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異世界森精霊  作者: P223
9/33

7 桜虫

本格的に春が来て、冬眠してた生物もみんな起きてきた。


私はというと、今日も今日とてお散歩さ。

私自身食物連鎖に関係ないのになんのために意思を持ってるかわからないけど、暇は感じるので仕方ない。

まぁ、どの生物も意味があって生きてるわけじゃないんだけどね


さて、今回の私は魔力なしに視覚聴覚嗅覚3点セットとなっている。触覚はそんなに必要じゃないし味覚なんて完全に不要だからね


場所は浅層西部のやや南よりの所、森の中心からから見て西南西って所かな

その辺りをフラフラと歩いている。


ちらほらとなりたての探索者かな?って人も見かけるけど浅層は明るいうちは割と安全なので、私を見られたとしても特に問題は無かったりもする。


冬とかは人が少なくなるからアンナの時みたいな事になる危険性はあるけどね。


さて、ふらりとぶらついていると仄かに甘い香りがしてくる。


といっても最低限犬くらいの嗅覚がないとわからない程度のものだがね


この匂いはきっと彼らだ

私は近くの草むらを注視する、きっと居るはず……


「……ほら、いた。こんにちは、桜虫君」


草むらの葉っぱの上にいたのは真っ白な毛虫、桜虫君だ。


正確にはその幼体。


「春だものね、君たちも活動を開始する感じかい?」


話しかけるが当然無反応。


「では少し失礼」


そう言って、ひょいっと手のひらに乗せる。

桜虫君の幼体には一応毒がある、触れた場合はピリッとして少し暖かく感じるだけなんだけど。


これを有効活用出来ないかという研究してる人間もいたんだったかな?

上手くいったら見てみたいものだね


折角持ち上げたのでよく見てみる、毛はびっしりと生えているがちらほらと抜けている部分も見られるね。風に乗って飛んで行ったりもするからね


顔の方は点々と目のような模様があり口の周りはピンク色をしている、彼らはこの口からピンク色の糸を出すんだよね。


持ち上げられた毛虫君はウニョウニョと動いて手から降りようとしている、そろそろ下ろしてあげようか。


「ごめんね、見せてくれてありがとう」


お礼に草むらを()()()栄養の多い場所に降ろした。


時期的にこれから彼らは蛹になるわけだけど……


折角だし見ていようか。




そして数時間見ていたところ、最初は1匹だけだった桜虫君はどんどんと増えていき、遂には50匹を越えるほどの数になってきた。


これは、桜虫君の特性で蛹になる際に特殊なフェロモンを発して仲間を呼ぶ行動によるものだ。

彼らは蛹になる前に出来る限り多くの群れになるように集まる、それはこの後行われる作業のためでもある


さっき言った甘い香りってのはこのフェロモンの事だね、森狼君とかはこの匂いに気が付けるからたまに寄ってくる。


桜虫君たちはシュルシュルと口から糸を出し始めた、まぁそんなに速いわけじゃないし蜘蛛が出すような派手なものでもないけどね。


何時間もかけて糸を出していくうちに他の桜虫の糸と繋がっていく。

繋がった糸はどんどんと繋がっていく、そうやっていつしか巨大な蛹へとなっていくのだ。


因みにだがこの糸は肌触りが良く布に加工してドレスなどに使われる事がある、結構な高級品になるんだったかな?

勿論この糸にも微弱な毒が含まれているのだが軽い媚薬としても役立つせいか、夜の営み用の服にも使われる。

人間にはほぼ悪影響がない毒だからね


そのため探索者の中にはこの糸を採取しにくる人も多い、いいお金になることは勿論、危険度の低い浅層でもあるから石やその次の硝子の探索者が特に血眼になって探している。


討伐任務とかじゃない分練習にも良いんだろう……


「ふむ……そういえば異物君も探索者になるとか思ってたね、彼もこの子達を探しているのだろうか?」


だとすると大変だろうね、彼らの性質上集まるせいで見つけた場合は多いが本当に見つからないし。


私のはほぼ反則、嗅覚を犬以上に出来るから。

戦士系の人の中には同じような事が出来る人もいるだろうけど、わざわざ嗅覚を強化する人は特異だろう。

そこまで出来るなら桜虫君よりもっといい獲物にありつけるしね、中層とかで


そうこうしているうちに桜虫君たちは一つの繭となった。

見た目はすごく大きな桜餅、薄いピンク色で大きめの球体となっている。


この球体の中にはそれぞれの桜虫君たちが個別で小さな繭と蛹を作るので三重の構造となるのだ。


探索者の中でも上手く採取する人はこの外殻部分、だけを採取したりもする、内殻部分まで取ると桜虫君が死んじゃうからね。


しかしこの外殻の方の繭は結構頑丈だ、こうなって仕舞えば例えば緑狼君の牙程度じゃ破壊も出来ない、角兎君の突進まだ行くと流石に壊れるけど浅層ではそこまでの火力を出せる生物は稀だ。


水には弱い為、探索者は水を使って繭から糸を採取する人が多い、大胆に剣とかで取る人もいる事にはいるけどダメになるし桜虫君も死んじゃう。


さて。ここまで見てきたけど見始めてから時間としては既に2日程度の時間が経っている。


この状態になってからは1〜2ヶ月かけて成虫になるので私が観察するのもそれくらい経った後かな?


なんでまぁ、彼らを見るのもこんなもんにして別のお客さんの対応をしようか。


「さてと、そろそろ出て来たらどうだい?そこの木の裏にいるのだろう?」


「——っ!ばれていたのか!」


そう言って慌てるように出て来たのはアンナより少し大きい少年。

緑のベレー帽が良く似合っている。


「私はこういう気配を察するのが得意でね、来た時からわかっていたよ。」


「そ、そうか、ではお、俺の目的はわかっているだろう?」


すごい汗をかいている、人と話すのが苦手な子なのかな?

優しくしてやろう


「この桜虫君のことかな?」


「さ、桜虫?それはサクラモドキカイコガの蛹じゃない、のか?」


「そうとも言うかもね、にしても蚕かなぁこの子達?芋虫じゃなくて毛虫だし」


「知らないよ……あ、いや、知らん!そ、そんな事は学者に任せればいいだろう?」


「まぁね」


そろそろ、話を進めようか。

この緑帽子君も暇ではないだろうしね、私は暇だが。


「で?キミはこの子達をどうしたいのかな?予想はつくけど」


「あぁ、採取がしたい。えーっと、あぁ、自己紹介がまだだったな、俺はテオ、硝子級の探索者だ」


そう言って緑帽子君は硝子の探索者証を見せてくれる。

欠けがないので優秀なのかなりたてなのかどっちかだね。


「どうも、よろしくねテオ。私はアリア、この森でまぁ色々してる者だよ。身分証とかそういうのは持ってない。」


「……ぞ、族か?」


「あ、いやそういうのではないから安心してくれていいよ?」


身分証、正直あると便利なんだろうけど私この森から出られないから作れないんだよね、作れても年齢とか億を軽く超えてるせいで訳わかんない事になりそうだし。無性別ってのもあるか。


「まぁいい、そ、それでだが交渉がしたい。」


「うん、なんだい?」


「まずアリアさんはその繭をどうするつもりだ?」


「どうもしないよ?観察してただけだし」


暇つぶしなのでね


「え?そうなの?…ごほん!なら、その繭を譲って欲しいのだ、硝子級の探索者としてはサクラモドキカイコガの糸は貴重だからな、ギルドの評価も良くなるし」


「いいよ、好きにしておくれ」


人が他の生物から奪うのもまた自然だからね、私としては問題ない。


「いいの!?これ結構高いやつだよ!?」


「別に私はこの子達を見てただけだしね、あぁ、取るなら彼らを傷つけないように頼むよ?後、もう少ししてからの方がいいかな、出来たてだし」


「了解した、だが先に見つけたのは貴女だ、なので何か俺から渡せる物があれば良いのだが……」


「いいよそういうのは、どうせ使わないし」


使えないし


「そうもいかないよ!…っと、なら俺が手伝える事があれば良いんだが」


そう言われてもなぁ、暇潰しだしなぁこれ

…うーん


「どうせ採取するにはこの子達を待つ時間がいるんだ、何か話をして欲しいな。」


「そんなのでよかったら、構わない。ところで時間ってどれくらい必要なんだ?」


「2日かな、その間私とおしゃべりしてくれる事を報酬としよう」


「2日!?なっが……っていうか2日もアリアさんと一緒にいるのか」


「不服かい?」


「い、いえ!こんな美人の人と一緒にいられるなら光栄です!」


緑帽子君ってちょくちょくキャラが壊れるよね

まぁいいや


「そうと決まれば、野営の準備でもしなよ、私も手伝うからさ」


キャンプする機会とか無いし案外良い暇つぶしになるかも?

緑帽子君も面白い話をしてくれると良いのだけどね。



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