16.1 遺物君と魔力反発作用
「ふんぬぬぬぅぅぅぅ!!!!」
身体の内部から掌に力を送りそこから放つ感じで!!
「<発火>!!」
・・・
「ぬぁぁぁ!!何も起きねぇんだけど!!!」
「タクマ様、魔術は一日にしてならずです。今までやった事が無いのに急に出来るわけありません。後火属性はおやめ下さい」
「あっ、すみませんララさん」
俺は今アンナの屋敷に居候させてもらっている、探索者で働いた金の6割をハーパー家に入れる代わりに場所だけ間借りさせてもらう契約だ。
正直貴族の屋敷に住まわせてもらうってのは普通だと有り得ないし、飯や宿、さらには風呂や洗濯なんかも使わせてもらえるので破格も破格だ、感謝しかない。
で、今俺は屋敷の庭で魔術(魔法とは違うらしい)の練習をしていた。
魔術の練習は危ないので監視役として使用人のララ・アズマリンさんに同行してもらっているのだ。
因みにアンナは今学校…学院?に行っている、異世界の学校とか気になるし俺も行きたくはあったが、手続きや試験なんかが必要だし金も要るのですぐには無理らしい、金は自分で払わなくちゃいけないのでその辺は探索でどうにかするつもりだ
因みに純魔石?ってやつは家を買えるくらいの大金になったんだが、探索者の装備を揃えるのにかなりかかったのと本来存在しない人間である俺の身分証明の偽装で半分以上消えた
残った分の半分はハーパー家に入れててもう半分はいざという時のために貯金している。貯金分だけじゃ入学出来ないしな
「いいですか?アンナお嬢様からも聞いたと思いますが火属性は成功しても屋敷が燃えますし反発作用の火傷も医術師無しでは危険ですよ?」
「すみません……水にしときます……」
だって魔法といえば炎だしてどかーんってかんじじゃん…火球とか出して俺なんかやっちゃいました?してぇよ!
「そうして下さい、水の反発作用は危険性はほとんどありませんので。火はお嬢様立ち合いのもとでお願いします」
「でも水を出すってイメージしづらくて…」
「それでもです、タクマ様に何かあったら私が怒られますので」
「はい…」
魔術はイメージの世界らしい、出すぞってアバウトに考えるのではなくどこにどの程度出るかなど細かくイメージする、何より自分がそれを産んでいると認識する必要がある…らしい。アンナの受け売りだ
「水の基礎って何でしたっけ」
「水魔術で基礎となるのは<浸潤>ですね、こちらのタオルを見ていて下さいね<浸潤>」
するとララさんが持っているタオルがびちゃびちゃに濡れてしまう
「…これだけ?」
「これだけです、基礎ですから地味なんですよ。ですがこういう基礎からやることが大事です、派手なものは後々です」
「そうだよな、何だって最初はこんなもんだよな…」
「タクマ様は折角のデルタ型なんですから頑張りましょう」
「うす…」
これもアンナから聞いたことだけと体の中の魔力、生体魔力ってやつにも血液型みたいに型があるらしい。
それぞれアルファ、ベータ、ガンマ、デルタの四つで
アルファは体内に魔力が侵食しやすいため戦士や剣士に武道家などに向いているとか
ベータは魔力を外の魔力との適合率が高いもの、魔法とかの威力が高くしやすいので魔術師に向いてるんだと、アンナ含めたハーパー家の人はこれ。ララさんもな
ガンマはどちらとも低いのだがその分生体魔力の変換に向いている。それは回復魔法に向いているらしい、他の魔術と回復魔法はなんか色々違うんだと
で、俺のでもあるデルタはどれをとっても微妙、バランス型みたいなやつで頑張ってもアルファ程強靭な肉体は得られないしベータみたいに超強力な魔術の適正も無い器用貧乏なのだが1番の利点はいくら鍛えても魔法が使えるところらしい。他のと違って魔力の通る血管のようなものの場所が違うらしいのだ。色々やりたいし俺としては好都合なので正直嬉しい。
かつていたらしい勇者もこのデルタみたいなんでテンションが上がったが別に珍しいわけでは無いそうでどれも同じくらいの比率だそう。遺伝はするそうなので偏りはあるだろうけど
「では、こちらのタオルをどうぞ」
「ありがとうございます、うしやるか。」
俺のもってるタオルがじわじわと濡れるイメージで…!
「<浸潤>」
タオルに変化はない
「だめだ」
「だめですね、イメージが足りて無いのかと」
「ララさんはどんなイメージでやってるんですか?」
「私ですか?私の場合は魔力を染み込ませた後に液体に変換させる感じですかね?なにぶんイメージですから説明が難しいです、申し訳ございません。」
「あぁあぁ、いいんです。ありがとう、参考になりました」
ララさんがしょぼんとした顔をしたから慌てて返した
正直あまり参考にならないけど一つ思いついた。
体から水が出る瞬間ってあったよな、汗とかで。
それをイメージしたら行けるのでは?
とりあえずそれでやってみよう
「<浸潤>!」
すると俺がもっていたタオルがびしょびしょとまでは行かないが湿り気を帯びた。
もしかしてコレって!
「成功!?ララさんこれ成功ですよね!やった!」
「は、はいそうですね……」
?
何で顔を背けるのだろう、なんか変な所あるか?
タオルを見てみるが特に変な感じはしない
「まぁいいや、じゃあ忘れないうちに続きを…」
「<落水弾>」
突然水が上から降ってきた、不意に起きた事なので反応すら出来ずに濡れてしまう。
威力は殆どないようなので怪我などは全くしていない
「わぷっ!何だ急に!?」
「何やってんだお前」
「お前こそ急に何しやがる!?…って誰?」
話しかけてきたのは中学生くらいの男の子だった、側にはララさんと同じか少し若いくらいの年齢のメイドさんが1人付いている
「お前はアンナねーちゃんの客人だったな、俺はラング・ハーパー。ねーちゃんの弟だよ」
「弟?あー、そういえばいるって聞いたわ。ってそうじゃなくて何で急にこんな事するんだよ!今の魔法…じゃなくて魔術使ったのお前だろ!?服びしょ濡れなんだけど!」
「あほか、お前どんなイメージで魔術使ったんだよ、変な所で反発作用発現してたぞ。」
「どんなって、汗とかそういう体から出る液体をイメージしたんだよ」
「はぁ…だからか…」
やれやれと首を振るラング、なんかちょっと生意気な感じがするな
「言いたいことあるんだったらはっきり言ってくれ」
「あー…ったく、わかったよ耳を貸せ」
「普通に言えばいいだろ」
「いいから貸せ」
仕方ないので、少し屈んで耳を貸した
「あのな、お前漏らしてるぞ」
「えっ」
「水の反発作用は体液の異常分泌だ、基本的に飲み物でも用意しておけば大丈夫なんでやってたんだろうし普通はそれこそ汗が多く出る程度なんだよ」
「ハイ」
「それに加えてイメージに体液を使ったせいで穴という穴から体液出てるんだよ、涙とか鼻水もすごいぞお前」
俺、そんな事になってたんだ…
「な、何でそれに気がつかなかったんだろ俺…」
「さぁね、色々出過ぎて麻痺でも起こしてたんじゃね?とりあえずさっさと風呂入れ、ここの風呂を使える許可をお父様から貰ったんだろ?」
「そうするよ、ごめん助かった」
「全く…ララ!こいつを風呂に連れてくから今日はもう監視はいいぞ」
「かしこまりましたラング様、では私は他の業務にかかります」
「んじゃついてこい、あまり女性の使用人が通らないルートを案内してやる。漏らしてんの女性に見られたく無いだろ?」
「ありがとう、本当に助かるよ…ナキタイ」
生意気とか思ってごめん、めちゃくちゃいいやつじゃないかこいつ
ララさんは一礼をして屋敷の中へと戻って行った。
「ミナ、誰かいたらこいつの壁になってやってくれ。せめてもの情けだ」
「はい」
ミナと呼ばれた使用人がラングの側から俺を挟んで反対側に立った
「助かります」
「いえ」
「にしても何でここまでしてくれるんだよ、ほぼ他人だろう俺たち」
「理由は2つ、1つはねーちゃんの友人だから」
「もう1つは?」
「俺も経験したってことだよ」
あー……なるほど
それで情けをかけてくれたってことか…
「因みに俺はもっと人がいる時だった、運が良かったな」
「今すごく恵まれている事を実感したわ…」
「んじゃ駄弁ってないでさっさと行くぞ、後水魔術の練習は風呂場でやるといい、ララは無理でも男の使用人もいるからな誰かに頼め」
「分かったそうするよ…」
ラングは先導してメイドさんがいないところを歩いていく、男性の使用人…多分執事の人達はそこそこすれ違うけど何食わぬ顔で接してくれるので助かる
「ところでさっきの魔術って難しいのか?」
「<落水弾>の事か?まぁそこそこかな、本来はもっと大量に落として質量での攻撃を行う魔術だからちゃんと使うにはある程度の訓練は必要だ」
「なるほど、なら頑張るか」
「頑張る前にさっさと風呂入れ、着いたぞ」
「助かった、この恩は必ず」
「さっさと行け!」
背中に蹴りを入れられて風呂場の方へと入れられる、振り返った時には既にラングは去っていた。
魔法使えるのは良いんだが…反発作用って怖い…危険が無い水ですらこれなんだから他の属性で発生してたら大怪我をしてたかもしれないな。
異世界ってもっと楽だと思ってたけど肉体的にも精神的にもキツい、改めてそう思った。
でも人徳には恵まれたんだよな…いい奴ばっかりだ
とりあえず風呂に入るか…この歳になって漏らしたのは黒歴史以外の何物でもない、今晩は枕を濡らして寝ることになるだろうな…
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