4 小洞窟の後始末
さて、後処理を行おう。
まずは凍ったキラゲル君たちだ。少し覗くよ。
女の子の<<短絡的な銀世界>>によって凍ったけど数時間も凍るほどではなさそうだ。
彼らのコア自体も特に損傷は見当たらない。<地裂>で落下した中には死んでしまった個体はいるようだけどコレも生存競争だ。
ただ、少し私が手を貸してしまったのは事実なので後で補填もしておこう。
さて、女の子。アンナの方だけど
「これは……初めて冷却の魔法を使ったせいか凍傷になっているな。」
魔術や魔法を使った時の副作用、というか慣れていないと起きる現象だね。使う魔力によって起きる現象は変わる。
今回は冷却だったので身体が適応仕切らず凍傷という形で現れた。因みにだが冷却の反対である発熱の場合では火傷が発生する。
大変だろうがこれは治さない。こういう傷は自然と起きるものだ、私が手を加えて治すのはあまり良くないのだ。
後は魔力枯渇による一時的な昏倒と免疫力低下だ、これによって病気になる生物も多いんだよね。ここはそういった病原菌がいないのか大丈夫そうだけど。意識も時期に戻るだろう。
ではこの扉だけど、破壊はしない。そもそも誰が作ったとしてもそれに手を加えるのは私がやる事じゃないからね、問題があったら誰かがどうにかするんじゃないかな。
でも鍵は開けちゃおう、出たら戻しておくので許してほしいな。
あの二人は少し離れたところで座っているようだね、なら彼らに開けてもらうのが一番いいかな。
女の子は動けないし仕方ない、少々不自然にはなるが私が何とかしよう。
彼らは女の子が死ぬとまずいのだろう?ならこうだ。
「えっ!?やっやだ!!!!やめてアリア!!!!自棄にならないで!!やだ、離れて!!!あっ………ぐっ……かはっ…」
……という女の子の声を再現する。勿論少し仕込みをして音は彼らに聞こえるようにね?
するとどうなるか
「おい!!てめぇら何してやがる!!」
「めんどくさいことをしてくれるねぇ?」
おぉ、幸運にも二人同時に来てくれるようだ。手間が省けた
二人は鍵を開け、私たちのいる方へと入って来る。
「おいごらぁ!!てめぇらは大事な商品なんだよ!!勝手に死ぬのは許さねぇぞ!!!」
「全く…二人一緒に入れたのは間違いだったなぁ、殺し合うとは思わなかった……ってあれ?どこに行った?」
今私はヤモリの体質を疑似再現して扉の上の壁に張り付いている。女の子も一緒にね。
擬態も出来るけどまぁ必要ないか。
「あん?なんで魔晶スライムが凍ってやがる?どうなってんだこれ?」
「ん~~?魔術……かなぁ?確かあの子魔術使えるとか言ってなかったっけ。」
二人が凍った魔晶スライムに興味を示した瞬間に音を出さずに扉から出る。
この扉本当に頑丈な出来なんだね、人間じゃ余程強い人でもない限りは破壊出来なさそうだ。
そして、扉を急いで閉める。
「っ!?罠か!!!逃がすかこの!!」
明らかに異変が起きているのに入るほうが悪いでしょ、本当に知能が低いんだねこの人たち。
無理矢理ぶち込む手間が省けて助かったけどさ。
「っっくそっ!開かねぇ!!あの女鍵閉めやがった!!」
「安心しなよぉ、鍵は持ってるからすぐ開けれるよぉ?……あれ?鍵がかかっていない。どうなってんの?」
覗いてなかったので気が付かなかったけどどこか鍵穴があったみたいだね、ただ、この扉はもう開かない。
扉に食人植物であるフクロコウジカズラを生やした。
この植物はその名の通り、袋小路になっている場所に生息する植物系の魔物なのだが獲物がテリトリー内に入った瞬間に出口を塞ぐように高速で成長するという特徴を持っている。その後、分泌される毒で中の生物を弱らせた後に吸収するという生態を持っているのだ。
この時発生する蔓は魔力の影響もあり相当頑丈であり、人間では相当強い騎士なのでもない限りは破壊は困難なのだが、飛んだり登ったりできる種族にはあまり効果は無い。火には弱いが魔術か魔法でもない限りは焼き切ることも厳しいし、扉越しに生やしたので破壊は不可能だろうね。
普段はルクアリア大森林の中層南部辺りに生息しているのだがそこまで行くと罠に対処できない生物の方が少ないので可哀想な種族なのだよね。
この生やしたフクロコウジカズラ君は時間が経ったらまた地面に戻るようにしているので、生態系をゆがめる危険性は無いので安心さ。
毒も出さないようにしているので出られないだけだから二人も安心だね。
ま、キラゲル君の凍結は後1時間12分24秒後に溶けるけど
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なんかあったかい……気持ちがいいかも……
「んっ……ん?」
あれ……あたしどうなったんだっけ…?
あぁ…そうだ確かスライムに襲われてまとめて倒すために魔法を使って……
「って!このまま寝てたら死んじゃうじゃない!!」
がばっと飛び起きる。スライムを凍らせただけで状況はあまり変わってなかったし凍え死んじゃう!!
「アンナ、おはよう。よく眠れたかい?」
この子は確かアリア、一緒に誘拐された子だ。
「ごめんっ!気を失ってた…って何それ、焚火?」
パチパチと音を立てながら焚火が燃えている。あったかかったのはこれか…
「アンナが凍傷になっていたからね、あったかくしたほうがいいと思って。彼らが用意してくれていて助かったよ。」
「彼らって……あれ?ここ洞窟の入り口?」
きょろきょろと辺りを見回すが、連れ去られた小洞窟の入り口付近にいることが分かる。
「あいつらは!?どこへ行ったのよ?」
「さぁねぇ、アンナの魔法で鍵が壊れたのか扉が開いたから出たんだけどその時にはもういなかったね。」
「…そう、じゃあ呑気にあったまってる場合じゃない!今のうちに逃げないと!」
少しだけ魔力も回復しているけどこのままじゃ戦えないからとにかく逃げたほうがいいはずだ。
「そうだね、逃げようか。」
「さぁ行くわよ…っと」
ふらっと力が抜けるがアリアが支えてくれた。
「大丈夫かい?」
「えぇ、ごめんね。少し肩貸してくれるかしら?」
「あぁ、いいよ」
まだ危険が多いとは思うのだが、アリアが冷静だからかあたしも冷静に対応が出来る。
そうして私たちは、森の中を歩き始めた。方角はアリアが分かるそうだ
「バカなことして騙されて死ぬよりも酷い状態にされそうになったけど…アリアに会えたことだけは収穫だったかもね」
「うん?私はさほど何もしていないと思うけど」
「あのスライムの情報を教えてくれたじゃない、それに私が気絶してる間面倒見てくれたし……それに、一人だと心細くてもっと自暴自棄になって破滅していたわきっと」
この綺麗な桜色の髪の少女に出会えたことは本当に感謝している。
「やっぱりこの森にいた理由は教えてくれないのかしら」
「そうだね、ただ森を散策していただけだよ。お散歩さ」
「もう、下手な冗談はよしてよ」
ふふっと笑ってしまう。
「そうだ、アリア」
「なんだい?」
「あたしと友達になってよ」
この子は私が貴族であることも気にしなかったし、私の事を羨むでも憐れむでもなく一人の人間としてみてくれていた。そう気が付いたからか自然と口から言葉が漏れていた。
「……」
「だめ、かしら?」
だめだったらちょっと泣くかも。
「…いいよ」
「!!ありがとう!」
思わず抱き着いてしまう。力が入らないのか踏ん張りがきいていないがアリアはしっかりと受け止めてくれる。
「ただ、私はこの森の外では活動できないからね」
「へっ?どういう事?」
「そういう職業だって思ってくれたらいいさ。ほら、外が見えたよ」
そう言われたので前に向きなおすと森の外までたどり着き、視界内にも街が見えている。
はぐらかされたような気もするが、まだ会ってから一日だ。いつか詳しく教えて貰えるといいのだけど。
「一日も経っていないのに……長い時間が経ったような気がするわ…」
命の危険以上の物に出くわして慣れない氷魔法を発動して、今生きていることも奇跡の様に思える。
頬に熱いものが伝うのを感じるが気にすることはない。
「もう夕暮だ、日が沈む前に帰るといい」
「アリアはどうするの?」
「私はこの森に拠点があるから大丈夫だよ、この森については詳しいからそう簡単には死なないさ。また会おう」
「わかった、私強くなってこの森に来るわね。また会いましょう」
そう言って私は街に向かおうと
「あ、待った」
…呼び止められた
「多分街にタクマって人間がいると思うんだけど、彼が困っていたら助けてやってくれないかい?」
「彼ってことは男ね、わかったわ。友達の頼みですもの私に任せなさい」
「うん、お願い。確か黒い髪で君と同じぐらいの年齢の男の子だ。頼んだよ」
「頼まれました。じゃっ!またね!」
「うん、また」
それを聞いた私は街に帰還していくのだった。
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