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覚醒、ブレイズの真の力!

 リープランドの空が赤く燃える中、プロメテウスの艦橋は緊迫感に包まれていた。

 レゴン艦長が震える声で指示を飛ばす。

 情けないほど痩せぎすな中年男性の彼は、額に汗を滲ませながらも、それでも、指揮を続ける。


「び、微速前進だ。前に出過ぎるなよ! わ、我々は何としても、かか、帰るべきこの船を護らねばならん!」


 オペレーターのヨウコがモニターを睨み、巨乳が制服越しに揺れる。

 ヨウコは戦況を冷静に伝えた。


「艦長、4機のステータスを確認しました。どれもメンテナンス不足で、出力が不安定です。あっ、ブレイズの制御ユニットに異常が発生しています!」


 モニターに映し出された4機のデータは、軒並み赤い警告灯が点滅していた。

 応急処置で動かしている機体は限界に近く、特に烈火のブレイズは異常値を示している。

 艦橋の空気が一層重くなり、レゴンが震える手でコンソールを叩いた。


「何!? ど、どういうことだ!?」

「わ、分かりません! 烈火、応答して!」


 ヨウコが通信を試みるが、ブレイズからの応答が途切れる。


「烈火との通信が切れました! 応急回路の信号値、既定値を超えています。異常事態です!」

「い、一体……何が起きとるんだ……?」


〜〜〜


 赤く燃える空の下で、烈火のブレイズはゲイルの『ジャガノートと高速で切り結んでいた。

 レーザー刀と粒子ブレードが火花を散らし、両者の鍔迫り合いが続く。

 だがその時───


 ジジジ……ジジ……

 ブレイズの制御ユニットに異変が生じていた。

 ガムテープで固定された応急回路が赤い光を発し、コックピット内に不気味な唸りが響き渡る。


 ブレイズが放つオーラが変化した。

 赤い炎を吸い取るように周囲の熱と光が揺らめき、機体を包む不気味な輝きが増していく。

 炎を吸い取るたびにオーラが膨張し、まるで生き物のように脈打つ。

 烈火は無言で操縦桿を握り、異様な力が体内に湧き上がるのを感じていた。

 怒りが、恐怖が、戦意が───全てが混ざり合い、循環する。


 ゲイルは異変に気付き、目を細めた。


「何だ……この気配は?」


 烈火の動きが加速する。

 ブレイズが素早い連撃を繰り出し、粒子ブレードが風を切って襲いかかった。


「く……ッ!?」


 ギィンッ! ガガガッ!

 ゲイル機は思わず後退し、レーザー刀で防ぐのが精一杯。

 衝撃でよろめき、一瞬動きが止まる。

 その隙を突き、烈火は腰のライフルを抜いた。

 ドシュウウ───!

 荷電粒子弾が放たれ、驚異的な速度でドレッドのジャガノート・ゼオラのリアクターを撃ち抜く!


 ドゴォオオッ!

 反応する間もない一撃だった。

 ドレッドの機体は爆発し、炎と破片が空に散る。


『ぐぉおおお!?』


 ドレッドの叫びが通信に響き、残骸の中にコックピットボールが転がる。

 ギゼラはウェイバーのコックピット内で驚愕の声を上げた。


「何!? 一瞬でリアクターを!?」


〜〜〜


 一方、プロメテウスの格納庫。

 鉄に囲まれた格納庫では、菊花・メックロードがモニターを見つめていた。


「あかん! 出力が上がりすぎとる! 無理にでも止めるべきやった!」

「何が起きてるんです?」


 メカニックの一人が問いかける。

 菊花はゴーグルを外し、歯を食いしばって答えた。


「今積んどんのは試験用の回路や。正式のやつと違って、取り込める精神波にリミットが無いんや」

「え、それって……まずくないっすか」

「まずいで。この状態で前みたいに逆流したら、回路どころか烈火の脳が焼ききれる!」


 格納庫のモニターに映るブレイズのデータは、異常な数値を叩き出していた。

 応急回路が赤く脈打ち、出力が制御不能に膨れ上がる。

 菊花が拳を握り潰し、叫んだ。


「烈火を止めなあかん! このままじゃ死ぬで!」


〜〜〜


「……」


 烈火は無言でブレイズを動かし続けた。

 言葉を発する余裕すらなく、烈火の意識は怒りと絶望に支配されている。

 脳内に、炎に飲まれて死んだ少女の姿が何度もフラッシュバックする。


 ブレイズの動きがさらに加速し、粒子ブレードがゲイル機を圧倒。

 ギィンッ! ガキィンッ!

 火花が飛び散り、ジャガノート・ゼオラは後退を余儀なくされた。

 ゲイルは冷徹な声で呟いた。


「この速度は……一体?」


 だが、烈火の攻撃は止まらない。

 ライフルを再び構え、荷電粒子弾を放った。


「くっ……!」


 ゲイルはレーザー刀で弾きながら回避し、ガトリングガンで反撃!

 ドドドドドッ!

 弾幕がブレイズを襲うが、赤いオーラが揺らめき回避。


「掠りもしないとはな……!」


 即座にブレイズは次の標的へ動き出した。

 ギュオ───

 赤いオーラを纏った機体がルシアのジャガノート・ゼオラへと接近する。

 兎歌がリリエルからその光景を目の当たりにし、驚愕の声を上げた。


『烈火!?』

『何!?』


 ルシアが反応する間もなく、ブレイズのコンバットナイフが閃く。

 斬───ッ!

 一閃でジャガノート・ゼオラのリアクターが両断され、青い装甲が二つに割れて爆発した。


『きゃあああ!!』


 ルシアの悲鳴が通信に響き、コックピットボールが炎の中から弾き出される。


「一撃……だと!?」


 ゲイルはその瞬間を目撃し、烈火を追うべくジャガノート・ゼオラを急加速させた。


「化け物め……!」


 ガトリングガンを放ち、弾幕がブレイズを襲う。

 だが、烈火の動きは速すぎた。

 赤いオーラが残像じみて揺らめき、当たるどころか反撃のバルカンがゲイル機に襲いかかる。


「ぐぉおおお!!」

『警告:機体ダメージ38%を超過、危険です』


 ダダダダッ!

 ジャガノートの巨体がガリガリと抉られ、装甲が剥がれ落ちる。

 咄嗟に切り離したバックパックとレーザー刀が爆散!


 兎歌はリリエルのコックピットから必死に呼びかけた。


『ねぇ、烈火! 烈火! 返事してよ!!』


 だが、ブレイズからの応答はない。

 赤い光を放つ応急回路が限界を超え、烈火の意識は怒りと絶望に飲み込まれていた。


 一方、ゲイルのコックピットでは、機体の損傷を告げるアラートが鳴り響く。

 警告音が耳をつんざき、モニターに赤い文字が点滅する。


「リアクター稼働限界……爆撃部隊は壊滅寸前……タイタンも半分以上撃墜……」


 ゲイルは計算するまでもない現実を突きつけられた。

 部隊は壊滅寸前、ヴァーミリオンも被弾し、このままでは命も失うだろう。


 敗北したのだ。


『ここまでか! 撤退だ!』


 ゲイルは冷徹な判断を下し、ジャガノートのハッチを開き、飛び降りた。

 直後、機体はE粒子ライフルの直撃を受け爆散!

 脱出が1秒でも遅れていれば、ゲイル自身も爆散していただろう。


 爆炎が広がり、視界を遮る。

 その隙に部下たちが小型コマンドスーツで駆け付け、ドレッドとルシアのコックピットボールを回収。

 ゲイルも別の小型スーツの手に乗り、炎と硝煙の中、ヴァーミリオンへと撤退していく。


 主力を失い、街のあちこちで、シグマ帝国の混乱が広がっていた。

 リープランド防衛軍の兵士たちが烈火の活躍に沸き立ち、雄叫びを上げて反撃に転じる。


『ウォオオオ!!』

『押し返せ! 敵を叩き落とせ!』

『エリシオンに遅れを取るな! 誇りを見せるのだ!』


 旧型コマンドスーツ、ボルンたちは活気を取り戻し、対空砲火が爆撃機を次々と撃ち落とす。

 ズガァンッ! ズガァンッ!

 爆発が空に広がり、シグマの編隊が崩れていく。


『対空砲、直撃です!』

『くそ、脱出しろ!!』


 ブレイズは街を焼く炎を吸い込むように立ち尽くし、その赤いオーラが頂点に達していた。

 燃える家々や倒れた屋台から立ち上る炎が機体に引き寄せられ、不気味な輝きを増す。

 だが、その力は烈火の肉体と精神を限界まで追い詰めていた。

 応急回路が過熱し、コックピット内で赤い光が点滅する。

 そして───


 ガクンッ。

 ブレイズは動きを止め、機能停止した。


〜〜〜


 戦いは終わりを迎えた。

 街の上空に灰色の雲が広がり、細かな雨が降り注ぎ始める。

 炎を鎮めるように、灰色の雨がブレイズの赤い装甲を濡らし、静寂が戦場を包んだ。


 リープランドの防衛軍が勝利の雄叫びを上げ、遠くでプロメテウスの艦影が微かに見える。


 プロメテウスの艦橋では、レゴン艦長が震える手でコンソールを握り、ヨウコがモニターを見つめていた。


「烈火が……止まったのか?」

「ブレイズの出力がゼロに落ちました。機能停止です。敵は撤退中。なんとか持ちこたえました……」


 ヨウコは安堵したような、不安なような声で答える。


 格納庫では、菊花がモニターを叩きながら叫んだ。


「あかんかった! 烈火の脳が焼ききれんかったのが奇跡や! あの回路、外すべきやったんや……!」


 メカニックが慌てて駆け寄り、ブレイズの回収準備を始める。

 ブレイズのコックピット内で、烈火は意識を失っていた。

 赤い光が消え、静寂が彼を包む。

 灰色の雨が機体に降り注ぎ、街の炎が徐々に収まっていく。


 リープランドの街は護られた。

 烈火のブレイズが多くの爆撃機を撃破し、プロメテウス隊がシグマ帝国の主力機体を引き付けたことで、爆撃部隊が無防備に晒された。


 防衛軍のボルンがその隙を突き、対空砲火で残りの敵を次々と撃ち落とした結果、街の被害は当初の予想を大幅に下回った。

 灰色の雨が降り注ぐ中、炎は徐々に鎮火し、リープランドは壊滅を免れたのだ。

 街には人々が戻り始め、消火活動や救助の声が響き合う。


「水をかけてくれ!」

「こっちに怪我人がいるぞ!」

「補給はいい、まずは瓦礫をどかすぞ!」


 石畳の通りには煤けた顔の人々が集まり、互いに肩を支えながら復旧に動き出す。

 焼け焦げた屋台の残骸や崩れた家々の間で、子供の泣き声と安堵の笑い声が混じり合い、陽気な街の魂が再び息を吹き返しつつあった。

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