三姉妹VSガロ&リエン
海底の闇で、サーペント・ガレルの装甲がガシャガシャと展開し、無数の触手が現れた。
触手は次々に絡みつき、イノセント・オリジンを絡め取っていく。
しかも、これらはサーペントを通じて潜水空母とリンクしているのだ!
『システム接続確認』
『通信状況良好』
『よし、システムへ侵入、アクセスを奪え』
『了解』
潜水空母の一室では、機械の冷却ファンの音と、ハッカーたちの声が響いていた。
ノヴァ・ドミニオンのクラッカーたちは、次々に電脳にアクセスし、作業を開始。
科学立国たるノヴァの精鋭の前では、オリジンのセキュリティは次々と解除されていく。
暗号の壁が崩れ、システムの奥深くへと侵入が進行していた。
一方、ユナのイノセントは魚雷を撃ちながらサーペントに接近していた。
ユナは赤毛を振り乱して叫ぶ。
「オリジンを返せ、この泥棒!」
ユナ機は一直線に突進し、オリジンへとその手を伸ばす。
だが、その瞬間、システムが完全に掌握された。
『アイハブコントロール……』
直後、イノセント・オリジンの機体から、かすかに黒いオーラが立ち上る。
サーペントと触手で繋がれたことで、アニムスキャナ―が接続されたのだ。
オリジンの眼が赤く輝き、機体が不気味に起動。
「何!? 動いた!?」
ユナが驚いて動きを止めた瞬間、オリジンが一瞬で彼女の目の前に現れた。
オリジンは腰のE粒子ブレードを抜き、青白い刀身を輝かせる
水中では粒子が散って刀身がやや小さくなるが、至近距離ならば関係ない。
「───ッ!」
ユナは咄嗟にジェットパックで後退しようとするが、オリジンの動きがあまりにも速い!
ネクスターのために設計されたオリジンと、リエンの異常なネクスター能力の組み合わせは、信じられない速度を生み出していた。
シュオン───!
ブレードが閃き、次の瞬間、ユナのイノセントは細切れになっていた。
装甲がバラバラに裂け、リアクターを貫通。
直後───
───ゴボォオンッ!!
無数の泡と共に爆発が広がった。
「ユナ!?」
衝撃にノエルは驚き、一瞬隙を作ってしまう。
その一瞬をガロ・ルージャンは見逃さない。
ディーパーの青と黒の流線形のラインが水流を切り、強烈な蹴りをノエル機に叩き込む。
ズガンッ!
直撃だ。
ノエルのイノセントは真横に吹き飛び、沈めてあった機雷に激突!
バチバチとすさまじい高周波と電撃がコックピットを襲う。
「うああッ!?」
ノエルの爆乳がパイロットスーツを揺らし、悶絶する!
システムがエラーを起こし、響き渡る警告音!
『ザザ……メージ限界ザザ突破、脱出ザザザ……ッ』
ボゴンッ!
コックピットボールが排出され、主を失ったノエル機は海底に沈んでいく。
『ノエルさん!』
シホが助けに駆けつけようとするが、その目の前にガロのディーパーが割り込む。
そして、ディーパーの丸い腕がコックピットボールをハンマーブロウで殴りつけた。
ガコン!
ボールがへこみ、泡を吐いて沈んでいく。
「ノエルさああん!」
シホの悲鳴が海底に響く中、オリジンを手に入れた東武連邦の部隊は悠々と去っていく。
サーペント・ガレルは触手を収納し、ディーパーたちはその後を追う。
海底の潜水空母は水流を巻き上げ、オリジンを飲み込み、暗闇へと消えていった。
シホは暗い海の中、ただ一人で絶叫していた。
シホはイノセントのコックピットで必死にこぶしを握り締める。
力を抜けば、涙がこぼれてきそうだ。
「取り戻さなきゃ……! 私が、私が戦わないと……!」
シホは震える声で叫ぶ。
だが、ユナとノエルの安否は不明。
エピメテウスの浸水は進み、シホ一人の力では状況を覆すのは難しい。
海底に静寂が戻り、その重さで潰されそうだった。
~~~
同時刻、エピメテウスの艦橋。
そこでは、ロゼッタが白髪を揺らし、厳しい表情でモニターを見つめていた。
通信は依然として途絶え、艦の損傷は深刻だ。
ステルスによって奇襲し、反撃の体勢を整えるより早く撤退。
見事な攻撃だった。
ロゼッタは唇を噛み、静かに呟いた。
「敵の狙いは最初からオリジンだった……我々の最大の弱点を突いてきたな」
~~~
さて、一方のノヴァの部隊。
ディーパーのコックピット内、ガロ・ルージャンは勝利を確信していた。
青と黒の流線形の機体が水流を切り、サーペント・ガレルと共に潜水空母に帰還する。
モニターには、沈んでいくノエルとユナのコックピットボールが小さく映っていた。
「ふん、コックピットボールなんざ空気が抜ければ沈む。やがて水圧でペシャンコだ。パイロットもろとも海の藻屑よ」
ガロの唇がニヤリと歪む。
エリシオン本国に近づきすぎている。
防衛隊が来る前に撤退するべきだ。
エピメテウスは撃沈できなかったが、イノセント・オリジンを手に入れた。
プラズマリアクターの奪取は、ノヴァ・ドミニオンにとって十分すぎる戦果だった。
「センセイに良い土産ができたぜ。撤退だ」
ガロとオリジンを乗せたまま、潜水空母は水流を巻き上げ、深海へと消えていく。
~~~
さて、ここでことわざを一つ。
───捨てる神あれば拾う神あり。
遥か東の国に伝わる古い言葉だ。
そして、不幸中の幸いがあった。
エピメテウスは任務を終え、エリシオン本国へ帰投中だった。
海流に乗っていたこと、そして、もう一つ。
ギリギリで本国の守護神、アズール・ザ・リヴァイアサンの活動範囲に入っていたことだ。
グォオオーン……。
海底から巨大な影がせり上がり、深海魚のような外観の機動要塞が姿を現す。
全長60メートルを超える巨体、アズールだ。
アズールは二本の腕を伸ばし、沈んでいくノエルとユナのコックピットボールを掴んだ。
ゴボンと水泡が上がり、巨体が浮上する。
『……すまん。間に合わなかったな』
アズールのパイロット、ゴウの声が通信越しに響く。
熊のような巨体に似合わぬ、のんびりした口調だ。
巨体が水流とともに重金属紛を押し流し、静かにエピメテウスの前に流れてくる。
『そんな……今更になって……!』
シホ・フォンテーヌはイノセントのコックピットで、ゴウを糾弾しようとした。
メガネの奥で涙が溢れ、声が震える。
『どうして……! どうして早く来てくれなかったの!?』
だが、艦長ロゼッタの厳しい声が割り込む。
通信パネル越しに白髪を揺らし、威厳ある瞳でシホを諌めた。
『およし! 向こうも、辛いんだから』
ロゼッタは知っていた。
アズールはエリシオン本国防衛の要であり、防衛線から離れることは許されない。
たとえ、すぐ近くで仲間がなぶり殺しにされようとも。
そんな制限の中、ギリギリまで離れ、助けに来てくれたのだ。
ゴウの心中を察し、ロゼッタは静かに感謝を告げる。
『ゴウ、ありがとう。エピメテウスが沈まなかったのは、貴方のおかげです』
『……』
ゴウは無言で頷き、アズールはコックピットボールを抱えてエピメテウスに接近していく。
艦の格納庫は浸水で半壊していたが、かろうじてボールを収容するスペースは残っていた。
シホはコックピットの中で、ただ泣いていた。
メガネが涙で曇り、不甲斐なさが胸を締め付ける。
ユナとノエルの安否はまだ不明。
オリジンは奪われ、エピメテウスは瀕死だ。
シホの小さな肩に、戦いの重さがのしかかる。
「烈火さん……私、負けないよ……絶対、取り戻すから……」
エピメテウスの黒い艦体は、傷つきながらも本国へ向かう海流に乗る。
横をアズールの巨体が並走し、帰路につく少女たちをを守る。
戦いは終わったが、敗北の代償は重い。
あまり明るくない未来が、ずっしりとのしかかっていた。
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