5 一角兎/森狼
アンナという女の子と別れた私はまた、森の中の散歩へと繰り出した。
他に浅層に人間は少ないようなので先程のような事に出くわすこともない。
ルクアリア大森林の浅層は主に戦闘能力の低いものが多く生息している。
探索者も低ランクの者や非戦闘民が活動する。
浅層と言っても文字通り上下での浅いという意味ではなく森林の外周部からの深度を指しており、そこから更に街などと隣接している部分は西部、及び東部と呼称される。南部は海、北部は山と隣接している個所が多い為に人が近寄りづらく浅層と言えば西部か東部を指すことが多い。
因みにその後に上層、中層、下層、深層、最深層、中央と別れるが、中央に近づくにつれ自然は豊で動植物は栄養にも優れており。中には貴重でかつ特殊な効果を持った種もいるが、同時に戦闘能力の高い種も多く生息している。確か魔力も密集しやすいせいか鉱石もいいものが産まれるんだっけ?そのあたりは管轄外なので知らないけど。
勿論、森林内にはダンジョンもあるのだがそれの内部関してはややこしいことになっているのだけど割愛。今は関係ないしね。
あぁ、森は広いからね、北部や南部と隣接している街も当然ある。多くは無いがね
私自身が森そのものという存在なので体などを気にしなければどこにでも行けるし、把握できるのだけど。細かい変化などは注目して確認しないと分からないのだ。っとこれは説明済みだったか。誰に説明してるって話でもないんだけど暇だからね、それっぽくすると暇つぶしになるのだ。
えぇ…っと何処まで説明したんだったか、そうだ森の深度と生物の関係性についてだったっけ。
簡単に言うと森林が浅ければ浅いほど動植物が多くて深くなればなるほど魔物が多くなる。
魔物って言うのは魔力を操れる動植物の総称だからね。
説明はこんなもんでいいか、お客さんもいるみたいだからね。
———ガササッ
ピョコッ
「やあ、角兎君。冬眠はもうおしまいかい?」
茂みから現れたのは角兎君。人間からも一角兎や角兎と呼ばれている魔物だ。アルミラージと言う者もいるのだがそれは別の種として存在するんだよね。
ビクッ!!ザッザッッ!
驚かせてしまったようだね後ろ足を使って地面を掻いている、これは攻撃の予備動作なのだが威嚇にも使われている行動だ。
兎系の動物や魔物はとても臆病な種族であり、危険察知能力に優れている。その為遭遇自体が難しいのだが私は生活環境であるこの森そのものであるためか彼らの危険察知には反映されないのでこういうことがままある。
通常の動物の兎ならすぐに逃げ出すのだがこの子は魔物の一角兎。一角兎の場合は緊急時や事前に逃げる事に失敗した場合は反撃行動をとるのさ。
「ギュウゥゥゥゥイッッ!!!」
ダンッ!!
兎が跳ねる。
その足は通常の兎と比べても強靭であり、なおかつ体内魔力によってさらに強化されている。
そして額にあるその名の由来でもある角は外敵の攻撃をものともしない実に強力な硬さを発揮しているのだ。
そんな兎の頭突きを喰らえばどうなるか。それは今私が証明する。
「ぐっ!!やるねぇ角兎君。これは大ダメージだよ」
兎の攻撃が命中した私の腹には兎一匹分の大きな穴が開いていた。
いや、無傷なんだけどね。私。
そりゃこの体は傷つくしダメージも受けるけど、私自身は概念のようなものなのでダメージとかそういったものは無いのだ。
でも角兎君にはそういったことは分からないだろうから傷口から血っぽいのは出しておく。
実際は樹液とかそういった栄養たっぷりの液体なんだけどね。そこはまぁサービスって感じで。
そして私は仰向けに倒れる
「ぐえぇ、これは動けないぞ。角兎君の勝ちだ。」
角兎君に言葉は通じない。言葉を認識するほどの知能は無いからね。
だが、相手が倒れるってことの意味くらいはちゃんと理解している。お腹に大穴開いてるしね
「キュッ…キュ?」
恐る恐る近づいてくる角兎君。因みに兎は草食が多いが雑食もいる。角兎君は雑食だが、私くらいの人間は食べられないのだよね、大きすぎるし食べてる途中で中型以上の肉食動物が寄ってくるから。
さて、この子はどうするのかな?私は気を失っているふりでもしておこう。ぐでーん
「キュゥ?」ぺろっ
おっと、傷口をなめたぞ?出してる液体から甘い匂いでも感じたかな?糖分は確かに多いし匂いを気にしていなかったや。
「キュゥ!?」ぺろっぺろぺろっ
すっごい舐めてる。美味しかったのかもしれない、角兎君のために出したものだしいいのだけどそんなに必死になるものかなぁ。
この子も餌が少なくて大変なのかもしれないしねぇ。今の季節は初春だし動物はまだ冬眠しているものが多い。そんな中起きているこの子は無理してでも食事を見つける必要があったのかもねぇ
にしてもどうしよう、とりあえず倒れて傷口舐めさせているけどこのままじゃ動けない。困ったね。
「ねぇ角兎君。舐めるのも良いけどそろそろどいてくれないかな、私散歩の途中なんだよね。」
「キュッ…キュッ…」ぺろぺろ
あー、反応ないや。もうこの身体捨てるべきかな?角兎君の事だからすぐ逃げると思ったんだけどな。
あ、でもそろそろ追加が来るぞ?
「キュッ…キュ!?」
ガサッ
角兎君が出てきたのと同じように茂みから現れたのは緑狼君、浅層に住む一般的な狼だ。人間からはフォレストウルフとか森狼とか呼ばれている動物。
その毛並みは緑色で森に対する保護色となっている。それで奇襲を仕掛ける動物だ、ちなみに山にいる狼は白かったりするよ。
主食は当然、肉。鹿や兎などの草食動物をよく食べている子だね。
「キュッ!」
ザッザッッ!!
角兎君は戦闘体制を取った、本来狼は天敵とも言えるので角兎君は逃げることが多いのだけど今回は群れではなく単体で現れたので倒した方がいいと思ったのかな?
緑狼君はいつもなら群れて行動する生物なのだが、群れを追い出されたりした場合はこうやって一匹のみで行動することもある。単体でなら肉食動物の中でも比較的楽に倒せるので低位の探索者にも人気とされている。
後、角兎君・・・威嚇の砂かきが私に凄くかかっているのだけど、見辛いからやめてくれないかな、やめてくれないだろうけど。
「ギュゥゥゥッッッイ!!」
地面が破裂したかのような音とともに私に砂をぶちまけつつ角兎君が跳ねる。
しかし
「!ッバウ!」
緑狼君が綺麗にステップをし回避する。
この子、もしかしたら昔に角兎君の仲間にやられた事があるのかもね、攻撃方法を理解していたようだ。
「キュッ!?…ピィ!」
回避された角兎君はそのままの勢いで木へと激突。
目立った外傷はないが脳を揺らしたのかふらついている
「グルルゥ!!ガァウッ!!」
コレ幸いと角兎君に飛び掛かる緑狼君。
角兎君もふらつきながらも逃げようとするが捕まってしまう。
「ギャッ!!ピィ…キュ……」
角兎君は最後に苦しそうに鳴きながらも事切れた。
いかに魔物とはいえ食物連鎖の流れに逆らうには相応の実力と幸運が必要という事だね、兎では狼には勝てない。それもまた自然の摂理とも言えるのさ
今回角兎君が助かるとしたら突進攻撃を命中させる事もしくはそれこそ脱兎の如く逃げ出す事だね。どちらにしても近づいて来ていた緑狼君に事前に気が付かなかった角兎君の負けだ。
夢中になる程の液体を出した私が悪いかって言われると…まぁ…うん
遅かれ早かれこうなっていたさ、うん。
「ガウッ…ハフッ…」
手に入れた獲物をそれはもう美味しそうに食べる緑狼君、凄くお腹がすいていたんだろうね、まさしく餓狼って感じだ。
角兎君は体が小さい生物。割とあっさり食べ終わった緑狼君、満足したのかくんくんと周りを確認している。
「グルゥ?ハッハッ」
倒れている私に気が付いたみたいだ。
「お疲れ様緑狼君、角兎君は美味しかったかい?」
当然言葉は通じないだろうけど、聞いてみる。
「ハッハッ…グルルッ…バウッアウッ!!」
おお、元気だなピョンピョンとしているぞ。
口からも涎がすっごい出てるしなんかこっちに近づいてくる。
もしかしてまだお腹すいてる感じ…?
あ、ちょっとやめておくれ、この身体まだ使いたいんだよ。
あ、あっ、あーーーー
兎と狼のバトル難しいですね、喋らないかなこの子ら
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