2 小洞窟でおしゃべり
場所はルクアリア大森林の浅層西部、とある小洞窟の前に今私はいる。
そして今の服装は緑のワンピースにその上から縄でぐるぐる巻きにした前衛的なファッションだ。
ま、捕まってるだけなんだけど
先程まで私は散歩をしていた、そんな時に近くで女の子の悲鳴が聞こえたので野次馬をしに行ったんだよね。夢中になって観覧してたら足元に会った枝に気が付かなくて踏んでしまい音でいることがばれた。
その後はまぁほぼ無抵抗で捕まってこの洞窟まで連れてこられたってワケ。
隣にはちゃんと叫んでいた女の子もいるよ、諦めたのか静かになったけど。
「おら!この洞窟の中に入れ!!」
「痛っ!入るから優しくしなさいよ変態!」
「はいはい、この中で交尾でもするのかな?中々ワイルドな感じだけど」
彼らの目的は確か交尾だったはず、私今そういう機能付けていないから申し訳ないなぁ。
付けていても子供とか出来ないんだけども
「ん~?あぁ~そうだったねぇ、そういう感じに言ってたっけ」
「おや、違ったかな?言ってた感じからしてそれが目的だったと思ったのだけど」
ふむ、予想が外れたみたいかな?交尾目的だと思っていたんだけど違うみたいだ
「違わないよ?順序が変わるだけでね。君たち二人には今から一日ぐらいはこの洞窟の中でゆっくりしてもらうんだぁ~そういうことをするのはその後にね?楽しみにしておいてねぇ」
「別に楽しみって訳じゃないけどね」
「わざわざここで一日も放置するとかどういうつもりよ?」
「おめぇが知る必要はねぇんだよ!!もういいだろ!!さっさと入れ!!」
そう言って背中を蹴られる女の子、抵抗しなけりゃ怪我せずにすむのにねぇ
はいはい、私も歩きますよ
「この中だ、入れ」
小洞窟を入って少ししたら狭くなっているところに鉄製の扉が備え付けられた壁があった。いつ作ったんだろうこれ、気が付かなかったな。
言われるままに入る私と女の子
「じゃ~明日になったらまた来るねぇ~ごゆっくり~」
細身の男がそう言うと男二人は扉を閉めて行ってしまった
「ちょ、ちょっと縄外していきなさいよ!!」
女の子はそう言いながら扉に向かって飛びつくが一向に開く気配はない。ま、当然栓くらいするよね。
「ふむ」
私は辺りを見渡してみた。
部屋にしては中々に広い、洞窟をそのまま使っているようで住処として使っても不便はしないし運動も出来そうなくらいだ。
壁からはキラキラとした水晶のようなものが幾つか見られ、それが光源のようにもなっているみたいだね
この感じ…あぁなるほど、そういう事か。
「…ちょっとあんた」
ん?
「どうしたんだい?」
「巻き込んで本当に申し訳ないって思うけど、あんたこの状況でよく冷静でいられるわね」
「私はいつもこんな感じだよ、急ぐ必要なんてないからね」
寿命とかないし、そうそう死なないしね私
「…よくわかんないけど、とりあえず縄ほどくの手伝ってよ。その辺に水晶落ちてるみたいだし上手いことやれば切れるんじゃない?」
「…うーん」
どうしようか、ここで私が手を貸すことは自然かどうかという問題がある。
私はこの森そのもの。あらゆる意味でこの森での中立存在と言えるのだ、その為この森内で起きたことに能動的に関りたくはないんだよね、緊急時の生態系の調整は別だけど。
一つの生物に肩入れすると自然からはかけ離れちゃうからね、元々完全に無関係の異物君は別。
でもまぁ…
「いいよ」
今回は私が見つかったのが悪いからね、物理的に出来る範囲内だけなら指示に従おうかな。私を上手く利用してくれたらいいさ、道具みたいなものだね。
そうして、私と女の子は水晶を使って縄を切断した。
「ありがと、にしてもやっぱりこの扉開かないわね完全に閉じ込められているわ」
「そうだね、簡単に出られたら閉じ込めてるってことにならないからね」
「わかってるわよ、もう!……あーどうすんのよこれ!そもそも一日放置するのも意味わかんないし!!」
元気だなこの娘
「……そうだ、あんた名前は?」
「私かい?ふむ、ル…いやアリアって言うよ」
「イヤアリア?」
「アリアだけ、ね」
「あぁ、そうごめん。あたしはアンナ・ハーパー、一応貴族よ」
一応なんだ
「私ね、今度学院に入るの。」
急に語りだしたぞこの娘、まぁ暇だしちゃんと聞いてみようか
「おっと、その前に私の家について話さなきゃいけないわね、ハーパー家って知ってる?」
「何分、貴族には詳しくなくてね」
「そう、うちは伯爵家なんだけど代々宮廷魔術師を出している家なのよ」
「宮廷魔術師って言ったら・・・えーと、なんか偉い魔法使いだったよね」
「まぁその認識でいいわ、で、私には兄弟がいてね、兄と姉が一人づつと弟が一人いるのよ。」
兄弟多いんだね、人間は同時出産数は基本的に一人だったはずだから四人も産んでいるのか。偉いね
「兄と姉はとても出来が良くてね、兄は学院で首席で卒業して今は既に宮廷魔術師として働いているわ。姉の方はまだ学院にいるのだけどこのまま順調にいけば同じね。」
「凄いんだね」
「自慢の兄弟よ、……ただ私はあまり出来が良くないのよ。もちろん魔法は学院に入る前から習得しているわ。でもどれも私と同時期に兄弟が使っていたものより圧倒的に弱いものばかり、才能がないのでしょうね、3歳下の弟にすら負けているわ」
「失礼、君の年齢を聞かせてくれるかな?」
「15歳よ、学院に入れる最低年齢ね」
「おや、確か学校はもう少し早い時期に入るものじゃなかったかな?」
「それは基礎学校のことね、大体6~7歳になったら入って8~10年ほど一般教養を学ぶわ、学費がそこそこ高いから貴族でない人は国に保証される3年が限界でしょうけど。私が入るのは国立中央学院よ、基本的には高度の魔術、剣術や商業学に少し特殊なのだと科学とかも学べるそうよ、職に就く前の専門知識を得るための場所ね」
「なるほど、そういう感じだったんだね。ありがとう、続けてくれていいよ」
異物君の記憶から知った情報に合わせると小中学校がくっついている感じみたいだね、学院って言うのは高校とか大学に専門学校がくっついた感じってことかな?
「……基礎学校でもいつもトップだった他の兄弟と違って私はギリギリ上位ってくらいだったんだけど…まぁ、そんな感じだったから私は兄弟からも心配されていたのよ、このままじゃ宮廷魔術師になれるか怪しいからね。」
「そうなのかい?」
「そうよ、仮にも国を背負う魔術師ですもの、学院主席かせめて次席でもないとなれないわ。魔術師は老化による身体能力の衰えに影響が少ない職業。つまりは一度付けば長く働けるから毎年大量に採用する必要がないからね」
「なるほどね」
「なので私は焦っちゃったのよね……学院に入る前にこの森、ルクアリア大森林から貴重な素材。それこそ純魔石なんかを手に入れたりしたら評価が上がるって噂があってね、入学前でも出来そうだったから採取してやろうって思っちゃってさ」
でもそうだね、この世界の人なら知っているはずだ。この森はとても危険な場所なんだよ、この森の外の生物にとってはだけど
「もちろん一人で行く気は無かったわ、でも頼ろうにもこの森に入るなんて言ってついて来てくれる人なんて中々いない。兄弟に頼ったりしたら意味は無いしね……それで探索者ギルドを訪ねたのよ」
探索者ギルド、このルクアリア大森林だけでなく各地の森や山、海の中やそれこそダンジョンにも行って依頼をこなす何でも屋である探索者たちの集まりだったはず、護衛とかもするんだったかな。
基本的には平民がなることが多い職業だね、探索者。高位の探索者はその限りじゃないとかなんとか
「依頼としてこのルクアリア大森林で純魔石を採取するための護衛を雇おうとしたんだけど。私が支払える程度じゃ高位の探索者は雇えなかったの。それでどうしようかなと思っていたらブロンズランクだっていう二人組が話しかけてきてね。少し話を聞かせてくれないかって」
「どう考えても怪しいでしょそれ」
「そうね、その時の私は焦ってたせいもあって冷静に判断出来てなかったんでしょうね。普通に話していたわ。それで、二人はその金額でいいから依頼を受けさせてくれって言ったのよ」
ブロンズランクの探索者、探索者としては中位くらいの人たちだ。最初はウッド、木からはじまるそうで取りにくい素材に成程高位になるらしい。冒険者証もその素材で作られるらしいね、幾つか見たことある。……私としては最低位に木を配置しているのはいい気分ではないがね、まったく
「私はそれに思わず飛びついたのよね……ほんっとバカ……」
「まぁまぁ」
「森に入ったくらいでそういえば冒険者証を見せてもらってなかったと思って二人に言ったのよ、見せてくれって。見せてくれたんだけど一見銅に見えるように塗装された石だったわ。騙せるわけないわよそんなの……せめて鉄持って来いっての」
石、ストーンランクは下から二番目。登録したら2~3日もしないでなれるレベルの物だったかな確か
「それで気が付いた私は一旦帰ろうとしたんだけどあの二人につかまっちゃってね。魔法で反撃しようにも咄嗟だったうえに無詠唱だったから不発で無駄に魔力だけ使って逃げられなくなったのよね。腕力じゃ大人の男性には敵わないから」
「あぁ、あの時の悲鳴はそれかい?」
「その時にはいたのね、あんたどうしてあんな所にいたのよ?」
「野次馬だけど」
「は?」
「野次馬」
「えぇ……」
いいじゃん、暇なんだし
「ま、その後はアリアも知っている通りに縛られてここに連れてこられたのよ、わかった?」
「そうなんだ、それでどうして急にそんなことを語りだしたのか聞いてもいいかい?」
「……現実逃避よ、この後どうせ死ぬのでしょうし。最期に誰かと話したかったってだけ。」
「そうかい」
「アリアって本当に冷静ね、見た目も凄く綺麗だしモテたでしょ」
「さてね」
「肌も綺麗だし……あら?アリア漏らした?」
「失礼な、私に排泄機能は付いていないよ」
「だったらなんでそんなに濡れているのよ」
「おや?」
そう言われて服を確認したら結構濡れていた。女の子の服、長袖のシャツや上着、ズボンなんかも少し濡れているように見える。ふむ、これは……
「あれってもしかして……」
そう言って女の子は驚愕したような顔で私の方……いや私の後ろを見ている。
振り返って確認してみるとすぐにわかった。そこにいたのはキラキラとした液体でコアを覆っているゲル状の生物……
キラゲル君がたくさんいたのだ。
「スライム!!」
そう、スライム
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