第六話『2年生になりました(俺は中学、冬子は小学)』
☆★☆ 中学2年生になった ☆★☆
4月になり、俺は中学2年生になり、冬子ちゃんは小学2年生になった。
そして、学童保育にも新たな仲間が加わった。
小学1年生の女の子二人。
『サキ』ちゃんと『ハナ』ちゃんだ。
じいちゃんが、サキちゃんとハナちゃんのお母さんと契約の話をしている間、俺はまたハウスからイチゴを取って来いと命令された。
「わっ、わたしも行きたいっ」
冬子ちゃんが俺にしがみついてお願いしてくれた。
しがみついて……可愛い。
「よし、ついて来い」
ここからハウスまでは俺の足で走って5分くらいだから、冬子ちゃんを連れて歩けばもっと長い時間がかかるだろう。
おそらく30分くらいか。
でもそれがなんだ? 俺にとって冬子ちゃんは天使であり、絶対的存在なのだ。
今一度言っておくが、俺はロリコンではない。
冬子ちゃんが可愛いという事実を事実として、ちゃんと受け入れる素直な心を持っているというだけだ。
「タツヤくんも来「来なくていいよっ」」
俺がタツヤくんに気を使って聞いてみたが、冬子ちゃんが即座に拒絶した。
俺は、天使にも小悪魔的な魅力と言うか性質もあるんだなぁ…… と、少し驚いたが、そのギャップの面白さに耐えきれなくてつい
「アハハハハ」
と、笑ってしまった。
☆★☆ 規格外 ☆★☆
「このイチゴは大きいし真っ赤で美味しそうだけれどね、お店で売るには不格好だし、大きすぎるから売り物にはならないんだよ」
俺はイチゴの選果を冬子ちゃんに説明しながら、なるべく規格外のイチゴを摘みとっていく。
「じゃ、じゃあこれは?」
冬子ちゃんも真っ赤に熟れていて、大きくて形の不格好なイチゴをちゃんと選んでくれている。
「お~、それも規格外だな。良く見つけたね~」
なでなで、わしゃわしゃ。
「えへへ~」
今の俺の顔はきっと誰にも見せられないくらいに緩んでいるだろう。
そして冬子ちゃんのお顔も、俺以外には誰にも見せたくないくらいに緩んでいた。
「あ、これも規格外かも~」
ニコニコ、にやにや。
「あ、これも良さそう~」
あははは、えへへへ。
最近の俺、なんか可笑しくなってるかもな。
☆★☆ サキちゃんとハナちゃん ☆★☆
イチゴを一旦洗って、離れに持ち帰った俺と冬子ちゃんは『サキちゃんとハナちゃんを連れて、ホールで遊んでいてくれ』とじいちゃんに頼まれた。
サキちゃんとハナちゃんは、まだ小学校入学前だ。
二人ともお母さんから離れて淋しいのだろう、今にも泣きそうな表情だ。
だからと言うか俺は、紙芝居を選択してみた。
紙芝居は、幼稚園や保育園では当たり前にある、馴染み深いアイテムだろうと考えた末の行動だ。
「大きなカブ。 おじいさんは、かぶのたねを まきました」
サキちゃんとハナちゃんが俺に注目してくれた。
よし、上手くいきそうだ。
「あまい、あまい、かぶになれ~ おおきな、おおきな、かぶになれ~」
なんと、冬子ちゃんとタツヤくんまで食い入るように見てくれている?
俺は、紙芝居を読み終えると
「最後まで、良い子で聞いてくれたみんなに、あまーいあまーい おおきいおおきい、お店では絶対に売っていない、凄いイチゴをあげまーす」
大きなカブの冒頭をなぞるようにそう言って、さっき冬子ちゃんと一緒に摘んで来たイチゴをザルに広げた。
「無くなるまでは食べ放題だよ~」
そう言ってみたものの、多分無くなる事は無いだろう。
そのくらいにはたくさん摘んできたからな。
さっきの紙芝居の反応と、イチゴの食べっぷりを見て、俺はサキちゃんとハナちゃんのハートをがっしりと掴んだと言う手ごたえを感じた。
だが、
なぜか不機嫌になった冬子ちゃんが、俺に抱き着いて来て、イチゴを一つも食べなかった事だけはとても気になった。
次の日の朝、少し大きくなった冬子ちゃんに「大っ嫌い!」と言われた夢を見て、慌てて目覚めた俺は、なんだか切なくなった。
まあ所詮、夢は夢だ。
☆★☆ 赤ちゃん返り? ☆★☆
小学1年生のサキちゃんとハナちゃんは、二人ともかなりの甘えん坊だった。
淋しいんだろうな……と抱っこしたり甘やかしたりする日々が一週間ほど続いた。
その甲斐あってか、サキちゃんもハナちゃんも大分学童保育に慣れてきたようなのは良いんだけれど……
「あの~? 冬子ちゃん?」
今度は冬子ちゃんが甘えてくるようになった。
あれ? 大分成長してきたと思ったんだけどな~?
サキちゃんとハナちゃんは一週間くらいで落ち着いたのに、冬子ちゃんが落ち着くまでには一カ月もかかってしまった。
そんな冬子ちゃんが、可愛くて仕方がない俺は、もしかしたらどこかがおかしいのではないだろうか?
こんな風に、冬子ちゃんを甘やかす俺の姿を、じいちゃんがなんか嫌らしい表情でチラチラ見ているのに気付いて、最近の俺はかなり居心地が悪かった。