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炎のファイター!

『烈火……! このままじゃやられるよ!』

『分かってる……! 分かってんだよぉッ!』


 烈火は気合だけで、眼前に迫る荷電粒子砲を強引に躱す。

 そのままE粒子ライフルを構え、反撃のトリガーを引く。


「そこぉ!」


 しかし、ファランクスたちは冷静だ。

 即座にシールドを展開し、烈火の放ったビームを難なく弾き返す。


 精神の不調による精度の低下。

 高性能機ファランクスの堅牢な守り。

 加えて、多勢に無勢という絶望的な状況。


 そこへ、追い打ちをかけるようにソラリスが動く。


 背負ったリングが眩い黄色の光を放った。

 拡散粒子砲だ。


 バシュゥウウウウ!


 放たれた黄色の閃光が、空中で無数に枝分かれし、逃げ場のない雨となってブレイズに降り注ぐ。


「ぐぁあああ!?」


 ブレイズの左肩、右足、そしてリベルタの左翼を、高熱の粒子が掠める。

 シールドの隙間を縫った攻撃に、超硬合金の装甲が泥のように融解し、火花が散った。


「俺は……俺はぁ……ぁあああ!!」


 烈火は、己の不甲斐なさと、どうしようもない感情の奔流に呑まれ、悲鳴のような咆哮を上げた。


『左肩部、装甲融解。右脚部アクチュエーター、応答低下。リベルタ左翼、出力ダウン……』


 無機質な電子音声が、無慈悲に被害状況を告げる。

 コクピット内には、危険を知らせるアラートがけたたましく鳴り響いていた。


「くそっ、これならどうだッ!」


 烈火は歯を食いしばり、リベルタのレールガンを一斉射!

 超高速の弾丸がファランクスの一機を襲うが、敵の反応はあまりに早い。


 ガガガッ!


 別のファランクスが即座に割り込み、分厚いシールドで弾丸を弾き飛ばす。

 完璧な連携だ。


「なら……まとめて吹き飛べぇ!」


 烈火は即座に切り替え、右肩の粒子キャノンのトリガーに指をかける。

 だが、その殺気を読んだかのように、黄色の閃光が視界を覆った。


 ソラリスだ。

 一瞬で間合いを詰めたソラリスが、黄色の粒子ブレードを真横に薙ぎ払う。


 ガギィイイッ!


 ブレイズは大太刀を咄嗟に掲げ、その一撃を受け止める。

 火花が散り、強烈な衝撃が機体を揺さぶる。


 防ぐことはできた。

 だが、キャノンを撃つための僅かなタメは、完全に潰された。


「チィッ!」


 逃げ場のない包囲網。

 的確に弱点を突いてくる連携と、圧倒的な物量。

 それでも、烈火の持つ超人的な反射神経と、リベルタの推力が辛うじて致命傷を避けていた。


「はぁ……ッ、はぁ……ッ!」


 だが、それも時間の問題だ。

 精神的な迷いがある限り、ジリ貧は避けられない。


 その時だった。


 ピ───ッ

 メインモニターの横にサブウィンドウが開く。

 映し出されたのは、ヘルメット越しにも分かる真剣な表情をした兎歌だった。

 激しい機動に合わせて、パイロットスーツに包まれた豊かな胸が大きく揺れている。


『烈火……!』


 兎歌は、烈火の瞳を真っ直ぐに見つめた。

 そこには、恐怖も焦りもない。ただ、パートナーを信じる強い光があった。


『あのね、烈火。迷わないで』


 彼女は優しく、けれど力強く語りかける。

 その声は、戦場の喧騒の中でも、烈火の心に染み渡るように響いた。


『あの子を助けたいんでしょ?』

「それは……そうだけどよ……」

『なら、やってよ。助けてよ!』


 兎歌は声を張り上げた。


『烈火は、わたしのこと、助けてくれた。何回も、何回も助けてくれた。


 守ってくれた。どんなときでも、泣いてるわたしのことを、守ってくれた。


 だから、あの子のことも、守ってあげて。


 烈火は……烈火は! ───わたしのヒーローだから』


 兎歌が身を乗り出すようにして叫ぶ。


『無茶苦茶でもいい。わたしが支えるから。

 わたしも、ずっと烈火についてるから……!

 だから、だから───

 烈火らしく暴れてよ!』


 その言葉が、烈火の中で燻っていた迷いを吹き飛ばした。

 そうだ。自分一人で抱え込む必要なんてなかったのだ。

 背中には、一番信頼できるパートナーがいる。


「……ありがとな。もう、迷わねぇよ」


 烈火は小さく呟き、口元を吊り上げる。

 いつもの、獰猛でふてぶてしい笑みが戻っていた。


 敵を殺す殺意。

 少女を救いたいという願い。


 本来なら混じり合うはずのない二つの激情が、烈火の心の中で一つに溶け合う。

 そして、それが引き金となった。


「やってやるッ!」


 ドクンッ!


 ブレイズのコアが、心臓のように脈打つ。

 次の瞬間、ブレイズの全身から、禍々しくも美しい赤黒いオーラが、炎のように爆発的に噴き上がった。


「おおお───」


 覚醒。

 相反する二つの心が、機体のリミッターを粉砕し、禁断の力を引きずり出したのだ。


「おぉおおおおおッ!!!」


 烈火の咆哮が、虚空を震わせた。

 赤黒いオーラを噴き上げるブレイズは、もはや機体ではない。一匹の獣と化していた。


 前方からファランクスが放った荷電粒子砲の閃光が迫る。

 だが、ブレイズはそれを紙一重、残像すら残さぬ速度で回避した。


 そのまま、目にも留まらぬ速さで敵陣の中央へ躍り込む。


『なっ……!?』


 ファランクスのパイロットが驚愕に声を上げるよりも早く、死の舞踏は始まっていた。


 斬ッ!

 ブレイズは右手の大太刀を一閃させ、右側のファランクスを袈裟懸けに切り裂く。

 その直後、左手に構えた高出力E粒子ライフルが火を噴き、左側のファランクスのコクピットを正確に撃ち抜いた。


 二機同時撃破。

 ───瞬殺だった。


~~~


 クーロンのブリッジでは、オペレーターが悲鳴のような報告を上げていた。


「て、敵反応、変容! エネルギー出力、計測不能! ファランクスが2機、一瞬で落とされました!」

「何、なにが……起こっている……!?」


 モニターに映る赤黒い威容に、チェン・ジャンは思わず歯を食いしばる。

 あの機体は、戦いの最中に進化しているとでも言うのか。


~~~


 一方、激戦の続く後方宙域。

 プロメテウスの甲板で狙撃を続けるマティアスのもとに、作戦参謀ギンからの秘匿回線が開かれた。

 存在を秘匿しているギンが、通信をしてくるとは珍しい。


((それほどまでに、重要な局面か……))


『調子はどうだい?』


「……見ての通りだ」


 マティアスは短く答えながら、通信パネル越しに問いかける。


「ギン。良かったのかね? 敵を助けるとは」


 烈火が敵の少女を救おうとしていることを、マティアスは察していた。

 それを容認するギンの態度についての問いだ。


 ギンは、モニターの向こうで小さく首を振った。


『良いかどうかで言うなら、若者を戦場に送り出して人殺しをさせる方が、遥かに悪いね。

 それともマティアス、君は彼らに、女子供でも遠慮なく殺せる立派な兵士になりましょう、なんて言うのかい?』


「……ふん」


 マティアスは小さく唸り、ストラウスの引き金を引く。

 放たれた閃光が、遠方で旋回していたソークルの片翼を貫いた。

 バランスを崩した敵機が、編隊から脱落していく。


 ギンは、静かな声で言葉を続けた。


『綺麗事を言ったけどね。オレにとっては、仲間の命のほうが大事だ。もしもの時は───殺してくれ』

「了解」


『……ごめんね。嫌われ役を押し付けてしまう』

「問題ない。それが大人の役目だ」


 マティアスは首を振り、再び引き金を引いた。

 プロメテウスのブリッジを狙っていたミサイルの群れが、次々と空中で爆炎に変わっていく。


 その直後だった。

 左舷を守っていた護衛艦で、爆発が起こった。


「護衛艦2番、被弾! 後部スラスターをやられました!」


 ファランクス別働隊の砲撃が、守りの要を撃ち抜いたのだ。

 彼らの相手をしているのは、ギゼラのウェイバーただ一機。


『ちっ、数が多いんだよ!』


 ギゼラは高性能なファランクス4機を相手に、一歩も引かずに戦っている。

 だが、さすがに多勢に無勢だ。じりじりと追い詰められている。


 しかし、マティアスがそちらの援護に向かえば、正面から次々に襲い来るソークルの群れと、ミサイル攻撃を防ぐ者がいなくなる。

 戦線は崩壊寸前だった。


「やれやれ、忙しい戦場だ」


 マティアスは独りごちると、アニムスキャナーを通じて意識を研ぎ澄ませた。

 ストラウスのスナイパーライフルと、接続されたプロメテウスの副砲管制を同時にリンクさせる。


「そこだ」


 二つの砲門が同時に火を噴いた。

 一方は、味方のイノセントを襲おうとしていたソークルへ。

 もう一方は、ウェイバーの背後を狙っていたファランクスへ。


 ズガァアン!


 それぞれの光が目標を捉える。

 ファランクスは咄嗟に盾で防いで直撃を免れたが、大きく体勢を崩した。

 回避運動の取れなかったソークルは、そのまま爆散して宇宙の塵となった。


「おおおっ! すげぇ!」

「ナイスショット!」

「すげぇぜ、マティアスさん……!」


 神業のような援護射撃に、イノセントのパイロットたちが沸き立つ。

 老兵の目は、まだ死んではいない。


「さて……」


 マティアスはストラウスのセンサーを走らせ、戦場の状況を冷静に確認する。


 プロメテウス……損傷軽微。

 護衛艦……2隻とも中破、戦闘継続は可能だが、これ以上の被弾は危険だ。

 イノセント部隊……3機が撃墜されたか。

 僚機……ブレイズ、リベルタ、ウェイバー。どれも健在。


 対する敵戦力。

 ファランクス……残存5機。

 ソークル……残り8機。

 後方に戦闘艦、輸送艦、戦闘空母が各1隻。

 そして、ソラリス……奴は無傷だ。


「……油断はできんな」


 マティアスは短く独りごちると、再び照準器を覗き込んだ。


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