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迫る連邦艦隊! 出撃せよ機動要塞アズール!

「うん、ありがとう、菊花さん。私、ちゃんと見てるよ」

『頼んだでー!』


 通信が切れると同時に、三機のプラズマリアクターが唸りを上げた。

 クルーたちの通信が響く。


『では、プラズマリアクターが安定域に入ったら、教えてください』

「入ったぜ。次はどうすればいい?」

『そしたら烈火さんは8番の供給ケーブルに機体を接続してください。ヘルメスの粒子推進器を起動します』

「了解」


 烈火がパネルを操作すると、ブレイズの腕がケーブルを掴み、自らの胸に接続する。

 キュオォオオン───ッ

 ブレイズから供給されたE粒子がヘルメスへと流れ込み、淡い光を放った。


 と、頭上で駆動音。

 見上げると、格納庫の天井がゆっくり開き、青空が広がる。

 遠くに、ウェイバーの紫の機影が一閃し、哨戒を続けるギゼラの存在が三人の背中を押すようだった。

 粒子供給を受けたヘルメスのリアクターがフル稼働し、ドックの空気が震える。

 レゴン艦長の声が、通信越しに最後の指示を響かせた。


『諸君、ヘルメスはこれより砂漠地帯へ向かう。連邦の資源採掘拠点を叩き、砂漠の民を救出せよ。エリシオンの未来は、君たちの手に懸かっている!』


 レゴンの指示を受け、クルーたちはヘルメスを浮上させた。

 ヘルメスの巨体が低く唸りながらドックを離れ、白雲の空へと浮上する。

 光学迷彩が展開され、艦の輪郭がゆらりと溶けるように消える中、格納庫ではブレイズ、リリエル、ルナのプラズマリアクターがそれぞれ起動音を響かせる。

 シャオはルナのコンソールを握り、故郷の砂漠を思い浮べ、烈火は拳を鳴らし、兎歌はリリエルの中、静かに決意を固める。


 だが、その瞬間、艦内に鋭い警報が鳴り響いた。

 ビービービービーッ!!


「な、なんだ!?」

『空襲警報!?』

『敵か!?』


 三人が驚いていると、オペレーターの通信が響いてくる。


『敵襲! 東武連邦の艦隊を確認!』

『空母1隻、小型護衛艦2隻を確認!』

『この反応は、機動要塞……『エンライ』です。だ、大部隊だ!』


 混乱した声が通信越しに響き、格納庫に緊張が走る。

 烈火は反射的にブレイズの出撃準備を進め、コックピットのハッチを閉めようとする。


「くそっ、こんな時に! 叩き潰してやる!」


だが、その動きを制するように、通信パネルから穏やかだが鋭い声が割り込んだ。


『待ちたまえ、烈火』

「マティアス!」

『そうやって自分であれもこれも解決しようとするのが君の悪い癖だ。もっと仲間を頼れ!』

「……ッ!」


 マティアス・クロイツァーの銀髪がパネルに映り、狙撃手の冷静な瞳が烈火を射抜く。

 烈火は一瞬歯を食いしばるが、反論する前に警戒レーダーが新たな反応を捉えた。

 水中から迫る複数のコマンドスーツらしき影。


「でもよ、マティアス! 敵が――!」


 烈火の言葉が途切れた瞬間、海面が爆発的に割れ、巨大な影がせり上がった。


「今度はなんだ!?」


 大蛇のような流線型のフォルム、両腕に鋭いハサミを備え、それぞれに東武連邦のコマンドスーツの残骸を握り潰している。

 コマンドスーツと比べても異質で蒼い巨体───ゴウ・ギデオンの愛機、アズール・ザ・リヴァイアサンが姿を現したのだ。

 全長100メートルの機動要塞は、水しぶきをまき散らしながら圧倒的な存在感で海面を支配する。


 ゴウののんびりした声が通信越しに響く。


『焦らない焦らない。ここは俺が対応するからさ。そら、行ってこい!』


 グォオオン───ッ

 アズールが上体を持ち上げると口部が開き、光が収束していく。

 次の瞬間、視界を真っ白に染める荷電粒子砲が放たれた。

 青白い光の奔流は遥か彼方の東武連邦の空母を直撃し、瞬時にその巨体を炎と爆煙に変える。

 一瞬遅れて響き渡る轟音。

 護衛艦の一隻も衝撃波に巻き込まれ、傾きながら海に沈んでいく。


 近代戦に置いて、長距離砲撃というのは珍しい。

 防護フィールドやレーザー砲台など、様々な防御手段がリアクターによって無尽蔵に使用できるからだ。

 そのため、機動性の高いコマンドスーツなどによって、防御の隙間を狙うことが主流となった。

 だが、アズールの荷電粒子砲だけは別だ。

 防護フィールドなど無意味になる超火力により、長距離から一方的に攻撃できる。

 ……E粒子が直進するため、現実的な射程は20km程度。

 だが、それでも長距離砲撃などないと接近してきた相手を殲滅するには、十分である。


 烈火はブレイズのコックピットでその光景に目を奪われ、思わず唸った。


「すげえ……あの一撃、ウェイバーの粒子キャノンよりやべえぞ!」


 シャオはルナの操縦席でニヤリと笑い、通信に快活な声が響き渡る。


「やるじゃん、ゴウ! オレの男、最高だな!」


 ヘルメスの格納庫では、烈火、シャオ、兎歌がモニター越しにその光景を食い入るように見つめる。

 だが、その戦場の裏側、東武連邦の艦橋では、まったく異なる空気が支配していた。


~~~


 数分前、東武連邦の大型空母、ウーシュー級2番艦『イェンディ』にて。

 艦長、ヴィタリー・ヴェルナーは艦橋に立ち、意気揚々と戦況を見下ろしていた。

 ノヴァ・ドミニオンから提供された水中用コマンドスーツ「ディーパー」が整然と格納庫に並び、左右には小型護衛艦が護衛し、後方には機動要塞「エンライ」が蜘蛛のような巨体で控える。

 この盤石の布陣に、ヴィタリーの唇には勝利を確信した笑みが浮かんでいた。


「情報部によると、ヤツらの新型機は満身創痍らしいな。小国家があれほどの兵器をそういくつも作れるはずがない、今ならヤツらの防衛網は紙束同然だ! 全艦、前進!」


 ヴィタリーの命令が響く中、ディーパーの局面的なボディが格納庫でうなりを上げ、出撃の時を待つ。

 後方ではエンライの8本の脚がリニアキャノンを構え、防護フィールドが水圧と攻撃を完璧に弾く。ガルドは腕を組み、戦場の王者であるかのように振る舞った。


 読者諸君はプラズマリアクター搭載機が4機だけでないことをすでに知っている。

 しかし、東武連邦はその事実をまだ把握していない。

 まさか、プラズマリアクター搭載の巨大な機動要塞が待ち受けていることなど知らず、攻撃を仕掛けてきたのだ。


 だが、次の瞬間、視界を真っ白に染める閃光が艦橋を包んだ。

 爆音がイェンディの装甲を震わせ、艦が大きく傾く。

 ヴィタリーはよろめき、艦橋のコンソールにしがみついた。


「何事だ!?」


 部下たちの悲痛な叫びが艦内に響く。


「リアクター出力低下! 左舷に浸水!」

「搭載コマンドスーツに被害多数! ディーパーの半数が機能停止!」

「被害甚大、機関部停止! 艦長、至急退艦を――!」

「た、退艦しろ! 急げ!」


 ヴィタリーの叫びも虚しく、リアクターの制御が限界を超える。

 次の瞬間───


 ドッゴォオオオンッ!!

 艦の心臓部が爆発し、炎と煙が海面を覆った。

 艦載のディーパーたちは慌てて海中へ飛び込むが、統制はすでに崩壊していた。

 護衛艦の一隻も衝撃波に巻き込まれ、黒煙を上げながら沈没していく。

 エンライだけが防護フィールドを張り、辛うじて戦場に踏みとどまるが、その8本の脚も混乱の中で動きを鈍らせていた。


~~~


 視点はヘルメスに戻る。

 格納庫のモニターに映る戦場を、烈火、シャオ、兎歌が見下ろしていた。

 アズールは巨大な両腕を上げ、照準を定める。

 直後、レールガンがエンライの防護フィールドを揺らし、火花が海面を照らす。

 東武連邦の艦隊は防衛網に近づくことすら敵わず、海の藻屑へと帰っていく。

 その圧倒的な戦闘力に烈火は思わず舌を巻く。


「すげえ……ゴウの奴、化け物だな。あれだけの機体、簡単には動かせねぇはずだ」


 シャオはルナの操縦席で、豊満な胸を張って得意げに笑った。


『ハッ! オレの旦那は世界一強いんだ! 戦場でも……』

「夜もか?」

『バカ野郎! 当たり前だろ!』


 烈火の胸の奥で、闘争本能が疼く。

 ゴウの操るアズールと一度戦ってみたい───その衝動が一瞬頭をよぎった。

 だが、通信パネルに映る兎歌が鋭い声で叫ぶ。


『ダメだよ、烈火!? アズールは味方だからね! そんな目しないの!』


 烈火はバツが悪そうに笑い、頭をかいた。


「分かってるって、兎歌。ちょっと、な」


 眼下の戦場では、ギゼラのウェイバーが紫の機影を閃かせ、拡散粒子砲を乱射。

 散り散りになったディーパーたちが次々と爆炎に飲まれる。

 空を覆う黒煙の中、ヘルメスの光学迷彩が揺らぎ、艦のシルエットが青空に揺れる。

 レゴン艦長の声が艦内に響いた。


『ヘルメスはステルス状態を維持せよ! 最大加速で砂漠地帯へ! アズールとウェイバーが連邦の追撃を食い止める。パイロット諸君、健闘を祈る!』


 シャオは、モニターに映るアズールの活躍に瞳を輝かせる。

 その姿を見て、烈火はニヤリと笑う。


「おうよ、行ってくるぜ!」


 兎歌はリリエルの状態を確認しつつ、二人に呼びかける。


「烈火、シャオ、戦いが始まったら、わたしが援護するよ。二人とも、突っ込みすぎないでね!」


 ヘルメスの粒子推進器が唸りを上げ、艦は煙と戦火の海を突き抜ける。

 眼下のエンライが沈むのを振り返らず、砂漠へと一直線に飛んでいった。

 こうして三人は、新たな戦場へと旅立ったのだった。

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