後編:機動要塞エンライの脅威
「オーバーリアクター、稼働よし!」
「固定ワイヤー外せ!」
「センサー類、オールグリーンです!」
ヴァーミリオンの格納庫で、ジャガノート・ゼオラの出撃が近づく。
ゲイル、ドレッド、ルシアの三人はそれぞれのコックピットに収まり、待機する。
エンジンの低いうなりが響く中、ルシアは通信越しにゲイルに尋ねた。
『ところでゲイル様、エリシオンってそもそも何なんですか? 何でこんな力を持ってるんでしょう?』
ゲイルはモニターに映る戦場のデータを確認しながら、冷徹な声で答える。
『そうだな……かつてEUという諸国連合があった。シグマの歴史の教科書にも載っているだろう。あれと同じようなものだ、小国家や被抑圧地域が結託してできた連合。エリシオンはそれが現代に蘇った形だ。力の源は団結と、恐らく隠された技術だろうな』
ルシアは少し驚いたように呟いた。
『EU……確かに教科書で読みました。じゃあ、エリシオンも同じように結束してるってことですか』
ドレッドが豪快に笑いながら割り込む。
『んなこたぁどうでもいいだろ、ルシア! 連中が強ぇなら、俺らがもっと強ぇって見せつけてやればいいだけだぜ!』
ゲイルは小さく頷き、通信を締める。
『その通りだ。所詮は寄り集まりに過ぎん。帝国の敵ではないと見せてやろう。まずは、邪魔な連邦のやつらを蹴散らすぞ!』
そう言いながらも、ゲイルは脳の片隅で考え込んでいた。
((そうだ、負荷だ。エリシオンの連中は、このゼオラと並ぶ負荷に耐えているはず。特に赤い機体は近接戦闘用、常人では耐えられん負荷がかかるはずだ。パイロットはバケモノか?))
〜〜〜
一方、眼下の戦場では、東武連邦の機動要塞『エンライ』が侵攻を続けていた。
8本脚の蜘蛛のような巨体が大地を踏みしめ、防護フィールドが淡く輝く。
脚部に搭載された大型リニアキャノンが唸りを上げ、シグマの防衛線を次々と破壊する。
『4番機ロスト! 5番機小破しました!』
『くそ、攻撃が効かねぇ! なんて装甲だ!』
『怯むな! ヤツも無敵ではない、撃ち続ければ倒れる!』
ドゴォオオンッ!!
砲撃が炸裂するたび、タイタンが吹き飛び、土煙が戦場を覆う。
エンライの装甲と火力は圧倒的で、攻撃と防護の両面でシグマ軍を押していた。
ヴァーミリオンのハッチが開き、ジャガノート・ゼオラのリアクターが唸りを上げる。
ゲイルは微かに口角を上げた。
『巨獣か……試し撃ちにはちょうどいい。行くぞ!』
三機のジャガノートが出撃態勢に入り、戦場へと飛び込んでいく。
『隊長、援軍です!』
『ヴァーミリオン隊だ! トップエースが来たぞ!』
『各機、道を開けろ!』
ヴァーミリオンのハッチから放たれた3機のジャガノート・ゼオラが、リパルサーリフトを展開し減速しながら戦場へ降下。
轟音と共に着地すると同時に、オーバーリアクターが起動。
機体から放たれる熱と光が周囲を照らし、シェンチアンの群れが一瞬怯む。
「いっくぜぇ!!」
先陣を切るのはドレッド機だ。
シールドを構え、ヒートブレードを手に持つ機体が豪快に突進。
鍛え上げた筋肉がコックピット内で張り詰め、高負荷に耐えながらシェンチアンを薙ぎ払う。
「おらぁ! まとめてぶっ潰してやるぜ!」
ヒートブレードが赤く輝き、一振りでシェンチアンを両断!
『うわぁああ!?』
ボゴォン!!
爆発が続き、土煙が舞う。
『ルシア・ストライカー、参ります!』
ルシアのジャガノートは追加ジェットパックを噴かし、流れるような動きで戦場を舞う。
「はぁああああッ!」
ガトリングガンが唸り、1機、ヒートブレードが閃いて2機!
ルシア機は舞うように刃と弾丸を散らし、シェンチアンが次々と倒れる。
負荷を受け流すようにルシアは機体を操り、冷静に敵を仕留めていく。
『ターゲット、排除。次へ移ります』
ジェットパックが煌めき、流麗な軌跡が戦場に残った。
その様子を後方から見守るゲイルのジャガノートは、肩に搭載された最新の荷電粒子砲を構え、左手のガトリングガンで援護射撃を行う。
冷徹な目で戦場を分析しながら、的確にシェンチアンを撃破していく。
『二人とも、無駄な動きはするな。効率よく片付けろ』
ゲイルは通信しながら、狙いを定め。
荷電粒子砲が一閃し、遠くのシェンチアンを吹き飛ばした。
3機のジャガノート・ゼオラは圧倒的な力でシェンチアンを蹴散らし、エンライとの対決に備える。
その活躍に、シグマ帝国の友軍が沸き立っていた。
タイタンの兵士たちが通信越しに歓声を上げる。
『新型機だ! ゲイル隊長が来たぞ!』
『押し返せ! 東武連邦なんかに負けるかよ!』
タイタンたちが一斉に重砲を放ち、シェンチアンの群れを押し返す。
砲煙が戦場を覆う中、しかし巨大な影が近づく。
エンライだ。
8本脚の蜘蛛のような機動要塞が、防護フィールドを展開しながら迫ってくる。
「来たか……まずは歓迎の一発、受けてもらおう!」
ガコンッ。
ゲイルはジャガノートの肩に搭載された荷電粒子砲を構え、エンライに向けた。
ドウ───ッ!!
トリガーを引いた瞬間、青白い光の奔流が防護フィールドに直撃し、激しい火花が散る。
二つのエネルギーが相殺し合い、一瞬、フィールドに隙が生まれる。
即座にゲイルは通信パネルに叫んだ。
『今だ、突撃しろ!」』
『『』了解!!』
ドレッドとルシアが動き出す。
ドレッドのジャガノートがヒートブレードを振り上げ、豪快にエンライの脚に斬りかかった!
「おらぁ! ぶった斬ってやるぜ!」
赤熱した刃が脚部の装甲を切り裂き、1本が爆発と共に折れる。
その横で、ルシアのジャガノートはジェットパックで加速し、流れるように反対側の脚に接近。
ヒートブレードが正確に関節を貫き、2本目の脚が崩れ落ちる。
防護フィールドのエネルギーが充填されるまでは、装甲が弱いのだ!
「脚部破壊、成功です!」
だが、エンライが即座に反撃。
残る脚の大型リニアキャノンが唸り、砲撃が二人を襲う。
「うぉおッ!?」
ドレッド機はシールドで受けるが、耐えきれずに吹き飛ぶ。
破片が飛び散り、機体がよろめいた。
「くそっ! 硬ぇな、この野郎!」
同時刻、ルシア機のバックパックが砲撃に巻き込まれた。
瞬時にパックを切り離すと同時に、燃料が引火して爆発!
「ッ!?」
ジェットパックが失われ、機体が地面に叩きつけられる。
「うっ、バックパックが……!」
エンライの巨体が再び動き出し、戦場に緊張が走る。
ゲイルは通信パネルへ叫んだ。
『まだ終わらん。立て直せ!』
ゲイルはジャガノートのコックピット内で残りの稼働時間を確認した。
ディスプレイに映る数字は多くない。
オーバーリアクターの限界が迫る中、ゲイルは冷徹に通信で指示を出す。
『ドレッド、ルシア、後退して支援攻撃に徹しろ。俺が仕掛ける』
『了解っす!!』
ドレッド機はシールドを捨てると間合いを取り、ガトリングガンを構えた。
ルシアも冷静に機体を後退させ、ガトリングガンを構える。
『支援射撃、開始します!』
二機が後退しつつガトリングガンでエンライを牽制する中、ゲイルのジャガノートが動く。
「そこだッ!!」
キュォオオオ───ッ
リパルサーリフトを微調整し、滑り込むようにエンライの巨体の下へ潜り込む。
至近距離で肩の荷電粒子砲を構え、ゲイルは引き金を引いた。
「終わりだ」
ドウ───ッ
青白い光が直撃し、防護フィールドを貫いてエンライの腹部装甲を抉った。
巨体が大きくよろめき、脚が軋む音が戦場に響く。
ゲイルは即座に滑り抜け、後方からガトリングガンを浴びせる。
ドゴゴガガガッ!!
無数の弾丸が装甲を撃ち抜き、内部で連鎖爆発を引き起こした。
エンライの巨体は炎に包まれ、爆発が轟く。
ズズゥウン……。
8本脚の機動要塞が崩れ落ち、黒煙が空を覆った。
東武連邦の兵士たちがどよめき、通信に混乱が走る。
『エンライがやられた!?』
『シグマの新型だ……撤退しろ!』
ゲイルはジャガノートを停止させ、冷静に機体のデータを確認した。
稼働時間は残りわずか、オーバーリアクターの熱が限界に近い。
戦場を見渡し、静かに分析する。
「確かに出力は高いな。……だが、荷電粒子砲のチャージが遅い。加えて威力も……エリシオンの物とは比較にもならんか」
冷たい目が次の戦いを見据え、ヴァーミリオンへと帰還の準備を始める。
戦場にシグマの勝利の余韻が残る中、新たな策を巡らせていた。
〜〜〜
ヴァーミリオンへと帰還するジャガノートのコックピット内で、ゲイルは静かに考察を進める。
戦場の熱が冷めぬまま、切れ長の目がデータを睨む。
「出力が同等でも、こちらは3機でようやく成し遂げたことを、エリシオンは単騎で成功している。つまり、単なる出力の差ではない。もっと特別な何かがあるはずだ。おそらく……パイロットか、制御システムだな」
ゲイルの手がパネルを操作し、ニュース映像を呼び出す。
モニターに映し出されたのは、小国家タンドリアがエリシオン共同連合に加入したという報道。
続いて、エリシオンの王女セレーナが何者かに拉致され、救出された事件が流れる。
映像には、赤いコマンドスーツ───ブレイズが映り込み、ハイファンを襲う姿がぼんやりと捉えられている。
ゲイルの目が細まり、冷たい分析が続く。
「このパイロットか……単なる戦闘力以上の何かを持っているな。そして!それを活かすための機体も、か」
ゲイルはモニターを切り、窓の外に広がる空を見やる。
世界が変わりつつあることを肌で感じ、ゲイルの唇に小さく冷たい笑みが浮かぶ。
「面白い。エリシオンが世界を動かすなら、シグマも動かざるを得んな。次はもっと深く探ってやる」
ヴァーミリオンのリアクターが低く唸り、艦がバグラザードへと戻っていく。
その中で、ゲイルの頭脳は次の戦いを見据えて動き始めていた。
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