12 ドラゴン
ルクアリア大森林中央、天気は晴れ。快晴だ
中央部には一つ大きな樹がある。この樹は最初の私だったりもするのだがその話はまた今度。
今日はこの樹の近くに住んでいるドラゴン君に用があってきたのだ
「ドラゴン君ー、こんに———」
「消えろ」
—ゴウッ!
突然の業火に焼かれ、哀れ私は消し炭となった。
「って、そうじゃなくて!やめてよドラゴン君」
「あぁ?……チッ、貴様か。」
「気づいていただろう?本当にひどい幼馴染だよ君は」
「どうせ死なないんだからいいだろうが化け物め」
ひっどいなあこいつは
体長数十メートルもあり大きな翼をもつドラゴン君、この森の中でも最強格の生物だ。その為か不遜な態度をよくとっている。
因みに私とドラゴン君の付き合いは長い、それこそ私がただの木霊だった頃からの仲だ。
彼もその頃は小さくて可愛らしいトカゲちゃんだったのにねぇ…
「おい、変な事考えるな」
「あー!また私の考え読んだでしょ!いけないんだ!」
「貴様もしている事だろうが、なんだったか、覗くとか言ったか?」
「私は多用も悪用もしてないからいいんです!」
そう、このドラゴン君は完全ではないけど私と同じようなことが出来る。
それどころか私の考えまで少しだけ読めるんだよね、失礼しちゃうよ。
逆に私は殆ど彼に干渉が出来ない、覗いたりとかもあまり出来ないんだよねぇ、必要ないけどさ
原因はきっと私が森になる前からの仲だから森が彼を森の一部と認識できないせいだと思う。
彼が私の考えが読めるのは本当なんでかわかんない、生命の神秘ってことにしてる
ま、そのおかげで完全に対等に接することが出来るから私の数少ない純粋な親友なのだ。
「また変な趣味を初めたのか」
「変とはなんだ、説明は大事だよ?相手がいないとしてもね」
「はぁ…だから変だというのだ」
「君さ、私の考え全部分かるわけじゃないんだから変って決めつけるのは早すぎると思わない?」
「貴様は特別わかりやすいのだ、それに大体いつも変な事しかせんだろう」
「失礼な、私はいつもまともだよ」
「ふん…」
そっぽむいちゃった、あぁ今日はじゃれ合うために来ただけじゃなかったね
「今日は聞きたいことがあって来たんだった」
「…なんだ、俺は寝るのに忙しいんだが?」
「君さ、龍の秘宝っての持ってる?」
「話を聞けバカ者…龍の秘宝?知らんな」
「だよねぇ、君、お宝とかそんなに興味ないもんね。そもそも私物とかあるの?ミニマリスト?」
「ミニ?なんか知らんがあまり持っていないな。不要だからな」
「だよねぇー」
私も私物とか持ってないからね、そもそも家がないというか私自身が家みたいなものというかで置くところもないもの
「じゃあさ、[全ての知識]は知ってるかな?」
「知らん、なんだそれは」
「この世の中の全てを知ってるんだってさ」
「お前も大概何でも知っているだろうが」
「この森の事ならね、その外となるとあまり知らないさ」
「で、それが欲しいのか?」
「要らない、あるのか気になっただけだよ」
そんなジト目で見ないでよね、だって本当にただ気になっただけなんだもの。
割とずっと一緒に居るようなものなのにそんなもの持ってたんだったら言ってくれてもいいなーって思っただけだしね
「知らないならいいや、じゃあこの話はこれで終わり!最近変わったこととかあった?」
「急にアバウトに聞いてくるな貴様は、変わった事などない。そもそもあったら先に貴様が気付くだろうが」
「うん、そうなんだけどね暇なんだよー、なんか変わった事があるといいのにさー」
ドラゴン君の角にしがみついてブランブランする
「ええい離せ、そこは掴む箇所ではない」
「やだよ、暇つぶしに付き合ってもらうよドラゴン君」
「ったく、貴様がいるとおちおち休めもしないな。」
そう言うとドラゴン君はゆっくりと腰を上げた。四足歩行だけど
「お、一緒に散歩する?乗っててもいいかな?」
「そのつもりだったろうが貴様」
「せいかーい、じゃあお願いね。私は上でゴロゴロしてるからさ」
「疲れないんだから降りろ」
ぶんっ!と首を振り地面に叩き落される。
着地なんて練習していないので顔からダイブだ
「うえっ、酷いなぁ。君の幼馴染系ヒロインだよ?私」
「ヒロインとか意味わからん事言ってないで行くんだろうが。目的地とかもないが深層を周回でもすればよかろう」
「そうだね、ついでに色々確認して回ろうか。」
——————
————
——
森林深層北部、深層はどこも一級の危険地帯だ。
一般の探索者ではここまでたどり着くことも難しいし仮に運よくたどり着けたとしても数分もすれば何らかの事象で命を落とすことが請け合いだ、私たちには関係ないけどね。
「この辺はやっぱり魔力が多いね、大丈夫かいドラゴン君?そんな小さな体でさ」
今のドラゴン君は探索者に見られても大丈夫なように人間の姿に化けている。
赤い髪の男性で多分筋肉は付いている方…かな?で、多分イケメン。私から見ても30cmくらいは高いから人間としては結構な高身長ではある。夏の私よりもでかいなこいつ、腹立ってきた。
「貴様よりはでかいだろうが、気にするな。そもそも俺の主食は魔力だからただ飯が多いだけだ。それに貴様の周りの方が魔力は多いだろうが」
「私の周り?変わらないけど」
「それじゃない、本体の方だ。」
「あ、最初の私か」
さっきの中央にあった大樹の事だね、確かにあの辺は魔力が一番多いかもしれない。
「…もしかしてそれであの辺に住んでるの?私が好きだからあの辺にいるんじゃなかったの?」
「そんなわけあるか、一々移動しなくても十分な食事を得られるからあそこにいるんだ。それに俺がその辺で歩いていたら騒ぎになって討伐隊でも組まれたら面倒だろう」
「そうなんだけどさー、ちょっとショックかな」
よよよと泣きまねをしてみるが全く効果は無い、私の気持ちを読めるからなぁこいつ。
「そんな事気にするたちでもないだろ貴様は」
「まぁね、でも残念なのは本当さ。友人に好かれていたいものだよ普通は」
「普通じゃないだろ貴様は」
「普通だよ、私が自然なんだ」
「……そうか」
そうこうしているうちにとある場所にたどり着いた。
「お、ダンジョンに着いたよドラゴン君。入るかい?」
「俺と貴様で入ったらただ荒らすだけになるだろうが、中の者にも悪い。入らん」
ダンジョン。正確には森林深層北部第1ダンジョンだね、ダンジョンは中層以降ならちらほらと見かける変わった場所だ。ある種の異世界ともいえるほどに外の森とは違う環境となっている。異物君の異世界とは根本から違うんだけどね。
「そっか、残念。ところでダンジョンで思い出したんだけどさ」
「なんだ」
「異物君…じゃなくて異世界があるって知ってた?」
「異世界?なんだ、やはりあるのか」
「おや、ご存じで?」
「変身して街に行った時に異世界に関する文献を見かけたんだ、迷信かと思っていたが貴様が言うのであればあるのだろうな」
信頼はされてるんだよな私、嘘とかつく必要もないからつくことは無いんだけどさ
「内容は覚えているかな?」
「読んでおらん、そもそも俺は金がないからな。買えるわけないだろう」
「ありゃりゃ、じゃあしょうがないか。異物君が見つけられたらいいんだけどね」
「ところでその異物君とやらは一体何なのだ?」
「異世界からの来訪者だよ、この世界の者じゃないから異物君。」
「異世界からか、時間がある時でいい。俺に会わせろ、面白そうだ」
ニヤリと笑うドラゴン君。わかる、わかるよ…暇なんでしょ君。私もそうだからね
「うん分かった、と言っても当分彼に会う気はないからいずれってことになるけどね。」
「それで構わん、俺も貴様も時間だけはいくらでもあるからな。ただその異物が死ぬ前には頼むぞ」
「はいはい、愛する幼馴染からのお願いだ。ちゃんと覚えておくよ。」
「ではそろそろ行くぞ、俺の影響でダンジョンが少し騒がしくなってきた」
ダンジョンを少し覗いてみると中の生物が慌ただしい感じに動いている、ドラゴン君が無意識的に威圧しちゃってるんだろうね、さっさと離れるのが正解だ。
「じゃ、またぶらぶらと歩いていこう」
そうして私たちは散歩気分で危険地帯の深層を散策するのであった。
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