烈火VSガロ・ルージャン
ゴォオオオオッ!!
空を駆けるブレイズの炎じみた赤い機体が、音速を超える速度で進んでいた。
ハイパージェットパックのスラスターが轟音を上げ、限界までの加速に機体が軋む。
烈火・シュナイダーはコックピット内で歯を食いしばり、急加速と振動を筋肉で受け止めていた。
「もってくれよ……ブレイズ!」
遠くに揺らぐような影が現れる。
座標からして、東武連邦の海上空母「ハイファン」だ。
光学迷彩フィールドがわずかに乱れ、二つの影が飛び出してくるのが見えた。
迎撃のために2機のソークルが甲板から飛び立ち、ブレイズへと向かってきているのだ!
「邪魔だ! どけぇえええ!」
烈火が叫び、ブレイズの両腕から粒子ブレードを展開。
青白い光が刃となって輝き、迎撃機に突進する。
ソークルが機銃を放つが、ブレイズの速度がそれを上回る。
斬───ッ!
すれ違いざまに、烈火は粒子ブレードを振り抜く。
一閃で1機の胴体を両断し、続く一撃で2機目のコックピットを貫いた。
一秒の攻防でソークル2機は爆発四散!
爆音が空に響き、破片が海へと落下する。
「連邦! セレーナを返せ!」
烈火の怒りが爆発し、ブレイズがハイファンの甲板へと突進する。
ガガガギャギャガギャリギャリィ!!
轟音と共に着地し、その足が甲板を抉る。
数機の小型コマンドスーツがいたが、まとめて蹴り飛ばされ、海へと落下していく。
砂煙が巻き上がる中、赤い影が立ち上がった。
甲板にいた東武連邦の兵士たちが慌てて叫ぶ。
「敵だ! エリシオンが来た!」
「げ、迎撃! シェンチアンを起動させろ!」
グォオオーン……。
ハイファンの甲板上では、シェンチアンが1機、ブレイズを迎え撃つべく立ちはだかった。
しかし、次の瞬間には烈火の粒子ブレードが閃き、シェンチアンが両断される。
装甲が火花を散らし、爆発とともに甲板に崩れ落ちる。
烈火の怒りが込められた一撃は、敵に反撃の隙すら与えなかった。
崩れ落ちた鉄の巨人が爆散し、甲板上の兵士たちは潰され、吹き飛ばされていく。
~~~
「ソークル2機、反応ロスト!」
「敵性反応、さらに接近!」
ハイファンのブリッジでは、混乱が頂点に達していた。
ガロ・ルージャンがコンソールを叩き、荒々しい声で叫ぶ。
「使える機体はねぇのか!? 何とかしろ!」
副官が慌てて応じるが、声には絶望が滲む。
「ムリです! ほとんど整備中です! 残った機体はたった今撃破されました!」
「クソがあ!!」
ガロが怒りを爆発させ、ブリッジの壁を殴る。
光学迷彩フィールドが揺らぎ、ハイファンの隠密性が失われつつある中、烈火の猛攻が彼らの計画を崩壊させていた。
甲板上では、烈火がブレイズのコックピットから飛び降りた。
愛機が全敵機を殲滅したことを確認し、烈火は次の行動に移る。
「ッ!」
奥の扉が開き、東武連邦の兵士たちが飛び出してきた。
「いたぞ、敵だ!」
「侵入者だ!」
「敵は一人だ!」
「……チッ」
アサルトライフルを手に突進する敵を前に、烈火は即座に腰の拳銃を抜き、セーフティを解除する。
バン!
最初の兵士が防弾服の隙間を撃ち抜かれ、倒れる。
烈火は流れるような動きでアサルトライフルの火線を躱し、2人目に飛びかかる。
膝蹴りが顎を直撃し、骨の砕ける音が響く。
3人目の兵士がヘルメットを掴まれ、烈火の渾身の力で壁に叩きつけられた。
グシャリと鋼鉄が歪み、兵士は膝から崩れ落ちる。
「邪魔だ! セレーナはどこだ!」
問いかけても反応はない。
ヘルメットを壁にぶつけただけで倒れるとは、軟弱な兵士である。
「……こっちだ!」
烈火は一直線に通路を進む。
野性的な闘争本能が彼を突き動かし、監房へと続く道をかぎ分ける。
~~~
その頃、ハイファンの反対側では、密かな動きが進行していた。
艦の外壁に音もなく1機のイノセントが取り付く。
シンプルで未来的なデザインの機体が、外壁を静かに破壊し、その掌に2人の黒いコンバットスーツの少女が乗っていた。
エリシオンの特殊部隊、シホとノエルだ。
コンバットスーツとヘルメットに覆われ、素顔は分からない。
分かると言えば、シホが巨乳で、ノエルが爆乳なことくらいだ。
二人はイノセントの手から艦内に飛び降り、素早く身を隠す。
シホが通信機に囁く。
『潜入成功。セレーナ様の位置を確認しましょう』
『了解。敵の動きが慌ただしいわね。烈火が暴れてるおかげかな?』
ノエルは小さく笑い、二人は通路の影に身を潜める。
特殊部隊としての訓練が活き、音もなく艦内を進む。
烈火の猛攻が陽動となり、二人はハイファンの防衛網をすり抜けていた。
烈火の怒涛の進撃と、シホとノエルの静かな侵入。
ハイファンは二方向からエリシオンの反撃に晒され、セレーナ救出の戦いが佳境を迎えようとしていた。
ガロの焦りがブリッジに響き渡る中、戦況は一気に動き出す。
「ウォオオオオッ! どけぇええ!!」
ハイファンの通路を突き進む烈火・シュナイダーは、獣じみた直感で最適なルートを見極めていた。
立ちはだかる兵士たちを正拳突きで吹き飛ばし、ブラジリアンキックで薙ぎ倒す。
もはや強化人間だったら対抗できるとか、そういうレベルではなかった。
彼の動きは人間離れしており、東武連邦の兵士たちは恐怖に怯えながらも立ち向かうしかない。
だがその時、通路の暗がりから迫る影!
本能で危険を察知した烈火は、即座に腰の拳銃を抜き、乱射する。
ダンダンダンダンッ!!
銃声が響き渡り、弾丸が壁に火花を散らすが、相手は驚異的な身のこなしで全てを躱す。
次の瞬間、鋭いナイフが烈火の拳銃を正確に叩き割り、金属片が床に飛び散った。
「!?」
烈火が驚愕するが、躊躇はない。
壊れた拳銃を放棄し、即座に腰からコンバットナイフを抜いて斬りかかる。
ギャイイインッ!!
刃と刃がぶつかり合い、火花が飛び散る。暗闇の中で相手の姿が明らかになる。野性的な髪と鋭い目つき――ガロ・ルージャンだ。
「もうここまで来たのかよ。お前、本当に人間か?」
ガロがヘルメットの奥でニヤリと笑い、ナイフを構え直した。
二人はヘルメットで顔を隠し、互いに一歩も譲らない。
「───ッ!」
烈火が突進し、ナイフを振り下ろす。
ガキィインッ!
一撃がガロのナイフを弾き飛ばし、刃が宙を舞う。
しかし、その衝撃で烈火のナイフも折れてしまい、金属の破片が床に落ちる。
「クッ!?」
「ちッ!」
烈火が舌打ちし、素手で構える。
ガロもナイフを失ったが、野獣のような笑みを浮かべ、拳を握り潰す。
ボグッ、ドゴォン! ベギョン!
二人の戦いは肉弾戦へと移行し、通路に拳と蹴りの音が響き渡る。
~~~
一方、ハイファンの反対側では、特殊部隊のシホとノエルが音もなく監房にたどり着いていた。
廊下には、ノエルのストリングで暗殺された兵士たちが静かに倒れている。
シホのヘルメットに収まらない黒髪が揺れ、ノエルのおっとりしたデカ乳がコンバットスーツに包まれて揺れる。
二人は息を合わせ、監房の鍵に近づく。
「開けますね」
キュォオン……。
ノエルがレーザーブレードを起動し、青い光が鍵を溶かす。
バチバチ、キィイ……。
扉が開き、中に閉じ込められていたセレーナが顔を上げる。
セレーナの白いは汚れ、疲れ果てた表情が浮かんでいる。
「あなた、は……?」
「セレーナ様、助けに来ました」
シホが優しく声をかけ、セレーナの手を取る。
ヘルメットの顔偽装を解くと、可愛らしい少女の顔が見えた。
隣ではノエルが周囲を警戒しながら、セレーナを支えて監房から連れ出す。
「ありがとう……二人とも、無事で良かった」
セレーナが弱々しく微笑むと、ノエルが穏やかに返す。
「烈火さんが暴れてくれてますから、私たちの潜入が楽でしたよ~」
「ふふ、すごいんですよ、あの人……」
~~~
一方、通路では、烈火とガロの戦いが佳境を迎えていた。
烈火の拳がガロの腹を抉り、ガロの蹴りが烈火の肩を捉える。
「グゥッ!?」
「こんのぉお!!」
ボグンッ、ズガンッ!
二人の動きは互角で、どちらも引かない。
だが、視界の隅で、黒いコンバットスーツの二人がセレーナを連れて逃げる姿が映った。
烈火はそのコンバットスーツに見覚えがあった。
確か、エリシオンの特殊部隊だ。
「セレーナ!」
「隙アリ!」
烈火が一瞬気を抜いた隙に、ガロが拳を繰り出す。
烈火は咄嗟に腕でガードし、反撃の膝蹴りを叩き込む。
「グハッ!」
ガロがよろめくが、彼もまた笑みを崩さない。
「お前の仲間、やりやがるな。だが、ここで終わりじゃねぇぞ」
烈火がガロを睨み、吐き捨てる。
「お前なんかに構ってる暇はねぇ。セレーナが助かったなら、それでいい」
二人の戦いが続く中、セレーナはシホとノエルに守られ、ハイファンからの脱出へと動き出していた。
同時に、通路での戦いは加速し、烈火とガロの闘志がぶつかり合う。
ガロのボディブローが烈火の腹に直撃し、彼の体が一瞬折れそうになる。
だが、烈火の読みがそれを上回っていた。
彼は相打ちを覚悟で拳を繰り出していたのだ。
バギィンッ!!
正拳がガロのヘルメットを直撃し、鋼鉄が砕ける音が響く。
ヘルメットが粉々になり、ガロの顔が露わになる。
「この……」
「くッ……」
よろめく二人。
ガロは気合で耐え、壊れたヘルメットを振りかぶってヘッドバットを放つ。
ガキィン!
烈火のヘルメットにもひびが入り、衝撃でヘルメットの奥に素顔が見える。
赤毛と鋭い目つきの青年の顔に、ガロが驚きを隠せない。
「なんだと、ガキじゃねぇか」
ドゴォンッ!
その瞬間、ハイファンが大きく揺れた。
遅れながらもプロメテウスが近づいてきたのだ。
艦砲射撃がハイファンを襲う。
艦の振動が二人の戦いを中断させ、爆音が通路に響き渡る。
プロメテウスのブリッジでは、艦長レゴンがモニターを見つめていた。
オペレーターのヨウコがイノセントからの通信を告げる。
「通信機ました! 『こちらエピメテウス。セレーナを奪還した。繰り返す。セレーナを奪還した』以上です!」
シホとノエルがセレーナを連れて艦外に脱出したことが確認される。
レゴンが一度咳ばらいをし、声を張り上げる。
「セレーナ様救出を確認! ストラウス、狙撃開始だ!」
甲板に立つストラウス・ザ・ホークアイが艦の荷電粒子砲と接続し、砲撃を始めた。
超遠距離からの精密射撃が発射され、光の矢がハイファンの対空砲を正確に破壊。
『第一射、命中。……ところで烈火はどこにおるのかね?』
マティアスは首を傾げつつ、遠慮なく撃ちこむ。まぁ、アイツなら平気だろう。
爆発が艦を揺らし、甲板が傾き始める。
プロメテウスの接近と狙撃により、ハイファンは壊滅的な打撃を受けていた。
「いや、俺まだ残ってんだけど!?」
ドォン、ドォオンッ!
爆音が響く中、烈火は外へと走り出す。
ガロもまた、艦の崩壊を悟り、戦いを中断して逃げざるを得なかった。
烈火が甲板に飛び出すと、ブレイズの大きな手が彼を迎える。
赤い機体が生体認識し、烈火はブレイズの手を踏み台にしてコックピットに飛び乗る。
ブレイズは主の帰還を確認し、リアクターを再起動させた。
「行くぞ!」
ゴォオオオッ!
ハイパージェットパックが再び点火し、ブレイズが轟音とともに空へと飛び立つ。
烈火が振り返ると、ハイファンがゆっくりと沈没していくのが見えた。
光学迷彩が機能を失い、艦体が海に飲み込まれていく。
一方のガロは別のルートで脱出し、烈火を睨みながら呟く。
「覚えてろよ。次はお前をぶっ潰す、ガキ……」
ブレイズの赤い光が空を切り裂き、プロメテウスへと戻る。
セレーナ救出は成功したが、主犯であるガロの逃走は、新たな戦いの予感を残していた。
ガロは狡猾な相手だ。必ずや、また
烈火はコックピットで息を整え、仲間たちの無事を祈る。
「……兎歌、また心配してっかな。っつーか、ヘルメット割れてると見にくいなコレ!」
烈火は思わずヘルメットを脱ぎ捨てる。
プロメテウスが近づく中、戦場は一時的な静寂に包まれ、次の局面へと移り変わろうとしていた。
~~~
後日、エリシオンの小型輸送艦の中。
艦内は静かで、リアクターの低いうなり声だけが響いている。
医療室のベッドにはネビュラが寝かされていた。
腹部に受けた銃弾の手術が終わり、素早い救命処置が功を奏して命に別状はない。
黒髪が枕に広がり、彼女は穏やかな寝息を立てている。
甲板では、保護されたセレーナ・エクリプスと、護衛として乗り込んだ烈火・シュナイダーが夕焼けの空を見ながら話していた。
セレーナは白いドレスを新調し、疲れは残るものの気高さを取り戻している。
セレーナは烈火に目を向け、静かに感謝を告げる。
「烈火、ありがとう。本当に……あなたが来てくれなかったら、私どうなっていたか」
烈火は赤毛を掻き上げ、野性的な笑みを浮かべて答える。
「おうよ。仲間がピンチなら、助けるに決まってんだろ」
二人はしばらく夕焼けを見つめ、風が甲板を吹き抜ける。
すると、セレーナがポツリと悩みを打ち明けた。
「でも、私ね……自分が代表だなんて思えないの。傀儡にすぎないのよ。東武連邦が狙ってる私なんて、替えの効く存在でしかないのに……」
セレーナの声には自嘲が混じる。
だが、烈火は不思議そうな顔で首を傾げ、セレーナを見つめた。
「暖かいベッドと美味いメシがあるのに、まだ悩むのか? オウジョサマって、贅沢だな」
「……!!」
その言葉に、セレーナが目を丸くする。
烈火の素朴な価値観は、かつて戦災孤児として貧民街で生き抜いた彼ならではのものだった。
暖かい寝床と食事があれば、それだけで十分───そんな生活の中で育った烈火にとって、セレーナの悩みはまるで贅沢品のように感じられたのだ。
セレーナは一瞬驚き、それから価値観の違いに小さく笑った。
寝床すらない人間も世の中に入るのに、自分は暖かい寝床で悩んでいる。
自分の悩みが少し馬鹿らしく思えてきた。
「そうね……確かに、私、贅沢なのかもしれない。烈火みたいな目で見ると、悩むこと自体が贅沢だわ」
「おう、そうだろ。生きてりゃいいじゃねぇか。後はメシ食って、敵をぶっ潰す。それで十分だ」
烈火が豪快に笑うと、セレーナもつられて笑顔になる。
夕焼けの空が艦を照らし、オレンジと赤の光が二人の顔に映る。
セレーナは烈火のシンプルな強さに救われるような気持ちになり、胸の重さが少しだけ軽くなった。
「ありがとう、烈火。あなたって、本当に頼りになるわ」
「おうよ。オウジョサマが笑ってりゃ、それでいい」
烈火が肩をすくめ、セレーナが小さく頷く。
輸送艦は夕焼けの中を進み、ネビュラの回復とセレーナの救出を祝うように、穏やかな時間が流れていた。
戦争はまだ続くが、この瞬間だけは平和が二人を包んでいた。
「はぁ、まったく。烈火ってば、デレデレしちゃってさ」
少し離れたところで見つめる兎歌は、小さくため息をついた。
「なんや、今日はダンナを奪い返しに行かへんのか」
隣の菊花がやや驚いたように言う。
兎歌は苦笑いし、首を振った。
「今日だけは、ね。セレーナさん、悪い人じゃなさそうだし」
「そうか。ま、ちと心配やけど、大丈夫やろ。一応、殴りかからん程度の理性はあるやろうし」
「……烈火のこと、何だと思ってるの?」
「暴力の化身やろ」
「否定できない~……」
兎歌は何とも言えない表情をした。
その顔もまた、夕焼けが赤く照らしていた。
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