3話
ケンタは宝物庫からドサドサとしまっていた物を出した!
美味しそうな謎の果物3種類をバケツ一杯分くらいずつ。
大小のただの石ころ段ボール1箱くらい。
包んだり結んだりするのに良さそうな大きな葉っぱと蔓も段ボール1箱くらい。
それから仕止められた鹿みたいな大きな生き物っ! と、その子から切り取られた大きな角!
「おーーっっ。ケンタ! 起きてからの何時間かでこんな集めたの?」
「あったり前だ。能力の確認なんてそんな時間掛からないだろ? お前、モンスター倒しても素材拾ってないし、すっトロいんだよっ!」
「ぐっ、言い方!」
でも確かに迂闊だったかも?
「このフルーツは食えた。石も俺達が投げりゃ大砲だ。まぁお前が遠距離攻撃タイプだったら居場所教えるだけだから使わなかったけどよ・・この鹿っぽいのはたぶん売れる。特に角!」
「果物、食べれると言いつつ毒じゃないでしょうね?」
疑うあたし! ケンタは鼻をふんっ、と鳴らして3種を次々食べ出した。
「もごっ、問題無いだろ? 最初、俺が身体張って確認したんだからな?」
「おお・・」
イケるとわかったら果物に釘付けになった!
「食えよ? こうなったらケムコが動けないと、俺にメリット無い」
「そう? そこまで言うならしょうがないなぁ。・・ダイエット中だけどね?」
「ブン殴るぞ?」
「わかったよっ、頂きますっ!」
あたしは夢中で3種のフルーツを食べた! 不思議な味だけどっ、水分も取れたし、満腹!!
それからあたし達は森を進んで、その先にあった木の塀で囲われた村の中に入ったんだっ。
「ふぁ~っ、テーマパークみたい」
文明は洋風で近世? くらい。産業革命のちょっと前、って感じ。ただ、石炭製品は見当たらなくても時計塔はあったり、村や村人達の身なりがそこそこ小綺麗だったり、治安が荒れてる感じはしなかった。
人間以外の種族は耳の長いエルフ? 小柄でずんぐりしたドワーフ? ドワーフより小柄で耳は大きめなホビット? あとは獣人っ! 兎人間! 犬人間! トカゲ人間とかもいたっ。
比率は人間6に他の種族が4くらい。ハーフやクォーターっぽい人達もいた。
言葉は全部わかるけど、知らないはずの言語だから慣れるまでちょっと頭ん中がぞわぞわする感じ。
「あんまキョロキョロすんな、『目的』と『順番』。間違えるなよ?」
透明のスキルで姿を消してるケンタが耳元で囁いてきた。こそばゆいっ。
2人で村に入る前に先に姿を消したケンタに偵察してもらってた。場所や村の様子はざっくりとは把握してる。
ここに来るまでにゲームとか漫画とかアニメに詳しいケンタから『こういうジャンル』についても色々聞いたし、偵察の情報と自分の体験と擦り合わせれば『完全な未知の場所』でもない! ・・はず。
「OKケンタ、案内して」
「俺はAIじゃねーよっ」
ちょっと引っ掛かるとすぐ突っ掛かってくるケンタに辟易したけど、あたし達は手筈通り、買い物をした!『わらしべ長者』的な段取りだよ?
あたし達が神(自称)から与えられた小銭は1人につき、20万ゼムだった。物価は共通する物は大体日本とおんなじだったけど(チーズと玉葱を挟んだ一食分のパンが300ゼムくらいで売ってる。美味しそ!)、物によっては高かったりもした。
例えば、あることはあったやたらサイズの大きいマッチ(スマホやタブレットのタッチペンくらいあるっ)なんて1箱4000ゼムもした! 高っ。
やっぱり売ってた、基準がわかりにくい『鉄の剣』とかは50000ゼムくらいで売ってる。日本で刀買ったらいくらだっけ??
この辺も踏まえて、まずあたしは旅装服店で、『フード付きのマント』と2人分と、『布の服』をあたしがボコったから服がボロボロなケンタ分、それから下着もまあ3組ずつ買った。ケンタはブラいらないけどっ。
しめて27000ゼム!『服の色味が好みじゃない』とかケンタに文句言われたけどっ。
次に目立たないようにフードを下ろして『傭兵』と呼ばれる何でも屋的な人達がたむろしてる酒場兼仕事の斡旋所になってる店に行って、仕事の張り紙を確認するフリしながら、傭兵の中でも『魔法使い』と呼ばれる人達を観察するっ。
この人達の内、特別強そうじゃない人達もそこそこモンスターを倒してることや、宝物庫のスキルを持っていることを改めて確認。
その足で、モンスターの素材を売る店に行って「風系の魔法で不意打ちで倒したんだ」と新米魔法使いっぽいことを言って、ケンタから預かってた『クラブホーン』という名前だった鹿みたいな名前のモンスターの角を出して19万ゼムで売却っ!
同じ要領でクラブホーンの身体の方もモンスターの食肉を取り扱ってる店に持っていって8万ゼムで売却っ!
そしてこっからが本番! あたし達は合わせて643000ゼムを持って、『古本屋巡り』を始めたっ。
このアリエスティア世界は『本の値段』がめちゃ高いっ! 日本の10倍は高いっっ。こんだけ高いと軽い内容の物はほぼなくて、どれもギッチリした専門書ばかり! サイズも大きくて表紙も分厚く、図書館にある百科事典みたいなのばっかり。
「まずは基礎的な情報だ。俺達には言語万能と高速学習のスキルがある。体力もあるし疲れてもすぐ回復する。スタートのここで一気に必要な知識を得る! 知るだけで使えるスキルや魔法? もあるはずだしなっ」
森でケンタはかなり悪い顔で言ってた。それはそうだよね、あたしも(本とか買った方がいいかも?)とは思ってた。
というワケで、魔物図鑑を2冊、魔物以外の生物図鑑を2冊、野外活動知識関連を2冊、スキルや魔法や装備や道具関連を4冊、この世界の社会の成り立ち常識関連書籍を5冊、少ないけどあった勇者候補者の争い関連書籍も2冊購入した。
しめて528000ゼムなり! 残金
115000ゼムっ。うおおっっ。お金減ったぁっ。
「目立たない場所で勇者関係と魔法とスキルと野外活動の本だけはまずざっと読んどくぞ? あとはキャンプ用品を」
「お花」
急、だったんだよ・・
「お?」
できれば切り出したくはなかったよっ。
「実は我慢してたんだけど、本屋をウロついてる内に急に限界が来てたっ! お花を詰みに行きたいんだよっ?」
「・・チッ。実は俺もだ。『森に戻る』まで持つか? 俺は持たないっ。路地の陰とかじゃ済ませられない方だ!」
森に戻る、って感じの生活になんのね。
「あたしもっ、お花を摘むのに一定の労力が必要な方だよ!」
「この世界の酒場はガラが悪い。家族連れとか入ってる店行くぞ!」
あたし達はそれらしい『キッシュとピザの中間みたいな物』を出してる表通りの店へと走りだそうとしたけど、この状態で走るのはリスキーだから2人とも爪先立ちみたいなポーズで早歩きし始めたっ!
くっ、勇者候補者の争いにこんな罠があるなんて!
「ケンタ、個室入る時姿消してたら怪し過ぎない?」
「店ん中で消えたり出たりしたらオカシイだろ? つーか、ケムコは分身に『ブツ』を移せないのか?」
「え? ・・試すの嫌過ぎるよっ」
「軟弱なヤツ!」
「うっさいっ」
あたしはすれ違う村の人達に不審がられながら透明のケンタと小声で言い争い、2人で『お花が摘めるはずの店』に突入していったんだ。
・・・・・ふぅ~っ、セーフ!!!