襲来、サーペント・ガレル!
烈火は操縦桿を握り直し、即座に先制を仕掛ける。
「先手必勝ッ!!」
ブレイズの両腕が粒子バルカンに変更され、低い唸りと共に弾幕を放つ。
ダララララッ!
無数の粒子弾がサーペントへと襲いかかるが、その巨体が微かに揺れた瞬間、弾が弾かれていく。
火花が散り、烈火の目が見開かれる。
「……な! 粒子偏光装甲だと!?」
サーペントの表面が漣めいて青白く輝き、ブレイズの攻撃を無効化していた。
粒子偏光装甲。
装甲表面を帯電させることで力場を発生し、粒子を捻じ曲げる次世代型防護システムである!
烈火が舌打ちし、通信で叫ぶ。
『艦長、新型のヤツ、粒子偏光装甲付けてやがる!』
『何!?』
ブリッジのレゴンがモニターを凝視し、声を張り上げる。
『烈火、距離を取れ! 装甲の詳細が分かるまで無駄打ちはするな! レールガンで援護する!』
ドドドッ!
プロメテウスの左右のレールガンは実弾であり、粒子偏光装甲では防げない。
閃光となった弾丸がサーペントへと向かう。
だが、
『……』
巨体がスラスターを噴かし、驚くほど軽やかに回避。
彼方のスペースデブリの爆発が空しく成層圏に広がるだけだった。
兎歌が焦った声で通信に入る。
『烈火、無理しないで! わたしが時間稼ぐから!』
『いやお前は来るなよ!』
烈火はブレイズを旋回させ、サーペントの動きを見据える。
「ちっ、でけぇ癖に素早い……こいつ、ただの雑魚じゃねぇな」
粒子ブレードを構えたまま、次の手を考える。
烈火の目は誤魔化せない。
コイツは、明らかに発射より先に回避していた!
『……』
目の前の巨影が、静かに次の動きを待っているかのように佇んでいる。
成層圏の戦場に、新たな緊張が漂い始めた。
〜〜〜
その背後、東武連邦の大型戦闘艦『クーロン』の近くで、ノヴァの量産型コマンドスーツ『オービター』が浮かんでいた。
曲面的なデザインと高性能なリパルサーリフトを備えた機体は、この高度でも動きがブレない。
その中で、アジャダ・バンダーが下卑た笑いを響かせていた。
「ヒヒッ、バカめ! リエンのネクスター能力があれば、砲撃の軌道なんぞ撃つ前に分かるわ! お前らじゃ勝てねぇよ!」
視界に映る戦況を見ながら、アジャダが手を擦る。
ミサイルを装填してはあるが、援護は必要なさそうだ。
一方、烈火のブレイズはサーペントの巨体を相手に飛び回っていた。
肩に搭載された機銃が火を噴き、牽制射撃を続ける。
ガガガガッ!
弾丸がサーペントの装甲に当たるが、その巨体に対して機銃のサイズではまるで蚊に刺された程度。
粒子偏光装甲とか関係なしに弾を弾き返していた。
烈火は舌打ちする。
「ちっ……さすがに機銃じゃ歯が立たねぇか……くッ!?」
その瞬間、サーペントの各部に付いたマシンガンが一斉に動き出した。
ダダダダダダダッ!
無数の弾丸がブレイズを襲い、赤い装甲を掠める。
烈火は機体を捻り、泳ぐように回避。
火花が散り、ブレイズの表面に浅い傷が刻まれる。
「先読みも上手いのか!?」
そこへリリエルが援護に駆けつける。
桜色の機体が四脚フレームで跳躍し、サーペントへと接近。
通信パネルに叫ぶ兎歌の姿。
『烈火、わたしが引きつけるよ!』
『バカ! 前に出過ぎだ、下がれ!』
脳裏に嫌な気配が走り、烈火は叫ぶ。
だが、その言葉が届く前に、サーペントの肩に搭載された荷電粒子砲が光を放つ。
ゴォオオオッ!!!
眩いエネルギーの奔流がリリエルを狙い、成層圏を切り裂いた。
兎歌は咄嗟に回避を試みるが、反応が一瞬遅れる。
ズガァッ!
荷電粒子がリリエルの右側を掠め、四脚のうち二本が一瞬で融解。
溶けた装甲が滴り落ち、機体が大きくバランスを崩す。
『きゃあっ!?』
兎歌の悲鳴が通信に響き、リリエルがよろめいた 。
烈火が怒りを込めて叫ぶ。
『兎歌、無理すんなって言っただろ! 下がってろ!』
ブレイズが跳躍し、サーペントの注意を引きつける。
粒子ブレードを構え、巨体へと突進するが、サーペントのマシンガンが再び火を噴く。
『こんのぉおおおッ!』
ダダダダダダダッ!
烈火はシールドを展開し、弾幕を防ぎながら距離を詰める!!
一方、『クーロン』のブリッジでは、アジャダの通信が艦長チェンジャンに届いていた。
「ヒヒッ、艦長殿! 見ましたか? これがサーペントの力。プロメテウス隊なんて敵じゃありませんぜ! このまま押し潰しちまいましょう!」
チェンジャンが鼻を鳴らし、冷たく返す。
『ふん、確かに強いが、調子に乗るな。敵はまだ全力を出していないはずだ』
言いながらも、内心では疑念が残っていた。
(ドミニオンの機体か……使えるなら使ってやるが、信用はできん)
戦場では、リリエルが後退しつつサブマシンガンで牽制射撃を続ける。
兎歌が震える声で呟く。
『脚が……! でも、まだ戦える……!』
粒子偏光装甲を破壊するには、火力が足りない。
もっと集中させるか、至近距離で撃ち込まなければ。
「このぉおお!!」
負傷したリリエルとすれ違うようにブレイズが突進する。
E粒子ブレードを突き出すが───
「何ッ!?」
サーペントのスカート部分から、細長い触手じみた腕が伸びてくる。
しかもその先端にはレーザートーチ!
バチバチバチィ!!
レーザートーチとブレードが激突し、火花が舞いちる。
細い腕でありながら、以外に頑強でへし折れない!
そしてその隙を突いてマシンガンの銃口がブレイズを狙う。
「チッ!!」
烈火は機体を翻し、機銃を躱す。
如何する?
至近距離ならナイフを叩き込むなり、装甲の隙間を狙うなりできる。
それともライフルを撃ち込むか?
しかしライフルでも一撃で突破できるかは不明。
失敗した場合、即座に反撃を食らうだろう。
「厄介だな……!」
成層圏の後方戦線で、マティアス・クロイツァーのストラウスは孤軍奮闘していた。
黒マントに包まれた機体が、6機の宇宙用シェンチアンを相手に静かに舞う。
機体性能もパイロットの熟練度もストラウスが上回っているが、6対1の多勢に無勢はさすがに厳しい。
マティアスはプロメテウスを攻撃から守るため、敵を引き離す方向へと機体を動かしていた。
スコープ越しに敵の動きを追うマティアスの瞳が、微かに揺れる。
「ウム……数が多すぎるな」
大型スナイパーライフルが一閃し、粒子ビームがシェンチアンのリアクターを撃ち抜く。
ドゴォオンッ!
爆発が闇に広がるが、残りの5機が即座に距離を詰めてくる。
「ッ!?」
その瞬間、後方から鋭い殺気。
マティアスの勘が即座に反応し、ストラウスはシールドを展開。
ドゴォオオオッ!!
直後、サーペントの荷電粒子砲が青白い光を放ち、シールドの半分を一瞬で破壊。
溶けた装甲が滴り落ち、マティアスが低く呟く。
「この距離を当ててくるか……!」
コックピット内で、後方の戦況を見やる。
ブレイズとリリエルがサーペントと交戦中だ。
だが、苦戦しているようだ。
マティアスは通信機に手を伸ばし、冷静な声を送る。
『烈火、よく見給え。敵も万能ではない』
前方では、烈火がリリエルを攻撃された焦りで息を荒げていた。
ブレイズがサーペントの巨体を相手に飛び回り、肩の機銃で牽制を続けるが、効果は薄い。
兎歌の悲鳴が耳に残り、烈火の怒りが燃え上がる。
「くそっ、兎歌を傷つけやがって……ぶっ潰してやる!」
そこに、マティアスからの通信が届く。
烈火は飛び回りながら、サーペントの巨体を観察する。
「万能じゃねぇ……?」
戦闘中では、それ以上ゆっくり話す余裕はない。
だが、
視線を鋭くし、敵の動きを分析し始める。
荷電粒子砲、粒子偏光装甲───確かに強力だ。
だが、
「なるほど、攻撃頻度が低い……!」
多彩な武装で誤魔化しているが、プラズマリアクターを搭載していないため、粒子の生成速度が遅いのだ。
烈火の頭が急速に冷えていく。
「なるほど……粒子兵器がメインの俺に有利な装備で固めてるから、強く見えるだけか!」
ブレイズのバックパックが微かに唸り、宇宙用パックの調整が進んだ感触がある。
機体が馴染んできた。
狙うは……チャージ中だ。
サーペントのコックピット内で、リエン・ニャンパが無表情に操縦を続けていた。
長い前髪が揺れ、アニムスキャナーが彼女の精神波を機体に伝達する。
画面に映る粒子供給のゲージがゆっくりと上がっていく。
ようやく荷電粒子砲のチャージが終わり、次の標的を捉える。
〜〜〜
東武連邦の戦闘艦『クーロン』のブリッジに、重苦しい空気が漂っていた。
艦長チェンジャンが指揮席に立ち、鋭い眼光でモニターを睨みつけている。軍人気質な男の額に汗が滲み、疑り深い声が響く。
「確認できる敵は3機……報告では4機のはずだ。どこに隠れている?」
その言葉が終わるや否や、ブリッジに激震が走った。
ドゴォオオオッ!
モニターに映る輸送艦の1隻が一瞬で爆散し、炎と破片が成層圏に飛び散る。
直後、対空レーダーに機影が映り、けたたましいサイレンが艦内に響き渡る。
「敵機接近! 後方より高速で接近中!」
オペレーターの叫びがブリッジを震撼させる。
チェンジャンが拳を握り、即座に命令を飛ばす。
「対空砲を展開しろ! 迎撃態勢を取れ!」
成層圏の闇の中、『ウェイバー・ザ・スカイホエール』の紫色の巨体が疾走していた。
ギゼラ・シュトルムがコックピット内で牙を剥いて笑う。
「ハーハハ! 見つけたぜ、でけぇ獲物!さぁ、覚悟を決めな!」