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居酒屋にて~ギゼラとセレーナ~

「いいよ、無理に思い出さなくても。烈火がこうやって起きてくれただけで、わたし、幸せだから」


 二人は緩やかな時を過ごし、病室に暖かな空気が流れる。

 と、そこへ、御見舞いの品々を抱えたシホ・フォンテーヌが病室にやってきた。


「え、えっと……お見舞いに来ました……」


 シホは長い黒髪を揺らし、メガネの奥の瞳を伏せながら入ってくる。

 両腕には果物籠や花束(や大きなおっぱい)がぎっしり詰まっていた。

 烈火はシホを見て、視線が自然と彼女の胸元に落ちる。


「……ん? その乳、どこかで見たことあるな。特殊部隊のヤツか?」


 烈火はかつてセレーナ救出の時に出会った記憶を思い出し、ピンときた!

 シホは頬を染め、慌てて自己紹介する。


「は、はい! シホ・フォンテーヌです……! エピメテウス隊のパイロットで、その、セレーナ様の救出の時に……烈火さんに会ってて……」


 彼女は目を泳がせ、烈火の視線に気づいてさらに赤くなる。


「あ、あの、その時すごくカッコよくて……いえ、なんでもないです!」


 言葉が尻すぼまりになり、俯いてしまう。

 兎歌はその様子をじっと見つめ、烈火にぎゅむッと抱き着いた。


「ぬあ……ッ?」

「だ、ダメだよ! 烈火はわたしのなんだから! っていうか、おっぱいで判断しないでよ! ぐるるる……!」


 兎歌は獣のようにシホを威嚇し、目を吊り上げて唸る。

 シホは慌てて手を振った。


「い、いえ! そんなつもりは……横取りなんて、絶対にないです……!」


 メガネを押し上げ、気まずそうに後ずさる。

 烈火は苦笑しながら仲裁に入った。


「おいおい、兎歌、落ち着けって。シホってのはただの見舞いだろ? な?」


 烈火の赤い目がシホに向けられ、穏やかに確認する。

 シホは小さく頷いた。


「は、はい……ただ、お見舞いに来ただけで……烈火さんが元気そうで、よかったです……」


 シホは御見舞いの品々をそっとテーブルに置き、頬を赤らめたまま呟く。

 兎歌がまだ少し警戒しながらも、烈火の手を握り直した。


「……烈火はわたしが守るから、変な気起こさないでよね!」


 その声には愛情と嫉妬が混じり、病室に微妙な緊張が漂う。

 烈火が呆れたように笑った。


「ったく、お前ら何だよ。俺はまだ頭痛ぇんだから、静かにしてくれよ」


 その言葉に、兎歌とシホが同時に「ごめんね」「すみませんでした」と謝り、病室に小さな笑いが広がった。

 窓の外では、南国の青い空が広がり、果実の甘ったるいにおいが窓から吹き込んでくる。

 烈火の目覚めが、兎歌に安堵を、シホに秘めた想いを、そして二人に微妙な火花をもたらす。


~~~


 一方そのころ、エリシオンの本国、地下深くに隠された秘密基地の一室。

 そこは地下庭園の庵と呼ばれる場所で、人工の緑が広がり、小さな滝の音が静かに響く。

 その中で、作戦参謀のギンとセレーナ・エクリプスが対談していた。


 セレーナは豊穣の女神のような体を白いローブに包み、柔らかな声で切り出す。


「エリシオンに同調する国が増えてるわ。一時はテロ国家として敬遠されていたけど……」


 一瞬言葉を切り、庭園の緑を見つめる。


「大国の悪事を暴くニュースが流れて、誤魔化せている感じよ。先日のリープランドのテロも、シグマによる人身売買に対する抗議として受け入れられつつあるみたい」


 ギンは静かに頷き、銀髪を軽く揺らして応えた。


「そうだね。世論はうまく動いてる。少しずつだけど、エリシオンの立場が安定してきたよ」


 その声は柔らかく、感情をあまり表に出さない。

 裏でエピメテウス隊に情報を集めさせ、ニュースを広めたのはギン自身だ。

 セレーナもその事実に気づいている。

 海色の髪が微かに揺れ、鋭い視線がギンを捉える。


「貴方が動いてくれたおかげね。私には……そこまで手が回らなかった」


 セレーナの声に自嘲が混じる。


「結局、事態を解決したのは貴方。私は……テロが起きても、それを知ることすらできなかった」


 思わず手を握り潰し、唇を噛む。


「私がリープランドに加盟を勧めたせいで、あんな混乱が起きて……私は、何もできなかったじゃない」

「そんなことないよ、セレーナ。君はよくやってる。エリシオンをここまで導いたのは君の力だ」


 ギンが穏やかに首を振ると、立ち上がり、庭園の滝に目を向けた。


「ただ、ずっと走り続けてきただろ。一度休暇を取ったらどうだい?」


 セレーナは即座に反論する。


「休暇? そんな余裕はないわ。今だって、東武連邦やシグマが動きを見せてるかもしれないのに……」


 その声に焦りが滲む。

 だが、ギンは柔らかな笑みを崩さず、静かに遮った。


「いや、無理矢理にでも休ませるよ。君が倒れたら、エリシオンはどうなると思う?」


 ギンはセレーナに近づき、肩に軽く手を置く。


「オレがいる。エピメテウス隊もいる。少しだけ任せてくれればいい」

「それは……」


 セレーナはギンの手を払おうとするが、その目に力が宿る。


「貴方に……任せる? でも、私がやらなきゃいけないことが……」


 セレーナの言葉は途中で止まり、ギンの穏やかな視線に負けるように目を伏せた。

 ギンが優しく続ける。


「キミはエリシオンの心だよ、セレーナ。でも、心だって休まなきゃ折れる。数日でいい。頼むよ」


 その声に押し切られるように、セレーナが小さく頷く。


「……分かったわ。少しだけ、休む。でも、すぐに戻るから」


 セレーナは立ち上がり、ローブを整えた。


「ギン、貴方には感謝してる。本当に……ありがとう」


 ギンは柔らかく笑った。


「どういたしまして。ゆっくり休んでくれ。次に会うときは、もっと元気な顔を見せてね」


 青い目がセレーナを見送り、ギンは庭園の庵に一人残る。


 セレーナが部屋を出ると、地下庭園に静寂が戻った。

 ギンは滝の音を聞きながら、遠くを見据える。


「さて、次は東武連邦か……。まだまだ忙しくなるね」


 小さな呟きが庭園に響き、秘密基地の奥で新たな計画が動き始めていた。


~~~


 場面はエリシオンの本国、賑やかな街角にある大衆居酒屋に移る。

 木造の店内は活気に満ち、笑い声とグラスのぶつかる音が響き合っている。


「だからさ~、アイツ分かってねーのよ」

「あ~、わかるわ~」

「くそう……俺なんて……よぉ……」


 セレーナ・エクリプスは、白いローブを脱ぎ、普段着らしい簡素なワンピース姿でカウンターに座っていた。

 ギンの勧めで休暇を取った彼女は、肩の力を抜こうと庶民的な場所を選んだのだ。

 セレーナはグラスに注がれたビールを手に持つ。


「こんな場所に来るなんて、私らしくないわね……」


 そんなことを小さく呟き、ビールを一口飲む。


「でも、悪くないかも」


 白い頬がほのかに緩み、普段の緊張が解けていく。

 喧噪の中、セレーナは───


 と、そこへ、ガヤガヤと騒がしい声が近づいてきた。


「ハーハハ! 酒だ酒だ! アタシが来たよ!」


 豪快に笑いながら店に入ってきたのは、ギゼラ・シュトルム……!

 プロメテウス隊のパイロットであるギゼラは、戦いの疲れを癒すべく、酒場に繰り出していたのだ!


「いよっと」


 レザーの上着を腰に巻き、肩を露出した姿でカウンターにドカッと座る。

 と、ギゼラはセレーナをチラリと見て、気さくに声をかけた。


「なあ、アンタ、なんかやつれてんな! どうしたんだい?」


 ギゼラは、セレーナが国のエライ人だと気づかず、肩をバンバン叩く。


「私は……」

「まぁ、酒でも飲んで元気出せって! ほら、これ飲め!」


 ギゼラは自分のジョッキを押し付け、豪快に笑う。

 セレーナが慌てて応えた。


「え、ちょっと、待ってください……! 私は別に、そんな気分じゃ……」

「いいからいいから!」


 だが、ギゼラの勢いに押され、ジョッキを受け取ってしまう。

 ギゼラは肩を叩きながら続ける。


「何だよ、暗い顔してんな! 人生楽しんだ方が勝ちだろ!」

「それは……」

「ほら、飲め飲め! 一気にいけよ!」


 ギゼラの厳つい手がセレーナの背中をドンと叩き、ビールを煽る。

 セレーナは仕方なくジョッキを傾けた。


「うっ……変な味……でも、悪くないわ……」

「はは! そうだろ!? ここの伝統品さ!」


 ゴクッゴクッゴクッ。

 一口、二口と飲み進め、セレーナの白い頬が徐々に赤くなる。


 時間が経つにつれ、セレーナも酔いが回ってきた。


「ふふっ……ギゼラって言うのね、あなた、面白い人ねぇ……」


 セレーナは空のジョッキを手に持ったまま、くすくす笑う。


「私、いつもこんなんじゃないんだけど……今日は、ちょっとだけ、いい気分よぉ……」


 ギゼラは目を丸くして笑った。


「ハーハハ! 何だよ、酔っ払ったか! いいねぇ、もっと飲めよ!」


 ギゼラの腕がセレーナの肩を抱き、追加のビールを注文する。


「お前、なんか悩んでそうだったけどさ、そんな顔してんなら大したことねぇだろ!」

「そうねぇ……うっぷ」

「人生、派手に生きなきゃ損だぜ!」


 セレーナは酔った勢いで返す。


「派手かぁ……私、そんな風に生きられないわよぉ……」


 青い瞳を滲ませてグラスを傾け、さらに一口飲む。


「でも、貴方の言う通り、ちょっと楽しくなってきたかもぉ……ふふっ」


 セレーナの声が上ずり、普段の気品が崩れて素の笑顔がこぼれる。

 ギゼラは豪快に笑った。


「ハーハハ! それでいいんだよ! ダンナが死んだとかでも無いんだろ!? 小せえ悩みなんて酒で流せ!」


 豪快に笑う顔に、いつの間にか西日がさしていた。

 飲み始めてから、どれくらい経ったのだろう。

 

「お前、いい奴だな! また一緒に飲もうぜ!」


 セレーナはグラスを掲げ、酔った声で応えた。


「ふぁい……また、飲むわよぉ……アンタとなら、楽しそうねぇ……」


 海色の目がトロンとし、カウンターに頬杖をつく。

 居酒屋の喧騒の中、ギゼラの雑な励ましがセレーナの心を軽くしていた。

 セレーナは国の重圧から解放され、酔っ払いながらも笑顔を取り戻す。

 相手がエリシオンの要人だと知らず、ただの飲み仲間として接するギゼラ。


「そういえば、アンタ、名前なんていうんだぃ?」


ギゼラがグラスを手に聞いてくる。

セレーナは酔った勢いで答えた。


「私ぃ? セレーナよぉ……よろしくねぇ、ギゼラぁ……」


 セレーナはふらりと笑い、ギゼラが目を丸くする。


「おお、セレーナか! いい名前だねぇ! 乾杯!」


 ギゼラはグラスを掲げ、二人はガチンと合わせた。

 ふわっと笑うセレーナ。


「乾杯ぃ……ふふっ、楽しいわぁ……」


 酔った声が店内に響き、暖かな空気が二人を包む。

 プロメテウス隊の豪快なパイロットとエリシオンの指導者が、偶然の出会いで絆を結ぶ。

 セレーナの休息が、意外な形で元気を与えていた。

 居酒屋の喧騒が続き、二人の笑い声が夜の街に溶けていく。


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