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5話

あたし達が今いるのは『オブレラ大陸』の南西部。目指す地母神神殿はこの大陸の南西の端から海を越えて先にある北海道くらいの大きさ(広っ)の『ベザン島』を越えて、さらにその先にあるはずの『ムォ・ラキ神島(しんとう)』!

この世界に航空機はないみたいだけど、飛行して乗れるモンスターや飛行系の魔法道具は結構ある。それでもかなり遠い。

要所要所に転送門(てんそうもん)っていうテレポート装置はあるけど、過去の勇者候補者達はその近辺で戦闘になることが多かったみたい。待ち伏せだね。

あたし達は避けることにした。


というワケで、移動手段は・・


「危なっ! 危なっ!」


「足回りにも力入れろよっ? この速度だとそこら辺の草でもザックリいくぞ!」


あたし達は森の中をもうダッシュしていたっ!

よく漫画とかアニメで見る件だけど、実際自分が森の中を『自動車並みの速さ』で走るとっ、もうぶつかりそうで! 躓きそうで!


「ケンタ! 無理だよこれっ、遠回りでも平地行こっ!」


「う~っ、飛行系スキル、やっぱもっと必要かぁ・・」


あたし達は茂みも地面もガリガリ削って、森の動物やモンスター達をギョッとさせながら止まった。

あたしは『位置表示』のスキルでマップと現在地を宙に表示した。


「近くに村がある。休憩ついでに飛行系の魔法道具と、対応した本とか買おう。というかいい加減、装備も買った方が良くない? ずっと布の服と檜の棒だし・・」


所持金は狩りの成果で合わせて『400万ゼム』を越えていた! ドンっ。田舎の村なら家買える。『家買える資産』ドンっっ!!


「『スプリガン』スキルは当たりスキルだ。活用したい。こっちが間抜けで初期装備のままだと油断させる! あと数日くらいはギリでバレないと思うんだよな」


たまたま買った本に詳しく習得のコツが乗ってたスプリガンのスキルは、宝物庫のアクセサリーの効果を複数個任意で引き出せる!

あたし達は取り敢えず防御力を上げる『鉄亀の守り』、攻撃力を上げる『蛮族の守り』、気配を悟られ難くなる『忍びの守り』の3種に常時適応させてる。


「装備はわかったよ。でも、アクセサリーも別の村なら違うのあるかも?」


キャンプ料理ばっかり飽きてきたしっ、お風呂も『ウォッシュ』と『ドライ』の魔法で済ますだけじゃもう嫌!


「・・海辺に着くまで人家に寄らないつもりだったが、今のスキルと魔法の構成じゃ海辺じゃ離脱も難しいし・・少しは寄るか」


よっし、お風呂! 御飯! 買い物! うぇいっ。

浮かれたあたしだったけど、



・・・甘くないんだな、て。勇者候補者の争い、て。チートスキルを好戦的な人達にやみくもにバラ撒く、て、こういうことなんだな、て。


「酷いっっ」


「これくらいは想定済みだぜ。むしろよくある定番展開だぜ? ・・実際やるヤツはクソだけどな」


既に鎮火して煙だけが上がっていたけど、村が焼き払われていた。根刮ぎ! 全滅だよっ。

村を覆ってた魔除けの付与された城壁は殆んど無傷。モンスターの仕業じゃないし、魔除けが利かない相手だってこと。タイミング的にも、ほぼ確定で勇者候補者の仕業だよっ。

村には領主か近くの村か自主的かはわからないけど、傭兵の人達がいくらか来ていて検分していた。

ケンタが透明になるのも忘れていたから、あたし達は見習いの魔法使いのコンビとして話しを聞くことにした。


「炎の魔人に襲われたらしい」


「最近、世界中で魔人が暴れだしてるとか・・」


「伝説にある『勇者候補者の争い』じゃねーだろうな?」


「領主に報告してるが、このレベルの災厄を起こす魔人は国で対応しないと無理だ」


傭兵の人達はお手上げみたいだった。他にもめちゃくちゃしてる人達いるんだ・・


「ソイツはどの方角に行った?」


透明になってないからフードを不自然なくらいに下げてるケンタが聞いたから、傭兵の人達はギョッとした。


「お前、無理だぞ? 話聞いてたのか?」


「あっ、違いまーす! これから旅をするのにそっいは避けたいな~ってっ! ねっ?」


あたしは慌てて間に入った。安心した傭兵の人達は、炎の魔人らしいモノが西方向に一帯のモンスターの主等を襲って回って移動しているらしい、ていうのと、その先にエルフ族の集落があるから避難をさせたいが、連絡手段がないからどうしようもない、と言って項垂れてた。


あたし達は何食わぬ顔で、焼け跡の村を離れた。


「どうするつもりなの?」


「殺す。1人でもやる。間違いなく、強スキル持ちで、ほっとくと成長するに決まってる。ただ属性がわかりやすい。仕入れといた素材を『初級合成スキル』で掛け合わせれば、殺れる」


「・・協力する」


「正義の味方のつもりならやめとけよ?」


「勿論許せないけど、あんなことする人は、あたしが勇者候補者を辞めてても見逃してくれない。それに他にもいるならやっぱ、1人で旅するの嫌だよ」


「リスクの勘定があべこべな気はするが、俺はこの機会を逃さないしケムコがいた方が勝率高い。・・連れてく!」


「うんっ!」


あたし達は仮に『炎の勇者』とする人を倒すと決めた。

それから約3時間後。



悲鳴が上がる。森で取れる素材を集めに来てたらしい耳の長いエルフ族の3人組の内、1人が消し炭にされた。コイツっ。

圧倒的な力の差に残り2人は絶望していた。


「んんん~~~っっ。いい顔だな。『真実』がある。この世の不条理に『何も抗えはしない』という」


炎の勇者は老人だった。武器は無く、防具はボロボロの炎の属性のローブだった。

・・もう少し、近付きたい。


「私なはぁ、12年、寝たきりだった。身体のあちこちが殆んど腐り掛けてたんじゃないかなぁ? 親族と不和でねぇ。訪問介護は週に2度。食事は介護士が来ないと日に一度。流動食だ。会話がままならなかった。安楽死の法も無い。私は、年金を満額払っていたから。障害手当があったから。介護費を最低限度に絞れば『生産性があった』。誰も私を殺さない」


武器を焼かれ、脚を焼かれ、失禁して、震えるエルフ2人にゆっくり近付いてゆく炎の勇者。


「7年訓練して、呼吸を自力で止めて、ようやく死ねた。この焼け付く痛みををを、分かち合いたいんだよぉおおおっっっ」


炎と一体化して、気絶しそうなエルフ2人に迫る炎の勇者! もう限界っ。

あたしはあたしに触れて透明の力を伝播させてたケンタから離れて飛び出し、姿を表したっ!


「トルネード! アクアナイフ×7っ!」


竜巻で手負いのエルフ2人を遠くに吹っ飛ばしてっ、水の刃の7連発で爆発的に水蒸気を起こす!


「くっ?」


こっからホント、嫌だけどっ。ケンタの避難、間に合ってるといいけど!


「ブリザード×4っ!!」


充満した水蒸気ありきでっ、あたしは自分も捲き込んで猛吹雪を巻き起こした!!!


パキパキパキパキィイイッッッ!!!!


あたしと炎の勇者は凍り付いた。死ぬ程キツいっっ。でももう一段、リアリティーっ、必要でしょ!


「マナ・・ボム×3っっ!!!」


自分も凍ったまま、気合いで炸裂魔法の3連発を凍った炎の勇者に放つっ! 爆発が起こるっ。


「やった?」


そうあたしが言った瞬間っ! 炎の濁流があたしを飲み込んで背後の森ごと消し飛ばしたっ。


「ふぅうううっっ、透明の力、か? この世界の魔法まで覚えて、捨て身で、惜しかったな。まだ若かった。希望がある。原住民を助けようとした。善心もある。『勇者というモノに相応しい』だが、『真実は絶望に何も抗えはしない』のだ」


爆破でバラバラになっても結合部を炎と化して、破壊自体を無効化していた炎の勇者はローブごと生身の身体に戻って、すぐに蒸発する涙を溢した。


「ああ、悲しいなぁ。この世は悲しみに満たされている。皆にそれを伝え」


ドッッ!!!


忍びの守りに加えて『暗殺』『静寂』『無臭』『秘匿』のスキルを多重に掛けて、背後からから青白く輝く液体を塗り付けた檜の棒で正確に実体化した炎の勇者の心臓を貫くケンタ!!!

あたしも炎の勇者の前に分身を3つ出す! さっき死んだのも分身っ!


「ごぉっ? おおおおぉぉっっ???」


燃える血を吐いてっ、心臓から身体が凍り付き始め、上手く炎の姿に変身できない様子の炎の勇者!


「ややこしい言い回ししてっけどっ、『自分が不幸でムカついたから八つ当たりしてます』ってハッキリ言えよ? クソジジイっ!!」


指先、爪先、頭まで凍り付いてゆくっ!


「ケムコっ、見張ってるだけでいい!『氷結毒(ひょうけつどく)』と・・ブリザード×5っ!!!」


さっきのあたし同様、自分も凍り付いても内部から冷気を叩き込むケンタ! あんた『本体』だからねっ?


「ひぃいいっっっ!! 寒いぃいいーーっぅ!!!!」


あたしの分身の1人を本体に指定して、残り2体を消し、檜の棒を逆手に構えた。


「おいっ、ケムコ! お前は殺らなくていい。抜けんだろっ?」


「勇者候補者の争いは抜けるっ。でも、『ケンタの仲間』は辞めてない! ・・スキルっ」


あたしは飛び付いてっ、交錯様に凍って苦しむ相手の頭部に素早く連続斬りを放ってズタズタに切断した!!


「『霞連剣(かすみれんけん)』」


ケンタの近くに着地する。もう抵抗がなくなって、炎の勇者にされたお爺さんは完全に凍り付いて砕け散り、氷の塵になって消えていった。


「お前、ムキになるとこあるよな? ほら、回復薬(ポーション)


ケンタは宝物庫から取り出したポーションを投げてきた。あたしも宝物庫からポーションを取り出してケンタに投げた。

2人で飲む。


「はぁ~、蓬と煮込んで冷ましたネクターって感じ」


「だなっ」


2人で顔をしかめたけど、事態に駆け付けたらしい集落のエルフ達の気配を察して、あたし達は近距離テレポートでその場を離れた。

これが、あたし達が初めて手に掛けて勇者候補者との戦いだった。

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