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プロメテウス隊、本国に帰投

 戦いが終わり、プロメテウスの病室に静寂が戻っていた。

 兎歌は再び烈火の眠る医療カプセルの元にやってきていた。

 カプセルの透明な表面に映る烈火の青白い顔を見つめ、兎歌は小さく呟く。


「烈火、敵を雲海に沈めたよ。わたし、ちゃんと守れたから……ねえ、起きてよ」


 返事はない。

 カプセルのモニターが微かなビープ音を刻み、烈火の浅い呼吸だけが静かに響く。


「……」


 兎歌はカプセルの側に膝をつき、防護膜に手を触れながら涙をこらえた。

 戦場では勝利した。

 でも、烈火の意識を取り戻す力にはならなかった。

 小さな肩が震え、静かな時間が流れる。


 と、その時───

 病室のドアがスライドして開き、黒いパイロットスーツに身を包んだ三人の少女が現れた。

 足音が軽やかに響き、兎歌は驚いて振り返る。


「あら〜、ここにいたんですね」


 先頭の少女がゆったりとした声で言った。

 ノエル・コットンだ。

 エピメテウス隊のパイロットで、一番の巨乳を持つおっとりしたお姉さんタイプ。

 ゆるふわな茶髪が肩に流れ、垂れ目が優しげに兎歌を見つめる。


 ノエルは丁寧にお辞儀をし、スーツ越しに強調された爆乳が揺れた。


「え、だ、誰?」


 兎歌が目を丸くして驚くと、ノエルが柔らかな笑みを浮かべて自己紹介した。


「ノエル・コットンです。エピメテウス隊より参りました」

「エピメ……テウス」

「あなたが兎歌さんですね? お疲れ様でした」


 後ろに控えていた二人が続けて挨拶する。

 まず、メガネをかけた長い黒髪の少女がやや緊張ぎみに口を開いた。


「し、シホ・フォンテーヌ……です」


 シホは内気で生真面目な性格が滲み出ており、黒いスーツに包まれた巨乳が控えめに揺れる。

 シホは視線を少し下げ、頬を赤らめながら兎歌に会釈した。


 最後に、小柄な赤毛の少女が強気に前に出た。


「ユナ・ヴォルタ! 助けたんだから、感謝してよね!」


 釣り目が鋭く光り、膨らみかけのおっぱいがスーツ越しに主張する最年少のパイロットだ。

 自信家らしい態度で胸を張り、兎歌ににやりと笑いかける。


 兎歌は三人の突然の登場に戸惑いながらも、立ち上がって応えた。


「あ、う、うん……ありがとう。わたし、兎歌だよ。烈火がこうなっちゃって……」


 ノエルはカプセルに近づき、烈火の眠る姿を見下ろした。


「あら、彼が烈火さんですか。お強い方だと聞いていましたけど……今はゆっくり休んでくださいね」


 彼女の声は優しく、まるで姉のように兎歌を気遣う。

 その言葉に、シホはメガネを押し上げ、控えめに付け加えた。


「えっと……応急回路の過負荷で意識が、ってドクターから聞きました。本国に戻れば、きっと治療が……」


 言葉尻が小さくなり、シホは気まずそうに視線を逸らす。

 ユナが腕を組んで割り込んだ。


「ねえ、そんな暗い顔しないでよ! あたしたちが来たんだから、もう大丈夫なんだからさ! 烈火ってのも、こんな可愛い子に看病されてるなら、すぐ起きるって!」


 ユナの強気な態度が病室の重い空気を少しだけ和らげる。

 兎歌は三人の言葉に小さく微笑み、涙を拭った。


「うん……ありがとう。みんな、すごかったよ。わたし、烈火が目覚めるまで頑張るから」


 ノエルは兎歌の肩に手を置き、優しく言った。


「一緒に頑張りましょうね。本国までは、私たちエピメテウス隊が護衛しますから」


 病室に穏やかな空気が流れる。

 ノエルの優しさ、シホの生真面目さ、ユナの自信が、兎歌の心に小さな希望を灯した。

 窓の外では、蒼い空が広がり、渡り鳥が横切っていくのが見えた。




 しかし、病室の穏やかな空気が、シホ・フォンテーヌの視線で微妙に揺らいでいた。

 シホは烈火の眠る医療カプセルを見つめ、メガネの奥の瞳が静かに揺れる。

 頬がほのかに赤らみ、長い黒髪がその表情を隠すように垂れる。


 シホは以前、セレーナが攫われた事件で烈火と出会ったことがあった。

 その時、烈火は単騎で敵の空母に乗り込み、生身で大暴れして兵士を蹴散らした。

 シホたちはその影でセレーナを救助したが、戦う烈火の姿はあまりにも強く、そしてカッコよかった。

 彼女はその瞬間、一目惚れしてしまったのだ。


 ユナがその様子に気づき、ニヤニヤしながらシホをからかった。


「くふふ、シホが言ってた王子サマってこの人か。でも、『お嫁さん』がいるみたいよ?」


 赤毛の釣り目が兎歌を横目にチラリと見やり、小柄な体で腕を組んで意地悪く笑う。

 ノエルは、ゆるふわな茶髪を揺らし、のほほんとした声で付け加えた。


「あらあら、横取りになっちゃいますね〜」


 爆乳が黒いパイロットスーツ越しに揺れ、おっとりした態度が場の緊張を和らげる。

 その言葉に、シホの想いを察した兎歌が慌てて反応した。

 烈火のカプセルに抱きつき、震える声で叫ぶ。


「だ、ダメ! れ、烈火は……あげないんだから……!」


 兎歌の小さな身体がカプセルをぎゅっと守るように覆い、泣きはらした顔に決意が宿る。

 シホが慌てて手を振って弁解した。


「い、いえ……横取りしようなんて、そんな……」


 俯きがちに呟き、メガネの縁を指で押さえながら頬をさらに赤らめる。

 内気なシホにとって、自分の想いを打ち明けるのは難しく、ただ気まずそうに視線を落とした。


「ほんと……?」

「ほ、ほんとですよぉ……」


 と、その微妙な空気を切り裂くように、プロメテウスの艦内放送が響き渡った。


『間もなく、降下シークエンスに入ります。艦体の揺れに気をつけてください』


 落ち着いたアナウンスが病室に流れ、エリシオンの本国が近いことを告げる。

 ノエルはゆるりと首をかしげ、微笑んだ。


「あら、もうそんな時間なんですね。本国に着いたら、烈火さんもちゃんと治療を受けられますよ」


 ノエルの優しげな声が兎歌を励ます。

 ユナは腕を組んだまま、強気に言った。


「ま、烈火ってのが起きるまで、あたしたちが守ってやる! 感謝してよね!」


 釣り目がキラリと光り、自信家の態度が頼もしく響く。

 シホが小さく頷き、呟いた。


「えっと……本国の医療施設なら、きっと……大丈夫、です」


 烈火への想いを胸に、彼女は淡い希望を口にする。

 兎歌はカプセルから顔を上げ、三人の少女を見回した。


「うん……ありがとう。わたし、烈火が目覚めるまで頑張るから。みんなも一緒にいてくれるなら、嬉しいよ」


 ノエルの手が兎歌の頭を優しく撫で、柔らかく笑う。


「一緒に頑張りましょうね。一人じゃありませんから」


 プロメテウスの艦体が微かに振動し始め、降下シークエンスが開始された。

 窓の外では、蒼い空が徐々に遠ざかり、雲海が薄れていく。

 エピメテウスが並走し、時折黒い艦体の影が落ちる。


 病室では、微妙な空気の中にも、新たな仲間との絆が芽生えていた。

 艦内放送が再び流れる。


『降下シークエンス、正常に進行中。本国到着まであとわずかです』


 艦長の震える声は聞こえないが、艦橋では今ごろ、安堵の表情を浮かべているだろう。

 烈火の眠るカプセルが微かに揺れ、兎歌はそれを見つめ続ける。

 やがて換気扇から入ってくる空気が南国のものに変わり、帰還を告げていた。


〜〜〜


 数日後、エリシオンの本国の医療施設の一室。

 近未来的な白い部屋に、様々な医療器具が並び、静かな音が響いている。


「う……?」


 そこで、烈火が目を覚ました。

 医療カプセルが静かに開き、赤い瞼がゆっくりと持ち上がる。

 ぼんやりとした視界に、白い天井と柔らかな光が映り込む。

 と、その時、丁度着替えを持って病室に入ってきた兎歌がそれを見つけた。


「烈火!?」


 兎歌の声が震え、持っていた着替えが床に落ちる。


「あ、あ、あぁあ……」


 次の瞬間、兎歌は泣きながら烈火に抱きついた。


「うわぁぁん! 烈火ぁ! 起きてくれたぁ!」


 涙が溢れ、小さな体が烈火にしがみつく。

 烈火は困惑した表情で呟いた。


「え、お、おい、兎歌!? 何だ、どうしたんだよ!?」


 烈火は突然のことに目を白黒させながら、兎歌の背中をぎこちなく撫でた。

 しばらくして、兎歌は涙を拭い、烈火の胸に顔を埋めたまま言った。


「ずっと、ずっと心配してたんだから……! もうダメかと思ったよぉ……」


 烈火はまだ状況が掴めず、首をかしげる。


「落ち着けって。何があったんだ? 俺は、一体……」


~~~


 しばらくして。

 簡単な検査を終えた後、烈火はベッドに腰掛け、兎歌の看病を受けていた。

 兎歌はウサギ型に切ったリンゴを手に持つ。


「はい、あーん♡」


 兎歌は満面の笑みでリンゴを差し出し、烈火に食べさせる。

 烈火は少し照れながら口を開け、もぐもぐと咀嚼した。


「ん……美味いな。サンキュ、兎歌」


 その素朴な反応に、兎歌は嬉しそうに目を細めた。

 そして、リンゴを手に持ったまま、これまでのことを説明し始めた。


「ねえ、烈火、覚えててくれると嬉しいけど……リープランドで戦って、ブレイズが暴走して、意識を失ってたんだよ。

「シグマや東武連邦、ノヴァ・ドミニオンと戦って、すごい大変だったの。

「わたし、烈火を守るために頑張ったんだから!

「それで、エピメテウスって援軍が来てくれて、やっと本国に戻れたの。烈火、ずっと眠ってて……」


 烈火はリンゴを飲み込み、眉を寄せた。


「暴走? リープランド? ……悪い、その辺の記憶がまるでねぇんだ。ダメージが残ってんのかな」


 頭を軽く叩き、記憶の欠落に困惑する。

 兎歌の手が優しく烈火の手を握った。


「いいよ、無理に思い出さなくても。烈火がこうやって起きてくれただけで、わたし、幸せだから」

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