復活のサーペント!
「プラズマリアクターは3つとも診断モード解除や! 作業急げやー!」
「え、ブレイズは代わりのパイロットいないんてすか!?」
「いねーよ! あんな機体、常人には扱えんし、いても回路が焼け付いてんだよ!」
プロメテウスの格納庫が慌ただしく動き、警報が鳴り響く中、『ウェイバー・ザ・スカイホエール』と『ストラウス・ザ・ホークアイ』が出撃準備を整えた。
だが、どちらもここまでの戦いで受けたダメージが癒えておらず、万全の状態とは程遠い。
ウェイバーは変形機能が故障し、飛行形態のまま固定されている。
一方、ストラウスは左腕が動かない状態で、即席のシールドを左腕にくくりつけてある。
飛行能力がないため、ウェイバーの背中に乗る形で出撃するのだ。
マティアスが物静かに操縦桿を握り、通信でギゼラに指示を出す。
『援護射撃に徹するよ。ギゼラ、敵の動きに合わせてくれ』
『了解! ギゼラ・シュトルム。ウェイバー・ザ・スカイホエール、出撃するよ!』
紫の巨体が格納庫の扉から飛び出し、粒子推進器が唸りを上げて空へと舞い上がった。
ギゼラはヘルメットの中で歯を鳴らし、低く笑う。
「ハーハハ! 機体はボロボロだけど、派手に暴れてやるよ!」
と、そこへオペレーターのヨウコから通信。
『敵、ソークル型12、サーペント型1を確認。お二人はサーペントを足止めして下さい! 粒子砲を撃たれたらプロメテウスは沈みます!』
『了解! 任せな!』
『では、足止めと行こうじゃないか』
サーペント・ガレルはブーケを逆さにしたような下半身をうねらせ、驚異的な速度でプロメテウスへと接近してきた。
リエン・ニャンパの無表情な瞳がコックピット内で空を見つめ、アニムスキャナーが脳波を映し出す。
「……」
機体が低く唸り、灰色の装甲が薄暗い空に映える。
「さぁて、ブチかますよ!」
ウェイバーが先制攻撃を仕掛けた。粒子キャノンが唸りを上げ、光の奔流がサーペントを襲う。
ドゴォオオッ!
同時に、ストラウスのスナイパーライフルが火を噴き、鋭い粒子弾が敵を狙う。
「……ッ!」
二機の連携射撃が見事にシンクロし、空に光の軌跡が交錯した。
だが、サーペントは驚異的な機動力を発揮する。
リエンは無言で操縦桿を握ると、巨体を翻し粒子キャノンをかわした。
さらに、スナイパーライフルの弾を粒子偏光装甲で弾き返す。
ガキィンッ
弾丸が装甲に当たって火花を散らし、サーペントに傷一つ付けられない。
『チィ、躱されるかい!』
ギゼラは歯を食いしばりつつ、ウェイバーを旋回させる。
マティアスが冷静に通信で応じた。
『粒子偏光装甲に加えて、反応も早い。手強いな……!』
と、その瞬間、サーペントが反撃に転じた。
リエンの指が軽く動くだけで、機体の砲門が開き、粒子砲が放たれる。
「……砲撃、開始」
「粒子砲!? このぉおお!」
光の矢がウェイバーをかすめ、紫の装甲に焦げ跡を残した。
ギゼラは歯ぎしりし、機体を急旋回させて回避!
「チッ! 速ぃねぇ、このガキ!」
『ならば、こうする!』
ストラウスが背中から再び射撃を試みる。
ズガァンッ! だが、粒子弾は再び偏光装甲に弾かれ、サーペントは無傷のままプロメテウスに迫る。
「……」
リエンの無表情な顔に変化はないが、アニムスキャナーが彼女の精神波を増幅し、機体の動きがさらに鋭さを増していく。
〜〜〜
一方、艦橋では、レゴン艦長が震える手でコンソールを握り、ヨウコがモニターを睨んでいた。
「敵機、接近中です! ウェイバーとストラウスが迎撃中ですが、押されてます!」
ヨウコの声が緊迫感を帯びる。
レゴンが額の汗を拭い、叫んだ。
「ミサイルで援護しろ! 本国へ戻る前にやられるわけにはいかん!」
だが、ヨウコは悲鳴のように答える。
「無理です! 敵の動きが速すぎて、捕捉も困難です!」
「ぐぬぬ……」
レゴンは歯を食いしばり、震える声で呟いた。
「烈火がいれば……いや、今は頼れるのはギゼラとマティアスだ。持ちこたえてくれ……!」
〜〜〜
戦場の空では、ウェイバーが2発目の粒子キャノンをチャージ。
砲身が青白い光を帯び、開放の時を待ちわびる。
「粒子偏光装甲っても、これは防げないだろ!?」
ギゼラは雄叫びを上げ、濁流のごとき光を放った。
「……!」
だが、サーペントは巨体くねらせ、攻撃を回避しつつ、反撃の粒子砲を放つ。
バシュゥウウ!
今度はストラウスをかすめ、即席シールドに焦げ跡を刻んだ。
マティアスは小さく舌打ちし、呟く。
『手強いね……』
「ちぃ! この、ちょこまかと……!」
プロメテウスの上空で、ウェイバーとストラウスの連携がサーペントに挑む。
だが、機体の状態が悪すぎる。
本来リープランドで受ける補給が受けられず、メンテとパーツが足りてないのだ。
「……」
マティアスはストラウスのコックピットで冷静に状況を分析する。
左腕が動かない機体を即席シールドで補いながら、支援攻撃を繰り返す。
しかし急な出撃だったために、リニアキャノンなど、有効な装備は持ってきていない。
マティアスはパネル越しに呼びかけた。
『敵もおそらくネクスターだ。こちらの動きを読んでくる。単純なフェイントやゴリ押しは通用しないだろう。だが、その力は無限ではない。相手の集中力が切れるまで、焦らずに待つんだ』
ギゼラがウェイバーを旋回させながら応じる。
「待つってぇのは性に合わないけど、マティアスの言う通りなら仕方ないねぇ。ま、アンタがそう言うなら、隙を狙うさね!」
〜〜〜
一方、プロメテウスを挟んで反対側から、新たな脅威が迫っていた。
東武連邦の巨大戦闘艦『クーロン』から、飛行型のコマンドスーツ『ソークル』が合計12機出撃したのだ。
『行くぜ野郎ども!!』
『よっしゃあ! ボコボコにしてやる!』
『敵はパワーダウンしている。押し込めるぞ!』
流線型の機体が群れをなし、次々と鋭い翼を広げ、粒子推進器が唸りを上げてプロメテウスへと突進する。
そして、その中心にいるのはガロ・ルージャンの専用機だ。
「予定は順調。さぁて、行きますか!」
かつて南国での戦いでプロメテウス隊に敗北したガロだが、その時のデータを基に極限まで調整された専用ソークルは、もはや常人では扱えないほどの強化が施されている。
動きが迅く、まるで猛禽類のように空を切り裂く。
ガロはコックピットで野性的な笑みを浮かべ、通信で部下に命じた。
『ヤツらはノヴァの方に引きつけられてる。今がチャンスだ、一気に落とすぞ!』
『『ウォオオオッ!!!』』
〜〜〜
「リリエル、いつでもいけます!」
「よし、ハッチを開け! 」
プロメテウスのカタパルトから、『リリエル・ザ・ラビット』が出撃する。
コックピット内では、兎歌が窮屈そうにパイロットスーツの前を閉じていた。
伸縮自在のスーツが少女の巨乳を強調し、形がくっきりと浮かぶ。
「ふーッ」
兎歌は息を整え、烈火の眠る病室を思い浮かべながら呟いた。
「待ってて、烈火。わたしが……守るから!」
リリエルは融解した脚の代わりに鉄棒を装着し、背中のリパルサーリフトで浮遊しながら飛び出す。
『兎歌・ハーニッシュ。リリエル・ザ・ラビット。行くよぉ!』
直後、電子音声のアラートが鳴り響いた!
『警告:ミサイル反応』
「……ッ!」
両手に構えたサブマシンガンが火を噴き、乱射が始まった。
同時に、ソークル部隊から多数のミサイルが放たれる。
空に無数の爆発が起こり、爆円が広がって視界を覆う。
ズドォオオッ! ズドォオン!
「だーはは! 隙ありィ!」
その爆円の中から、ガロの専用ソークルが飛び出してきた。鋭い翼が火花を散らし、リリエルと交錯する。
「こんのぉ……ッ!」
サブマシンガンの弾丸がガロ機をかすめるが、風のように迅い動きが弾幕を回避し、逆にソニックブレードがリリエルを襲う。
兎歌はリパルサーリフトを操作し、機体を急旋回させてかわした。
「当たらないよ!」
「はん! やるじゃねぇか」
残りのソークル11機は爆発を迂回し、プロメテウスに迫る。
対空機銃が応戦し、弾幕が飛び交う。
その中、ソークルの機銃が艦体に命中し、激震が走る。
「左舷翼板被弾!」
「怯むな! 迎撃を続けろ!」
装甲に傷が刻まれ、火花が散る。
プロメテウスの艦橋では、レゴン艦長が震える声で叫んだ。
「何!? 二正面からの攻撃だと!?」
ヨウコがモニターを叩きながら報告。
「東側から東武連邦のソークル12機! 西側にノヴァ・ドミニオンのサーペント・ガレル! 艦の装甲が持ちません!」
レゴンが額の汗を拭い、震える手で命令を下した。
「斬弾は気にせず撃ち続けろ! 本国へ戻る前にやられるわけにはいかん!」
プロメテウスの上空は三つ巴の戦場と化した。
西側では、ウェイバーとストラウスがサーペント・ガレルと耐久戦を繰り広げる。
粒子キャノンとスナイパーライフルが火を噴くが、リエンの無感情な操作がそれを凌駕し、反撃の粒子砲が二人を圧迫。
東側では、リリエルがガロの専用ソークルと交戦し、残りの11機がプロメテウスを攻撃する。
兎歌のサブマシンガンが乱射を続け、ガロ機が迅い動きでそれをかわしながらソニックブレードで反撃する。
爆発と火花が空に広がり、ソークルのミサイルが艦体を揺らした。
ガロが哄笑を上げ、兎歌が叫び返す。
「お前らの機体、俺がいただくぜ! 烈火のブレイズもな!」
「烈火には触らせないよ!」
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リエン・ニャンパの『サーペント・ガレル』は淡々と攻撃を続けていた。
無表情な瞳がプロメテウスを捉え、アニムスキャナーが彼女の精神波を増幅する。
「ミサイル、起動」
サーペントの下半身がブーケのように展開し、無数のミサイルが一斉に放たれた。
シュゥウウウ! 空に白い軌跡が広がり、ウェイバーとストラウスを襲う。
「ハーハハ! 派手にぶち抜いてやるよ!」
ギゼラはウェイバーを操り、あえてミサイルの群れへと突撃した。
粒子推進器が唸り、紫の機体が突進する。
『迎撃する!』
背中のストラウスが即座にスナイパーライフルを置き、腰のガンブレードを抜いた。
ウェイバーの機銃が火を噴き、ミサイルを撃ち落とすと同時に、ストラウスのガンブレードが粒子弾を放つ。
ドドドドドッ!
二機の連携がミサイルの群れを貫き、サーペントの左肩に搭載された荷電粒子砲を破壊した。
「……ッ」
爆発が響き、灰色の装甲が砕け散る。
だが、リエンは動じない。
サーペントの両手が展開し、レールガンが唸りを上げた。
「なッ!」
高速度の弾丸がウェイバーの右翼を直撃!
轟音とともに紫の装甲が粉砕される。
「クッ……制御が!」
機体が大きく揺れ、ギゼラは歯を食いしばる。
マティアスは通信で咄嗟に叫んだ。
『ギゼラ、私を落としたまえ! このままでは墜落するぞ!』
『……!』
ギゼラは一瞬の間に悩んだ。
片翼ではストラウスを載せたまま飛ぶのは厳しく、次の攻撃を回避する余裕はない。
だが、ストラウスを落とせば、真下は海。
再び回収できる可能性は低い。
仲間を見捨てるのか? その葛藤がギゼラの心を苛む。
マティアスはその心中を察し、自ら決断した。
『ギゼラ、迷うな!』
『マティアス!?』
マティアスはストラウスを立ち上がらせた。
直後、ストラウスはウェイバーの背中から飛び降り、深緑の機体が空を切り裂いて落下していく。
ストラウスはライフルを構え、地面へと向かう間も冷静にサーペントを睨んでいた。