もう一つの切り札、エピメテウス
一方、プロメテウスは東武連邦のソークル部隊の猛攻に耐えきれず、艦体から煙を上げていた。
ソークル12機が機銃とミサイルで艦を攻撃し、対空機銃が応戦するも、次々に被弾する。
ガガガッ!
装甲が剥がれ、火花が散り、艦橋に絶望的な報告が届く。
ヨウコはモニターを睨みながら叫んだ。
「右舷3番、6番砲台被弾! レーダーが故障、敵の正確な位置が捕捉できません!」
レゴンが震える手でコンソールを握り、掠れた声で呟く。
「このままでは……全滅だ……」
その時、レゴンの通信機に秘匿通信が届いた。
ノイズの中から、柔らかな声が響く。
『こちらギン。援軍を送っておいた』
シンプルな報告だったが、その言葉にレゴンの目が一瞬光る。
「ギンだと!? 援軍……!?」
~~~
東側では、リリエルがガロ・ルージャンの専用ソークルと交戦していた。
「このぉおおッ! 当たれ当たれぇ!」
「だーはは! おせぇおせぇ!」
リリエルは右手のサブマシンガンを乱射し、弾幕を張るが、ソークルの迅さがそれを上回る。
ガロの超人的な反射神経と極限まで改造された専用機が、リリエルの不調を容赦なく突く。
鉄棒の脚とリパルサーリフトの限界が、兎歌を追い詰めていた。
ガロは哄笑を上げ、ソニックブレードでリリエルを襲う。
「甘い! お前じゃ俺には勝てねぇよ!」
「くぅ……!」
ギィンッ! 赤熱する刀身を左手の粒子ブレードで弾く。
だが、ガロは反動で刃を回転させ、桜色の装甲に傷を刻んだ。
「うぅ……! れ、烈火を守るんだから! 負けないよ!」
だが、ソークルの迅い動きに追いつけず、ミサイルの爆発がリリエルを揺らす。
ズドォオオッ!
E粒子コートが辛うじてダメージを食い止めるが、衝撃が兎歌襲う!
「うわぁああ……!!」
~~~
残りのソークル11機がプロメテウスに迫り、艦体に機銃が飛び交う。
対空機銃が応戦するが、数が多すぎて防ぎきれない。
艦に激震が走り、煙と火花が上がる。
「ぐうぅ……!」
「右舷推進部被弾!」
「こ、このままじゃヤバいぞ!」
プロメテウスの危機が極まる中、雲海の中からせり上がってくる反応あり。
オペレーターのヨウコがノイズまみれのレーダー画面を睨んで叫ぶ。
「艦長! 下方に巨大な反応が急接近しています!」
「何!?」
せりあがってきたのは漆黒の巨体だった。
その正体はエリシオン秘蔵の隠密艦『エピメテウス』である!
漆黒の装甲に覆われ、プロメテウスと似たシルエットながら、より鋭く洗練されたその姿は、参謀ギンが用意していた切り札の一つ。
ブリッジにホログラム投影されたギンは、銀髪を風になびかせ、柔らかな笑みを浮かべながら戦場を見上げていた。
「これで戦力差は逆転。さて、どうなるかな」
エピメテウスの滑走路に、マティアスの『ストラウス・ザ・ホークアイ』が不時着。
火花を上げ、甲板に激しく着地し、シールドが突き刺さるが、マティアスは器用にバランスを取り、機体を安定させた。
『無事着地したよ。しかし、こんな艦が控えていたとは……』
マティアスは通信で呟き、戦場を見上げる。
入れ替わるように、エピメテウスのカタパルトから3機の『イノセント』が飛び出していく。
エリシオンの量産型コマンドスーツだが、エピメテウス内のプラズマリアクターが生成したE粒子を貯蔵することで、驚異的な出力を発揮するのだ。
アニムスキャナーの性能も高く、パイロットの技量次第でその力を最大限に引き出す。
『隊長! 新手だぜ!』
『戦闘空母からなんか出てきたぞ! 援軍か!?』
『落ち着け! イノセント三機だけだ!』
東武連邦側の通信が混乱する中、3機のイノセントは急上昇していく。
1機目がサーペント・ガレルに襲い掛かる。
大型E粒子ライフルとガトリングガンを装備した機体を操るのは、ノエル・コットン。
通信パネルに映るのは、栗毛にたれ目、豊かな乳の女パイロット。
ノエルの軽やかな声が通信に響く。
『あらら、ギリギリだったみたいね』
粒子弾がライフルから放たれ、続けてガトリングガンが飽和射撃を繰り出し、弾幕がサーペントの粒子偏光装甲を叩く。
「……!?」
リエン・ニャンパの無表情な顔に変化はないが、偏光装甲が連続攻撃に耐えきれず、徐々に消耗していく。
偏光装甲はダメージを完全に防ぐものではなく、持続的な攻撃に弱いのだ。
ノエルのイノセントが機敏に動き、サーペントの反撃をかわしながら圧力をかけ続けていた。
『2方向の攻撃は躱せないみたいですねぇ……!』
2機目はガロ・ルージャンの専用ソークルに肉薄する。
バルカン砲とシールドエッジを装備した機体を操るシホ・フォンティーヌが、凛とした声で宣言した。
『シホ・フォンティーヌ。イノセント。まいります!』
右手のバルカンが乱射し、弾丸がガロ機を襲う。
直後、左手のシールドエッジからブレードが展開し、切りかかった。
「何ィ!?」
ギィンッ!
ガロは突然の乱入に驚きながらも、超人的な反射神経で紙一重でかわす。
だが、翼の一部がブレードにかすめ、火花が散った。
「チッ! 何だこいつら!?」
ガロが歯ぎしりし、専用ソークルを旋回させて反撃の弾幕を放つが、シホのイノセントはシールドで防ぎ、冷静に距離を詰める。
『そう容易くは、やらせません!』
3機目はソークル部隊を蹴散らす。
ジェットパックを背負い、両手にサブマシンガンを備えたユナ・ヴォルタの機体だ。
彼女の明るい声が通信パネル越しに響く。
『きゃっほー! おまたせー!!』
ダララララッ!!
サブマシンガンが火を噴き、弾幕がソークル2機を瞬時に撃墜する。
『うわぁあああ!』
『り、リアクターが!』
ズガァンッ! ズガァンッ!
爆発が空に広がり、動揺が広がる。
彼らは強化人間ではあるが、増援など想定していないため、反応が遅れているのだ!
『今のウチに削ってあげるぅ!』
〜〜〜
サーペント・ガレルはノエルの猛攻に押され、粒子偏光装甲が限界に近づく。
リエンが無言で機体を操作し、下半身をうねらせて回避を試みるが、ノエルのガトリングガンが執拗に追い詰める。
『あら、もう逃げられないわよ』
ノエルが軽やかに笑う。
ガロの専用ソークルはシホのイノセントと激突し、粒子ブレードとソニックブレードが火花を散らす。
ガロは哄笑を上げた。
「面白い! だが俺を仕留めるにはまだ早ぇぜ!」
迅い動きでシホを翻弄するが、リリエルとの挟み撃ちに、徐々に押されつつあった。
残りのソークルは散開し、機動戦に持ち込もうとするが、ユナのイノセントに翻弄され、次々と撃墜される。
ジェットパックが唸り、機敏な動きで飛び回り、ユナが叫ぶ。
『ねぇねぇ! もっと遊ぼうよー!』
また次のソークルが爆発し、プロメテウスへの圧力が一気に軽減された。
プロメテウスの艦橋では、レゴンが安堵の息をつく。
「援軍……ギンの奴、やってくれたな!」ヨウコがモニターを確認し、報告する。
「敵部隊、後退し始めました! エピメテウスの介入で戦況が逆転してます!」
〜〜〜
エピメテウスの艦橋で、ギンが柔らかな笑みを深めた。
「さて、これでプロメテウスは持ちこたえられるかな。セレーナにいい報告ができそうだよ」
戦場はエピメテウスの介入で一変した。
サーペントとソークルが押され始め、プロメテウス隊に希望の光が差し込む。
~~~
サーペント・ガレルの巨体に、ウェイバーから放たれた粒子キャノンが直撃!
「……ッ!!」
ドゴォオオッ!
光の奔流が灰色の装甲を貫き、粒子偏光装甲が限界を迎える。
リパルサーリフトが悲鳴を上げ、煙を噴きながら機能を停止した。
リエン・ニャンパの無表情な瞳が一瞬揺れ、アニムスキャナーの光が弱まる。
「スキャナー……反応なし、出力、80%低下……」
サーペントの巨体は制御を失い、煙を纏って雲の海へと落下していく。
ズゥウウウ……と重い音が遠ざかり、戦場からその姿が消えた。
ノエルのイノセントはウェイバーと並走するように飛び、友軍を示す光信号を送る。
『あらら、お疲れ様ね』
「ハーハハ! 派手にやってくれたねぇ! 助かったよ!」
軽やかな声が通信に響き、ギゼラが哄笑で応じた。
片翼のウェイバーがノエル機と並び、互いに敬意を込めた旋回を見せる。
一方、エピメテウスの滑走路では、マティアスの『ストラウス・ザ・ホークアイ』が再びスナイパーライフルを構えていた。
不時着から立ち直り、冷静に戦場を見据えるマティアスの瞳が、上空の混戦を捉える。
「……」
ガロ・ルージャンの専用ソークルは、シホのイノセントと兎歌のリリエルからの銃撃を迅い動きで躱していた。
ソニックブレードが煌めき、シホ機のバックパックを裂く。
『くうッ!?』
同時に機銃が火を噴き、リリエルのサブマシンガンを一丁破壊した。
桜色の装甲が火花を散らし、兎歌が驚愕の声を上げる。
「えっ!?」
2人は小さく呻いて機体を立て直す。
だが、攻撃に意識を向けたガロの一瞬の隙を、マティアスは見逃さなかった。
ストラウスのスナイパーライフルが狙いを定め、ズガァンッ!
鋭い粒子弾がソークルのリアクターを正確に貫いた。
「ぐわぁあああ!?」
ズドォオオンッ!!!
機体が爆散し、炎と破片が空に散る。
ガロの哄笑が途切れ、専用ソークルは鉄塊に変わり、雲海へと落ちていった。
『馬鹿な、隊長が!?』
『に、逃げろ! コイツら、やべーぞ!』
主戦力を失った残りのソークルたちは、蜘蛛の子を散らすように雲海へと逃げていった。
ユナ・ヴォルタのイノセントその様子を見降ろし、笑う。
『あはははは! ブザマー!!』
明るい声が響き、残存兵が慌てて撤退する。
かくして戦いは終わった。
サーペントとガロのソークルは雲海に散り、残る兵士たちはクーロンへと逃げていく。
~~~
戦いの終わった空は、どこまでも蒼かった。
雲海が静かに広がり、灰色の雨や赤い炎の残響が消え、澄んだ青が戦場を包む。
プロメテウスの艦体は煙を上げながらも持ちこたえ、エピメテウスの漆黒の姿がその横に浮かんでいた。
エピメテウスの艦橋で、作戦参謀ギンが柔らかな笑みを浮かべ、通信でレゴンに連絡する。
『ギンだよ。どうやら間に合ったみたいだね。無事で何より』
「ギン……助かった。本当に助かったよ……」
レゴンが艦橋で安堵の息をつき、震える声で応えた。
プロメテウスの格納庫では、ウェイバーが帰還し、ギゼラがコックピットから降りて哄笑を上げる。
「ハーハハ! 生き残ったぜ、なんだかんだ無事だったねぇ。みんなも無事でよかった」
リリエルも不調ながら戻り、兎歌が涙を拭いながら呟く。
「あ、ギゼラさん……。わたしも、無事でした……」
ストラウスは滑走路に立ち、マティアスが物静かにスナイパーライフルを下ろす。
『仲間が無事なら、それでいい』
それだけを呟き、蒼い空を見上げた。
ノエル、シホ、ユナの3機のイノセントがエピメテウスの周囲を旋回し、勝利を祝うように光信号を送り合う。
戦場に静寂が戻り、新たな戦力───エピメテウス隊の登場が新たな希望を生み出していた。
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病室では、烈火が医療カプセルの中で眠り続け、兎歌がその側で彼の手を握っている。
戦いの終わりを知らせる静かな時間が流れ、カプセルのモニターが微かにビープ音を刻む。
プロメテウスは本国への帰還を準備し、エピメテウスがその護衛を担う。
蒼い空の下、プロメテウス隊は一時の休息を得た。
だが、戦争が終わったわけではない。
闘いはまだまだ続く。
しかし、今は強敵を撃破し、勝利の余韻に浸るときだ。