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ボーイッシュ巨乳日焼け系幼なじみのシャオ

 病室の窓から差し込む光は、薄いヴェールのように、淡く揺れていた。

 エリシオン本国の医療施設は、戦火の喧騒から切り離された静寂に包まれている。


「はぁ……ッ、995……!」


 白い壁と無機質な医療機器の間を、烈火・シュナイダーの荒々しい息遣いが響き渡る。

 烈火は床に両手をつき、汗に濡れた赤い髪を振り乱しながら、腕立て伏せを続けていた。

 背中にはどこから集めてきたダンベルが乗り、蒸発した汗が湯気に変わる。

 ビキビキと筋肉が隆起し、傷だらけの身体が鋼のようにしなる。

 覚醒の反動で脳に刻まれた痛みなど、闘争本能の前では些細な障害でしかなかった。


「998……999……1000!」


 烈火は勢いよく立ち上がり、額の汗を乱暴に拭うと、すぐさま再開しようとする。

 その姿は、まるで休息という概念を拒絶しているかのようだった。


 どーん!

 と、ドアが勢いよく開き、桜色の髪がふわりと揺れた。

 兎歌・ハーニッシュが、両手にリンゴの籠を抱えて飛び込んできた。


「烈火ーッ♪ ……へ?」


 ワンピースの胸元が女らしい豊かな曲線を強調し、慌てた動きでわずかに揺れる。

 桜色の大きな瞳は、驚きと心配で潤んでいた。


「烈火! だ、ダメだよ! 倒れてからまだ一週間も経ってないんだよ!?」


 兎歌は籠をテーブルに放り出し、烈火の腕をつかんで引き止める。

 だが、烈火の身体はまるで岩のように動かない。

 烈火はニヤリと笑い、スクワットを続けながら兎歌を一瞥した。


「心配すんな、兎歌。こんなもんで死ぬようなタマじゃねえよ。」

「そういう問題じゃないよ! 覚醒の反動で脳が……その、ドクが言ってたんだから! もう少し安静にしてなきゃダメなんだもん!」


 兎歌の声は震え、頬がほんのり赤らむ。

 兎歌は烈火の幼なじみとして、その無茶な性格をよく知っていた。

 それでも、こうして命を削るような行動を目の当たりにするたび、心臓が締め付けられるような思いだった。

 烈火は動きを止めず、軽快に答える。


「安静? ハッ、敵はそんなの待ってくれねぇよ。寝てる暇あったら強くならねぇと、お前を守れないだろ」


 兎歌は唇を尖らせ、両手を腰に当てて抗議する。


「ムチャクチャだよ! プロメテウスのエースがそんな無茶してたら……! わたしだって……わたしだって、怖かったんだから!」

「……ッ」


 その言葉に、烈火の動きが一瞬止まった。

 そしてゆっくりと立ち上がり、兎歌の顔をまじまじと見つめた。


「あぅ……」


 兎歌の瞳には、純粋な優しさと、かすかな涙の跡があった。

 烈火の胸の奥で、いつもは燃え盛る闘志とは異なる、温かな疼きが広がる。


「……お前、泣きそうな顔してんな」

「泣いてないよ! ただ……烈火が無事でよかったって、思ってるだけで……」


 兎歌は慌てて目を逸らし、リンゴの籠に手を伸ばす。

 籠から一つを取り出し、シュルシュルと切り分ける。

 切り分けながら、兎歌が無言でベットを叩くと、烈火は大人しくベットに戻った。


「ほら、食べて! リンゴ、持ってきたんだから。栄養取って、ちゃんと回復しなきゃ!」


 言いながら器用にウサギ型に切り分ける兎歌。

 シュルシュルと螺旋の皮が落ち、赤と黄金のウサギが残る。


「ほら。はい、あーん♪」

「お、おう……」


 烈火は差し出されたリンゴを咥え、軽く笑みを浮かべる。

 その笑顔は、戦場での獰猛な表情とはまるで別人のように柔らかかった。


「へいへい、あぐ……ん〜……」


 烈火はリンゴをかじると、甘酸っぱい果汁が口に広がるのを感じた。

 その様子を見て、兎歌はホッとしたように微笑み、再びリンゴを切る。


 病室に一瞬、戦いの匂いとは無縁の穏やかな空気が流れた。

 だが、烈火の瞳はすでに遠くを見ていた。

 覚醒の力は彼を大国最強のパイロットすら超える存在にしたが、その代償はあまりにも大きかった。

 脳に刻まれた傷は、いつか彼を飲み込むかもしれない。

 それでも、烈火は立ち止まるつもりはなかった。


「兎歌」

「ふぇ?」


 突然の呼びかけに、彼女が顔を上げる。

 烈火はリンゴを飲み込むと、静かに、しかし力強く言った。


「俺はまだ戦う。お前を守るためだ。どんな代償を払ってもな」

「烈火……」


 兎歌の豊胸が締め付けられる。

 少女は少しだけ身体を寄せ、そっとその手を握った。

 桜色の髪が揺れ、泣きそうな顔を烈火の胸に押し当てる。


「なら、私も一緒に戦うよ。リリエルで、烈火の背中を守るから。約束だよ」

「……ああ」


 烈火は小さな手を握り返し、短く頷いた。

 病室の窓の外では、南国の空が広がっている。


〜〜〜


 その時である!

 病室の静寂を切り裂くように、ドアが勢いよく開いた。

 陽気な声が飛び込んでくる。


「オーっす、ひっさしぶりー!」


 現れたのは、矢鱈と快活な少女。

 名前を、シャオ・リューシェン。

 ヴァイスマンの孤児院で、烈火と兎歌と共に育った幼なじみだ。

 日焼けした肌に、競泳水着の跡がくっきりと残るボーイッシュな少女は、短く切り揃えた黒髪を振り乱し、自信たっぷりの笑みを浮かべている。

 シャオの豊かな胸が、動きに合わせて軽く揺れた。


「頑張るお前に、オレことシャオ・リューシェンが来てやったぜ!」


 烈火の顔に、数秒の困惑と、無邪気な笑みが広がる。

 ドカンとベッドから跳ね起き、シャオと勢いよくハイタッチを交わした。


「シャオ! てめえ、生きてたか!」

「ハッ、こんな戦争で死ぬようなタマじゃねえよ! 今はここの防衛軍でバリバリやってんだ」

「へぇ、良いじゃねぇか」

「だろ? それと、聞いてくれよ、超イケメンのカレシゲットしたぜ!」


 シャオは得意げに胸を張り、ウィンクを飛ばす。

 烈火は笑いながら彼女の肩を軽く叩き、昔のようにじゃれ合う。

 兎歌は二人の再会を微笑ましく見つめていたが、ふと烈火の視線がシャオの胸元にちらりと向くのに気づいた。

 彼女の心に小さな波が立つ。


「んーっ!」


 思わず兎歌は烈火に抱きつき、桜色の髪を揺らしながら自分の胸を烈火の腕に押し付ける。

 薄いワンピース越しに、柔らかな感触が烈火を包み込んだ。

 烈火は一瞬目を丸くする。


「兎歌!? 急に何だよ!?」

「べ、別に! ただ、烈火が変なとこ見てたから……!」


 兎歌の声は少し震え、頬がぷくっと膨らむ。

 シャオはその様子を見て、ニヤリと笑った。

 兎歌の肩に腕を回し、烈火から少し離れたところで耳打ちする。


「なあ、兎歌。どうよ? 烈火とどこまでイッた? もうヤッてる?」

「……!」


 兎歌の顔が一気に真っ赤になる。

 慌てて首を振ると、声を潜めて答えた。


「や、やっ、ヤッてないよ! キスだってまだで……その、一緒にお風呂に入ったことはあるけど、別にそういう雰囲気じゃなかったし……」


 シャオは目を丸くし、呆れたように肩をすくめる。


「はー、まだかよ。しょうがねーな。オレが手伝ってやるよ」


 そう言うと、シャオは悪戯っぽい笑みを浮かべ───


「ひゃわ!?」


 むにゅッ♡

 突然兎歌の胸を両手で鷲掴みにした。

 シャオの手よりも大きくて豊満な曲線が、彼女の手の中で弾むように揺れる。


「うわっ、兎歌、昔よりさらにデカくなってんじゃん! これ見ても烈火が動かねえって、マジで手強いな!」

「きゃっ! シャ、シャオ! やめ、!ゃあんッ」


 兎歌は悲鳴を上げ、シャオの手を振り払おうとするが、シャオの動きが一枚上手で逃れられない。

 烈火は目の前の光景に唖然とし、思わずリンゴを落としそうになる。


「れ、烈火……助けてぇ〜!」

「お、お前ら! 何やってんだ……?」


 烈火の叫びに、シャオはケラケラと笑いながら兎歌を解放する。

 と、思いきや背後からワンピースの裾を掴み───

 ───勢い良くめくり上げた。


「あ……」

「ふむ、白か」


 股間を苛立たせながら、小さく頷く烈火。

 一瞬遅れて兎歌は顔を真っ赤にしてスカートを抑えた。


「も、もう……!」


 その様子を見て満足気なシャオ。

 彼女は片手で髪をかき上げ、烈火にからかうような視線を投げた。


「何って、カノジョの魅力をアピールしてやってんだよ。なあ、烈火、こんな美人でおっぱいデカい幼なじみ、放っとくつもりか?」

「シャオ! もう、ほんとにやめて!」


 兎歌は恥ずかしさで顔を覆い、ベッドの端に縮こまる。

 烈火は獣欲を振り払うように咳払いし、視線をそらしながら答えた。


「んなこと、放っとくとかじゃねえよ。兎歌は……大事な仲間だし、守るって決めてる。それで十分だろ。」


 その言葉に、兎歌の動きが止まる。  

 兎歌はそっと顔を上げ、烈火の横顔を見つめた。

 そこには、戦場での獰猛さとは異なる、どこか不器用な優しさが宿っていた。

 シャオは二人の様子を見て、満足げに頷く。


「ま、そーいう硬派なとこ嫌いじゃねえけどな。兎歌、こいつ落とすの諦めんなよ。オレも応援してるぜ」


 シャオは兎歌の背中をバシンと叩き、豪快に笑った。

 病室に響く彼女の笑い声は、まるで戦争の重苦しい空気を一瞬だけ吹き飛ばすようだった。

 病室に漂うリンゴの甘い香りが、幼なじみ三人の笑い声と混ざり合う。


 烈火はベッドの端に腰掛け、シャオの豪快な態度に懐かしさを覚えながらも、兎歌の存在が心のどこかで強く響いていた。

 兎歌はずっと、烈火にとって守るべき相手だった。

 灰色の街、瓦礫と暴力が支配する、孤児院に入る前の世界で、彼は何度も兎歌を庇った。

 細い腕で震える彼女を、血と拳で守り抜いた。

 あの頃の兎歌は、烈火にとって弱くて可愛らしい妹のような存在だった。

 たとえ今、彼女がリリエルのパイロットとして戦場で肩を並べるほど成長したとしても、烈火の胸の奥には、彼女を護る本能が深く根を張っていた。

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