18 ローリア海
ルクアリア大森林浅層南部、ローリア海の浜辺でもある。
正確には少し離れているけど誤差としておく
これから私はローリアに会うためにローリア海に行くのだ。
ローリアはのんびり気質な為かただ入っただけでは反応しないかもしれないので生物に影響がない範囲でこちらを見つけて貰えるようにある程度目立つ必要がある。
なので、リコリアの時とは違い生物を産み出して使役する方法だと少々効率が悪いので私自身が行くのだ。
まぁいつもなら気長にローリアが気付くのを待つ方法をとるのだけど今回は時間を合わせて動きたいので仕方ない
というわけで、今の私は特別製のボディを作成した。
リコリアのハイノームと同じように中に植物の種を核にして仕込んだ高位精霊の身体だ、見た目自体は同じだけどこの体は今までの私とは違い森の外に行くことが出来るはず。
しかし、魂が存在しないためもって数日ってところかな?
今回は問題ないので試用がてら使ってみることにした。
まぁ、初めての取り組みだから失敗するかもだけど人間とかと同じくそこはトライアンドエラーなのだ
「じゃあ行くよ」
一歩森の外へ足を踏み出す……よし、上手くいった!
「はは…新鮮な感じだね、森の外へ直接出るなんて」
因みにいつもなら森の外へ出ようとすると、弾かれるでもなく私自身の身体が消滅してしまうのだ。死にはしないけど
でも今回は身体を保ったまま行くことに成功した。
自分の足で砂浜を歩くことは初めてなので慎重に海へと進んでいく。
「おい嬢ちゃんそっちは海だぞ、そんなカッコであぶねーぞ」
?誰かに話しかけられた…?
聞こえた方を向くと、中年の人間の男がこちらを見ていた。
「私?何か用かな?」
「いや、そんな布切れ一枚で海に近づくのはあぶねーってんだ。今海は荒れてっからなぁ」
「これワンピースって言うんだよ?それに気にしなくても私は大丈夫だよ、海に適応できる魔法が使えるからね」
「あん?……ってぇと、嬢ちゃんは冒険者っつーやつか。わけーのにすげぇんだな、魔法を使えるんなら大丈夫だろうが無理はすんじゃねぇぞ」
冒険者でも探索者でもないけど自己完結してくれたようで結構。
実際高位の探索者や冒険者なら海で行動可能な魔法や道具が使えたりするからね、あながち間違いでもないのだけど
そんな事より気になることが一つ
「ところで君はずっとそこにいたのかい?」
「俺か?まぁ、俺ぁこの近くにある村に住んでる漁師だからな。今は散歩がてら海の様子を見に来てたら嬢ちゃんに会ったってワケだ。ずっとって訳じゃねぇが、嬢ちゃんが来る前からはいたな」
「そうか、ありがとう。」
…そうか、ここはもう森の中じゃないから覗けないのか、中年漁師くんがいる事に気が付けなかった。
高位精霊の身体も作りすぎると自然に悪影響が起こるかもしれないしある程度慎重にいかなければならないかも?
「じゃあ、私は行くね。心配してくれてありがとう《海に適応》」
「おう、元気でな」
魔法を使うと言ってしまったので魔法を使ってから海へと入る。
無くても呼吸は必要ないし、水圧も精霊の身体なら問題は無いので完全に無意味だけど変に違和感を持たれても面倒だしね。
ちゃぽん
海の中を泳いで進む、視界は水に入ることを前提としていたため問題ないように作っている。
だがスイスイと進めるわけではない、今気が付いたけどこの体だと私の能力のほとんどが使えないみたいなので身体に他の動物の特性を適用することも出来そうにない。出来ても川魚などが精いっぱいだから海で出来るかはわからないけどね。
山とは違って海は気軽に来れる訳じゃないから新たな景色を体感出来て新鮮な気持ちになれる。今度ゆっくり探検しようかな?
更に奥へと泳いでいく、小魚は良いんだけれどある程度大きい魚には警戒されているね。
———おっと
「!!」
私に向かって素早い泳ぎで襲い掛かってきた魚がいた。
その肌は頭からはなめらかに尾からはざらりとしている肉食の大型魚…つまりは鮫だった。
「まいったね、他所の子には手を出したくないんだけどな」
一度は攻撃を避けられたが何度も出来るわけではない、多少は水中でも動けるこの体ではあるけど流石に鮫相手はキツイかな…?
にしてもこの子はなんて言う鮫なのだろう、森とは違う生態系の生物は未知が多くて興味深い。
それはそれとしてどう対処しようか。
殺したりするのは論外、森の生物とは違い眠らすって言うのもやっていいかわからないよね。
…仕方ない
今回は精霊の身体な訳だし無属性魔法を多用して逃げ切ることにしよう
「《とても速く》《水の抵抗を少なく》《自由に進むのさ》《しかして他者への影響は皆無とする》」
加速、水の抵抗を軽減、水中での泳ぎを介さない自由移動、高速移動によって起きる波紋などによる他の生物への影響を消し去る魔法たちだ。
森の中ならこんな事をする必要はないんだけどここではこれくらいしか無理だろう、もし変な影響を与えてしまっていたら後でローリアに謝ろうかな。
泳ぐというよりは浮遊するようにその場を離れていく。
その速度は鮫を軽く超え、完全に撒くことに成功した。
「ふぅ、危なかった。今は食べられるわけにはいかないからね。鮫君には悪いことをしたかな?補填はローリアに貰ってくれると助かるんだけど」
さて、一息ついたことだしそろそろローリアに気づいてもらうように軽い騒ぎを起こすとしよう。
魔法の効果はまだ続いているが《しかして他者への影響は皆無とする》を解除する。
そして、生物払いの結界を張る……って無理だった、森の中じゃないから簡単には張れないよね
なのでまた魔法を使用する。
「《近くの生物は全て退去してくれ》《ここは一時的に私だけの世界とする》」
精神魔法で球状に半径1500mほどの生物がいなくなる様に誘導、その後結界魔法で一度出ると入ってこれないようにする。
魔法だけだとこんなに大変なんだね……不便なのは楽しいからいいけど常にこれだと疲れそうだ。
さて、少し経って周辺の生物がいなくなったようなので次の手順に入る。
「《水は回る》《広く強く》《とても速く》」
グルグルと水がかき混ぜられていく、最初は小さい渦が生まれ、それは次第に大きくなっていく
そしてそれは水中に生まれた竜巻と化したのだ
簡単に言うと渦潮を故意に生み出したって感じだ
故意的に不自然を作り上げるのは精霊ではタブーなのだけどその分気付かれやすい。
「《もっと、もっと強く大きく》」
更に広げる。
そろそろ気が付いてくれないかなローリア、これ以上は生物の生活に影響を与えてしまうよ
これで最後だ
「《龍は空へと飛び立った》」
渦は空の方へと伸びていき水が噴火するように弾ける。
半径1500mものその渦は巨大な波を作り出して海へと広がっていった。
あー、限界
「《なんかいーかんじにおさまっちゃって》」
騒ぎは起こせたのであとは待つだけ、魔法をゆっくりと抑えていき元の海の形へと戻す。
用意した魔力ももうほとんど残ってないや、でも多分これでそう長く無いうちにローリアが私を見つけてくれるはず。
くるくると残った渦で回転しながら待っているとちらほらと離れた生物も戻ってきた。
私ももうあまり動けないしのんびりしていると、遠くから巨大な影が現れた
それは人間なんかとは比較にもならないほどの巨体であり、今の私程度なら簡単に食べられる
水中最大の哺乳類の動物である鯨だね、このまま私が浮いていると進行経路と被る。
これは、ちょっとまずいかなー。魔力ももう無いしここで死んでリトライする必要があるかもしれない。
私がある種の覚悟を決めた時、辺りの景色がパッと変わった。
さっきの渦を作った場所とは違い光もはっきり見えており小魚たちが元気に泳いでるのがわかる
そして目の前には巨大な城…?が建っている
そういえば、水中なのに地上と同じように地面に立てているね
『ルクアリアちゃんったら〜なにイタズラしてるの〜?』
ふわふわとゆったりした声が響いてくる。
『悪いね、君にちょっと用があって少し騒ぎを起こさせてもらったよ』
念話なので念話で返す
『君は用があってもいつも反応が遅いだろう?今回の用事は数年も遅れると状況が変わっちゃうから早めに伝えたかったんだよ、ごめんねローリア』
『もー!私たちはあまり不自然なことしちゃだめでしょー?』
『はいはい、反省するよ。所でここは何なのかな?』
『あ、そうよねぇ。ルクアリアちゃんもここのこと知らないわよね』
目の前の城の扉が開く
中から人魚や大小様々な魚が出てくる。
その中心には20歳くらいの長身の美女がいた。
水色のドレスを着たその姿は御伽話に出てくる姫のようでもあった。
『いらっしゃいルクアリアちゃん、ようこそ我が竜宮城へ』
……竜宮城ならドレスじゃなくて着物なのでは?
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