1話
あたしは怪霧田煙子中学2年生。身長153センチ、視力両方0,2。ニックネームは『ケム子』。
卓球部だけど2年なのに部内最弱っ! 父が再婚した結果、ウチに来た義母は連れ子の義姉(高1)だけ可愛がり、読モでSNSフォロワー10万越えでバスケ部のキャプテンと付き合ってる義姉は成績も良く、私のことは『スルー』している!
友達は卓球部の卓球下手なメンバー数名と、同じクラスの同じように地味な子達数名。正直、草食動物がサバンナで固まって自衛してる、って感じで友情とかたぶん無い、っというか学校以外ではショートメールで部や授業や学校行事や、最近ヤバそうなイジメっ子グループの動向を確認し合うだけ。
運動したら身長伸びるかも? スクールカースト上がるかも? と半端に体育部に入らず、素直に緩い方の文化部に入ればよかった・・
なんて考えながら部活を終え、仮初めの部活友達とも駅のホームでサバサバと別れ、部活の無い金曜日の予備校の予定をスマホで確認しながら横断歩道近くの歩道を歩いていると、
ブォオオンッッ!!!
暴走するトラックが赤信号なのに横断歩道に向かって走り込んできたっ。居眠り運転だ!
横断歩道には母親と手を繋いであるく幼稚園くらいの男の子っ!
えっ? えっ?? えーーっっ?!!
私は無意識に走り出しっ、身をすくませている母子を突き飛ばし! そして、
ドンッッッ!!!!
軽いあたしは錐揉み回転でブッ飛ばされた。
こんな回転して逝っちゃうんだあたし・・必殺技みたいになってるじゃん?
ああ、お父さん、ごめんなさい。部活とクラスで仮初めの友達をしてくれた皆、本気で友達できなくてごめんなさい。部活も勉強も半端でごめんなさい。
あとは、まぁ、彼氏とか、欲しかったな・・
・・
・・・
・・・・っ!
「はっ?!」
あたしは半透明になった全裸の身体(半透明の眼鏡は掛けてるっ)で遺跡? な欠片が漂う奇妙な空間に浮いていたっ!
さらにあたしと同じような日本人っぽい男女が大勢いたっ。何コレっ??
(勇者候補者達よっ!!)
頭に直接響く声っ、あたし達の前に巨大な壁みたいな物が出現した。その壁には幾何学的な模様と目玉がいくつもあった。
騒然となるあたし達っ。化け物だ!
(我はこのアリエスティア世界の神っ! 汝達には『強靭』『回復力』『全種耐性』『高速学習』『言語万能』『宝物庫』に加え、適性による『固有スキル』を与える)
『分身』と続けて頭の中に響いた。分身??
(高め、競いっ、至高の域に達したただ1人が真の勇者として、この時代の魔王に挑戦する資格を持つ! 見事を魔王を倒した者にはっ、我が神力の限りで願いを叶えてくれようぞっ!!)
ええ~? 一方的過ぎるっ。あたしは混乱したけど、
(ではゆけっ、勇猛と慟哭の果てにっ! 栄光あれっ!!!)
神だっていう壁はまばゆい光を放って、あたし達は飲み込まれていった。
私はパッチリと草の匂いの強い風の中、目覚めた。人生でこんなに急に起きたこと、たぶんなかったよ。
「・・え? というかっ」
草地の上で身体を起こしてみたら、あたし、引き続き全裸だったっ?! 実体あるしっ。
眼鏡は掛けてないけどめちゃ目えてるしっ。
「うおおお~いっっ??」
あたしは1人で縮こまって慌てててしまったが、少し冷静になると、自分がただ1人で草の丘の上にいることに気付いた。近くに1本木が生えている。
「え~? というか、あの親子大丈夫だったのかな??」
一応、胸と下を隠して立ち上がってみる。うおおっ、屋外で裸になるのたぶん赤ちゃんの時以来じゃないかなっ?
「結構解放感あるかも?? って、言ってる場合かい!」
自分にツッコミつつ、
「あ」
感覚的に、持ってる、とわかった。
「こういうこと?」
迷った挙げ句、下だけ隠して片手を差し伸べると近くの空中に円い図形みたいな光が出て、その中に手を入れることができた。わかる! あたしはそこから簡素な布の衣服を取り出した。靴もあった。サービス?
「おおっ、よしよし! これが宝物庫?」
名前の割に地味な品揃え。とにかくあたしはそそくさとそれを着込みだした。パンツはトランクスっぽい。ブラはスポブラ的だけどあんま生地は柔らかくない感じ。靴は底も付いてるけど簡単な布靴。
全部着終わると、ゲームとか、演劇の衣装みたいだった。村人Aって感じ?
「まだあるね・・」
取り出してみる。柄に布が巻かれた、ただの棒。と単位は『ゼム』と読める謎の硬貨の入った小袋。
「棒は、こんなんでどうしろっていうんだろ?」
あたしは何気なく棒を振ってみた。
スパァンッッ!!!!
想像を越える速さと力で振れてっ、衝撃波が出て近くの木の幹を切断してしちゃった!!
「え~っっ??!!! そんなパワーあるのっ??」
どうしよっ? 街中で気軽に素振りできないよっ。
「落ち着け、落ち着けあたしっ。他にもなんか言ってたよね? 分身、とか? ・・っ!!」
これも感覚でわかる。できる、と。あたしは忍者っぽいポーズをしてみた。
「ニンニン、みたいな?」
ボフンッ!!!
煙と共にあたしと同じ格好をして、棒と小銭の小袋まで持ったあたしが数十人現れたっ!!
「えーっ?!」
「「「えーっ?!」」」
あたしと同じ反応で同じ声を上げるあたし達っ!
「怖っ、無理!」
あたしは分身のあたし達をすぐ消したっ。
動悸、息切れ、冷や汗が凄い!
「はぁはぁ・・えーと、ゲーム? 仮死状態でVR脳治療かなんかで?? いやっ、どっちにしろ、コレ、他の人達とバトルロワイヤルする感じだよね? はぁ~、そういう系のヤツ、あんま好きじゃないのに!」
苦手だけにバトルロワイヤル物の知識は薄かったけど、薄いなりに整理すると、
1、状況わかってないプレーヤーはすぐ死にがち
2、裏切りがある
3、その内、チーム戦になる
そんくらいかな?
「・・取り敢えず、この世界とか、自分の能力のルールを把握した方がいいんだよね? またすぐ死にたくないしっ。というか何コレっ?! 死んだら普通にあの世に行くとかでいいよぉっっ」
あたしは半泣きになりつつどーしようもないから、また分身を今度はどうにか絞って棒や小袋を持ってない状態で3体出してみた。
普通にやると同じ動きだったけど、違う動きできないかな?
「じゃ、じゃあ踊ってみて?」
分身のあたし達は暫く無言、無表情だったけど(怖過ぎっ)、やがてぎこちなく無表情でバラバラに踊り始めたっ!
「怖っ、自分が怖っ! もぅーーっっ、無理だよ~~っっ!!! 」
あたしはポカポカ陽気の謎の草地の丘で、自分の周りで不気味な踊り続けて回る自分達に囲まれて絶叫したんだっ。最悪!