迫る爆撃と燃える街
リープランドの街に死の雨が降り注いだ。
シグマ帝国の爆撃機が上空を切り裂き、次々と爆弾を投下する。
ズドォオオンッ!
次々に爆炎が上がり、石畳の通りが砕け、木造の家々が赤い炎に包まれた。
市場の屋台が吹き飛び、風車が立つ丘が崩れ落ちる。
逃げ惑う人々の悲鳴が空に響き、母親が子を抱えて走り、老人が杖を手に倒れ込む。
陽気だった街は一瞬にして地獄と化した。
「助けてくれぇ!」
「どこへ逃げればいいんだ!?」
悲鳴と爆音が混じり合い、リープランドの防衛軍が慌てて応戦に動き出す。
灰色の旧型コマンドスーツ、ボルンが街の外縁から駆けつけてきた。
『急げ、街を守るのだ!』
『何としても撃ち落とせ! 近づけさせるな!』
古びた装甲が軋み、対空機銃を両腕に抱えているが、突然の事態に混乱が隠せない。
まばらな対空砲火が空に放たれるものの、爆撃機の群れを止めるには程遠く、次々と弾幕を潜り抜けてくる。
『撃て! 撃ち落とせ!』
防衛軍のパイロットが叫ぶが、爆撃機の速度と数に圧倒され、ボルンの一機が爆弾の直撃を受けて爆散した。
ズガァンッ!
灰色の残骸が炎に飲み込まれ、街の防衛線は脆くも崩れていく。
その時、赤い空を裂いて一道の閃光が走った!
烈火のブレイズ・ザ・ビーストだ。
烈火の怒りに燃える咆哮がコックピットから響き渡る。
「ウォオオオオ!!」
応急処置でガムテープに固定されたアニムスキャナーの回路がチカチカと光る
機体を神がかり的な操作で操りながら、烈火は爆撃機の群れへと突進した。
赤い機体が炎の中を疾走し、その動きは獣のように野性的で正確だった。
一瞬にして戦場が彼の支配下に変わる。
「目標、ライオ型爆撃機、ドラン型戦闘機、数合計5、距離220……死ねェ!」
ダダダダッ! 両手の粒子バルカンが火を噴き、2機の護衛戦闘機が空中で爆散した。
破片が炎の雨となって落ち、烈火は即座に武器を切り替える。
「次ぃ!」
ブレードが展開し、鋭い刃が次の2機を真っ二つに斬り裂いた。
爆発音が連続し、ブレイズの赤い装甲に火花が散る。
「オォオオオッ!!」
そして最後の一機に肉薄し、肩に搭載された機銃を至近距離で叩き込む。
ドガガガガッ!
爆撃機は火球と化し、空中で四散した。
『第三爆撃編隊と通信途絶!』
『くそ、迎撃機は何をやっている!』
一瞬で5機を撃破した烈火の動きに、爆撃機の編隊が混乱に陥る。
だが、彼の瞳は怒りに燃え尽きることなく、さらに次の標的を見据えていた。
コックピット内で応急回路が過熱し、警告音が鳴り響くが、烈火はそれを無視して操縦桿を握り潰す勢いで握り込む。
「この街を……燃やす気かぁああ!!」
ブレイズが再び空を切り裂き、炎と煙の中で赤い獣が咆哮を上げ続ける。
街の防衛軍は援軍の登場に一瞬希望を見出し、残存のボルンたちが対空砲火を再開する。
『友軍です!』
『エリシオンだ! 助けに来てくれた!』
『遅れを取るな、続けぇー!』
だが、シグマの爆撃機はまだ数が多く、上空から容赦なく死を降らせていく。
燃える街の上空で、赤い流星が一筋の光として空に刻まれていた。
リープランドの街が赤く燃え続ける中、ヴァーミリオンの巨体が上空に浮かび、その腹部から無数のコマンドスーツが次々と放出されていく。
シグマ帝国の重装型コマンドスーツ───タイタンの降下部隊である。
土色の装甲が炎に映え、巨体が大気を切り裂いて地面へと向かう。
だが、そのうちの一機が突然空中で爆散した。
ズガァンッ!
火球が広がり、破片が雨のように降り注ぐ。
ヴァーミリオンの格納庫内で兵士たちが驚愕の声を上げた。
『何!?』
『敵襲か!?』
その瞬間、遠くの空から鋭い粒子弾が再び飛来し、飛来する爆撃機を粉砕した。
ドゴォッ!
爆発の衝撃波が空を震わせ、シグマの編隊に混乱が走る。
それはマティアスの愛機『ストラウス・ザ・ホークアイ』の狙撃だった。
光学迷彩マントに身を包んだ機体が丘陵の影から姿を現し、物静かな紳士の声が通信に響く。
『こちらストラウス。狙撃ポイントに到着した』
ストラウスのE粒子スナイパーライフルが再び唸り、正確無比な射撃がシグマの戦力を削っていく。
一機、また一機、爆撃機が、タイタンが、護衛の戦闘機が落ちる。
だが、ヴァーミリオンの格納庫ではゲイルが冷徹な目で状況を見据えていた。
『エリシオンの介入か。やらせるな! ルシア!』
『了解! ルシア・ストライカー。ジャガノート・ゼオラ、出撃します!』
その言葉に応じ、ルシアが新型コマンドスーツ『ジャガノート・ゼオラ』で降下を開始した。
青い髪がコックピット内で揺れ、海色の瞳が遠くに潜むストラウスを探す。
ジャガノート・ゼオラはシグマ帝国の最新鋭機で、オーバーリアクターによる高い出力が特徴だが、稼働時間は短い。
「どこだ……姿を現せ……!」
その巨体に搭載されたガトリングガンが回転を始め、ルシアはストラウスの位置を予測、攻撃態勢に入る。
光学迷彩と言えど、攻撃すれば位置は判明する……!
「目標確認。狙撃機を落とします!」
だがその瞬間、無数の粒子弾が空から降り注いだ。
ドドドドッ!
「何!?」
ルシア機は舞うように身を翻し、華麗な機動で弾幕を躱す。
重厚な装甲が炎の中で輝き、ルシアの瞬時の判断が危機から守った。
「何者……?」
攻撃の源を見上げると、そこには桜色の機体が浮かんでいた。
『リリエル・ザ・ラビット』だ。
コックピット内で兎歌が叫ぶ。
「やらせないよ!」
リリエルは融解した脚の代わりに背中にリパルサーリフトを装備し、浮遊しながら突進してきた。
鉄の棒が脚として無理やり固定された姿は痛々しいが、その機動性は失われていない。
粒子弾を連射する両腕のサブマシンガンが唸り、ルシア機を牽制する。
『兎歌、気をつけたまえ! おそらく前回より機体性能が上がっている!』
『わ、わかった……!』
通信からマティアスの穏やかな声が響く。
ストラウスがさらに狙撃を続け、タイタンの一機を撃ち抜いた。
ズガァンッ! 爆発が赤い空に広がり、シグマの降下部隊に隙が生まれる。
ルシアは歯を食いしばり、ガトリングガンを構えた。
「邪魔ね……!」
ジャガノート・ゼオラのガトリングが回転を加速し、重厚な弾幕がリリエルへと襲いかかる。
兎歌はリパルサーリフトをフル稼働させ、機体を急旋回させて回避した。
桜色の機体が炎と煙の中を跳ねるように動き、粒子弾で反撃する。
一方、烈火のブレイズは依然として爆撃機の群れを切り裂いていた。
赤い機体が旋回し、バルカン砲とブレードを駆使して次々と敵を葬る。
「てめぇら、何をしてやがるッ!!」
怒りの咆哮がコックピットに響き、応急回路が火花を散らす。
ヴァーミリオンの格納庫では、ゲイルも自らの機体に乗り込み、出撃準備を整えていた。
通信機越しにドレッドの声が響く。
『ゲイル、俺も行くぜ! 派手に暴れてやる!』
『そうだな。だが稼働時間は気にしておけよ』
ゲイルは冷静に返す。
『……ッ! ドレッド、出ろ! 敵がここを狙っている』
『おうよ!』
ヴァーミリオンの格納庫から、ドレッド・ドーザーも新型のジャガノート・ゼオラに乗り込み、出撃する!
褐色肌の巨漢が操る機体は、オーバーリアクターの唸りとともに重々しい動きで飛び出した。
ゲイルの戦術眼と第六感が、ヴァーミリオンを狙う敵の接近を感知したのだ。
『敵か!? ヴァーミリオンに近づくんじゃねぇ!』
ドレッドの豪快な声がコックピットに響き、ジャガノート・ゼオラが加速する。
接近する機影が何であるかを理解するより速く、彼は本能的に体当たりを仕掛けた。
ゴガァンッ!
重い衝撃音が空に響き、敵影が大きく揺れる。
その瞬間、光の奔流が放たれた。
ドゴォオオオッ!
粒子キャノン砲が輸送艦を直撃し、装甲が砕け散って火花が飛び散る。
濁流の余波がヴァーミリオンのDブロックを粉砕、黒煙が上がった。
体当たりがなければ、ヴァーミリオンも沈んでいただろう。
「誰だテメェ!!」
煙の中から姿を現したのは、紫の巨体――ギゼラ・シュトルムの『ウェイバー・ザ・スカイホエール』だ。
ギゼラは牙を剥くように笑い、シールドバルカンをドレッド機に浴びせた。
「食らっときなぁ!」
ダララララッ!
弾丸の嵐が襲いかかる。
だがドレッドはニヤリと笑い、ジャガノート・ゼオラのシールドを構えた。
「ハッ! てめぇの弾なんざ効かねぇよ!」
弾丸がシールドに弾かれ、火花が散る中、ドレッドはガトリングガンを回転させて反撃を開始!
ドドドドドッ!
重厚な弾幕がウェイバーを襲うが、ギゼラは軽やかに機体を旋回させ、回避しながら哄笑を上げた。
「ハーハハ! でかい図体して動きが鈍ぃねぇ! もっと派手に遊んでやるよ!」
一方、烈火のブレイズは10機目の爆撃機を粉砕!
「消し飛べぇ!」
ズガァンッ!!
バルカン砲が唸り、爆発が空に広がる。
炎字見て赤い機体が旋回し、応急回路が悲鳴を上げる中、怒りに燃える視線がヴァーミリオンへと向いた。
「まだ終わらせねぇぞ……! 次はお前らだ」
「来たか……ヴァーミリオンはやらせん!」
その動きに呼応するように、ゲイル・タイガーが迎撃に出る。
金髪がヘルメットの下で揺れ、切れ長の目がブレイズを捉えた。
「これでもシグマ最強と呼ばれた身だ。ここで貴様を落とす!」
ゴォオ!!
ジャガノート・ゼオラが隕石のように降下してくる!
重厚な巨体がブレイズに迫り、両者の武装が激突!
ギィィンッ!
ジャガノートのレーザー刀とブレイズの粒子ブレードが交錯し、鍔迫り合いとなる。
「おぉおおおッ!」
「あぁあああッ!」
火花が飛び散り、両機の装甲が軋む音が空に響く。
烈火は歯を食いしばり、コックピット内で叫んだ。
「てめぇが隊長機か。この街を燃やしたのは、お前かぁああ!!」
ゲイルは冷静に機体を制御し、レーザー刀に力を込めた。
「シグマの秩序を守るためだ。消えてもらおう!」
二人の力が拮抗し、ブレードと刀が火花を散らしながら押し合う。
ビービービービーッ!
ブレイズの応急回路が過熱し、警告音が鳴り響くが、烈火の怒りはそれを凌駕していた。
一方のゲイルは冷徹な計算を崩さず、ジャガノート・ゼオラの出力を微調整しながら隙を伺う。
その背後では、ドレッドとギゼラの戦いが続いていた。
「消し飛びなぁ!」
ウェイバーの粒子キャノンが再び唸り、光の奔流がジャガノートを襲う。
ドレッドは紙一重でかわしながら吠えた。
「こんなもの! 俺がもっと盛大にぶっ壊してやるぜ!」
ルシアのジャガノートは兎歌のリリエルと交戦中。
ガトリングガンの弾幕が桜色の機体を追い詰め、リパルサーリフトが悲鳴を上げながら回避を続ける。
2機は高速で激突と銃撃を繰り返し、巻き込まれたタイタンとボルンが1機ずつ爆散!
兎歌が叫んだ。
「この街は、やらせない!」
「この気迫……! 強い!」
遠くの丘陵では、マティアスのストラウスが狙撃を続け、タイタンを、爆撃機を次々と撃ち落とす。
「これで10機……まだ来るか……!」
ズガァンッ!
爆発が連鎖し、シグマの降下部隊に動揺が広がる。
『くそぉ! また落とされた!』
『四番爆撃編隊、全滅です!』
スコープの中では、ブレイズとジャガノート・ゼオラが激突する。
炎と硝煙の中で、鋼の獣たちが咆哮を上げ、戦場は混沌を極めていく。