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叩き潰せ! ノヴァの野望!

 ノヴァの本拠地、宇宙コロニーA-1。

 視点は、その中心区画に築かれた豪奢な一室へ。

 そこは、選民思想に凝り固まった彼らを象徴するかのように、絢爛かつ冷徹な空気に満ちていた。


 壁には猛獣の剥製が並び、磨き上げられた床には柔らかな光を放つ絨毯。

 その中央にある黒いソファに、ワインレッドの髪を持つ美女が優雅に腰掛けている。


 フレギア・ノヴァ。

 ノヴァ・ドミニオンの建国者にして、絶対的な支配者。

 彼女は手にしたグラスを傾け、琥珀色の液体を唇で湿らせた。


「すべてが予定通りね。この惑星は、私たちの掌の上で転がっているわ」


 フレギアが呟くと、向かいのソファに座る少女が静かに頷いた。

 橙色の髪を揺らす彼女は、セラピナ・ノヴァ。

 フレギアの娘であり、ノヴァの王族……ということになる。


「はい、フレギア様。東武連邦の戦力は、急速に摩耗しています」


 セラピナは自信に満ちた声で続ける。


「『協力』という名目で送り込んだ情報と兵器が、エリシオンという蜂の巣を突いたのです。

 連邦は自国の防衛線を固めるどころか、我々の筋書き通りに貧乏くじを引き続けていますわ」

「ふん」


 部屋の隅で腕を組んでいた大柄な男が、低い声で鼻を鳴らした。

 ヴァラク・ノヴァ。

 フレギアの長男であり、全身から闘争心を隠そうともしない武人だ。


「愚かな連中だ。エリシオンに戦力を削られ、連邦は風前の灯。長くはあるまい」


 フレギアは満足そうに微笑み、愛息子に視線を向けた。


「誇り高き獅子よ。シグマ帝国の方はどうかしら? 彼らも順調に自滅への道を辿っている?」

「ええ、我々の工作は完璧です」


 ヴァラクは短く答える。


「シグマ帝国は窮地を脱するため、自らが育てた切り札……『三本槍』へ核を放ちました。

 主要戦力を、自らの手で潰させる。……これほど効率的な破壊はありません」

「ふふ、そう。地球では、そんな喜劇が演じられていたのね」


 フレギアは喉の奥で笑い、グラスの中身を一息に飲み干した。

 音もなくグラスをテーブルに置くと、その瞳から余裕が消え、冷たい意志が宿る。


「東武連邦はエリシオンに、シグマ帝国は自壊。

 どちらも我々の敵ではあったけれど、こんなにも簡単に滅びの道を選んでくれるとは」


彼女は立ち上がり、窓の外に広がる宇宙を見つめた。


「次の段階へと進みましょう、ヴァラク。セラピナ。ノヴァの拡大を阻む障害は、もう残っていないわ。さあ、夜明けは近い――」


 その時だった。

 部屋の中央に浮かぶ立体映像にノイズが走り、新たなウィンドウが開いた。

 映し出されたのは、焦燥の色を浮かべた水色の髪の男――ウリエンだ。


「母上! 大変です!」

「どうかしたのかしら、ウリエン」


 フレギアの不機嫌そうな声に、ウリエンは狼狽しながら報告を始めた。


「シグマ帝国に関して、一つ重大な誤算がありました」

「……誤算?」


 フレギアが眉をひそめ、指先でテーブルを叩く。


「この私と、私たちの計画に、誤算などあり得るというの? 手短に述べなさい」

「はっ……シグマ帝国の『三本槍』の一人、ゲイル・タイガーが……まだ生きています。

 どうやら、エリシオンが確保していた模様です」


 部屋の空気が、一瞬で凍りついた。

 セラピナの表情が強張り、ヴァラクの目が鋭く細められる。


「ゲイル・タイガーが……生きている?」


 フレギアは数秒間沈黙した後、口元を歪めた。

 それは怒りではなく、新たな獲物を見つけた狩人の笑みだった。


「ふむ。つまり、シグマ帝国は自らの切り札を完全に潰しきれていなかったということね」

「はい。三本槍の完全な無力化は確認できていません」

「そう。私たちを欺こうとした、もしくは無能であったというわけだわ」


 フレギアは冷ややかにヴァラクを見据えた。


「ヴァラク」

「はっ」


 ヴァラクは胸を張って答える。


「三本槍を殺しきれていないならば、シグマ帝国を見逃す理由はないわ。

 私たちの計画に水を差す存在は、根絶やしにするのがノヴァの流儀でしょう?」


 ヴァラクは一歩前に出ると、深々と頭を下げた。


「仰せのままに。シグマ帝国を、二度と立ち上がれないほどに叩き潰してまいります」


 その声には、隠しきれない歓喜が混じっていた。

 残されたフレギアは、不安げなウリエンに向けて不敵に微笑んだ。


「心配はいりません。計画は少々修正が必要になっただけよ。むしろ、面白い展開になったと思わない?」


~~~


 宇宙から飛来した一隻のバハムート級輸送艦。

 そこから発進した、たった一機のコマンドスーツ───名を、サーペント・ドレイク。

 その一機によって、シグマ帝国の農業都市は、一瞬にして地獄へと変えられた。


 炎、雷、そして弾丸。

 荷電粒子砲とレールガンの嵐の前に、都市の防衛隊は次々と撃ち落とされ、空中で弾ける花火と化した。

 焼夷グレネードが投下されるたび、建物は吹き飛び、紅蓮の炎が広がっていく。


 駆けつけた増援も歯が立たない。

 圧倒的な火力の前に、ただ鉄屑へと変えられていくだけだった。


 炎の中、赤い空の下に浮かぶ巨体。

 『サーペント・ドレイク』。

 それはまさに、終末をもたらす竜の姿だった。


 その光景を、上空に待機する高速輸送艦『ヘルメス』の操縦室から、見下ろす男がいた。

 ゲイル・タイガー。

 かつてシグマ帝国最強と謳われた男の瞳に、燃える街が映り込んでいる。


『高熱源反応を発見』

『脅威レベルA判定。速やかな対応を推奨します』


 無機質な電子音声が響く中、ゲイルは拳を握りしめた。


「こんな、ことが……」


 どうするべきか。


((シグマを裏切った俺が、なぜ民を救う必要がある? 俺は、この国を滅ぼした側だというのに))


 だが、ゲイルの胸に一つの答えが閃いた。


((いや、関係ない。ノヴァは敵だ。エリシオンの敵であり、俺の敵だ。ならば――堂々と撃墜すればいい))


 シンプルな結論だ。

 ゲイルは席を立つと、格納庫の方へと視線を向けた。

 扉をくぐれば、そこには新たなる翼――『ダフネ・ザ・フェニックス』が待っている。


「ゲイル……行くんやな?」


 横に座っていたメカニックの菊花が、ニヤリと笑ってゴーグルを直した。


「あぁ」

「そうか……」


 菊花は小さく頷き、親指を立てた。


「ダフネの状態、万全やで! プラズマリアクターもバッチリ、いつでもぶっ放せる!」

「……感謝する」


 ゲイルは短く礼を言い、操縦席を離れると、格納庫へと走った。


 ダフネ・ザ・フェニックス。

 紅白色に彩られたその機体は、まるで血の通った生き物のように、静かに彼を待っていた。

 ゲイルがコックピットに飛び乗り、システムを起動する。


『作戦区域に反応、1機確認。ノヴァ・ドミニオン、サーペント系列と推定』


 エリシオン製特有の、やけに可愛らしい音声がコックピットの静寂を破る。

 ゲイルの唇が、冷徹に吊り上がった。


「さて、エリシオンの技術力、見せてもらおうか」


 指が操縦桿を握り込むと同時に、ダフネのプラズマリアクターが低く、力強く唸りを上げた。


『システム正常。アニムスキャナー接続良好。ダフネ、起動します』


 キィイイイ――ッ!

 カメラアイが光り、紅白の機体が目を覚ます。


『ゲイル……さん』


 通信パネル越しに、シホが眼鏡の奥の瞳を潤ませて見つめてくる。

 だが、ゲイルの決意は揺るがない。

 彼は低く、だが力強く宣言した。


「ゲイル・タイガー……ダフネ・ザ・フェニックス、出るぞ!」


 フォオオオーン!

 ダフネの巨体が震え、重低音と共にハッチが開く。

 熱気が流れ込んでくるのと同時に、リパルサーリフトが唸りを上げた。


『周辺温度上昇』

「だろうな」


 ゲイルの機体は、炎に包まれた農業都市へ向けて急降下を開始した。

 菊花の声が通信機から響く。


『ゲイル、気ぃつけや! あの化けモン、ノヴァの新型や! データあらへんけど、めっちゃヤバいぞ!』

「了解」


 ゲイルは短く答え、操縦桿を強く握りしめた。

 眼下の地獄へ、一直線に翔る。


「俺が言えた義理ではないが――よくもやってくれたなァ!!」

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