新兵器、サーペント・ドレイク!
シグマの農業都市は、炎と黒煙に飲み込まれ、阿鼻叫喚の巷と化していた。
サーペント・ドレイクが放つ荷電粒子砲が拡散し、民家を焼き、集配センターを粉砕し、発電所を爆炎に変える。
街の通りでは、警察の小型コマンドスーツが必死に避難誘導を行っていた。
装甲の薄い機体が、逃げ惑う市民を盾となって守る。
だが――。
ズドォオン!
上空から崩落した建物の瓦礫が、一機を直撃した。
『な、崩落か!』
パイロットは、気合で瓦礫を受け止めようと、腕を掲げる。
だが、小型スーツの出力では限界がある。
ギシギシ――ッ。
嫌な金属音と共に機体が軋み、膝が地面に沈んでいく。
「くそっ、動け……動けよ! 市民が……!」
押しつぶされる。
そう、覚悟した瞬間だった。
巨大な紅白の腕が、横合いから伸びてきた。
ダフネ・ザ・フェニックスだ。
ゲイルの操縦するその機体は、瓦礫を両手でガシリと掴むと――
グオオオ!
プラズマリアクターの爆発的な出力と共に、いとも容易く、それを跳ね除けた。
瓦礫が崩れ落ち、小型スーツが重圧から解放される。
足元で蹲っていた市民たちが再び立ち上がり、避難を再開した。
その様子を見ながら、警察のパイロットはオープン通信で叫んだ。
『誰だ、あんた!? ありがとう、命拾いした!』
ゲイルは通信を開かない。
ノヴァに傍受されるリスクを避けるためだ。
だが、スピーカーから聞こえる感謝の声に、彼の口元がわずかに綻んだ。
((グマの民……まだ、戦う価値はあるのかもしれん))
だが、その感慨も束の間。
目の前に、元凶がゆっくりと降下してくる。
グォオーン……。
巨大なブースターとリパルサーリフトが低く唸り、サーペント・ドレイクがこちらを見下ろしていた。
肩の荷電粒子砲と両手のレールガンが、不気味な光を宿している。
ゲイルはダフネを構え、眼前の怪物を見据えた。
グォオーン……。
巨大なブースターとリパルサーリフトが低く唸り、サーペント・ドレイクがこちらを見下ろしている。
肩には荷電粒子砲が伸び、両手のレールガンが、不気味な輝きを放っていた。
「……」
「……」
ゲイルとヴァラク。
互いの視線が交錯し、瞬時に相手の力量を測る。
((強いな。下手な不意打ちは逆効果か。ならば――))
ダフネは腰のハンドガン二丁を抜き、構える。
対するサーペントは、レールガンを両手に持ち、静かに対峙した。
戦場の空気が、張り詰める。
先に動いたのは――ゲイル!
「はぁッ!!」
ドドドドド!
ダフネのハンドガンが火を噴き、無数の粒子弾がサーペントを襲う。
だが、ヴァラクはコックピットで尊大な笑みを浮かべていた。
((そんな豆鉄砲が効くものか!))
サーペントの周囲に粒子防壁が展開される。
青白い輝きが、雨のような弾丸を弾き返した。
「ふむ、蛮人の技量も捨てたものではないな」
ヴァラクは感心したように呟くと、即座に反撃へ転じた。
間合いを取り、両手のレールガンを放つ。
ドガ、ドガァン!
高初速の弾丸がダフネを狙う!
対するゲイルは、リパルサーリフトを微調整し、紙一重で回避。
だが、それはヴァラクの囮だ。
キュオオオン!
サーペントの肩の荷電粒子砲が輝き、拡散粒子砲がダフネを包み込むように放たれた。
逃げ場のない広範囲攻撃。
「この数ならば、躱せまい!」
「甘い!」
ゲイルは機体を捻るように急旋回させ、拡散する粒子の隙間を縫うように躱す。
衝撃波が装甲を掠め、火花が散るが、意に介さない。
そのまま、ゲイルは一気に間合いを詰めた。
フォオオオーン!
ダフネがサーペントの懐に飛び込み、ハンドガンを連射する。
だが、寸前で防壁が再展開された。
「何!? この動き……蛮人の機体がここまで動くか!」
ヴァラクの尊大な表情に、初めて驚愕が混じった。
ゲイルの操縦は、予測を超える速さと正確さでサーペントを圧迫していく。
((この男、反応速度と制御技術が桁違いだ。サーペントが重く感じるとはな))
((コイツは硬い。だが無限ではあるまい。プラズマリアクターのある此方が有利だ!))
眼下では、市民の悲鳴と避難の喧騒が響き続けている。
通信越しに聞こえるその声が、ゲイルの心に火をつけた。
ノヴァの脅威を、ここで叩き潰す――その一念が、ダフネのプラズマリアクターを共鳴させていた。
〜〜〜
炎に包まれたシグマの農業都市。
空を切り裂く爆音と粒子光の中、ゲイル・タイガーの『ダフネ・ザ・フェニックス』とヴァラク・ノヴァの『サーペント・ドレイク』が激突していた。
ダフネの紅白の装甲が火花を散らし、サーペントの黒銀の巨体が不気味に輝く。
ここでダフネが、瞬時に動いた。
腕のシールドエッジが青白い輝きを放ち、粒子ブレードへと変換される。
「その巨体、近接戦に弱いと見た!」
ゲイルは機体を加速させ、サーペントの粒子防壁の隙間へと滑り込む!
ガキィン!
鋭い斬撃が防壁をこじ開け、サーペントの持つレールガンを貫いた!
「ぐぅ!?」
ヴァラクは咄嗟に、左手のレールガンをパージする。
直後、切り裂かれたレールガンが爆発!
火花と黒煙が視界を塞いだ。
「まだだッ!」
だが、その瞬間、サーペントは肩からE粒子ブレードを展開していた。
巨大な腕が振り下ろされ、黄色い閃光がダフネを狙う。
「チィ!」
ゲイルはリパルサーリフトを吹かし、斬撃を紙一重で回避。
ガキン! ザシュウ!
フェンシングのような高速の斬撃が交錯し、火花が夜空に散る。
「うぉおおおッ!」
「あぁあああッ!」
二機は高速で飛び回り、互いに刃を振るう。
至近距離での機動性ならば、軽量なダフネが勝る!
だが、ヴァラクもさるもの。
致命傷を受ける前に間合いを離し、射撃戦へと移行した。
「機体の動きは良いが……火力では負けん!」
ドドドドガガッ!
ダフネのハンドガンと、残ったサーペントのレールガンが交錯する。
粒子弾と重金属弾が飛び交い、互いの装甲に傷を刻んでいく。
その時、サーペントのコックピットで、通信パネルが開いた。
映ったのは、淡い青髪の男。
「……ウリエン? どうした」
不審げなヴァラクに対し、ウリエンは詐欺師のような笑みを浮かべていた。
『ヴァラク、何をやっている? 蛮人相手に手こずっているのかい?』
「む……」
さらに、もう一人の人影が割り込む。
橙色のふわりとした髪――ヴァラクの妹、セラピナだ。
『あらまぁ、お兄様。そんなに急かすものではありませんよ。すぐに仕留めてしまっては退屈ですわ』
ヴァラクは舌打ちを堪え、短く答える。
「ふん、焦るな。一流の戦士は、焦らずに仕留めるものだ」
声は冷静を装っているが、内心では本能が警鐘を鳴らしていた。
((この新型、エリシオンか? まだ何かを隠しているな……))
ゲイルの操縦は、ノヴァのエースであるヴァラクでさえ予測しきれぬ精密さを持っている。
当然、会話に意識を割く余裕などない。
そして、その僅かな隙を見逃すゲイルではなかった。
ニィ───。
ゲイルの唇の端が吊り上がる。
この一瞬の隙。それこそ、待ち望んでいたものだ。
「隙だらけだ!」
ダフネは再び間合いを詰め、ハンドガンを連射!
ドドドドド!
無数の粒子弾がサーペントの防壁を叩き、露出していたパーツを破壊していく。
『右舷増加ブースター破損。左舷予備粒子タンク破損』
「チッ、さすがに防ぎきれんか……!」
ヴァラクは何とか距離を取り、レールガンで牽制しようとする。
だが、ゲイルはサーペントの動きを完全に読んでいた。
「甘いな!」
ダフネの粒子ブレードが再び閃き、サーペントの肩の粒子砲へ突き立てられる。
ザシュウウッ!
青白いブレードが砲身を貫き、火花を散らした。
「くっ、武装が……!」
((砲身が破壊されたか。やるな))
ヴァラクの尊大な表情に、焦りが滲む。
「蛮人め……この程度で終わると思うな!」
サーペントはリパルサーリフトを全開にした。
フォオオオーン!
巨大な推力によって一気に上昇し、そのまま腰の焼夷グレネードを投下!
ズドォオン!
広がる爆炎がダフネを飲み込もうとする。
だが、ゲイルは機体を低空で滑らせ、炎の海を突破した。
視界に映るサーペントの巨体を捉え、ゲイルの瞳が光る。
((奴の防壁と火力は脅威だ。だが……動きはまだ読める。次の一手で仕掛ける!))
ゲイルはメーターを一瞥した。
バックパックへの粒子供給は十分。ならば――
「まずはこれだな」
ドドドドド!
ダフネの背負うバックパックが展開された。
ガトリングガンが火を噴き、粒子弾の弾幕がサーペントを襲う!
だが――
「当たるものか!」
サーペントは巨体に似合わぬ俊敏さで、それを潜り抜けた。
ネクスター対応の高性能アニムスキャナーが、ヴァラクの精神波を読み取り、反応速度を極限まで高めているのだ。
パイロットの殺気を感じ取り、先読みする。
「ぬるいぞ、蛮人!」
ヴァラクが嘲笑う。
だが、彼は知らない。
ダフネのアニムスキャナーもまた、同等の性能を持っていることを。
そして、ゲイル自身に眠る資質を。
「――読み通りだ」
ゲイルはヴァラクの回避行動を読みきり、荷電粒子ランチャーを撃ち込んだ。
キュオオオン!
青白い奔流がサーペントを直撃する!
「ぐぅう……ッ!」
辛うじて展開した防壁が軋み、激震がサーペントを揺らす!
動きが止まったその隙を逃さず、ダフネはハンドガンを乱射。
ドドドドド!
防壁の限界を超えた衝撃が、サーペントを包み込む。
「ええいッ!」
ヴァラクはサーペントを急降下させ、右手の粒子ブレードを展開した。
黄色い光の刃が、ダフネを両断せんと迫る。
だが――
ゲイルは不敵に笑った。
「それを待っていた!」
突然、サーペントの真横から、荷電粒子ランチャーが放たれた。
青白い光の矢が、死角からサーペントの背中の粒子タンクを貫く。
ズドォオン!
爆発が装甲を抉り、ヴァラクの目が見開かれた。
「何ィ!?」
正面からの殺気に意識を奪われている間に、側面からの攻撃。
前代未聞の事態に、ヴァラクは驚愕した。
だが、驚きながらも即座に対応しようとする。
「ならば、タンクは捨てる!」
歴戦の勘が、ヴァラクに非情な決断をさせた。
サーペントの粒子タンク、荷電粒子砲、下半身のブースターを全てパージ。
切り離された外装を盾にして、追撃を防ぐ。
ドドドドド!
粒子弾の爆発が、廃棄された装甲を飲み込んだ。
一体、何が起きたのか?
答えは、分離である。
ダフネはハンドガンを撃ちながら、バックパックを分離させ、遠隔操作で側面に回り込ませていたのだ。
ネクスターは相手の殺気を読み、先んじて動くことができる。
だが、バックパックはただの機械だ。殺気を持たない。
殺気はあくまで、本体にいるゲイルから放たれている。
だからこそ、ヴァラクは別方向からの攻撃に反応できなかったのだ。
「無人機とは……姑息な手を!」




