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ブレイズただいま修復中

 プロメテウス隊の面々が休息を取る中、メカニックには休みがない。

 エリシオンの本国にある巨大な工場内で、ホイストが行き交い、機械の唸りが響き合っていた。


「センパイ! 47番の在庫ないです!」

「端子ちょん切って繋ぎ変えとけ!」

「フレーム上げるでー!」


 メカニックの菊花・メックロードが大声で叫び、巨乳を見せるつなぎを着たまま大きなクレーンを動かす。

 汗で濡れた作業着が体に張り付き、ゴーグルを額にずらした彼女がクレーンの操作盤を叩いた。


 工場の中には、4機のコマンドスーツが鎮座していた。

『ブレイズ・ザ・ビースト』、

『ウェイバー・ザ・スカイホエール』、

『ストラウス・ザ・ホークアイ』、

『リリエル・ザ・ラビット』

 巨大な兵器が並び、修理と同時に戦闘データを反映した改修が行われている。

 巨大なアームが機体を持ち上げ、整備員たちが慌ただしく動き回る。

 菊花はクレーンを止め、近くのコンテナを指さす。


「そこの装備、格納しといてな!」

「りょーかいッス」


 菊花の指示に、メカニックたちが大きなコンテナに新たな武器を運び込む。

 折りたたみ式の大剣と荷電粒子ランチャー、拡散粒子弾を放つショットガン、そしてサブマシンガン……。

 コンテナへと兵器が次々と収納されていく。


「ふぅ……これで終いか……ん?」


 (ここでジョーズのテーマが流れる)

 菊花は汗を拭いながら通信パネルを開く。

 と、画面に参謀のギンの姿が映った。

 銀髪を揺らし、柔らかな笑みを浮かべ、ギンが口を開く。


『やぁ、菊花。お疲れ様。進捗はどうだい?』

「……」


 その声は穏やかだが、どこか計算高い響きを帯びている。

 菊花はプラズマリアクターの開発に関わる人間であり、ギンの存在を知る数少ない一人だ。

 計画の中枢を担うメンバー以外には、ギンの正体は秘匿されている。


 菊花ほ腕を組んで報告を始める。


「ブレイズの改修は進んどるよ。足回りの供給経路を新しくして、機動力が上がっとる」

『いいね』

「それと、リミッターも新しくしといた。言われた通り……解除コードも入っとるで」


 ギンが静かに頷く。


『うんうん。将来的には覚醒を使うことになるだろうし、それで良いよ』


 菊花は眉を寄せ、懸念を口にする。


「ええんか? 烈火に覚醒の選択肢を与えたら、もっと無茶するで」


 タンタンと指先が通信パネルを叩き、不安そうに言う。


「今度は助からんかもしれんよ。あいつの脳、もう限界近いんやから」


 ギンは柔らかな笑みを深め、応えた。


『そのための機能も開発中だよ。烈火の負担を軽減する安全装置さ』


 画面越しに手を軽く振る。


『詳しい話は、後で地下庭園に来てくれ。直接説明するよ』


 菊花は呆れたように鼻を鳴らした。


「はぁ? また地下庭園かいな。面倒くさいなぁ……」


 ゴーグルを外し、汗を拭う。


「まぁ、しゃあないな。承諾したるわ。いつや?」

『今日の夕方だよ。急がなくていいから、作業が落ち着いたら来てくれ』


 通信を切る前に付け加えるギン。


『菊花、いつもありがとう。頼りにしてるよ』

「……ッ」


 菊花は通信パネルを閉じ、ぶつぶつ呟いた。


「ったく、ギンの奴、甘い声で丸め込む気やな……」


 工場内に再び金属音が響き、4機のコマンドスーツが改修を進めていく。

 ブレイズには新たなアニムスキャナーが取り付けられ、ウェイバーの翼が修復され、ストラウスの左腕が再稼働するよう調整される。

 リリエルの鉄棒脚も交換され、リパルサーリフトが強化されていた。


 菊花は作業員に指示を飛ばす。


「ブレイズのデータ、もう一回チェックしといて! リリエルは交換したら可動テスト始めるでー!」


 菊花の声が工場に響き、パワードスーツやホイストクレーンが動き回る。

 プロメテウス隊の休息が終わりを迎える頃、コマンドスーツたちは新たな戦いに備えていた。


〜〜〜


 その日の夜。

 エリシオンの本国、地下深くの秘密基地にある地下庭園。

 夕方の柔らかな人工照明が緑を照らし、滝の音が静かに響く庵で、菊花・メックロードとギンが対面していた。


 菊花は汗に濡れたつなぎ姿のまま、ゴーグルを首にかけ、腕を組んで立っている。

 ギンはいつものように銀髪を揺らし、柔らかな笑みを浮かべて菊花を迎えた。


「で、ギン。何やねん、用事ならとっとと」


 菊花は腰に手を当て、ぶっきらぼうに尋ねた。

 ギンが穏やかに応える。


「焦らないでくれよ、菊花。ちゃんと説明するからさ」


 庵の中央にあるテーブルに手を置き、パネルを起動。


「そもそもが覚醒とは何かを、理解してるよね」

「知っとるわ。精神波が大量にスキャナーに流れ込むと、機体が謎に光りだす現象や」

「正解だ」


 ギンは一拍開けて続けた。


「コマンドスーツは、精神波で制御している都合上、精神波が多いほど反応速度と制御が上がる。だけど、過剰な流入や、ネクスター同士の感応があると、精神波が逆流を起こす」

「だから烈火は倒れてんのやろ。あれだけの力が脳に逆流したら、普通は耐えられへんで」

「そうだね。しかもこの逆流は、構造上止められない」


 菊花は小さく唸った。

 倒れるまで戦った烈火に対して、あまりにも淡白だとおもったのだ。

 気づいてないフリか、本当に気づいてないのか、ギンは続ける。


「精神波の逆流だけなら、別の場所に流せば問題ない。そこで用意したのが、コレだ」


 ギンが手をかざすと、ホログラムパネルが現れる。

 パネルが光り、鳥のような戦闘機のようなメカのCGが表示された。


「これは……」


 白く流線型の機体は、ブレイズのバックパックに接続可能な設計で、鋭い翼と粒子推進器が誇らしげだ。

 菊花は目を細めて画面を見つめる。

 その姿を見つめながら、ギンは説明を続けた。


「これをブレイズのバックパックに接続するんだ。逆流した精神波の半分をもう一人に流すことによって、実質的に負担を半分にできる」


 細い指がパネルを操作し、メカが変形し、ブレイズに接続されるシミュレーションを見せる。


「烈火一人で背負う負担を分散させる。これなら、脳が焼き切れるリスクも減るよ」


 顎にもに手を当て、呟く菊花。


「……確かに、これなら負担は減るな。精神波を分担するって発想は悪くない」


 そこで一拍置いて、首をかしげる。


「けど、これどうするんや? 都合よく息が合うネクスターなんて、そう簡単に見つからんやろ」


 ギンは柔らかな笑みを深め、菊花の疑問に答えた。


「心配ないよ、菊花。ちゃんと準備はできてる」


 パネルを閉じ、静かに続ける。


「烈火に合うネクスターは、すでに側にいるんだ」

「……! まさか!」


 菊花は思わず目を丸くした。

 そしてギンを指さし、声を荒げる。


「じゃあ……兎歌がネクスターなのも、烈火を連れてきたのも、全部計算ずくか!?」


 ダンッ!

 菊花の瞳が驚愕と疑念で揺れ、ギンに詰め寄る。


「アンタ、何を企んどんのや!」


 ギンは手を軽く上げ、落ち着かせるように言った。


「企むだなんて大げさだよ、菊花。ただ、可能性を見越して動いただけさ」


 夜のように青い目が庭園の滝に目を向け、淡々と続ける。


「遺伝子の流れを追えば、ネクスターの産まれやすい場所のアタリはつく。表向きには、発生条件は不明ってなってるけど、あるんだよ、法則は。後はその場所の子供を集めて、良さげなペアが見つかるのを待つだけさ」

「……ッ」


 菊花は拳を握り潰し、怒気を孕んだ声で返した。


「あの娘、まだ子供やぞ! それを、兵器としか見とらんのか!!」


 ガシィ!

 菊花の節くれだった手がギンの胸ぐらを掴み、振り回す。

 だがギンは抵抗しない。


「そうだね。オレは二人を強力な兵器として、兵士としてスカウトした。それは否定しない。それでも、生き残るには、これしかないんだ」


 夜のように蒼い眼が菊花の視線を受け止め、続ける。


「烈火と兎歌は、お互いを守りたいと思ってる。その絆が、このシステムを動かす鍵なんだ」

「……」

「エリシオンの未来には、強い力が必要だ。烈火の覚醒を制御できなければ、ここは蹂躙され、奪われ、殺される」

「正論では……あるな」


 菊花は呆れたように鼻を鳴らした。


「アンタ、ほんまに腹黒いな……。烈火と兎歌の気持ちまで利用する気か?」


 腕を組んでギンを睨む菊花。


「そうだよ。酷い大人になってしまった」


 そう言って笑うギンの顔は、どこか哀しそうで。

 菊花は思わず手を離した。


「確かに理屈は分かる。でもウチは納得できん。二人にちゃんと説明するんやな」

「あぁ、もちろんさ。烈火と兎歌には、自分で選ばせるよ。強制するつもりはない」


 ギンは庭園の緑を見ながら呟く。


「ただ、二人ならきっと受け入れると思うよ。互いを守るためならね」


 菊花はギンを睨みながらも、一歩引いた。


「ふん……まぁ、アンタの言う通りならええけどな。失敗したら、ウチが許さんで」


 クルリと振り返り、庵を出ようとする菊花。

 その背に、ギンが最後に声をかける。


「菊花、ブレイズの改修、頼んだよ。君の技術があってこそだ」

「分かっとるわ。ちゃんと仕上げるさかい」


 菊花は振り返らずに答えた。

 その足音が遠ざかり、地下庭園に再び静寂が戻る。


 一人残されたギンは、滝の音を聞きながら呟いた。


「烈火と兎歌か……さて、どうなるかな」


 柔らかな笑みが庭園に溶け、計画が静かに進行していく。

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