紙飛行機を飛ばす理由
草木1本生えてない岩山の頂上に立つ観測所から防護服を纏った人が出てきて、大事に持って来た紙飛行機を飛ばす。
紙飛行機は直ぐ上昇気流に乗り天高く舞い上がった。
天高く舞い上がった紙飛行機は、紙飛行機の下部に貼られた極小のカメラで下方に見える大地を映す。
映像は地下深くにあるシェルターの観測室に送られ、観測室のモニターに映し出される。
山の中腹から裾野に掛けて赤白黄色など色とりどりの花々が咲き乱れ、裾野から地平線の彼方まで針葉樹の森が広がっていた。
人は此等の花々や木々を愛でる事も、香りを嗅ぐ事も触れる事もできない。
数十年前、地上に生えていた全ての植物は人に牙を剥く。
否、牙を剥いたのでは無く自然を蔑ろにして傍若無人に振る舞っていた人を排除しようとしたのだ。
排除しようとしたのは人だけ、同じ哺乳類の動物たちは今も地上で繁栄しているのだから。
それから人の生息できる場所は地下と海の底それに宇宙だけになった。
その所為で先程紙飛行機を飛ばした者は観測所に戻ると全身を何度も洗浄され、一定期間隔離される。
空気中に漂う花粉だろうと種子だろうと、地上の植物の断片を地下に入れる訳には行かないのだ。
入れたら最後、人が地下に持ち込めた野菜などの植物が突然変異して、地上の植物と同じように人に牙を剥くだろうから。
そうなれば此のシェルターは終わりだ。
今までに多数のシェルターがチョットした油断から地上の植物の断片を持ち込んだ結果、全滅していた。
シェルターは持ち込めた野菜の種子からできる食料や酸素と、限られたエネルギーでギリギリの生活を余儀なくされている。
だから地上を観測する道具として、エネルギーを必要としない紙飛行機を飛ばしているのだった。