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ヴァーミリオン隊襲来、砂漠の戦い

 さて、ここでシグマ帝国の動向を語ろう。

 東武連邦との戦争による疲弊、エリシオンの介入による損耗、加えてノヴァ・ドミニオンの侵攻により、シグマ帝国の領土はすり減り、兵器の多くが失われていた。

 これを打開するために必要なもの───

 ───すなわち、エリシオンの圧倒的な技術!

 戦局打開のため、ヴァーミリオン隊は砂漠へと向かい、エリシオンの機体の鹵獲を企んでいた。


 戦闘空母『ヴァーミリオン』の艦橋から見下ろす景色は、徐々に色を失っていく。

 いつのまにか眼下の大地は、緑の痕跡を消し、赤茶けた砂と岩の荒野へと変わっていた。

 砂漠地帯の乾燥した風が、艦の装甲を僅かに鳴らす。

 そんな中、ゲイル・タイガーは艦橋の窓際に立ち、金髪を揺らしながら、広がる不毛の光景を冷たく見つめていた。


((エリシオン……))


 ゲイルの思考は、まるで砂塵のように渦を巻く。

 情報部の報告……シャオ・リューシェン、砂漠の民の出身、20歳弱。

 彼女がエリシオンのパイロットであるなら、その背後にある組織の深さが気にかかる。

 ゲイルの脳裏に浮かぶのは、孤児院の存在。


((孤児院の経営だと? 仮に天才児がそこに現れたとしても、戦場で大成するまで何年……いや、何十年かかる?))


 ゲイルは唇を軽く噛んだ。

 エリシオンのパイロットたちは、若くして異常な戦闘技術を誇る。

 それは戦場を生きるベテランのようで、ゲイル自身、報告を受けるまではベテランパイロットだと思っていた。

 だが違うのだ。

 彼らは、幼少期から殺し合いに身を置き、何年も戦ってきた。

 だが、そんな都合の良い人材がいるか?

 若く、実戦経験豊富で、恐らく特殊な才能をもっとパイロット……。


 エリシオンが高性能なコマンドスーツを保有し、若者を超レベルの戦士に仕立て上げる仕組み――その計画は、いつから始まっていたのか?


((弱小国家の寄り合い所帯では、こんな芸当はできん))


 ゲイルの目が細まる。

 エリシオンの背後には、想像以上の力と時間が隠れているはずだ。

 政治家たちが無能と罵る情報部でさえ、その全貌を掴めていない。

 だが、ゲイルの胸には確信があった。

 砂漠地帯でエリシオンを叩けば、その秘密の一端を暴けるかもしれない。


「隊長、砂漠地帯まであと12時間です」


 背後からルシアの声が響いた。

 その声にゲイルは振り返らず、ただ小さく頷く。


「準備は整っているな」

「はい、バーキッシュ、ウィンディア、ギガローダーの調整は完了しました。ドレッド殿もシミュレータを終え、出撃準備に入っています」

「よし。ルシア、索敵を怠るな。エリシオンが動けば、必ずこの砂漠に現れる」


 ゲイルの声は低く、冷徹な指揮官のそれだった。

 赤い視線は、砂漠の彼方、エリシオンの影を追い求めるように鋭く光る。


〜〜〜


 さて、同時刻、

 灼熱の砂漠に、風が唸りを上げていた。

 空は赤みを帯び、砂塵が渦を巻く。

 採掘拠点の残骸は黒く焦げ、かつて東武連邦の支配下にあった施設は、今や完全に破壊されていた。

 砂漠の民の集落は、辛うじて原形はとどめているものの、住居の多くは崩れ、住民たちは疲弊していた。


 その集落の外れで、小型輸送艦『ヘルメス』の簡素な居住区に身を寄せる人影が二つ。

 烈火・シュナイダーと兎歌・ハーニッシュだ。

 艦内は狭く、金属の壁が熱を帯び、汗と埃の匂いが漂う。

 烈火は壁に凭れ、腕を組んで不機嫌そうに呟く。


「ったく、こんな時に嵐の季節かよ。ヘルメスが動けねぇんじゃ、いつ帰れるんだ?」


 烈火の赤い髪が汗で額に張り付き、苛立ちが声に滲む。

 エアコンでも防ぎきれない暑さに、烈火は不機嫌だった。


 砂漠の気候は過酷だ。昼の酷暑は肌を焼き、夜の氷点下は骨まで凍らせる。そして今、砂嵐の季節が追い打ちをかける。

 母艦であるヘルメスは、遭難の危険を避けるため発進できず、彼らは足止めを食らっていた。


「まぁまぁ、烈火。こうやって一緒にいられるんだから、悪くないよね?」


 兎歌の声は明るく、烈火の隣にぴったりと寄り添っている。

 桜色の髪が汗でしっとりと輝き、パイロットスーツは薄く、身体のラインを隠しきれていない。

 スーツの下、ノーブラの胸が烈火の腕に軽く押し付けられ、思わず顔をそむけた。


「お、お前……何だよそのくっつき方は。暑ぇんだから、離れろって」

「えー、ヤだよ。せっかく二人きりなんだから♪」


 兎歌は唇を尖らせ、ますます烈火に身を寄せる。

 桜色の瞳は上機嫌に輝き、幼なじみとの、この時間が何よりも幸せだった。

 なんとかして、この暑さで理性を奪い、ケダモノとなった烈火に襲わせることはできないものか?

 兎歌はそんなことをつらつらと考える。

 その様子を観つつ、烈火はため息をつき、諦めたように肩を落とした。


「ったく……何が楽しいんだか」


 その言葉とは裏腹に、兎歌の温もりにどこか安心感を覚えている自分に気づき、内心で舌打ちする。


 そんな彼らの背後、ヘルメスの窓から、遠く集落の復興作業をするシャオ・リューシェンの姿が見えた。

 彼女の愛機『ルナ・ザ・ウルフファング』が、黒狼のようなシルエットを揺らし、瓦礫を運んでいる。


「シャオ……」


 兎歌の脳裏に、シャオとのやり取りがよぎる。

 任務を終えた後、シャオがイタズラっぽい笑みを浮かべて言ったのだ。


『兎歌、烈火と二人きりになりたいだろ? 集落の作業、任せておきな! あたしがしっかり時間稼ぎしてやるから、しっかりイチャイチャしてこいよ!』

『あう、そ、それは……』


 その言葉に、兎歌は顔を真っ赤にして抗議したが、シャオは笑いながらルナに乗り込んで行ってしまった。

 兎歌は心の中で、シャオに感謝の言葉を呟く。


((シャオ、ありがと……))


 少女の視線は、烈火の横顔に戻った。

 烈火は気づかぬまま、窓の外の砂嵐を睨むばかり。

 その様子を見て、兎歌はそっと彼の腕に手を置き、微笑んだ。


「烈火、シャオが集落のために頑張ってるんだから、私たちも少し休んで元気出さなきゃね」

「あー、休むったって、この暑さじゃ寝る気にもなれねぇよ」


 烈火はぶっきらぼうに答えるが、兎歌の笑顔に少しだけ表情が和らいでいるように見える。

 兎歌はさらに身を寄せ、囁くように言った。


「ね、烈火。砂漠の民、助けられてよかったよね。シャオ、すっごく喜んでたよ」

「あぁ……まぁな。あいつの故郷だろ。そりゃ、必死にもなるさ」


 烈火は少し遠い目をして言った。


 シャオ・リューシェン――ボーイッシュで男勝りな彼女は、内面は弱く脆い少女だ。

 故郷が滅んだとなれば、きっと心が無事では済まない。

 烈火もそうだったから、よくわかる。

 だから、今回の任務で、彼女の故郷を東武連邦の魔の手から守れたことは、とても嬉しかったのだ。


 だが、彼らの休息は長くは続かない。

 ヘルメスの通信パネルが、微かなノイズと共に点滅を開始。

 烈火が眉を寄せ、立ち上がる。


「ん、何だ? やっと動けるってか?」


 兎歌も慌てて立ち上がり、通信パネルに駆け寄る。

 ブォン───。

 スクリーンに映ったのは、シャオの日焼けした顔だった。

 短い黒髪が汗で張り付き、鋭い瞳が何かざわつく気配を捉えている。


『オレだ、烈火、兎歌。なんかさ……うまく言えねぇけど、嫌な風が吹いてるぜ』


 シャオの声は低く、男っぽい口調に緊張が滲んでいた。

 ルナのコックピット内で、シャオは集落の復興作業を中断し、周囲を警戒しているようだった。

 体高15メートルの黒狼のような機体が、砂嵐の中、微動だにせず佇んでいる。


「それって───」


 兎歌が返事をしようと通信機に手を伸ばした瞬間───背筋に冷たい感覚が走った。

 ネクスターの第六感……過酷な環境下で磨かれた直感が、彼方から放たれる殺気を捉えたのだ。

 桜色の瞳が大きく見開かれ、反射的に烈火を見る。


「烈火……!」

「……あぁ」


 烈火もまた、ほぼ同時に異変を感じ取っていた。

 赤い髪が汗で揺れ、鋭い目が窓の外の砂嵐を貫くように睨む。

 言葉はなくとも、二人の視線が交錯し、互いに頷く。


「行くぞ、兎歌!」

「うん!」


 二人は瞬時に居住区を飛び出し、ヘルメスの格納庫へと駆けた。

 メカニックたちが驚く横を駆け抜け、コックピットへ飛び乗る。

 烈火はブレイズ・ザ・ビーストへ、兎歌はリリエル・ザ・ラビットへと乗り込み、アニムスキャナーを繋いだ。


「動け、ブレイズ!!」

「お願い、リリエル!」


 グォオオオ───ッ!

 プラズマリアクターの起動音が艦内に響き、鋼鉄の巨人が目を覚ます。


 砂漠の嵐が唸る。

 その中で、エリシオンの戦士たちは戦闘の準備を整えていた。

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