11 スリジエ・シルクの採取
緑帽子君と行動を共にして三日目の朝。
桜虫君の準備が出来たので収穫の時となった
「さ、テオ。お待ちかねの繭の収穫だ」
「丸々二日以上かかったな、高級品って言うのは高いだけあって時間がかかるんだな…」
緑帽子君はうなだれてそう言うが、繭の状態で見かけたとしたらここまで待つことはほとんどないので実際は時間はそうかからないのは内緒だ。
今回は繭が出来たてだったので時間がかかっただけだからね
ただ、こういう情報は後々自力で調べてもらいたいと思う。人間にとっては調べる力ってのもとっても大事だからさ
「じゃあまず水を用意するよ。それと棒だ、桜虫君を狙ってるくらいだ。持っているんだろう?」
「あぁ、それなら問題ない。幾つか用意してきた。」
そう言って緑帽子君は鞄から折り畳み式の鉄の棒を幾つか見せてきた。
「おや、中々便利なものだ。そういうのもあるんだね」
「少し高いが、糸とかを採取するときはかなり使えるからな。他にも細いところに入れたりして使うことも出来る。割と必需品だ」
変わった需要もあるものだ、まぁ人間が色々試行錯誤した結果生まれた物なんだろうね。
「じゃあそれに巻き付ける形にしようね。水はそうだな、飲み水を使うって言うのも嫌だろうし近くの池から汲もうか。すぐ近くに小さいのがあるんだよ。」
「それならわかる、こっちだよな。汲んでくるよ」
「そう?じゃあよろしく」
緑帽子君が水を汲みに行っている間に私は桜虫君たちの診察を済ませておこう。
これでダメそうなら全部無駄になっちゃうからね
「少し覗くよ」
…体調面はどの子も大丈夫。内側の繭もちゃんと生成出来ているね。
強度の方は……うん、大丈夫そうだ。これなら獲っても死ぬことはない、ちゃんと後始末したらだけどね。
一応緑帽子君の用意した棒も確認しておこうか、結構な量が獲れるからね。強度も多少は必要だ。
材質は鉄、と何か混ざっているな。鉄ベースの合金かな。頑丈そうでいいね。
折りたたまれていた部分は成程、伸ばした際にストッパーが引っかかる様になっているのか。持ち手側と言っていいのかわからないけど端の様にある出っ張りを押しながら折れば力も使わずに折れるって感じなんだ。面白い。
「戻ったよ、アリアさん何してんだ?棒に不備でもあったか?」
「いや?ただ単純に気になっただけさ、仕組みとかね」
「そうか、それくらいなら好きに見てくれ。水はこれくらいでいいか?」
幾つかの瓶に水を汲んできてくれたようだ。
鞄から出てきた分だけでも全部で2~3ℓくらいかな?
「よし、じゃあこれに入れてくれ。」
そう言って私はどこからともなく小さい鍋のようなものを取り出す。例によって生やしたものだけどね。
「わかった」
じょぼじょぼと水を緑帽子君が入れてくれる、つっこみがないというのも少し寂しいかもしれない。
「ありがとう、こんなもんでいいかな」
「じゃあこれで後は採取するだけだな、さっさとやってしまおうか。水でほぐせばいいのか?」
「うん、でももうちょっとだけ待ってくれ。このままだと蛹とはいえ桜虫君が驚いてしまう。下手すりゃそれだけで死んじゃうんだ」
「だったらどうすればいいんだ?」
「こうするのさ。《よーく眠りな》」
繭の中に浸透するように魔法をかける。これは精神干渉系の魔法だ、属性とかは無く相手の魔力に干渉することで色々引き起こすことが出来るのだ。
私なら強制的に睡眠の状態にも出来るけど、人間の前だからね。極力使いたくない。
それに、不自然になっちゃうから
「!これは催眠魔法か!アリアさんは魔術師としても優秀なんだな。」
「そういえばこれ難しいんだっけ?あと私は魔術はあまり使えないよ。魔法ばっかりさ」
魔術は使いたくないって言うのもある。魔術というのは人間が研鑽を積んだ結果生み出した技術の結晶だ。私のような人間どころか生物ですらないものが軽々と手を出していいものじゃない。
「難しいって言うのもあるが違法だしな……変わった覚え方してるんだな貴女は」
「気にしないでくれ。さて、桜虫君たちは寝たから作業に入るよ水でほぐしていくのは私がやるからテオはほぐした糸を巻き取っていってくれ。優しくね」
「任せろ」
繭に対しては決して多い量でない水だが端からほぐしていくぶんには問題ない。
少し粘着の弱い部分を水につけていきほぐしていく。
ほぐれた繭は糸へとなり水に浮くようになった。
「さて、この浮いている糸を巻き取っていってくれ、結構な長時間労働だからしっかりと頼むよ?」
「ああ、しっかりとやる」
緑帽子君は糸を巻き取っていく。
その端から私は次々と繭をほぐす。
この作業の繰り返しだ。
「これで、3割程度完了だ。一回切るといい。結構な大きさになっただろう。」
緑帽子君が持つ棒は糸がかなり巻き取られて大きな玉の様になってきている。
糸も棒も頑丈なので切れたり折れたりする心配はないが、これ以上は大きさ的に邪魔だろう。
「それもそうか、なら切って新しいものに変更するよ」
「うん、それと中の桜虫君が見えてきたから私は疑似繭にそれを移していく作業をするよ」
繭の中の桜虫君たちはそれぞれ小さな繭を作っているので大量のボールがある感じだ。
因みにこの小さな繭からも糸が獲れるのだが、それをしてしまうと桜虫君が完全に死んでしまうので無し。人間とか他の生物がする分には止めないけど
私は昨日作成した疑似繭に一つずつ内繭を入れていく。
力加減を間違えると簡単に殺してしまうが、私は生物と違って原子単位で動かせるので間違えることは絶対ない。
「よし、こんなもんでいいかな。桜虫君の退避は終わったよ。この繭には触らないようにね。」
緑帽子君はこくりと頷いた
疑似繭に入れた桜虫君たちを再度覗く。
うん、誰も死んでなさそうだ。
ついでに一時的に強度を補強しておこう。
私たちが離れてすぐに死んじゃったら、私の干渉の結果命が失われてしまうことになるしね。
それはよくない。
とりあえず10日程度は強い衝撃で破損したりすることは無くした。斬撃などの故意的なものは除くけどね
「続きをやろうか、テオ」
「ああ」
後は桜虫君たちの事を気にせず思いっきり出来るね。さっさとやってしまおう。
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「……これで、全部…か?」
「うん、お疲れ様」
「そうか…よし…おわっ……たぁ…!!」
糸を鞄に大事にしまってから緑帽子君はぐぐっっと背伸びをした
「ありがとうアリアさん。貴女がいなければもっと雑に採取してたかもしれない。かなり状態がいいものを獲れたのは貴女のおかげだ。」
「いいさ、私もいい暇つぶしになった。それに桜虫君が死なないならそれのほうがいいからね。気にしなければもっと早く終わったさ。時間を取ってくれてありがとね」
実際桜虫君を無視して採取すれば1日もかからない。この2~3日は桜虫君が死なないようにするためだった。
緑帽子君からしたら無駄な時間だったともいえるからね、感謝だ
「いいんだ、色々勉強にもなったし有意義な時間になった。それに命を奪う必要がないならそれに越したことはないからな。」
「そっか、ならお互いに実りがあったってことだね。テオはこの後は街に帰るのかな?」
「そのつもりだ、アリアさんは?」
「私はこの森から出るつもりは無いからね、また色々お散歩とかかなー」
「ここで散歩って…貴女なら出来るんだろうな。」
「うん、大丈夫だよ。じゃあお別れかな」
「そうなるな、また会えるよな?」
「うん、テオが死ななければね?」
ウインクしてあげる
「っ!あぁ、死ぬつもりは無いさ。」
「その意気だ。頑張ってね、じゃあまた会おう。元気でね」
そう言って手をヒラヒラしながら緑帽子君から見えないところまで歩いていく。
「アリアさんも!!!」
緑帽子君も手を振り返してくれた。また会う時は面白い話をして貰えるといいな
「…テントの片付け、めんどくさいなぁ……」
……忘れてた、片付け手伝ってからにしておこう。
私は戻った。ずいぶんと速い再会だったね、緑帽子君。
絹の採取方法は調べましたけど、多分全然違うと思いますがファンタジーな世界なので許してください
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