9 緑帽子と龍の秘宝
「龍の秘宝?なんでまたそんなものを?」
暇を持て余していた私は偶然出会った緑帽子君と出会った。桜虫君の繭(というよりはそれをほぐした糸)が欲しいと言われ、私が見ていた桜虫君のものを譲ることにしたのだが、緑帽子君はお礼をしたいと言ったので適当に緑帽子君についての話を求めた。
でもまぁ過去の事は話しそうにない緑帽子君だったので、やりたいことはないかと少し無理めに聞いてみたら、龍の秘宝を手に入れたいと言われたのだ。
「別に絶対に欲しいって訳じゃないんだ。なんかないかって言われて思い浮かんだものだしな、でも、昔、小さい頃な、世話してくれた人と一緒に聴きに行った吟遊詩人の詩がずっと残ってるんだよ。」
「そう、龍の秘宝の詩は色んなものがあるよね。どれを聴いたんだい?」
「俺が聴いた歌は…そう…」
——一匹の蛇がいた。
蛇は願いを持っていた、その願いとは「宙を知りたい」。
空ではなく宙。
彼方の向こう側である。
この世界には先がある、蛇はそれを識っているのだ。
宙とは果てである。
宙とは未来である。
宙とは全てである。
蛇は空を求めた。
宙へ往くために力をつけた。
翼をつけた。
不死を身に着けた。
その蛇はいつしか龍と言われるようになった。
そのかつて蛇だった龍の名はケツァルコアトル。
其れは全てを識っている。
其れは世界を識っている。
其れは宙を識っている。
其れの宝は全ての印。
全ての識詩。
宝の名は[全ての知識]
「こんな感じだったっけ」
「へぇ、初めて聞くかも」
宙って宇宙の事かな?異物君の世界では行けるんだよね、でも[全ての知識]なんてものは無かったはず。似た名前というかほぼそのまんまのアカシックレコードならわかる。この世の全ての記憶が記録されているものだったかな?存在自体が曖昧みたいだけどね。
「で、その[全ての知識]ってやつが欲しいのかい?」
「うーん、別に欲しい訳じゃないけど存在は見てみたいよな、ケツァルコアトルも見てみたい。」
「ケツァルコアトルねぇ?」
ケツァルコアトルというのは見たことがない。ヨルムンガンドみたいに伝説上の蛇みたいだから存在辞退するのかどうか……にしてもこの二つの蛇も異物君の世界に伝説の話でいるよなぁ。結構似通った世界なのかもね、異世界も。
それだと他の蛇、ウロボロスとかの話もうちの世界にもあるのかもしれない。聞いたことも覗いて知ったことにもないけど。
「ま、つまりは色んなことを知りに行きたいって感じかな。冒険が好きって感じなのかも。」
「そっか、いつか色々見つけられたらいいね」
「おう、ところでアリアは宙って知ってるか?」
「知ってるような…知らないような…」
知ってるのは宇宙だしね
「えっ!?知ってるなら教えてくれ!」
「んー、ダメ」
異世界の知識だもの、下手に知らせるとまずいしね
「ダメか?情報は金になるものな、いくらなら教えてくれる?」
「ごめんね、確実性もないものだしお金じゃ教えられないんだ。悪いけど別の方法で調べてくれ、私以外にもきっと知っている人がいる」
「…ま、仕方ない…か、気長に調べることにするよ。」
「そうしなよ」
思い浮かんだやりたい事ってだけみたいだし、まだそこまで本気になれないのかあっさりと引いた。
詰められても困るので助かるところではあるがね
ああそうだ
「他の龍の秘宝の話とも照らし合わせてみるのはどうかな?それで何かわかるかもしれないよ?」
「他の…?そういえばあまり他の龍の秘宝の話は聴いたことがないかも」
「そうだね、何があったか。例えばきみの話だと龍は蛇って話だけどドラゴンだって話もあるね」
「龍ってそもそもドラゴンだろう?」
あ、そこは知ってるんだ
「そうだね、でも地域によっては龍とドラゴンは別の生き物とされる事もあるんだ。龍は蛇からなるものと鯉からなるものとか言われてるみたいだよ、ドラゴンはトカゲだね」
「普通の動物の延長線の生き物ってところは共通してるんだな」
「うん、大体はそうだって話だよ」
森の中にいるドラゴンも元はトカゲのような爬虫類から進化して産まれたものだし、他のドラゴンも大体そうだろう。
「元から龍だったって話も多い、何しろ有名すぎて説が多すぎるんだよ龍の秘宝は。」
「そうなのか…あまり気にしてなかったせいか全然知らなかったよ」
「これから知ればいいさ」
「そうだな、色々調べてみるよ。俺のやりたいこともちゃんと見つかると良いんだがな、こういった冒険譚がそうなのかもだけど」
「うん、頑張ってね」
なんであれ、緑帽子君のやりたい事はいずれ見つかるだろう。
良い人生を歩めると良いね
それにしても龍の秘宝か……偶に聞く話だけど実際存在するのかな?
[全ての知識]以外にもすごい魔導書だとか勇者の聖剣だとか、膨大な財宝だとか色んな説があるし、謎が多い。
案外緑帽子君があっさり見つかるかも知れないけどね。
でも気になるし、うちのドラゴン君にききに行ってみようかな?今は寝てる時期だっけ?まぁとりあえず行ってみよう。
「そうだ、この森にもドラゴンがいるのは知っているかい?」
「一応知っているが…深層の方だろう?話しか聞かないし見た事もない」
「そう、深層。龍について気になるなら案内してあげようか?」
「え、場所がわかるのか?高位の探索者でも偶然でしか見つけられないって話なのに」
「うん、わかるよ。私はこの森については誰よりも詳しいからね」
だって私がこの森だし
「…魅力的ではあるがやめておくよ、今行っても死ぬだけだ」
「勘違いしちゃいけないよ、今すぐって話じゃない」
「と、いうと?」
「テオ、きみがゴールド、金級や白金級になったら案内してあげるって話さ。だからそこまで頑張ってごらん?」
そして、その時にはまた色々話を聞きたい。面白い冒険譚が聴けそうだしね。
「そういう事か、わかった。その時は頼む。……にしても気になるんだが」
「どうかした?」
「アリアさん、貴女は一体何者なんだ?ただの学者かと思ったんだがそれにしては少し違和感を感じてな」
おっと…警戒感を抱かせちゃったか。
どう言い訳をしようか……
「どんな違和感かな?」
「あぁ、いや。嫌な気分にさせたのなら悪い。何というかなんか違うなーってくらいのふわっとしたものなんだよ。」
あ、大丈夫そうだ。でもこれ以上は変に詳しい事言うのはやめておいた方がいいね、私が精霊ってことがばれると色々面倒だしある程度人格が分かるまでは内緒にしておきたい。
「いいんだよ、私もこの森に長い時間いるからね。他の人と比べると詳しい事と疎い事が違うから違和感を感じたのかもね。」
「街には帰ってないのか?この森にずっといるのも危ないだろう、浅層とは言えさ」
「そうでもないよ、私以外にもこの森に棲んでいるのはいるからね。」
「そうだったか、なら大丈夫…か?」
「うん、大丈夫だよ。ちゃんと抵抗も出来るからね」
「アリアさんは多分俺よりも強いんだろうな」
「私は戦えないんだって、強いなんてことは無いよ。」
弱いってこともないけどね
「戦闘の事じゃないさ、生存能力って言ったらいいのかな。準備とかが上手いってことだよ」
「そういう事ね、それなら私は相当強いことになるね。なんてたってこの森の中なら何処でも生きていけるからさ。」
「貴女の事をちゃんと知りたいが…教えてはくれないんだろうな。」
「教えてもいいって思える時が来たら教えるさ。それまで死なないようにね。」
実際私の正体を知っている生物はいる。多くは無いが少なくもない、この森の中ではドラゴン君とかエルフ達は知っているのだ。彼らは私の事を吹聴しないのが分かるから問題ない。
さて、夜も更けてきたな。話もここらで切り上げるとしよう。
「さて、そろそろいい時間だ。先に見張りは私がしておくから寝るといい。」
「俺がする…と言いたいがここでの先輩はアリアさんだ。素直に従うよ。」
「うん、じゃあお休み」
「お休み」
詩ってどうやって書くんですかね
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