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第五話『学童保育の冬休み』と『山忠犬王』

☆★☆ 再会 ☆★☆


 冬休みになった。


 稲刈りも終わると、もう農業体験もすることは無い。


 そんな12月25日の月曜日。


「今日からまたよろしくお願いします」


 と、5人の男の子たちがやって来た。


 そう、夏休みの間、ここの学童保育を騒がしくしてくれた連中だ。


 あれ?おかしいな?


 あの時は『来なくなって淋しいなー』なんて思っていたのに、今は『また来たのかよー』なんて少し面倒に感じている。


 で、相変わらずのやんちゃっぷりだ。


 夏の話だけど、冬子ちゃんとも一ヶ月近く一緒に過ごしたし、もう顔馴染みなはずなのに、再度人見知りモード発動。


 俺の背中に隠れて怯えている。可愛い。


 タツヤくんもかなり大人しい部類だから、5人のやんちゃ共を見て顔が引きつっている。


 はっはっは。ならばやはりここは俺の出番だろう。


「全員、外に集合」


 俺はガキどもを引き連れて、休耕畑に整列させる。


「体がなまっていないか確かめる」


 そう言って、空手の型を構える。


 構えろ、などと言わなくても真似して構えてくれるのがこの子供たちの可愛い所だ。


 今回はなぜか冬子ちゃんまで一緒になって構えている。


 やるのかな? やるのね。流石は冬子ちゃん、構えまで可愛い。


 寒いからさっさと始めよう。息が白くなるくらいには外は寒い。


 身体を温めたくて、夏の時よりも多く長めに稽古をつける。


 冬子ちゃんが早速バテた。そのバテ方もポテポテしてて可愛い。


 最後は俺が抱っこして、男子共の動きを見ているだけになってしまったが、真面目に取り組んでくれているようで嬉しい。


 あ~、抱っこしている冬子ちゃんの体温で暖かい。


 しばらくの間、俺は冬子ちゃんを離さないことを決意した。



☆★☆ やんちゃたち ☆★☆



 冬は寒いからどうしても室内での遊びがメインになる。


「みんな、宿題はちゃんとやってるか?」


 冬子ちゃんとタツヤくんの心配はしていないが、5人組の方はなんとなく心配だ。


「大丈夫、明日から本気出すから」


 全然大丈夫じゃ無かった。


「明日から勉強(ドリル)の方の宿題をやるッ! もちろん俺にも宿題はある。みんなで一緒にやるぞ!」


「「「「「おお~ッ!」」」」」


 この5人、無駄にノリが良い。


 ちなみにこの5人のうち、2年生が2人いて『シゲ』がリーダー格でその仲良しが『カズ』


 1年生が3人いて『ツバサ』『タケル』『シロウ』が、シゲとカズの子分的存在だ。


 正直『シゲ』以外を見分ける自信が、まだ俺には無い。


 それはともかく明日から勉強会だ。



 そう言えば最近、じいちゃんを学童で見かけなくなったなぁ。



☆★☆ 勉強会 ☆★☆



「(12月)28日までに宿題ドリルを全員終わらせられたら、29日には『ご褒美』に、いい所へ連れて行ってやるぞ」


 俺がそう言ったら全員の目が輝いた。


 ここは今まで俺が培ってきた実績がものをいう。


 こんな事言ってハードルを上げても、今までにこいつらの期待を裏切ったことが無いという信頼があるからだ。


「ねえねえ! どこに連れて行ってくれるんだ?」


 流石はやんちゃ共、遠慮がない。


 冬子ちゃんなんかは遠慮がちに聞いてくるか、聞かずに黙々と頑張るかのどちらかなんだけどな。


「ヒントは『犬』だ。それ以上は口が裂けても言わん」


「やったー! 犬好き~! よっしゃ、やるぞ。お前らもちゃんとやれよ」


 リーダー的存在のシゲくんが仲間に発破をかける。


 シゲくんを上手く操ることが出来ればこの5人はどうにでも出来るだろうな、と俺は今日気が付いた。


「い~ぬ♪ い~ぬ♪」


 冬子ちゃんがキラキラした笑顔で、いぬいぬ言っていて可愛い。


 ふと気づくと、じいちゃんがストーブの前で丸くなって眠っていた。


 一体何しに来たんだろう?



☆★☆ ドッグブリーダー兼ペットショップの『山忠犬王(やまちゅういぬおう)』 ☆★☆



 ここ『山忠犬王』は昔、兄貴と喧嘩した際によく逃げ込んだ俺の秘密の隠れ家だった。


忠臣(ただおみ)にいさんこんにちは~」


 俺は6人のガキどもを引き連れて、1人の天使ちゃんと共に『山忠犬王』の入り口に立つ。


 勝手に入らないのは俺の癖のようなもので、本当は別に入っても構わないのだが、昔俺がまだガキの頃、ドアを開けた瞬間に一頭の犬が逃げ出してしまったことに起因している。


 実は朝のうちにこの話を6人のガキどもと、1人の天使ちゃんには説明してある。


 もちろん、犬たちを驚かさないようにマナーなども教えておいた。


 案外素直なガキどもだから、俺は特に心配などしていない。


「おう、トージ、良く来たな入れ」


 昨日のうちに忠臣兄さんにも話は通してある。


 忠臣兄さんは俺たちを招き入れると、犬舎の方に向かった。


「秋に生まれた仔犬たちだ。柴犬が7頭、コーギーが6頭だ」


「か わ い い ~」


 大声を出さない約束をちゃんと守ってくれて俺は嬉しい。


「もう、生まれてから2カ月半にもなるから乳は飲まないが、いまちょうど歯固めの時期でなあ、良かったらこのボールで遊ばせてやってくれないか?」


 俺も昔よくやらせてもらった『壊れにくいボール』


「躾けの途中だからまだ吠える事もあるし、コーギーは噛みついてくることもあるが、怖がらないで怒らないでやってくれたら嬉しいよ」


 この時期に知らない人間と関わるのは犬の社会性を身に着ける絶好のチャンス。


 忠臣兄さんは今回俺たちを使って仔犬を少し成長させたいみたいだ。


 そして6人のガキどもは興味津々。冬子ちゃんも犬は大丈夫そうだ。


「せっかくだから遊ばせてもらうよ」


 誰かがまず先陣を切らなくては、ガキどももやりにくいだろう。


 そう考えた俺がまず、仔犬にそっとボールを投げてやる。


 するとコーギーたちが狂ったような動きで争いながらボールを奪い合う。


 勝ち取った一頭が、ボールにかじり付いてこれまた狂ったかのようにかじる。


 その仔犬ながらも激しい迫力に、6人のガキどもがビビッて、ちょっと引いていた。可愛い。


 その後も仔犬たちは何故かガキどもを警戒してかなかなか近寄らず、俺と冬子ちゃんだけが仔犬たちに懐かれるという展開になった。


 ただ、6人のガキどもが「せーの」で一斉に投げたボールに仔犬たちが超反応し、ガキどもを喜ばせてくれた。


「今から2時間くらい相手してやってくれ」


 忠臣兄さんの頼みに応じ、俺たちはキッチリ2時間、仔犬たちと(たわむ)れさせてもらった。


 最後の方には6人のガキどもにも仔犬たちが懐いてくれて、大満足のご褒美になった。



 そう言えば俺、じいちゃんに『山忠犬王』に行くって事、話すの忘れてたな。


 どうでもいい事をちらっと思い出したが、まあいいやとすぐに忘れる事にした。





 

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