襲来! ドラゴナイトの脅威
一方、農場の管制室では緊急事態にパニックが広がっていた。
監視カメラに映るタイタンは次々に崩れ落ち、ばら撒かれた弾丸が監視員を赤い塵に変えていく。
シグマの監視員がコンソールを叩き、奴隷を気絶させる電撃装置を起動しようとする。
「早くしろ! 奴隷を抑えろ!」
「電波が……届かねぇ! 妨害されてるぞ!」
「救援は!? 誰か応答しろ!」
だが、ノエルの通信妨害が全てを遮断し、救援の望みは絶たれていた。
看守たちが警棒と拳銃を手に管制室を飛び出す。
───だが、その先に待っていたのはシホとコマンドロボだった。
「そこまでだよ!」
シホの声が鋭く響いた直後、コマンドロボが機銃を乱射した。
「な───ッ」
「ぐわぁああ!!」
鉛弾の嵐が吹き荒れた。
看守たちが悲鳴を上げ、肉片と血飛沫に変わって崩れ落ちる。
シホはメガネの奥で目を細め、一瞬だけ目を伏せると室内へと駆け込む。
「ごめんね。でも、そこで死んでて」
シホ・フォンテーヌは無人となった管制室に滑り込み、黒髪を揺らしてコンソールに目を走らせた。
モニターが点滅し、シグマ帝国のシステムが赤い警告で埋め尽くされている。
「通信システム……完全に停止。囚人統制システム……これだ」
シホはメガネをクイッと直し、腰のポーチからハッキング用デバイスを取り出した。
「これで……いけるはず」
カチッ……
小さく呟き、デバイスをコンソールに接続する。
青白い光がケーブルを走り、画面にデータが滝のように流れ始めた。
白い指がキーボードをカタカタと叩く、その後姿をコマンドロボが守っている。
『シホちゃん、状況どう!? 外はまだゴチャゴチャしてるよ!』
ユナの声が通信から飛び込んできた。
通信越しにも爆音が響き、戦いの様子が伝わってくる。
『もう少し! システムの制御、取れてるよ!』
シホが答えると、モニターに『Access Open』の文字が浮かぶ。
ハッキングデバイスが奴隷農場のシステムを掌握し始めた。
まず、脱走者を射殺するための自動機銃が停止。
赤い警告灯が暗くなり、農場の端で無力化した砲塔が静寂に沈む。
「機銃、無効化完了! 次は……緊急連絡システム!」
シホの指がさらに速く動き、コードを打ち込む。
ピピピピ───ッ
直後、シグマの救援要請信号が途切れた。
通信網が完全に遮断され、管制室のスピーカーからはノイズだけが漏れる。
「よし、救援も呼べないね。これで時間稼げる!」
シホは小さくガッツポーズを作った。
続けて、隔壁の制御に手を伸ばす。
ガコン、ガコン……!
重い音が農場全体に響き、奴隷を閉じ込めていた鉄の扉が次々と開いていく。
同時に収容所のロックまでもが解放され、解放された人々の怯えた声が遠くから聞こえてきた。
『シホちゃん、ナイス! 扉が開いてる! 奴隷の人たちが逃げ始めてますよ~!』
ノエルの声が通信で響き、ガトリングガンのゴロゴロという音がバックで流れる。
シホは頷き、デバイスから最後のデータを吸い上げる。
『記録も……確保! これでシグマの悪事を世界に公開できるよ!』
ブツッ。
シホがデバイスを外すと、コンソールが暗転した。
コマンドロボがカタカタと動き、シホを守るように並ぶ。
農場の混乱は頂点に達し、解放された奴隷たちが出口へ走る中、シホは静かに息を吐いた。
「烈火さん……見ててくれると、いいな」
シホの頬がほのかに赤らみ、烈火への想いが胸をよぎる。
だが、今は戦場だ。
シホはメガネを押し上げ、農場の人々を導くために管制室を飛び出した。
~~~
「うぉおお!」
「ブチのめせ! クソッタレども!」
「クソッ、発砲を許可する!」
奴隷農場の収容所は大混乱に包まれていた。
鎖が砕け、囚人たちが叫び声を上げて暴れ出す。
看守たちは警棒を振り回し、拳銃を乱射して抑え込もうとした。
ドウンッ。
銃声とともに血が地面に飛び散り、何人かの囚人が倒れこむ。
「ぎゃあ! 撃たれたァ!」
「静かにしろ! 動くな!」
看守の怒号が響くが、混乱は収まらない。
その瞬間、
ズガァァン!
凄まじい衝撃音が空を裂いた。
小型強襲艇が収容所に突っ込み、機銃が火を噴いたのだ。
「目的地に到着!! 突入しろ!」
装甲服に身を包んだエリシオン兵たちが強襲艇から飛び出し、弾丸が飛び交う銃撃戦が始まる。
武装看守がライフルで撃ち返す。
だが、一人が後ろから手錠で殴られ、血を流して倒れた。
「やっちまえ! 自由だ!」
ボグゥ!
囚人の一人が叫び、看守を殴りつける。
前からエリシオン兵の銃撃、後ろから囚人の反撃に挟まれ、看守たちは次々に崩れ落ちた。
収容所は瞬く間に制圧され、解放された囚人たちの歓声が響き合う。
「やった! もう奴隷じゃねえ!」
一方、シホ・フォンテーヌは……管制室からデータを回収し、急いでイノセントに戻ったところだ。
コックピットに滑り込み、ヘルメットを被りなおす。
元々軍事基地ではなかった農場では、タイタンはすでに全滅していた。
だが、シホの大きな胸に微かな不穏な感覚が走る。
ネクスターとしての適性があるからか?
なぜかはわからないが、本能がかすかに警鐘を鳴らしていた。
「何か……変な感じ……」
シホが呟いた瞬間───
ドガァァン!
施設の一部が爆発し、炎と瓦礫が舞い上がった。
「ぐわぁああ!」
「くそ、二人やられた!」
「おい、大丈夫か!?」
囚人たちの悲鳴が響き、何人かが血まみれで倒れた。
シホ、ノエル、ユナは咄嗟に砲撃の方向へ振り向く。
『何アレ!?』
通信越しにユナが叫ぶ。
イノセントのカメラアイが望遠に切り替わると───
彼方の上空に、シグマ帝国の小型戦闘空母の黒い影が浮かんでいた。
名を、『ドラゴナイト』。
ゴウゴウとリアクターが唸り、砲門が次の攻撃を準備する。
『来るよ! みんな、構えて!』
ノエルが叫び、彼女のイノセントが前に出た。
直後、2発目の砲撃が放たれ、モノクロの閃光が農場を襲う。
ノエル機はE粒子防壁を展開し、身体を張って受け止めた。
爆音とともに装甲が軋み、蒼白い機体が火花を散らす。
「うっ……大丈夫! まだやれます!」
普段はゆるふわな声に力がこもる。
だが、ドラゴナイトの黒い影が迫ってきていた。
上空ではハッチが開き、新たなタイタンが次々に降下してくる。
ドシン、ドシン、ドシン。
土色の重厚な装甲が地面を踏みつぶし、ガトリングガンが回転を始める。
『チッ! まだ湧いてくんのかよー!』
ユナは舌打ちし、E粒子ブレードを正中線構えた。
隣のシホはモニターを凝視し、データチップを握り潰すように拳を握った。
「このデータ……絶対守らないと……」
3機のイノセントが蒼い光を放ち、狙いを定める。
〜〜〜
一方、ドラゴナイトのブリッジは冷たく輝き、モニターに農場の混乱が映し出されていた。
「初弾、命中。対象、依然として顕在」
「レールガン、電力充填50%、冷却完了まで残り12」
「ローテン農場からの応答、なし」
イオ・ロックウェルは艦長席に座り、黒髪を揺らすと、鋭い深緑の瞳で戦場を見据える。
その唇がニヤリと歪み、牙を剥くように笑った。
「見つけたわ、エリシオンの犬ども。農奴どもを開放して英雄気取り? シグマをナメないでよね」
イオの声がブリッジに溶ける。
ドラゴナイトはただの空母ではない。全長80メートルの黒い艦体は重装甲に覆われ、高出力のリパルサーリフトとイオン推進器による高い機動性、そしてレールガン二門を備えた戦闘空母なのだ。
たかが3機のコマンドスーツでどうにかなる相手ではない。
「目標、ローテン農場。撃てェー!」
ドゴォオオンッ!!
イオの号令一下、ドラゴナイトのレールガンが唸り、爆音が農場を震わせた。
砲撃が地面を抉り、瓦礫と土煙が舞い上がる。
「うわぁああ!?」
「こ、今度はなんだ!?」
囚人たちの悲鳴が響き、解放されたばかりの希望が一瞬で恐怖に変わった。
その様子を見下ろしながら、シホは首を振り、ノエルに叫んだ。
『ノエルさん! どうする!? このままじゃ施設が持たないよ!』
『ねえ! あのデカブツ、ぶっ壊していい!?』
ユナも声を上げる。
ノエルは栗毛を揺らし、冷静に指示を出した。
『ユナは前進してタイタンの足止め、シホはシールドで施設を守ってね! 私は少しでも数を減らしますよー!』
『『了解!』』
三人は即座に動き出した。
シホは腰のリニアキャノンを抜き、ドラゴナイトの砲撃に応戦。
左腕のシールドが展開され、飛来する砲弾を防ぐ。
その瞬間、激震がシホを襲った。
『左腕損傷率19%。フレームに以上あり』
「ガードしてるのに……。でも、これ以上……やらせない!」
ユナはジェットパックを噴射し、タイタンの群れに突撃!
粒子サブマシンガンが青白い光の雨を放ち、先行していた一機のタイタンに直撃。
タイタンはハチの巣となって爆散!
「よっしゃあ! 一丁上がり! 次はどいつ!?」
だが、タイタンは次々に降下し、ガトリングガンが唸る。
雨あられと降り注ぐ銃撃をユナ機は流れるように回避。
だが、数が多い!
ノエルはドラゴナイトにガトリングガンを撃ち込む。
ガギギギギッ!
弾丸が装甲に当たり、火花を散らす。
だが……
「うーん、硬いわねぇ……さすがの重装甲ね」
ノエルは分析を重ねる。
イノセントは優れた機体だが、さすがに戦闘空母には及ばない。
加えて、囚人を守るために動きを制限される。
敵の狡猾さに、内心で舌を巻いた。
即座に駆けつけるカンの良さ、攻略目標だった農場を防衛目標に変えて釘付けにする戦略───シグマの艦長は強い。