南海の危機! 襲来、ガロ・ルージャン!
翌日、大陸南の海に浮かぶ島国。
セレーナが一時的な休息を取るために訪れていたこの場所は、南国の陽気な喧騒に満ちていた。
青い空の下、椰子の木が風に揺れ、色とりどりの屋台が浜辺沿いに並ぶ。
「さーさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
「今日はイサキが安いよー!」
「レーム、早く行こうぜー!」
市場では商人たちが大声で客を呼び込み、子供たちが笑いながら走り回っている。
波の音と鳥のさえずりが混じり合い、戦場とは対照的な平和な風景が広がっていた。
セレーナはホテルのバルコニーに立ち、白いドレスをまとって海風に髪をなびかせていた。
隣にはネビュラが控え、静かに彼女を見守っている。セレーナが小さく息をつく。
「こんな穏やかな場所に来ると、戦争のこと忘れそうになるわ」
「少しでも休息が取れれば、それが何よりです、セレーナ様」
ネビュラが穏やかに応じると、セレーナが微笑む。
だがその瞬間───
ブォーン! ブォーン!
けたたましい警報が島全体に鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
「空襲、空襲だ!」
「逃げて! 避難するのよ!」
市場の喧騒が一瞬で止まり、人々が慌てて空を見上げる。
セレーナとネビュラも即座に視線を上げると───
遥かな空から6つの影が急速に接近してくるのが見えた。
東武連邦の飛行型コマンドスーツ『ソークル』だ。
可変フレームを備えた流線型の機体が、飛行形態で島へと突進してくる。
その中心にいるのは、隊長のガロ・ルージャン。
野性的な髪をばらつかせ、ソークルのコックピット内で部下たちに通信を送る。
『良いかお前ら。俺達はあくまでも敵部隊を引きつける役だ。本命は海底の連中がやってくれる。分かったな?』
兵士たちから雄叫びが返ってくる。
『おう! 隊長に任せときゃ間違いねぇぜ!』
『エリシオンの連中を引っかき回してやる!』
ガロはニヤリと笑い、ソークルの速度を上げた。
6機の機体が一斉に下降し、島の防衛線に向かって突っ込んでいく。
ゴウゥーン、ゴウゥーン……。
警報がさらに激しく鳴り響き、住民たちが避難を始める中、動き出すのはエリシオンの量産型コマンドスーツ「イノセント」の部隊!
イノセントはシンプルかつ未来的なデザインを持つ、蒼白い機体だ。
本来はレールガンや荷電粒子兵器を装備する設計だが、この島国では配備が進まず、リニアキャノンとマシンガンで武装している。
白と青を基調とした機体が浜辺に展開し、ソークルを迎え撃つ態勢を整える。
無線越しに飛び交うのはパイロットたちの通信。
『敵は東武連邦の新型、ソークル。数、6機確認!』
『迎撃準備、リニアキャノン装填完了!』
急遽出撃した、防衛部隊の通信がコックピットに響き合う。
セレーナがバルコニーからその光景を見下ろし、顔を強張らせる。
「東武連邦……やっぱり昨日見た影はこれだったんだ。ネビュラ、私たちも急ぎましょう!」
ネビュラが冷静に頷き、セレーナの手を取る。
「まずは安全な場所へ。イノセントが対応しますが、敵の目的が分かりません。注意しましょう」
ダダダダダッ!!
二人が部屋に戻ろうとした瞬間、ソークルが上空から急降下し、マシンガンの弾幕を撒き散らす。
イノセントが即座に反撃し、リニアキャノンの閃光が空を切り裂く。
ズドォンッ!
ガロのソークルはそれを軽やかに回避し、部隊を指揮しながら哄笑した。
「へっ、エリシオンの量産型か。動きは悪くねぇが、俺には届かねぇよ!」
戦闘が始まり、島の平和な風景は一瞬にして戦場へと変わった。
ガロのソークルがイノセントを引きつけ、激しい攻防が繰り広げられる中、セレーナは何か恐ろしい予感がしていた。
何かは分からない。だが、何かしらの悪意を感じるのだ。
南国の島の上空で、戦闘の火花が散る。
ソークルの機銃が唸りを上げ、弾丸が空を切り裂く。
一方、イノセントのリニアキャノンが応戦し、光の帯がソークルを追いかける。
機体性能ではイノセントが若干勝るものの、戦況は互角のまま、一進一退の攻防が続く。
なぜ、有利なホームグラウンドで戦う防衛軍が優位に立てないのか?
理由はいくつかある。
急な出撃で準備不足が響き、動きが鈍い、というのもあるだろう。
だが、それよりも、ソークルのパイロットに原因がある。
『ヒヒハハハ! 撃て撃てェ!』
『遅いよ、そんなの当たらないね!』
どこか引きつったような顔でスロットルを倒し、引き金を引く連邦兵士たち。
彼らは、投薬やナノマシンによってパイロット敵性を強引に引き上げていたのだ!
ソークルのような可変機は、2つの形態の訓練が必要であり、腕の良いパイロットでなければ使いこなせない。
そこで、東武連邦はパイロットを改造することで練度を底上げしたのだ。
人権思想など無視できる力のある大国だからできる技である。
機体で勝るエリシオン、パイロットの強い東武連邦。
かくして戦況は互角のまま、弾丸が飛び交っている。
しかし、その均衡を崩す存在がいた。
ガロ・ルージャンだ。
東武連邦最強のパイロットであるガロのソークルは、他の機体とは一線を画す動きを見せる。
ガロがコックピット内で鋭い目つきを光らせ、コンソールを叩く。
「だーはは! 遅ぇんだよ、雑魚が。これくらいで俺を捕まえられると思うな!」
ガロのソークルが空中で急加速し、瞬時に変形。
可変フレームが展開し、飛行形態から戦闘形態へと切り替わる。
流れるような動きでイノセントの懐に飛び込み、機銃を放つ!
ガガガガガッ!
一機のイノセントの片腕が弾丸に貫かれ、火花を散らして吹き飛ぶ。
「うおっ、腕が!?」
イノセントのパイロットが叫ぶが、ガロの攻撃は止まらない。
ソークルはコンバットナイフを抜き、次の標的に突進する。
鋭い刃がもう1機のイノセントのコックピットを狙い、正確に突き刺さった。
ボシュウンッ。
頑強な設計のおかげでコックピットボールが即座に脱出し、パイロットはギリギリ致命傷を免れるが、機体は火花を散らしながら膝をつく。
砂浜に倒れ込んだイノセントから煙が立ち上り、戦場に緊張が走る。
『だーはは! 2機仕留めたぞ! お前らも続け!』
ガロが部下に叫ぶと、残りのソークルが一斉に動き出した。
イノセントのパイロットたちに混乱が広がる。
『隊長機が強すぎる! 動きについていけないぞ!』
『援護しろ、火力を集中だ!』
イノセントがリニアキャノンを連射するが、ガロのソークルはそれを予測したように軽やかに回避。
彼の洞察力と反射神経が、イノセントの優れた性能を上回っていた。
戦場はガロの存在によって、東武連邦側に傾きつつあった。
ホテルの室内からその光景を見下ろすセレーナは、拳を握りしめる。
「なんて動き……ネビュラ、どうしましょう」
「落ち着いて下さい。我々にできることは、速やかに避難することで───
ゴォオオッ!!
その言葉を遮るように、ガロのソークルが再び急降下し、イノセントの陣形を切り裂く。
機銃の弾幕が砂浜を抉り、戦闘の激しさが増していく。
セレーナの胸に焦りが募る中、島の平和は完全に戦火に飲み込まれていた。
島の防衛軍であるイノセントがガロのソークルに追い詰められ、戦況が東武連邦側に傾く。
その最中───
───上空に新たな機影が急速に迫ってきていた。
キィイイイイイン───ッ
紫の巨体が雲を突き破り、信じがたい速度で戦場に突入する。
エリシオンの飛行型コマンドスーツ、『ウェイバー・ザ・スカイホエール』である!
ギゼラの愛機であるその機体は、重武装の爆撃機のような威圧感を放ちながら、戦場を一変させる勢いで接近。
コックピット内で、ギゼラはレバーを強く握り締めた。
紫のパイロットスーツに身を包んだギゼラは、乱雑な金髪を振り乱し、凶悪な笑みを浮かべた。
『遅れてすまねぇな! お前ら、派手に暴れてるみてぇじゃねぇか!』
その声が防衛軍の通信に響いた次の瞬間、ガロが即座に反応していた。
専用のソークルが上空を見上げ、野性的な目つきでウェイバーを捉える。
『おいでなすったな。新型ちゃんよぉ。面白ぇ、相手してやるぜ!』
ガロが部下に指示を飛ばすと、5機のソークルが一斉にミサイルを放つ。
ヒュオオオオオ───ッ
尾を引く無数の弾頭がウェイバーに向かって殺到する。
だが、ギゼラは動じない。
『ハッ、そんなもの!』
ウェイバーの荷電粒子キャノンが唸りを上げ、拡散ビームが放たれた。
強烈な光がミサイルを次々と迎撃。
ドゥン、ドゥンドォオンッ!!
爆炎が空を染め、破片が雨のように降り注ぐ。
しかし、爆炎の左右から2機のソークルが挟み込むように突進してきた!
ガロの鋭い戦術だ。
ギゼラはそれを読み切り、ニヤリと笑う。
「挟み撃ちかよ。甘ぇな!」
ウェイバーが空中で変形を開始!
爆撃機のような飛行形態から、人型へと瞬時に切り替わる。
即座にキャノンをバックパックにつなぐと、右手に粒子ブレードを抜き、青白い光が刃となって輝いた。
ギャギィイイッ!!
突進してきた1機のソークルのコンバットナイフと切り結び、火花が散る。
左手はシールドに仕込まれたバルカン砲を展開し、もう1機のソークルを狙う。
連射された弾丸がソークルの装甲を貫き、爆発とともに撃墜。
ソークルは爆散!
『おらっ、1機沈めたよ! 次はお前がこうなる番だ!』
ギゼラが叫ぶと、ウェイバーが空中で旋回し、残りのソークルに迫る。
だが、ガロの機体が素早く反応し、機銃を放ちながら距離を取った。
ボシュウ! ガガガガッ!!
戦場の上空で、二人のエースパイロットの激しい戦いが繰り広げられる。