルメスのシルエットに注がれたままだった。

 砂嵐の向こう、エリシオンの戦士たちが動き始めている。

 その直感と絆は、ゲイルの計算を超えるものだった。


「エリシオン。お前たちの力、この目で確かめてやる……!」


 ゲイルの呟きは、コックピットの静寂に溶ける。

 バーキッシュのリアクターが唸りを上げ、三機は砂嵐の中をヴァーミリオンへと引き返した。

 だが、ゲイルの胸には、新たな戦略が芽生えつつあった。

 砂漠の戦場は、まだ終わっていない。


~~~


 砂漠の嵐が唸りを上げ、赤茶けた砂塵が空を覆う。

 そんな中、砂嵐の奥から、三機のコマンドスーツが姿を現した。

 烈火・シュナイダーのブレイズ・ザ・ビースト、兎歌・ハーニッシュのリリエル・ザ・ラビット、そしてシャオ・リューシェンのルナ・ザ・ウルフファング。

 鋼鉄の巨人が、砂嵐を切り裂くように並び立つ。


『オレの勘、間違ってなかったぜ。見てみろ、あの影!』


 シャオは愛機、ルナのコックピットから叫ぶ。

 彼女の視線の先、遠くの空に赤黒い巨影が浮かんでいた。

 シグマ帝国の戦闘空母『ヴァーミリオン』……その紅く重厚な艦体が、嵐の雲を突き破って迫ってきていた。

 烈火はブレイズの操縦桿を握り、ニヤリと笑う。


『シグマの野郎どもか。ちょうどいい、まとめてぶっ潰してやる!』

『そう……だね』


 だが、兎歌の心は重かった。

 リリエルのコックピット内、少女は桜色の髪を汗で濡らし、過去の戦いを思い出す。


 以前、シグマ帝国との戦いで、兎歌の弱さが烈火を追い詰めた。

 あの時、烈火は無理な戦いを繰り返し、遂には倒れたのだ。

 兎歌の胸に、悔しさと決意が燃え上がる。


((わたしが……わたしが強くならなきゃ、烈火が……!))


 少女の震える手が、操縦桿を強く握る。

 リリエルの背中に搭載されたコンテナ――今回は武器を満載にした重武装仕様――が、ガシャコンと音を立て、開く。


「いくよぉ!」


 兎歌は意を決し、コンテナから大型の荷電粒子ランチャーを取り出した。

 グォオオオン……。

 青白い光が銃身に収束し、スコープを覗く桜色の瞳には、強い意志が宿る。


「E粒子、充填OK! いっけえ!」


 ズドォオオン!

 青白い光の柱が、砂嵐を貫き、ヴァーミリオンに直撃した。

 轟音と共に艦体が激しく揺れ、右舷の装甲が火花を散らして吹き飛ぶ。


〜〜〜


 ヴァーミリオンの艦橋に、衝撃が響き渡った。

 ビガービガービガー!!

 警報がけたたましく鳴り、クルーたちが慌ただしく動き回る。

 副官のノレア――緑髪をポニーテールにまとめ、豊満な胸の女――が、モニターを確認しながら被害報告を叫ぶ。


『隊長! 右舷の粒子砲および格納庫に直撃! 右側のシャッターが破損、タイタンの出撃が不可能です!』

『何!? この嵐の中で、この距離で!?』


 ゲイルはモニターに映る被害状況を冷徹に見つめる。

 砂漠の砂は抵抗となり、通常なら命中率も威力も落ちる。

 ましてや、この距離での攻撃だ。


((それでもヴァーミリオンに大ダメージを与えた。つまり、攻撃元の火力と精度が異常なまでに高い……!))


『エリシオン……やはり侮れんな……!』


 ゲイルの金髪が汗で額に張り付き、切れ長の目が砂嵐の向こうを注視する。

 即座に通信機を叩き、鋭い命令を下した。


『左側のタイタン、僅か三機だが直ちに出撃しろ! ドレッド、ルシア! 当たらなくともいい、ヴァーミリオンと連携して砲撃を開始! 敵を削れ!』

『了解ッス、隊長!』

『了解しました!』


 ギガローダーに乗ったドレッドが応答し、ウィンディアに乗ったルシアも続く。

 上空ではヴァーミリオンの左舷ハッチが展開、三機のタイタンが砂漠の大地に降り立つ。

 そして、艦の残存粒子砲が火を噴き、遠くヘルメスへと砲撃が始まった。


 ドガガガガ!

 砂嵐の中、ヴァーミリオンとタイタンたちの砲撃が唸りを上げる。

 ゲイルはバーキッシュの両肩に搭載された可動式シールドを展開、レールガンの銃口をヘルメスへと向けた。


 キュオオオン───ッ。

 オーバーリアクターが唸り、稼働時間と引き換えに、機体の出力を限界まで引き上げていく。

 インスティンクツが彼の脳に干渉し、闘争本能を強引に引き出すが、頭痛がゲイルを苛む。


 オーバーリアクター……稼働時間と引き換えに機体の出力を倍増させる新形リアクター。

 インスティンクツ……パイロットの脳を刺激し、精神波を増幅し、反応速度を向上させるシステム。

 シグマ帝国の三機には、機体を強くする二つの切り札が積まれている。

 帝国が用意した最強の機体、後はゲイルたちの戦術の問題だ。


((ヤツらは強い。ギリギリまで砲撃で削らなければ、こちらがオーバーロードし、やられる。さて、どう出る、エリシオン……!))


 ゲイルの視線は、砂嵐の向こうに揺れる三つのシルエットを捉える。ブレイズの赤、リリエルの桜色、ルナの黒――エリシオンの三機が、嵐の中を突き進んでくるのが見えた。

 ゲイルの胸に、冷たい興奮が広がる。


((さぁ来い、エリシオン……お前たちの力を、この砂漠で試してやる))


 ドゥッ!!

 バーキッシュのレールガンが光を放ち、戦場に新たな火花が散った。

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