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第七話『子供の成長と俺の成長』

☆★☆ タツヤくんの台頭 ☆★☆



 学童が4人になって、一ヶ月が過ぎた。


 新1年生たちが施設に慣れたころに突入したゴールデンウイークも終わり、学童保育がまた活気を取り戻し始めた。


 そんなある日。


「タツヤおにいちゃん、おままごとしよ?」


 実は最近、2年生のタツヤくんが、1年生の女の子たちにモテモテである。


「うん。いいよ」


 元々優しい性格のタツヤくんは、冬子ちゃんと1対1では十分に発揮できていなかった『優しさ』と言う必殺(スキル)を存分に発揮し始めていた。


 消極性と恥ずかしがり屋と臆病と言う弱点の壁を少しだけ乗り越えられたみたいなのだ。


「わたしがタツヤおにいちゃんと夫婦だよ」


 サキちゃんが仕切る。


「わたしもタツヤおにいちゃんと夫婦がよかったのに……」


 ハナちゃんが泣きそうになっても、サキちゃんは譲らない。


「わたしが先に言ったんだからダメ」


「サキちゃんは昨日もお嫁さんだったじゃない!」


 ハナちゃんは既に涙をボーロボロ。


 そんなハナちゃんを見るに見かねて俺が間に入ろうとした瞬間だった。


「だったら二人ともお嫁さんになってよ。ボクは二人とも好きだしその方が楽しそう」


「「え~!? 二人ともじゃ嫌~」」


 それはそうだろうと俺は思っていたのだが?


「二人とも幸せにするからさ、ね?」


「う~ん。わかった……じゃあわたしが1番の奥さんだよ」


 サキちゃんはちょっと気が強い所があって1番を主張するが、タツヤくんは


「ダメ、奥さんに一番とか二番とかは無いの。びょうどうに愛するんだよ」


 その言葉にハナちゃんが喜んで、タツヤくんに抱き着いた。





 なんだこれは?




 タツヤくんの将来が心配だ。




☆★☆ 根に持つタイプのタツヤくん ☆★☆



 最近、タツヤくんが冬子ちゃんに話し掛けていない。


 冬子ちゃんも冬子ちゃんで、最近は俺ばっかりにべったりだ。


 そんなある時、たまたま女の子だけでの遊びが始まり、タツヤくんが一人遊びをしていたから、俺はタツヤくんと冬子ちゃんはどうして一緒に遊ばないのかと、聞いてみる事にした。


「なあ、タツヤくん。最近、冬子ちゃんと遊んでないみたいだけど、どうしたの?」


 その時、タツヤくんはちょっと拗ねたような表情で


「イチゴ……」


 と言った。


 パンツの柄かな? いや、これは冗談。


 俺は何のことだか良く分からなかったので、


「イチゴがどうしたんだ?」


 と、聞き直す。


「ハナちゃんたちがさ、初めて来た日に、ぼくも一緒にイチゴ、取りに行きたかったのにさ、冬子ちゃんがさ、『来なくていい』ってぼくに言ったからさ、冬子ちゃんとはもう遊ばない」


 拙い言葉ではあったが、それだけに心の重みを感じた。


 あの時から既に一ヶ月半。


 タツヤくんは案外根に持つ男の子のようだ。



☆★☆ 俺もおままごと? ☆★☆



 冬子ちゃんが


「お兄ちゃんと一緒におままごとしたい……」


 と言って、誘って来た。


 そうそう、俺を『先生』と呼ばないのはもう冬子ちゃんだけだ。


 サキちゃんもハナちゃんもタツヤくんに影響されてか俺の事は早い段階から『先生』と呼んでいる。


 俺、まだ中2なのにな。


「だめ?」


 くッ! 冬子ちゃんの上目遣い、あざとい程に可愛い……そして可愛い過ぎる


 周囲を見回すと、タツヤくんたちも3人でままごと遊びをしている。


 相変わらずで、今回は2人とも恋人と言う設定のようだ。


 やるな、タツヤくん……


 クズにはなるなよ。


「だ…め?」


「いいよ」


 たまにはこんな日があってもいい……毎日でさえなければ。


「じゃあ、私たちは夫婦ね」


 こうして、俺と冬子ちゃんは夫婦の設定でおままごとを始めたのだが……


 これは本当におままごとなのだろうか?


 やってる事はあまりいつもと変わらない。


 俺にベタベタくっついて来て、抱っこしたり抱きしめたり。


 少し違う所と言えば、ほおずりして来たりほっぺにチューしてくるくらいか?


 冬子ちゃんの中で『夫婦』と言うものがどういう風に理解されているのか、俺には良く分からなかった。


 だが、例えいつもと同じことをしていたとしても、役割を演じているつもりでいると言う気持ちが重要なのかもしれないと思った。


 まあ、冬子ちゃんがとても楽しそうにしていて嬉しかったし、俺もとても楽しかった。




 俺、もう中2なのにな。



☆★☆ 犬は時々見に行っている ☆★☆



 たまには『山忠犬王(やまちゅういぬおう)』に行こうと子供たちに話した。


 みんな喜んでくれたから決定。


 今回はちゃんとじいちゃんにも報告と連絡をした。相談はしなかったが。


 忠臣兄さんに連絡したら『ちょうど4月に生まれた仔犬たちとまた遊んで欲しい』とも言われたし、早速遊びに行く計画を立てる。


 今回は放課後の短い時間だから、不在時に親御さんが迎えに来る可能性が考えられる。


 だからじいちゃんは施設で留守番して説明役だ。


 だいたい親御さんは5時半くらいまで仕事だろうから、一応5時には戻る予定だ。


 タツヤくんと冬子ちゃんが、率先してサキちゃんとハナちゃんに気を付けるべき事をちゃんと教えていたから、俺が口をはさむ機会はなかった。


 その上で


「ほかにも、お兄ちゃんの言う事をちゃんと守ること」


 と、付け加える冬子ちゃん。完璧だ。


 委員長冬子ちゃん、副委員長タツヤくんといった雰囲気。


 二人とも、成長したなぁ……


 しっかりと約束を守って楽しんでくれた子供たち全員をわしゃわしゃと撫でまわして褒めた。



☆★☆ 成長 ☆★☆



 その日の夕食時、父や兄にもその時の様子を話し、


「子供の成長って早いもんなんだなあ……」


 と呟いたら


「ああ……俺は今、冬二(おまえ)の成長にも驚いているがな」


 と父が、しみじみと呟き


「なんちゅうても冬二(コヤツ)はまだ中2のくせに、もう『先生』じゃからな! ガハハハハッ」


 と、じいちゃんは豪快に笑った。


「オレが冬二(とうじ)ぐらいの年の頃には、もっと筋肉ムキムキだったぜ? まだまだ足りなくないか?」


 だが、兄的にはまだ俺は、物足りないようだ。



☆★☆ じいちゃんって凄い人? ☆★☆



 そうだな。


 どちらかと言えば兄の言う通り、俺はまだまだだ……と思う。


 筋肉の事じゃないよ?


 いろいろ、総合的に。


 でも、『良い人』を目指す俺にとって『学童保育』はとても良い修行の場だと思った。


「じいちゃん、学童保育に誘ってくれてありがとな」


 俺は心の底から感謝してじいちゃんに礼を言った。


「なーに礼には及ばんよ、どうせ断れん話じゃったし、お前のおかげでワシは、思いっきり楽が出来ているからな」


「アハハっ、じいちゃんはちょっと(らく)しすぎだよっ」


「むっ、ワシじゃとてやるときはちゃんとやっとるんじゃぞ? 冷暖房設備に、子供たちの怪我保険に、消防計画まで立てて消防署にも行ったわい。ホールに消火器も設置したし非常食まで準備して避難経路などの届け出もちゃんとしとる」


 え!? じいちゃんって結構忙しく頑張ってたのか!?


「ご、ゴメンじいちゃん……てっきり、ただ自堕落してたのかとずっと思ってたよ……」


 驚いた俺は素直にじいちゃんに謝った。


「ま、まぁ、労力的には大したことでも無いんじゃがな、と、とにかく……」


 じいちゃんは俺の目を鋭く見つめて、ハッキリと言った。


「現場の事は、お前に期待しておる。任せたぞ!」


 このじいちゃんの期待に応えるべく、俺は


「ハイッ!」


 と、気合を入れて答えた。






 冬二はじいちゃんに騙されています。冷暖房設備は業者任せ。子供たちの怪我保険は名簿を作る必要こそあるものの後は保険屋にお任せ。消防計画は施設の図面と職員数と利用者数、そして責任者が自分であると書いて消防署に提出する程度(知識が無いと何度か書き直しさせられますが)。それに消火器は買ってくるだけだし、火災報知器も同じ。非常食だって買って来て冷蔵(凍)庫に入れておくだけです。

 病院や老人施設、学校や保育園などに比べたら実に楽な仕事で、1~2日あれば余裕で出来る程度の事を偉そうに言って冬二のやる気を引き出してしまう。まさに『じじいマジック』

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