8 緑帽子とおしゃべりキャンプ
トンッ、トンッ、トンッ、トンッ
緑の帽子の彼が木の杭を打つ。
慣れているのか随分と手際がいい、硝子と言っていたし探索者証は綺麗だったのでまだまだ新米かと思ったがそうでもないのかもしれない
「中々準備が早いね、探索者になって長いのかい?」
緑帽子君は手を動かしながら答えてくれる
「そうでもない、硝子級になったばかりだ。ただほぼ一人で行動してたから事前にこういう事が出来るように練習してた」
「ほう、そりゃまたどうして一人なんだい?」
「……なんでもいいだろ」
むすっとした顔で言い返してくる、でもね
「ダメだよ、ちゃんと教えて?そういう契約だ」
「…契約は話をすることだけだろう、別に隠し事をしないなんて言ってない」
「まぁね、気になっただけだし絶対話すべきとも言わないけどクライアントの心象はよくした方がいいと思うよ?臨時ボーナスが出るかもしれない」
「はぁ……別に隠したい訳じゃないしいいが」
教えてくれるようだ、こういう秘密ももちろん覗けばわかるけど人間って心とか記憶読まれるの嫌がるからね余程の事がない限りはするつもりはない。
「苦手なんだよ、人と関わるのが」
「あぁ、私に話しかけてきた時もテンパっていたものね」
「やっぱりそう感じたかぁ……そういう訳だからソロで活動するしかないというかパーティを組めないんだよ」
「でも今は私と話せているじゃないか?この調子で話せば大丈夫なんじゃない?」
「アリアさんは探索者じゃないだろう?学者とかか?」
「まぁそんな感じ」
本当は違うけど、アンナにもそんな感じに思われてるだろうね
「だからか大丈夫なんだよな、他の探索者相手だと…恥ずかしいが怖くて…」
「ふーん、よくそれで探索者になろうと思ったね?」
探索者は多かれ少なかれ人と関わる仕事でもある、依頼人と直接話すことも多いようだからね。
彼のように人と話すのが苦手な人はそもそも探索者に向いていないとは思うのだけど
「俺はスラム出身でな、他に仕事が無かったんだよ」
やはりそうなんだね、貧困な人でも職につける人はいるが大半は何でも屋とも言われる探索者になることも多い。
探索者になるのに身分証とか要らないからね、そこで優秀な探索者になってそれを身分の証明として別の職に就く人が多い。
だがそれが出来るのも基本的にアイアン、鉄級の人からだ鉄は硝子の次なので彼は近いとも言える。
「納得したよ、それなら仕方ないね。人と話す練習くらいならこの2日間ですればいいさ、さて集まったよ乾いた枝と燃えやすい葉っぱ」
私も見てるだけなのは悪いので、焚き火に使う葉っぱや枝を集めていた、この葉っぱや枝も私なので燃えやすいものを判別するのも簡単なのだ。
「あぁ、ありがとう。硝子級になった以上人と関われないってのはデメリットでしかないからな、お言葉に甘えさせてもらうよ。でもそれなら報酬は別に用意した方がいいんじゃ?」
「律儀だね、いいさ話だけで充分。報酬とかはクライアント側から言われない限りは追加とかはしない方がいいよ?足元見られちゃうからね」
「テントは建てれたし、火をつけてしまおうか。離れてて……<発火>」
そうやって緑帽子くんは魔術で火をつける、魔術が使えるという事はこの子は戦士系じゃなかったか。
「てっきり戦士系だと思っていたよ、魔術師だったんだね」
「え?あぁ、魔術師って訳じゃないさサバイバルに使える魔術をいくつか覚えているだけだ。本格的に鍛えている訳じゃないから戦士でもないってだけ」
魔術というものは体を鍛えれば鍛えるほど使えなくなる。魔力を放出する為の魔力孔が筋肉で埋まってしまうからなのだが、当然一定以上鍛えなければ埋まらないので両方使えるようにある程度で済ませている人もいる。
それでも純粋な魔術師と比べれば弱くなるんだけどね。
因みに一定以上鍛えて魔術が使えなくなった人を戦士、戦士系と言う。魔術や魔法が使えない代わりに身体能力が凄まじく高くなるのが特徴だ。
「なるほどね、仲間が出来たら変えていくつもりって感じかな?」
「まぁそんな感じだ、仲間が出来ても当分は斥候だろうがな。鍵開けや罠解除は得意だし気配遮断や気配察知も一応出来る…アリアさんにはバレたけどな」
私は反則だしね、どんなに気配がなくてもこの森の中ならわかるもの
「私はそういう感知は得意なんだよ、だから一人でこの森にいても大丈夫なんだよ」
「……確かに、こう言っちゃ悪いがアリアさんは強そうには見えないしな」
「実際殆ど戦えないと思ってくれていいよ、あ、でも奥の手はあるから襲ったりしないでね?」
実際私は何とも戦いにならない、一方的に屠るか一方的に屠られるかだ。
「大丈夫だ、そのつもりはないから」
「それはよかった」
そうしているうちに辺りが暗くなってきた。焚き火の光があるので私たちの周りや桜虫君の繭のあたりは明るいけどね。
「さて、食事にしようか。こんなこともあろうかと保存食も用意している。アリアさんは?」
「私も大丈夫だよ、自分でなんとか出来る。」
食事も睡眠も私には必要がないからね、食物連鎖の外にいる私が何かを食べるなんてことしちゃ問題だろう、そもそも普段は身体を持たないのだから余計無駄だし。
「それじゃ、お先に食べさせてもらうよ、はむっ」
緑帽子くんはお肉のようなものを取り出して咥えている
「それはなんだい?」
「ベーコン、安かったんだよ。」
ベーコン、そういえば直接見るのは初めてかもしれない。加工食を直に見る機会はこの森だとそこまで多くないからね、街だとそうでもないのかも
「初めて見たよ、ベーコン。じゃあ私も失礼して」
そう言って私は何処からともなく木の実を取り出す。
「では、頂きます。」
もぐもぐと食べる、フリをする。というのもこの木の実は私の身体を変化させたものだから見た目だけなのだ。
食べても何も減らないし何も変わらない。
「それは何を食べてるんだ?なんかの実っぽいが」
「この辺に生えてる木の実だよ、甘くて美味しいよ。人体に害はないからテオも今度採取してみるといい」
これは事実、浅層の木の中でも栄養価が高く。生物達からも人気なのだ、その上数も多いので競争率は低いし手に入れやすい。
その分売っても安いのだけどね。
「そうさせてもらうよ」
「うん、さて、暇つぶしにテオが石級だって頃の話を聞かせてもらおうか」
「いいけどさ、そんなに面白い話はないぞ。石級の仕事って簡単な採取とか街の清掃とかしかないし」
実際石級はほぼ最低位だから信用もないしね、そんなもんか
「それもそうか、じゃあ将来の話をしよう」
「将来の?」
「あぁ、そうさ。テオは鉄級に上がったらどうするつもりだい?鉄まで行けば別の仕事も出来るだろう?」
「まだ特に決めてない、今は鉄級に上がる事しか考えられなかったからな。」
「そうかあ、探索者の最初の関門が硝子級らしいものね」
「あぁ、これが完全に破損したら石からやり直しになるからな」
そう言って探索者証を取り出して見ている緑帽子君。
探索者証はその位によって素材が変わる。最初は木、次は石のように位と同じ素材が使われているのだ。
なので硝子級はその名の通りガラスが素材となった探索者証の為非常に破損しやすい。
そして探索者証は破損すると位が一つ下がる仕組みとなっている。木の場合は別だけどね。
「頑張っておくれ、でも折角だ。今は時間があるんだから今後のこと、考えてみない?」
「今後……うーん、やりたい事か…」
「なんでもいいんだよ、全ての生物は好きに生きる権利があるからね」
緑帽子君は過去のことは言いたくないのかわからないが自分からは言わなさそうだ、スラム出身って言ってたし良い思い出がないのかもね。
だったら未来の話をして欲しいんだけど、考え込んじゃった
「無理に言う必要はないよ、ごめんね。ゆっくり考えると良いさ」
「……ある」
「ん?」
「一つあるんだよ、やりたい事」
ほう
「いいね、そのやりたい事って何かな?」
「昔、吟遊詩人から聞いた話なんだが、この世界には龍の秘宝というものがあるらしいんだ。それはまだ誰も見つけていないらしいし、どんなものか自体もいろんな説があり分からない。俺はそれを見つけたい、あわよくばそれを手に入れたいと思っている。」
ちょっと霧の森に幽閉されていました。
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