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セレーナの戦い

 東武連邦の海上空母「ハイファン」。

 広大な海の上に浮かぶこの移動基地は、光学迷彩フィールドによってその姿を隠し、高い隠密性を誇っていた。

 艦体は灰色に塗られ、甲板には戦闘機やコマンドスーツが整然と並ぶ。


 かつてノヴァ・ドミニオンが建造し、ガロの部隊に強奪された。

 その手柄により、ガロは特殊部隊の運用を任される、自機の大幅な改造が認められるなど、様々な特権を得ていた。


 オォオーン……ザバァアン……。

 波の音と風が混じり合う中、輸送艇が着艦し、兵士たちに連れられて降ろされるセレーナ。


「おら、とっとと歩け!」


 兵士の一人が乱暴にセレーナを押した。

 セレーナは後ろ手に縛られ、抵抗する力もなくよろめく。


「うっ!」


 足元が滑り、甲板に倒れ込んでしまう。

 兵士が舌打ちし、苛立った声で罵る。


「立てよ、面倒くせぇな!」


 ハイファンのクルーたちがその様子を遠巻きに見つめ、セレーナに目をやる。

 海色の髪と豊満な女体を包む白いドレスは、戦場の汚れにまみれてもなお気高さを失っていない。

 それを見た男たちが、下卑た笑みを浮かべる。


「おい、見ろよ。あの女、すげぇ体してんな」

「エリシオンのお偉いさんだってよ。ちょっと味見してもバレねぇだろ」


 一人の兵士がニヤつきながら近づき、セレーナに手を伸ばそうとする。

 セレーナは怯えた目で後ずさるが、縛られた手ではどうすることもできない。

 その時、野性的な声が甲板に響き渡った。


「おい、暴れんなよ。お前ら」


 ガロ・ルージャンが現れ、兵士たちを睨みつけた。

 彼の荒々しい髪が風に揺れ、鋭い目つきがクルーを黙らせる。


「チ、隊長のお気に入りかよ」


 襲いかかろうとした兵士が手を引っ込め、不満げに下がった。

 ガロはセレーナに近づき、おびえた顔を見下ろしながらニヤリと笑う。


「ようこそ、お嬢さん。お前は新型機と交換するんだからな。大人しくしてりゃ、痛い目にあわねぇよ」

「……ッ!」


 その言葉に、セレーナの瞳が鋭く光る。

 ガロの目には邪悪な計画が宿っており、セレーナは瞬時にその危険を読み取ったのだ。

 エリシオンのコマンドスーツに搭載される超兵器『プラズマリアクター』。

 それは、最高機密の技術。

 巨大国家のコマンドスーツを凌駕する、その力を支えるプラズマリアクターの秘密が敵の手に渡れば、エリシオンの優位は崩れ、戦争の勢力図が一変する。

 決して渡してはいけないものだ。


「機体を……渡すわけにはいかない!」


 セレーナが声を震わせながら立ち上がり、ガロを睨みつける。

 だが、ガロは鼻で笑い、セレーナの顎を掴んで顔を近づける。


「お前がそう言っても、どうにもならねぇよ。お前の仲間がどれだけお前を大事に思うか、試してみりゃ分かるぜぇ。新型機が手に入れば、連邦はシグマもエリシオンもまとめて潰せる」


 ガロが手を離し、兵士たちに指示を出す。


「こいつを監房にぶち込んどけ。傷つけんなよ、商品価値が下がるからな」

「きゃあ!? や、やめて!」


 兵士たちがセレーナを乱暴に引き立て、甲板の奥へと連れていく。

 セレーナは抵抗を試みるが、力尽くで押さえ込まれ、監房へと向かう通路に消えていった。

 ハイファンのクルーたちの下卑た笑い声が背後に響く中、ガロは甲板に立ち、遠くの海を見据える。


「さて、エリシオンの連中の反応が楽しみだぜ。あれだけの機体が手に入りゃ、俺が最強になれる」


 彼の瞳に野心が燃え上がり、海上空母ハイファンは光学迷彩で海の蒼に溶ける。

 セレーナの運命と、エリシオンの未来が、危険な岐路に立たされていた。


~~~


 エリシオンの戦闘空母 プロメテウス。

 その格納庫は、重苦しい緊張に包まれていた。

 周辺には無数の機材が並び、メカニックたちがせかせかと動き回る。


 そんな中、烈火・シュナイダーは愛機『ブレイズ』のコックピットに座り、出撃の時を待っていた。

 赤い機体が静かに佇み、プラズマリアクターの微かな唸りが格納庫に響く。

 だが、敵拠点の場所が特定できず、苛立ちを隠せない。


「くそっ、いつまで待たせる気だ! 早く出撃させろ!」


 烈火が拳をコンソールに叩きつけると、コックピットハッチに橙色の髪の女が立った。

 『菊花・メックロード』、プロメテウスのメカニックだ。

 おだんごヘアに結んだ髪の上にはゴーグルが乗り、作業着の隙間から巨乳の谷間が覗く。

 腰には工具の入ったベルトが巻かれ、彼女は関西弁で烈火に話しかける。


「えぇか、烈火。ブレイズにハイパージェットパック付けたからな。戦闘機なみ……いや、音速で飛べるで。でも、無理はしたらアカン。人質がおるから慎重にな」

「ああ、分かってるよ。早く飛ばしてくれ!」


 烈火がぶっきらぼうに答えると、菊花がコンソールを覗き込む。

 ブレイズの画面に「SUCCESS」の文字が表示され、ハイパージェットパックの準備が整ったことを示す。彼女が満足げに頷く。


「よっしゃ、これでバッチリや。後は場所が分かればな……」

「……」


 重苦しい時間が流れる。

 格納庫内の空気が張り詰め、烈火の焦燥感が募る……。

 その中、突然、格納庫の入り口から兎歌・ハーニッシュが慌ただしく駆け込んできた。

 桜色の髪と豊満な乳が揺れ、息を切らしながら叫ぶ。


「烈火! セレーナさんの場所がわかったって!」

「何!?」

「何やて!」


 烈火と菊花が同時に声を上げる。兎歌が息を整え、急いで説明する。


「東武連邦の海上空母、ハイファン! 光学迷彩で隠れてたけど、ストラウスのセンサーでやっと捉えたんだよ!」


 烈火の目が鋭く光り、即座にコックピットのレバーを握る。菊花がハッチから飛び降り、橙髪のおだんごを揺らしながら叫ぶ。


「おおきにな、兎歌! 烈火、気ぃつけや! 人質おるんやからな!」

「ああ、任せとけ!」

「いや絶対無茶するなよ!?」


 ブレイズが起動する。

 赤い機体が輝きを増し、ハイパージェットパックのスラスターに火が点く。

 グォオオオンッ!!

 轟音とともに格納庫の床が震え、ブレイズが弾丸のように飛び出した。

 甲板を抜け、プロメテウスの上空へと舞い上がる。

 形成したフィールドが熱で赤く染まり、ブレイズは名前通り炎となる。

 音を追い越すほどの速度で空を切り裂き、赤い光の尾を引きながら東武連邦のハイファンを目指した。


 兎歌が甲板に立ち、豊満な胸に手をギュッと当て、遠ざかるブレイズを見送る。

 少女の桜色の瞳には、烈火への信頼とセレーナへの心配が交錯していた。


「烈火、頼むよ……セレーナさんを連れ戻して!」


 菊花が兎歌の隣に立ち、工具を手に持ったまま呟く。


「烈火なら大丈夫や。あいつ、猪突猛進やけど、仲間思いやからな」


 プロメテウスの甲板に風が吹き抜け、ブレイズの赤い光が空の彼方へと消えていく。

 セレーナ救出の戦いが、今まさに始まろうとしていた。


~~~


 時間は少し遡り、東武連邦の海上空母「ハイファン」の監房の中。

 薄暗い部屋に閉じ込められたセレーナは、後ろ手に縛られたまま鉄格子の向こうに立つ見張りの兵士に話しかけた。

 セレーナの蒼髪がわずかに乱れ、白いドレスは汚れでくすんでいるが、気高さは失われていない。


「ねぇ、トイレを使いたいの。手錠を外してくれないかしら」


 穏やかだがしっかりした声で訴える。

 見張りの兵士は一瞬目を細め、セレーナの姿をじろりと見る。

 その脳裏に下卑た考えがよぎった。


((いいねぇ。おしっこしてるトコロを、まじまじと見てやる。捕虜には監視が必要だからなァ……))


 兵士は下卑た笑みを浮かべ、鍵を手に監房へと入る。


「へっ、いいぜ。トイレくらい使わせてやるよ」


 彼はセレーナの弱そうな外見に油断し、手錠を外す。

 鉄の拘束が外れると、セレーナはゆっくりと監房の隅にある簡素な便器へと向かう。

 兵士がニヤつきながら彼女の背後に立ち、視線を下に落とした瞬間――。


 ガツンッ!

 セレーナが振り上げた手錠が兵士の頭を直撃する。

 鈍い音とともに兵士が呻き、膝をつく。彼女は即座に兵士の腰からフラッシュバンを奪い取り、監房のドアを蹴り開けて走り出した。


「いてて……いや違う! 逃げたぞ、追えー!」


 倒れた兵士の叫びが響き、ハイファンの通路に警報が鳴り響く。

 兵士たちが殺到し、武器を手にセレーナを追い始める。

 彼女は必死で走るが、女の脚では訓練された兵士たちに敵うはずもない。

 通路の角を曲がり、甲板へと続く階段を目指すが、背後から足音が迫ってくる。


「そこだ、捕まえろ!」


 兵士の一人が手を伸ばし、セレーナの腕を掴もうとする。捕まる寸前、彼女は甲板に面した小さな窓にたどり着く。息を切らせながらフラッシュバンをガキンッと起動し───窓の格子の隙間から、外に投げた!

 放物線を描き、フラッシュバンは飛んでいく。

 セレーナは祈るように呟いた。


「お願い、届いて!」


 強烈な光が空に炸裂し、鮮やかな輝きがハイファンの位置を一瞬だけ照らし出す。

 ガチャン───。

 兵士たちがセレーナを押さえつけ、再び手錠をかける。

 セレーナは抵抗する力を失い、甲板に膝をついた。


「おとなしくしろ、嬢ちゃん。逃げられるわけねぇだろ」


 兵士が嘲笑うが、セレーナの瞳には諦めではなく、希望が宿っていた。

 信号が仲間たちに届けば、助けが来るかもしれない。

 その一縷の望みに賭け、彼女は静かに耐える。


~~~


 場面が戻り、プロメテウスの格納庫で兎歌が駆け込んできた瞬間と繋がる。

 一瞬の光がストラウス・ザ・ホークアイの複合センサーに引っ掛かり、ハイファンの位置が露呈したのだ。

 烈火のブレイズは飛ぶ。

 青い空の下で、赤い流星のように、只管に一直線に。


 エリシオンの戦闘空母「プロメテウス」のブリッジは、緊迫感に満ちていた。

 艦長のレゴンが、普段の情けない態度をかなぐり捨て、鋭い声で指示を飛ばす。

 やせぎすな体を震わせながらも、緊急事態での決断力が彼を支えていた。


「リリエルのプラズマリアクターを艦につなげ! 少しでも出力を上げるのだ! マティウスはストラウスに乗ったまま待機、艦の荷電粒子砲と接続準備をしておけ! メカニックチームはウェイバーの整備を急げ! プロメテウス、目標地点まで最大船速だ!」


 ブリッジのクルーたちが一斉に動き出す。

 コンソールが光り、通信が飛び交う。

 格納庫では、リリエルのプラズマリアクターが艦のエネルギー系統に接続され、プロメテウスの出力がわずかに上昇していく。

 確かにプロメテウスには粒子推進器が搭載されているが、直結しても影響は微々たるものだ。

 だが、それでもやる。

 その1秒の差で結果が変わらないと、誰が言える?


 レゴンは額の汗を拭い、モニターに映るハイファンの座標を見つめる。


「セレーナ様を必ず取り戻す……失敗は許されんぞ!」

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