ロンザイ撃破! 帰投、戦闘空母プロメテウス
一方、ロンザイの艦橋では、混乱が頂点に達していた。
アラートと爆音が響き、モニターから機体の反応が次々に減っていく。
「砲弾、当たりません! 四番機、一番機、ロストしました!」
オペレーターの悲痛な報告に、指揮官が太い拳を卓に叩きつける。
「たった二機だぞ、何をやっているんだ、この無能ども!」
クルーたちが慌てて計器を操作する中、艦橋は怒声と警告音で埋め尽くされる。
だが、指揮官は一度深呼吸し、目を閉じて落ち着きを取り戻す。
「いかん、落ち着け。スゥー……ハァー……」
酸素が脳に染みわたり、緊張が抜けていく。
彼とて、伊達にこの地位に就いたわけではない。
指揮官は太い声で命令を下す。
「慌てるな。砲撃を継続、赤い方に集中させろ! 火力ではこちらが上だ。釘付けにすれば、いくら速くてもかわしきれん!」
クルーが即座に動き、ロンザイの機銃とリニアキャノンが一斉にブレイズを狙う。
無数の弾丸と砲撃が赤い機体を襲い、戦場に火花が飛び散る。
ドゥン、ズガガガガッ!!
ブレイズのコックピットで、烈火は歯を食いしばった。
電磁砲弾が弾かれるたびに激震が走り、シールドが悲鳴を上げる。
「くそっ、こいつら本気で潰しに来やがった!」
赤い機体が跳躍し、弾幕の隙間を縫うが、ロンザイの火力は容赦ない。
ブレイズはシールドを展開しながら弾幕の中を逃げ回る。
烈火はライフルをチャージする余裕すらなく、粒子バルカンで反撃するが、ロンザイの巨体には微量すぎるダメージだ。
「クソッ、どうする……!?」
焦りが声に滲む。
後ろからリリエルのサブマシンガンが火を噴き、ロンザイの砲台をいくつか破壊!
だが、これも巨体には焼け石に水だ。
兎歌の声が通信越しに響く。
「烈火、これ使って!」
リリエルの背後のコンテナが開き、中から巨大な刀付きのバックパックが放り投げられた。
半透明の刀身の刀を差し、背面に大きな粒子タンクを備えたシロモノだ。
しかも、刀はブレイズの全長に匹敵するほどの大きさがある!
「ッ!!」
烈火は咄嗟に背後に跳ぶ。
無数の弾丸が機体をかすめ、シールドが火花を散らす中、ギリギリで機体をひねってかわす。
ロンザイの口が開き、荷電粒子砲が再びチャージされ、トドメを狙う光が収束していく。
だが、烈火は空中でバックパックをパージ!
廃熱と共に切り離された装備が落下し、直後、リリエルが投げた粒子タンク付きの新型バックパックがブレイズとドッキングする。
「いっけぇえええええ!!!!」
烈火の叫びと共に、ブレイズが巨大な刀を抜く。
刀身が青白く輝き、荷電粒子砲が放たれた瞬間───
一閃。
半透明の刃が光の濁流を真っ二つに切り裂き、そのまま一直線に爆進!
勢いのままにロンザイの砲塔を両断した!
ズズゥウン……!
爆発が轟き、巨体の表面に亀裂が走る。
烈火は刀を握り直し、荒い呼吸を整える。。
「まだだ……まだ終わらせねえ!」
リリエルのコックピットでは、兎歌がディスプレイを睨みながら解析を進めていた。
桜色の髪が汗で額に張り付き、べたつく。
その目が一点にとまり、叫んだ。
『烈火! 胴体中央だよ! 上からリアクターが狙えるはず!』
『任せろ!』
通信越しに烈火の声が即座に返ってくる。
ブレイズのプラズマリアクターが唸りを上げ、赤い輝きが一層強まった。
至近距離に飛び込んだブレイズに対し、ロンザイは巨体ゆえに砲撃を上手く当てられない。
烈火はその足元から一気に駆け上がり、跳躍した!
空中から見下ろすロンザイの胴体中央に、淡い光が揺らめく。リアクターだ。
ブレイズは落下しながら対空砲火を軽やかにかわし、巨大な刀を振り回して銃座を次々に破壊。
火花が飛び散る中、烈火は刀を両手で握り直し、一気に突き立てる。
ザクッ───
半透明の刀身が重装甲を紙のように貫き、リアクターに直撃。深々と突き刺さった。
内部でエネルギーが暴走し、火花が迸る。
「終わりだ!」
ブレイズが素早く退避した直後、ロンザイの機体内部で連鎖反応が始まる。
火薬と燃料に火が移り、次々と爆発が響き渡る。
ロンザイの艦橋は悲鳴に包まれていた。
「リアクターがやられた! 退避しろー!」
「う、うわぁああ!」
だが、逃げる間もなく炎が全てを飲み込む。
ドゴォオンッ!!!
ブレイズが着地すると同時、背後でロンザイが大爆発を起こした。
巨体が黒煙と炎に覆われて崩れ落ちていく。
烈火は刀を肩に担ぎ、荒野に立つ。
「これで……片付いたか」
遠くでリリエルが駆け寄り、戦場の静寂が戻ってくる。
烈火のブレイズが、手を振り、無事だと伝えていた。
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戦闘の余韻が残る荒野に、エリシオンの戦闘空母『プロメテウス』が機械音と共に降下する。
巨大なハッチが開き、ブレイズとリリエルが収容されていく。
格納庫の中で、赤いブレイズと桜色のリリエルの異彩が際立っていた。
「接続急ぎやー! リアクターの指さし確認忘れんといてな!」
「「了解!!」」
整備員たちが慌ただしく動き回る中、烈火と兎歌はコックピットから降り、レゴン艦長の部屋へと向かう。
ウィーン……。
艦長室の扉が開くと、レゴンが疲れた顔で机にもたれかかっていた。
痩せた体に似合わず、声は低く響く。
「あぁ、貴様ら……また勝手にやってくれたな。合流前に戦闘を始めるとは……死ぬ気かね?」
烈火はヘルメットを脇に抱え、肩をすくめる。
「不可抗力だよ、艦長ー。敵が村を潰しに来てたんだ。待ってる暇なんかねえだろ」
「そうですー! 烈火が無茶したけど、村は守れたし、結果オーライですよー!」
兎歌も横で頷きながらフォローする。
レゴンは額を押さえ、深いため息をつく。
「不可抗力だと? 貴様のその猪突猛進がいつか我々を破滅させるわい……。だが、まぁ、今回は村が助かったのも事実だ。仕方あるまい、認めざるを得ん」
烈火がニヤリと笑うと、レゴンが目を細めて睨む。
「だろ? 俺が正しいってことだ」
「調子に乗るなよ、烈火。次はおとなしく合流を待て。わかったな?」
「わ、わかりましたー! わたしがちゃんと見張りますからー!」
兎歌が慌てて手を振る。
部屋に微妙な空気が流れ、レゴンは再びため息をつくしかなかった。
レゴンは椅子の背にもたれ、疲れた目で烈火と兎歌を見やる。
「まぁ、貴様らが無事で何よりだ。他のパイロットたちも、もうすぐ戻ってくるよ。知っての通り、マティアスとギゼラは別行動……残りの2機は今、東武連邦の前線基地を叩いておる。そろそろ成果を上げて戻る頃合いじゃろうて」
烈火が眉を上げてニヤリとして、兎歌が目を輝かせて頷く。
「へぇ、アイツら今頃、派手にやってんだろうな」
「ギゼラさんとマティアスさんなら、すぐに終わるんじゃないですかね」
レゴンは小さく首を振る。
「はぁー……。あやつらが戻れば、また騒がしくなるだけだわい……」