三姉妹の戦い
「うーん、硬いわねぇ……さすがの重装甲ね」
ノエルは分析を重ねる。
イノセントは優れた機体だが、さすがに戦闘空母には及ばない。
加えて、囚人を守るために動きを制限される。
敵の狡猾さに、内心で舌を巻いた。
即座に駆けつけるカンの良さ、攻略目標だった農場を防衛目標に変えて釘付けにする戦略───シグマの艦長は強い。
一方、ドラゴナイトのブリッジでは、イオが哄笑を上げていた。
巨乳がユニフォームを押し上げ、新緑の瞳が勝利を確信して輝く。
「アハハ! エリシオンの新型といえど、守りながら勝てるはずないでしょ! このまま撃ち続ければ、いずれ防ぎきれず倒れるわ!」
「艦長、タイタン1から6番機、展開完了! 敵機を包囲します!」
「いいわ! さぁ、じゃんじゃん撃ってちょうだい!」
イオが手を振り、レールガンが再びチャージ音を上げる。
農場に蒼い光と土色の影が交錯し、シホ、ノエル、ユナは限界まで戦い続けた。
だが、戦力の差が厳しい……!
ユナのイノセントがジェットパック唸らせ、農場の上空を飛び回る。
ドガガガガッ!!
粒子サブマシンガンが青白い光を撒き散らすと、タイタンの群れが怯んだ。
「でりゃあああ! この、このー!」
ユナは叫びながら弾幕を貼るが、残りは5機。
ガトリングガンと重砲が鉄と火薬を撒き散らす。
5対1の包囲網がユナをジリジリ追い詰めていく。
「反撃のスキが……ない!」
ユナはE粒子ブレードを振り、1機の腕を切り落とす。
だが、2機のタイタンが横を突破し、農場へ向かっていく。
「チッ! 逃がすかぁ!」
ユナへ叫ぶが、別方向からの銃撃!。
重砲が掠め、右肩のアーマーが砕けた。
「くぅ……!」
農場ではシホ機がリニアキャノンを構え、迫るタイタンを牽制する。
シールドで砲撃を弾くたび、激震とともに地面が揺れる。
だが、モニターに映る粒子タンクの残量が赤く点滅していた。
「まず……粒子が……もうすぐ切れる……!」
シホの声が震える。
三人のイノセントにはプラズマリアクターがない。
粒子タンクを使い切れば、粒子シールドやランチャーといった強力な武器は使えなくなる。
恐怖が胸を締め付けるが、シホは歯を食いしばった。
「烈火さんなら……絶対諦めないよね」
シホはリニアキャノンを撃ち続け、砲撃を防ぐ。
その後ろ、ノエル機は迫るタイタンにガトリングガンを撃ち込みながら、時間を計る。
ノエル機の荷電粒子ランチャーは強力だ。
当たれば戦闘空母であろうと大ダメージは避けられない。
だが、E粒子の消費が激しい。
確実に、敵がスキを見せる瞬間を待たねば───。
「もう少し……我慢して!」
ノエルの声に力がこもる。
ノエルはただ耐えるだけでなく、戦場全体を見ていた。
今この状況で最善の方法は……時間を稼ぐことだ。
一方、ドラゴナイトのブリッジでは、イオ・ロックウェルが勝利を確信して笑う。
巨乳がユニフォームを押し上げ、深緑の瞳が獲物を捉えた獣のようだ。
「ふふっ、いい動きだけど無駄よ。多分、あいつらの粒子は無尽蔵じゃない。持久戦なら、こっちの勝ちね!」
イオはプラズマリアクターの存在など知らない。
だが、3機のコマンドスーツが粒子に限りがあることに気づいていた。
このまま撃ち続ければ、いずれ防ぎきれず倒れることにも。
「砲撃を継続しなさい! このまま押し切るわよ!」
「「了解!」」
部下たちが叫び、レールガン再チャージする。
だがその瞬間、ドラゴナイトに激震が走った。
ズガァァン!
艦体が揺れ、ブリッジの照明がチカチカと点滅!
「何ごと!?」
「左舷、レールガン被弾!」
「チィ……! 左舷、モニター拡大して!」
イオが叫ぶと、監視映像が映る。
モニターに映ったのは───黒い戦艦の姿。
エピメテウスだ。
荷電粒子砲がドラゴナイトのレールガンを砕き、黒煙がモクモクと上がっている。
「そんな……! いつの間に!?」
イオの顔が歪む。
ノエルはただ耐えていたわけではなかった。
時間を稼ぎ、エピメテウスの到着を待っていたのだ。
農場に蒼い光が瞬き、シホとユナが息を呑む。
『ノエルさん! エピメテウスが!』
『へっ! いいタイミングじゃん! さぁ、逆襲だ!』
ノエルがゆるふわな笑顔で応える。
「うふふ、みんな、もう一踏ん張りお願いね!」
ドゴォオオンッ!!
エピメテウスの2発目の荷電粒子砲がドラゴナイトに直撃!
艦体が激しく揺れ、黒い装甲が裂けて火花がバチバチと散る。
ブリッジに悲鳴のような被害報告が響き、部下の声がパニックに染まっていく。
「左舷大破! 動力炉に損傷! 艦が……傾いてます!」
「艦長! 退避を──!」
ドラゴナイトが傾き、ブリッジが無防備に晒された瞬間───
ノエル・コットンはその隙を見逃さなかった。
ノエル機は荷電粒子ランチャーを構え、エネルギーが収束する。
「E粒子充填完了……ファイア!」
ノエルの声に鋭さが混じり叫んだ。
その声に、ユナとシホは素早く退避。
直後、蒼い光がドラゴナイトのブリッジを直撃した。
ドガァァン───ッ!!
荷電粒子ランチャーの閃光がドラゴナイトのブリッジを焼き尽くし、ガラスと鋼鉄を溶かしてクルーを消し炭に変えていく。
「いやぁぁっ!」
イオ・ロックウェルは断末魔の叫びを上げ、炎に飲み込まれた。
ブリッジが爆発し、ドラゴナイトの艦体が大きく傾く。
黒煙がモクモクと立ち上り、戦闘空母はゆっくりと荒野へ落ちていった。
「やった……! ノエルさん、すごい!」
シホはメガネをクイッと直し、興奮した声で叫ぶ。
シホのイノセントはシールドエッジを構えたまま、農場の囚人を守り続けていた。
「ハハッ! あのデカブツ、ボコボコじゃん! さすがノエル!」
ユナはヘルメットを脱ぐと、赤毛を振って笑い、E粒子ブレードを振り上げる。
その後ろでタイタンの残党が倒れ、農場に静けさが戻りつつあった。
ノエルはふわりと栗毛を揺らし、ほっと息を吐いた。
「ふぅ……なんとか間に合ったね。みんな、大丈夫?」
その声に温もりが戻る。
シホは頷き、ユナは生意気そうに鼻を鳴らした。
「ふん、余裕だってば! あー、帰ってアイス食べたいー!!」
「ユナちゃんったら……でも、ほんとによくやったわ!」
農場に蒼い光が薄れ、エピメテウスの黒い艦体が上空で静かに浮かでいた。
ドラゴナイトの残骸は地面に落ち、解放された囚人たちが歓声を上げる。
「自由だ! やったぞ!」
「よっしゃあ!!」
シホはコックピットでデータを握り、烈火への想いを胸に秘めた。
「これで……烈火さんにも、胸を張れるよね」
戦いは終わった。
だが、シグマ帝国の影はまだ消えていない。
ノエル、シホ、ユナはイノセントを並べ、次の戦いへ備える覚悟を静かに固めた。
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エピメテウスの黒い艦体は静かに宙を進み、農場の戦場を後にしていた。
イノセント3機は格納庫に収まり、ノエル、シホ、ユナはコックピットから降りて格納庫を歩く。
戦いの緊張が解け、疲れと安堵が混じる空気の中、ユナは赤毛のサイドポニーテールを振ってニイッと笑った。
「ねぇ、本国に帰ったらさ〜、烈火のお兄ちゃんに膝枕してもらって〜、ヨシヨシしてもらうの!」
ユナの声は弾け、大人ぶった口調の裏に子供らしい無邪気さが滲む。
彼女は戦場では生意気だが、根はまだ幼い少女。
シホは隣でその言葉を聞き、黒髪ぱっつんの前髪を揺らして一瞬目を伏せた。
「膝枕……かぁ」
シホの胸に、烈火への淡い想いがチクりと疼く。
自分もそんな風に甘えてみたい───そう思うが、ふと壁のパネルに映る自分の姿にハッとした。
パイロットスーツに強調された、胸の大きな大人の女の身体。
ユナのような子供なら無邪気に甘えられるかもしれない。
だが、自分が同じことをねだれば、烈火の恋人である兎歌・ハーニッシュが黙っていないだろう。
略奪なんて、シホの望むところではない。
「ユナちゃん、ちょっと羨ましいな……」
シホが小さく呟くと、ノエル・コットンがゆるふわな栗毛を揺らし、察したように口を開いた。
「うふふ、それならさ、エリシオンのエライ人にお願いして、ハーレムができるようにしてもらっちゃいますか〜?」
ノエルの声はおっとりしながらも、どこか意地悪な響きを帯びていた。
シホは一瞬、想像してしまった。
もしそんなことが実現したら、ユナも自分も、兎歌さえも、まとめて烈火に可愛がってもらえるかもしれない……。
「だ、ダメですよ、そんなの!」
シホは我に返り、頬を赤らめて叫んだ。
メガネの奥で瞳が揺れ、慌てて首を振る。
ユナはケラケラと笑い、ノエルがクスクスと肩を震わせた。
「えー、シホったら真面目すぎ! 冗談だって!」
「もう、ノエルさんまで! からかわないでください!」
シホの抗議に、ユナがポニーテールを振って茶化す。
「でもさ、シホの反応、めっちゃバレバレじゃん? 烈火のお兄ちゃんのこと、好き好き大好き〜って顔してる!」
「そ、そんなことないよ!」
シホの声が上ずり、ブリッジに軽い笑い声が響く。
ノエルがゆるやかに微笑み、二人を優しく見守った。
「まぁまぁ、みんな仲良くね。本国に帰ったら、ゆっくり休みましょうね~」
エピメテウスの黒い巨体が三人を優しく受け入れ、艦は静かにエリシオン本国へと進む。
戦いの傷を癒やし、次の試練に備えるため、彼女たちの絆はここでまた少し深まった。
この後、第13章へと続きます。