第八話『THE5人組』
☆★☆ 夏が来た ☆★☆
夏休み直前「学童保育で使っていいよ」と畑の一部を父と兄から譲ってもらった。
施設正面から見て右側にあった、10m×10m(1a)くらいの枝豆畑だ。
もちろん枝豆は既に収穫済。
学童たちにも収穫を手伝わさせてもらい、俺たちはまた、貴重な体験をすることが出来た。
特に、冬子ちゃんとタツヤくんが1年生のサキちゃんとハナちゃんに対して、いろいろ注意したり教えたりと甲斐甲斐しくお世話してくれている。
冬子ちゃんが可愛いのは当然だが、タツヤくんも可愛い。
眼福である。
そして俺たち学童は収穫した枝豆を施設内で塩ゆでし、その場でいただきました。
余った枝豆(塩ゆで済み)は、当然のようにお母さんへのお土産。
今回のは、お父さんへのお土産になるのかもしれない。
ところで、じいちゃんが飲んでる湯吞みの中身……まさか、酒じゃないだろうな?
☆★☆ THE5人組 ☆★☆
俺は中学生で、学校では当然授業で英語を習っている。
夏休み。
恒例の『THE5人組』がやって来た。
英語を習ってしまった俺はもう、この5人には『定冠詞』の『THE』をつけずには済まされない。
それほどまでにインパクトが強い。
「先生! 今日からまたよろしくお願いしますッ!」
あれ? 今までと比べてなんか行儀が良くなってないか?
一瞬あっけにとられたが気を取り直して外に集合。
「並べ」
言う前に並んでいた。
「構えろ」
言う前に構えていた。
タツヤくんと冬子ちゃんも並んだから釣られたのかな?
サキちゃんとハナちゃんも並んで構えの真似をしていた。
うわ、めっちゃ可愛い。
また、賑やかな夏が始まった。
☆★☆ シゲは硬派? ☆★☆
空手の型の稽古を終えた俺は、今年の夏の作戦を実行に移す。
つまり
「夏休みの宿題を持ってこい」
これが作戦開始の号令だ。
俺の号令に、シゲが真っ先に反応した。
「今度は何があるんだ?」
フッフッフ……
「宿題が全部終わったら説明するが……ヒントは『探検』だ。それ以上は絶対に言わん」
「「「「「オオオーッ!」」」」」
相変わらずこの5人はノリが良い。
だが逆に学童組の4人は大人しい。
特にサキちゃんとハナちゃんは今まで男子が、優しいタツヤくん1人だけだったのに、急にガサツな男子がいっぱい来たことで若干怯えている。
「そのためには――「みんなッいったん帰るぞ! 宿題を取りに行くんだッ」」
「おい!シゲ、まだ俺の話の途中だッ」
俺はシゲの頭をがっちりと掴む。
俺の手は学年の割には大きいし、実は背もかなり高い。
それに、父や兄程ではないが、クラスメイトに比べれば筋力もかなり強い。
まあ、農家だからな。
つまりそんな俺に、怒られるとでも思ったのだろうか、シゲがちょっとだけ怯えた。
「宿題は明日からだ。今日は1年生のサキちゃんとハナちゃんに優しくしてやって、仲良くなれ」
「なッ! ……お、俺が女なんかと仲良くできるかよッ!」
な、まさか……? シゲは硬派? 硬派なのか?
そう言えば去年も冬子ちゃんに一切手を出していなかったな。
俺にべったりだったから単に近付きにくいのかと思ってたぜ。
だとしたら、こいつなんかカッコイイな!!
だが
「あ、じゃあ僕が仲良くするよ」
お、コイツは3年生になった『カズ』だな、やっと名前を覚えた。
「カズ、良く言った。この件はお前を頼りにするからよろしく頼むぜ」
おれはカズの頭をワシワシと撫でた。
そうしたら
「カズ……ズリイぞ…… お、俺も、俺だって仲良くする……」
シゲ……お前硬派じゃなくて単なる恥ずかしがりやさんだったのか~?
「はっはっは」
面白いな……こいつら
☆★☆ 頼れるお兄さんたち ☆★☆
THE5人組は驚くほどの早さで、サキちゃんとハナちゃんのハートを鷲掴みにした。
その速度たるや正に『電光石火』あるいは『疾きこと風の如し』
サキちゃんとハナちゃんの眼中にはすでにタツヤくんの姿など無い。
頑張れ……タツヤ
宿題の方も驚くべき速度で終わらせてしまった。
こいつらみんな『サンデーサイレンス』産駒か!?
ただ、答えがちゃんと合っているのかは不明だ。
俺はそこまで面倒を見るつもりは無い。
たとえこいつらに『先生』と呼ばれていても、俺は本当は、ただの中学生なのだからな。
だが、速攻で宿題を終わらせた『THE5人組』がサキちゃんとハナちゃんの勉強を見てあげている様子が凄く絵になっている。
見事にサマになっているのだ。
もう、頼りになるお兄ちゃんたちって感じだ。
だがまだ、タツヤくんには自分の宿題があと半分ほども残っている。
ヤバイよヤバイよ~? タツヤのサキちゃんとハナちゃんが寝取られちまうぞ?
頑張れタツヤ……俺だけは多分お前の味方だぞ。多分。
「カズおにいちゃんって凄いね。どうもありがとう」
ハナちゃんが完全にカズ(3年生)に懐いた。
「ツバサおにいちゃんありがとう!」
サキちゃんも完全にツバサ(タツヤと同じ2年生)に懐いた。
あれ? シゲは?
「おい、おまえ、2年だよな?」
「う、うん……」
「そこの漢字、『おこなう』は『行なう』じゃなくて『行う』って書くんだぜ、俺よく間違えて学校のほうの先生に何回も怒られたからよく覚えてるんだ」
シゲはタツヤに勉強を……丁寧に教えてあげていた。
考えたくはない事だが……
まさか、シゲは……?
タツヤくん、自分の身は自分で守ってね? 学童保育の先生とのお約束だよッ!
俺も、シゲに対しての警戒レベルをMAXにまで引き上げた。