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7話

翌朝、町の近くの森の中の野営地で早速トキコさんのリープの検証が始まった。

ケンタは土の付いた小箱を持っていた


「トキコ、この箱は上級未満の透視に耐性のある魔法道具だ」


「あたしが中古で昨日買った。これで私とケンタの所持金は10万ゼムちょいだから!」


「はい・・」


まだ三つ編みにしてないトキコさんは眠そうに、億劫そうに返事をした。


「この箱は30分前までこの先の森の目印を付けた岩に埋まってた。その前は俺とケムコは飛行箒の朝練を小一時間していた。お前は2時間前には起きて、ちんたら歯ぁ磨いたり珈琲飲んだりビスケット噛ったり、俺達が買った本を斜め読みしたりしてたな?」


「はい」


朝練から帰るとバッチリ三つ編みにしてたトキコさんはスッキリ応える。


「この箱の中にはメモが」


「『すぐ死ぬらしいハヤシライス女』とこのメモに書かれてました」


トキコさんはアラビアンなローブの袖からメモを取り出して言った。

あたし達は目を見張る!


「メモを先回りして確認する為にリープしてこい、ですね? 戻ってきましたよ? リープは死なないと発生しないので、一旦離れて『自爆』スキルで死んできました! これで今日できるループはあと2回ですっ」


ちょっと目が据わってるトキコさん!


「おお・・やるじゃねぇか」


「中々しんどい能力だね・・」


トキコさんのスキルリストにあったリープは実際、使いようによってはホントにチートなスキルだな、と。



リープの力に納得したあたし達はもう一度整理することにした。


「まず、昨日、最初の遭遇でお前は俺にショートソードをいきなり投げ付けられて殺されたんだな?」


「はい、『初級透明看破』スキルを持っているので見えはしましたけど、不意だったので。ケンタ君は私の顔、覚えてたんですね」


「まぁな」


そういうとこあるよね。絶対殺しに来るよね!


「あ、この人達。勇者候補者だ。パーティー組んで動いてる! って思って。ステータスが減らないループ1回目は観察してみようと思ったんです。私も1人で動くのに限界を感じてて」


「わかる。あたしもケンタを拾わなかったら今頃どうなってたかわからないよ」


「拾われてねぇよ! ・・1回目のループは?」


「え~と、2人の会話から、地母神神殿を目指してること、炎の勇者を倒したこと! を知りました。でも私、2人を観察するのに夢中で、『バラジンデ帝国』の『異端審問(いたんしんもん)兵団』に見付かってしまって」


バラジンデ帝国は今いるオブレラ大陸中央部にある軍事国家。正規軍じゃなくて少数の宗教兵だからって、テキトーな大義名分で異端審問兵団は他国領内でもわりとあちこち我が物顔でウロついてる。


「目を付けられてんだな?」


「はい。スタートしたばかりでよくわかってない頃に、リープ能力をうっかり知られてしまって。この能力は勇者候補者しか使えないみたいで、アイツだ! みたいな。私、他の好戦的な勇者候補者とバラジンデの異端審問兵からも逃げなきゃならなくて、もうっ、限界だったんです」


「1回目ループは犯人はケンタじゃないんでしょ?」


「犯人っ?!」


「ええ、逃げ回ってる内に騒ぎになってしまって、ケンタ君とケムコちゃんも逃げちゃったし、追い込まれたし、なんか面倒臭くなって自爆しちゃいました」


刹那的だね・・


「2回目のループは異端審問兵団に会わないように動いたんですけど、今度はそっちに気を張ってる内に変なタイミングで2人に鉢合わせしてしまって、またショートソード投げられて殺られちゃいまいた。2回目はステータスが半減するんで、後手後手になったんです」


「案外、難しい能力だね」


「歴史の『修正力』みたいなのもあんのか?」


「あります! リープ前の最初に時間に起こったことが一番『強い因果』で注意が必要なんですっ!」


ほとんどのリープ物でそうだし、そういう物なのかも?


「最後の3回目はもう賭けでした。2人はすぐ町を離れるようだったし、翌日野営地を見付けて近付くだけでも大変だからっ」


トキコさんが涙ぐむからあたしは頭を撫でてあげた。


「頑張ったね」


「はい、ううっ」


「バラジンデの異端審問兵団か。そういう社会的な組織が絡んでくるのはもっとフェーズが進んでからと思ってたんだけどな」


「天の神系の信仰組織みたいだから、他の人達みたいに『昔の伝説』じゃなくて、もっと具体的な出来事として、備えてたのかも?」


「・・よしっ! 今日はトキコと俺達で本のスキルや魔法なんか、お互い足りてないのを徹底的に補い合おうぜ? でももって明日はそのバラジンデの異端審問兵団とやらにちょっかい掛けてみるっ。トキコがいればやりたい放題だっ」


やる気なんだ。


「え~? 一応言っときますけど、神聖騎士(パラディン)と呼ばれる人達はチートスキルこそ持ってませんが、それ以外は勇者候補者に匹敵しますよ? あと、完全に職業軍人ですし」


「だからだよ? 今の内に、把握しとかないと計算できないだろ?」


「う~ん」


「いいじゃん? ずっと逃げ回ってたんでしょ? 1回やり返してみよっ!」


トキコさんは気乗りしないみたいだったけど、あたし達は『死に戻り前提っ! 異端審問兵団にちょっかい掛けたろ』作戦を実行することになったんだ。



夜が開けるとトキコはしっかり目覚めて、


「まだリープしてないな?」


「0回目だよね?」


と念押しして困惑されたりしたけど、あたし達は再び町に戻った。

異端審問兵団はまだ町に駐留してた。トキコの安全対策はしてる。まず、スプリガンスキルは覚えさせたから忍びの守りは使わせる。

それからそんなに余裕はなかったけどトキコの持ち物で売れそうな物をズンドコ売ってどうにか30万ゼム、お金を作って付けると顔を上手く認識できなくなる『ストレンジャーマスク』というアイマスク型の魔法道具を装備させた。

ただ『気配が薄く、顔がよくわからない人がいる』となると怪し過ぎるから、一応持ってたフード付きマントのフードは下ろしてもらった。

これで生存率アップ!


「お金の使い方が大胆ですね。私、素材収集や狩りが苦手で」


「よくここまで生き残ってきたな」


「まぁ一杯死んではいますけど・・」


「やり方は人それぞれってことだよ!」


そんなことを話しながら、あたし達は異端審問兵団が貸し切ってる宿屋『古山羊(ふるやぎ)亭』の近くの屋根の上まで来た。

宿の前には宗教的な装飾されたチュニックを鎧の上から着た若い兵士が2人見張りをしていた。


「よし、取り敢えず1人は拉致って生成してみた『自白剤』と『初級催眠』スキルで情報を引き出して、トキコに伝える」


「あとは、トキコさんに護衛を2体置いて」


あたしは分身を2体、トキコさんの側にポフンっとだした。


「ウチら2人でそのパラディンとかいう人にカチ込むんだよね? 向こうはなんも悪いことしてないけどっ」


「いや、でも狙われてんだろ? 普通に敵だろ?」


「まぁ、ループでリセットできるなら」


「あの!」


トキコさんが急に切り出してきた。


「この世界の死は通常3段階です。『死亡(デス)』『灰化(アッシュ)』『消失(ロスト)』。ロストまで行くと『蘇生不能』ですが、デスとアッシュは『蘇生可能』です。ですが・・」


私達の目を強く見て言うトキコさん。


「勇者候補者は、どの段階でもたぶん蘇生できません」


え?


「私はたまたまリープを使って死亡時自動蘇生する『不死鳥のアンク』というアイテムを手に入れたことがあります。何度検証しても私が死ぬとリープが起こりました。試しに死ぬことが確定してる病気の野良猫に持たせてみると、その子は死んですぐにアイテムの力で元気に復活しました。・・私達だけは、きっと蘇生が無効なんです」


あたし達は息を飲んだ。


「たぶん決着が長引くことや、私のような能力者が勇者に対してもチートになってしまうから、そういうシステムを神が削除したんだと思います」


「他の勇者の死にリープも利かないのか?」


「いえ、それは問題なく効果あります。私がリープするまでの間に決着が着いた他の勇者同士の戦いはまた最初からでした。死んだ勇者の蘇生が、そういった種類のチートスキル以外ではたぶん無理なんです。なんというか、私に会って、少し麻痺してしまった感じがしたので・・この世界で、私達の死は取り返しがつかない、と忘れないで下さい」


正直、あたしとケンタ、どちらかが死んでも、死体があればコンテニューできるかも? とは思ってた。

トキコさんに会って余計、そんな感覚は強まってた気は確かにする。


「わかった。気を付けるよ」


「最初は後先無いと思ってたし、むしろわかり易くなったぜ!」


あたし達は腹を括り直して、トキコさんを屋根に残して異端審問兵団が詰める宿屋に向かった。

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