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おんなのこをころそう

「ウォオオオッ!!」


 ブレイズが凄まじい殺気を放ちながら腰のコンバットナイフを抜刀!

 半透明に輝く刃が成層圏の闇に輝き、サーペントへと迫る。

 ゴオオオオッ!


「あ……」


 リエンの瞳が初めて揺れ、恐怖が少女を支配した。


「 い、いやぁああああッ!!! 」


 アニムスキャナーを通じて増幅された殺気に耐えきれず、リエンが悲鳴を上げる。

 気弱な少女の心が、戦場の修羅と化した烈火の圧力に押し潰されそうになる。


 ブレイズが回転するように粒子ブレードを振ると、粒子砲とブースターが鉄くずに変わる。

 巨体はあちこちから火花を散らし、よろめく。

 烈火はナイフを振り下ろし、サーペントの本体を破壊しようとした。


「終わりだ!」


 だが、その瞬間───サーペントから凄まじい感情のオーラが放たれた。

 恐怖、

 恐怖、

 恐怖恐怖恐怖!

 リエンの恐怖と絶望がアニムスキャナーを通じて溢れ出し、烈火の攻撃が一瞬だけ緩む。


「なん、だ……? 女の子が……おびえてる?」


 ネクスターの第六感が発動し、烈火の心がリエンの感情と一瞬だけ繋がる。

 怯えた少女の瞳、震える小さな身体。

 そんなものが脳裏に浮かび、烈火は驚愕に目を見開いた。


 ギギギ……。

 コンバットナイフがサーペントの巨体に突き刺さるが、攻撃が緩んだことで辛うじてパイロットの手前で止まる。

 装甲が軋み、内部でリエンは呆然と呟く。


「あ……あぁ……」


 目の前に巨大なナイフの尖端が迫り、呼吸が止まる。

 コックピットの空気がシュルシュルと抜け、パイロットスーツが自動で酸素供給を開始。

 リエンの顔を隠す前髪が、微かに揺れた。


 その時、通信からアジャダ・バンダーの焦った声が響く。


『被害甚大! 作戦は失敗だ、撤退、撤退しろー!』

『……!』


 その言葉に、リエンの意識が戻った。

 サーペントの全身を包む装甲やスラスターが壊れ、機体からパージされた。

 ガコン、ボコン……。

 巨体は崩れ、中心核のコマンドスーツが露わになる。


「……」


 満身創痍の中、コア機体は、スラスターを噴かし、撤退を開始する。

 サーペントは黒煙を上げ、フラフラと成層圏の闇へ溶けて消えた。 


 烈火はブレイズを静かに停止させ、遠ざかるサーペントの残骸を見やる。

 眼下では、切り落としたレールガンや装甲の破片が落下し、消えていく。


「なんだったんだ……アレは」


 烈火はコックピット内でヘルメットを外し、汗を拭う。

 本能で感じたリエンの感情が、烈火の心に微かな波紋を残していた。

 

 戦場に静寂が戻りつつあった。

 クーロンのブリッジでは、チェンジャンが歯を食いしばりながら撤退命令を出す。


「全機、後退せよ。もはや敗北は確た。ドミニオンの機体がやられた以上、これ以上は無駄だ!」


 撤退を示す信号弾が上がった。

 残存するシェンチアンが戦艦と共に成層圏から離脱していく。

 プロメテウスのブリッジでは、レゴンが安堵の息をついた。


「敵が撤退した……勝ったのか?」


 烈火の通信が入り、低い声が響く。


『艦長、新型は破壊したが中身は逃げた。だが……何か変だった。あいつ、ただものじゃねぇ気がする』

『そうか……。各機、帰投せよ。』


 成層圏の闇に、戦いの残響だけが漂う。

 ブレイズの赤い機体がプロメテウスへと吸い込まれていく。

 烈火の心には、ざわつくような感覚だけが残されていた。


 時間は少し遡り、成層圏の戦場ではウェイバーが猛威を振るっていた。

 ギゼラ・シュトルムがオービターと切り合いを繰り広げる中、粒子キャノンのチャージが完了する。

 コックピット内でギゼラは牙を剥いて笑う。


「タイムアップさ、マヌケ野郎!」


 ウェイバーの左腕が動き、シールドバルカンが至近距離で火を噴く!

 ダララララッ!

 粒子弾の嵐がオービターを襲い、アジャダ・バンダーの悲鳴が響いた。


「ひぃっ!?」


 ズガァンッ!

 弾丸がリアクターを貫いた。

 曲面的な機体が爆散し、コックピットボールが宇宙の闇へと投げ出される。

 ギゼラはその残骸を見やりながら、粒子キャノンを構える。


「ハーハハ! 次はお前らだよ!」


 阻止に割り込んできたシェンチアンがウェイバーを狙うが、ギゼラは動じない。

 紫の巨体が旋回し、キャノン砲が唸りを上げる!


 ドゴォオオオッ!

 光の奔流が放たれ、シェンチアンを巻き込みながらクーロンの後部スラスターへと直撃!

 装甲が抉れ、スラスターが火花を散らして破壊される。

 爆発が連鎖し、黒煙が成層圏に広がった。


 クーロンのブリッジでは、チェンジャンが激震に耐えながらモニターを睨む。

 オペレーターの焦った声が響く。


「被弾しました!」

「後部スラスター破損! 燃料が急速に漏れ出しています!」

「後部エリアと連絡途絶!」


 チェンジャンの目が鋭く光り、状況を瞬時に判断する。

 次の砲撃で燃料に引火すれば、艦全体が吹き飛ぶことは確実だ。

 軍人気質な男の声がブリッジに響き渡る。


「撤退だ! 全機、即座に離脱しろ! このままでは全滅するぞ!」


 艦体が低く唸り、残存するシェンチアンと輸送艦がクーロンと共に成層圏から後退を開始。

 燃料漏れによる火花が艦尾で散り、爆発の危機が迫る中、チェンジャンが歯を食いしばる。


(ドミニオンの機体も役に立たん……エリシオン、侮れん相手だ)


 ウェイバーのコックピットで、ギゼラは満足げに肩を鳴らす。


「ハン! 逃げ足だけは速ぇねぇ! まぁいいさ、次はもっと派手にぶっ壊してやるよ!」


 粒子キャノンを収め、紫の巨体がプロメテウスへと帰還の軌道を取る。

 成層圏の闇に、爆発の残響と機体の残骸だけが漂っていた。

 

〜〜〜


 プロメテウスの格納庫に、戦いの余韻が重く漂っていた。

 4機のコマンドスーツが整備台に並び、整備員たちの手で修復が進められている。


 『リリエル・ザ・ラビット』は脚を融解させられた甚大なダメージを負い、桜色の機体が痛々しく横たわっていた。

 『ストラウス・ザ・ホークアイ』は左腕が負荷で停止、シールドの予備はあるが、腕が動かないと厳しいだろう。

 『ウェイバー・ザ・スカイホエール』は全身の装甲が傷だらけで、深い擦り傷や焦げ跡が戦いの激しさを物語る。

 それでもフレームが無事なのは不幸中の幸いだった。


 だが、最も異様な状態なのは『ブレイズ・ザ・ビースト』だ。

 赤い機体が軋む音を立て、凄まじい攻防の痕が残っている。

 さらに、制御システム───アニムスキャナーがオーバーロード寸前になっていた。

 メカニックの菊花・メックロードが検査機を手に、呆れたように呟く。


「なんやコレ……どないしたらアニムスキャナーに精神波が逆流すんねん……」


 ゴーグルをずらし、作業着の胸元から覗く谷間が揺れる。

 菊花は首を振って続けた。


「ともかく、形だけでも直さにゃ。今、襲われたらアカンでぇ。烈火、機体ボロボロやのに何やったんや?」

「……わからん」


 烈火はあいまいに答え、格納庫の窓際に立っていた。

 宇宙の虚空と青い地球を見つめながら、彼の心は戦場での出来事を反芻している。


 あの新型機、サーペントから感じた感情のオーラ───明らかに幼い少女の声がした。

 あの巨体に、そんな子が乗っていたのか?

 烈火の脳内に、幻影が流れる。

 身体が焼かれながら死んでいく少女の姿。

 それはかつてヴァイスマンの屋敷にいた頃、自分を慕っていた少女の記憶と重なる。

 彼女は目の前で黒焦げの炭に変わった。


 炎に包まれた小さな手が彼を呼び、消えていく。

 烈火の瞳が揺れ、微かに呟く。


「……あの子は」


 その背後で、兎歌・ハーニッシュの桜色の瞳が、烈火を見つめていた。


「烈火……」


 コックピットから降りた兎歌は、パイロットスーツの前を開けており、薄いインナー越しに豊満な胸が強調されている。

 烈火の沈んだ表情に、何か知らない女のことを考えている気配を感じ取る。

 女としての本能が、黒い感情を沸き起こさせた。


(烈火……誰かを想ってるの? わたしじゃない、誰かを……)


 嫌な考えを振り払うように、兎歌は一歩踏み出し、烈火に後ろから抱きつく。

 薄いインナー越しに少女の柔らかな巨乳が烈火のたくましい背中に押し付けられ、互いの体温が交換される。

 兎歌は優しく囁く。


「烈火、大丈夫だよ。わたしが、いるから……」

「……」


 烈火はしばらくボーッとしていた。

 宇宙と青い星を見つめる瞳が、ゆっくりと現実に戻る。

 振り返り、兎歌の顔を見て呟く。


「兎歌……」


 そして、ふと口をついて出た言葉。


「お前、ちょっと太ったか?」


 兎歌の顔が一瞬固まり、次の瞬間、真っ赤に染まる。


「な……な……太……!? お、女の子に何てことを……! バカバカ! 烈火のバカ!」


 兎歌が烈火の背中をポカポカと叩き、鈴のような声が格納庫に響く。

 烈火は慌てて手を上げる。


「お、おい、冗談だよ! 落ち着けって!」


 その騒ぎを、整備中の菊花が遠くから見ていた。

 呆れた顔で呟く。


「はー……なんやねん、あの二人。……戦場じゃ命かけてるのに、こんな時まで子供やなぁ」


 工具を手に首を振るが、その口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。


 格納庫に、4機の傷だらけのコマンドスーツが並ぶ。

 宇宙の虚空と青い地球が窓の向こうに広がり、烈火の心に残った恐怖の感情が、静かに波紋を広げていた。

 戦いは終わりを迎えたが、新たな物語の種が蒔かれた瞬間だった。


 プロメテウスは成層圏を運行し続け、次の戦いに備える。

 烈火と兎歌の笑い声が、格納庫に小さく響き合った。

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