最終話『我が家はカオスな家族構成。でも幸せです』
☆★☆ 社会人1年生 ☆★☆
○×保育福祉専門学校を無事卒業した俺は、予定通り『四季庵』に就職した。
同じ専門学校に共に通った夏音も一緒に卒業したのだが、夏音はまだ就職していない。
何故なら夏音は今、妊娠8カ月目で、6月には子供が生まれる。
ちなみにこの『四季庵』の雪子先生も、今は育児休暇で休職しており、俺とじいちゃんの二人で運営しているのだ。
学童保育を始めた頃に戻ったみたいだが、少しだけ違う所もある。
なんと、学童の人数が80人もいるのだ。
わが『四季庵』の定員一杯ギリギリの学童たちを俺とじいちゃんの二人でだなんて、ちょっと厳し過ぎるぞー!
「冬二さん、ただ今帰りました。すぐに業務に入れます」
「おー冬子、助かる。俺はあのやんちゃ共に宿題をやらせちまうから、終わってる子たちを兄貴の所に引率してくれ」
「うんっ、わかった」
冬子がいてくれて本当に助かるよ……
なんたってじいちゃんは手のかからない子たちの面倒を見るとか言って、日向ぼっこしてるんだからな……
20歳の冬二は、14歳の冬子に助けられながらも、何とか社会人1年生をこなしている。
☆★☆ 野村桜子(4ヶ月) ☆★☆
俺が20歳。冬子が14歳の夏。
☆
夏8月の、ある夕食時。
「オギャーオギャーオギャー」
生後4カ月になる女の子「野村桜子」ちゃんが唐突に大泣きした。
うんうん。今日も元気いっぱいだ。
「お、うんちじゃない……これはおっぱいだな」
桜子ちゃんを抱き上げて、お股の臭いを嗅いだ兄秋一が雪子に「ほらよ」と桜子ちゃんを手渡す。
「じゃあ、ちょっと仏間の方に行ってくるわね」
「よし、俺も行く」
「秋一さんは駄目です!」
「もう俺にもおっぱい吸わせろなんて言わないってばよ」
「何と言ってもダメです。と言うか黙りなさい! 冬子に聞こえますッ!」
聞こえるも何も、今この場にいるんですけどね? ついでに俺にも聞こえないように気を遣って欲しい。
未だにこの夫婦は『不健全育成促進活動』を継続している。
☆★☆ とにかく急げ ☆★☆
父夏樹と夏音の子供の『初夏』くんは現在生後2か月。
すでにお風呂は済ませている。
☆
そして今は午後7時。
「おい、お前らさっさと風呂行ってこい」
兄秋一が俺たちを急かす。
まあ明日は4時起床の予定だ。早めに寝たいからだと信じたいが、おそらくは違う。
推測ではあるが、俺たちを追い払った後、すぐにこの夫婦は夜の営みをしたいのだ。
桜子ちゃんが眠っているうちに。
そして今、桜子ちゃんが雪子先生のおっぱいを吸い終わって満足したのかウトウトし始めている。
「わかった。急ごう冬子」
「うんっ」
「早く上がれよッ!いいな!」
我が家には既に、もう誰も、俺と冬子が一緒にお風呂に入っている事を疑問に思っている人などいない。
農家だからかどうかは知らないが、野村家にとってはこれが当たり前の生活なのだ。
☆★☆ ささやかな反撃 ☆★☆
午後7時半。
離れの俺の部屋で、俺と冬子はまったりと過ごす。
冬子の宿題は、学校か『四季庵』で終わらせていると知っているから、俺は遠慮なく冬子に話しかけることが出来る。
「お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪」
最近冬子は俺の事を『お兄ちゃん』とたまに呼んでくる。
夏音から教わったというお兄ちゃんプレイだ。
こんな時は大体甘えん坊で、ちょっと扱いに困っている。
「抱っこー♪」
だって、冬子は今、中学3年生なんだぜ?
で、俺は二十歳。
この間、あんまりムラムラしたから『俺に襲われても知らねーぞ!』って脅してやったら『襲って襲って~』って、逆に襲われそうになってビビらされた。困る。
だから
「はいはい」
上手く躱していかないと俺は死ぬ。精神的に。
今はまだ4月だから厚手のパジャマでまあまあ耐えられるけど、夏になったらどうしようか?
去年はどうやって切り抜けたっけ?
そんな事を考えながらも俺は冬子を抱き寄せて
「そのお口を塞がせて頂きます」
俺の口で冬子の口を塞いでやる。
ささやかな反撃なのだ。これは。
ぶっちゅー。べろべろー。
「きゃーッ!」
「どうだッ!参ったかっ!」
繰り返す。これは、ささやかな反撃なのだッ!
☆★☆ 俺の子かも ☆★☆
俺21歳。冬子15歳で中学3年生。
☆
父夏樹と夏音の息子『初夏』くんはまだ1歳だと言うのに、なかなか、かなりのイケメンだ。
「美男美女から生まれた子供は美男子になりやすいんだなー」
泣いている初夏くんを夏音から借りて抱っこしている俺。初夏くんが泣き止む。
「ほ~ら、泣き止んだよ」
俺は夏音に初夏くんを返す。
途端に初夏くんが泣き出す。
「ええ~?なんで泣くの?私がママだよ?」
また俺が初夏くんを借りて抱っこするとやっぱり泣き止む。
「この子って、実は俺の子なんじゃね?」
そう言った瞬間背後から殺気を感じた。
振り向いたらそこには冬子がッ!?
「冬二さんッ! 誰に産ませた子供なの!?」
怒ったフリして怒っていた。
「フッ……俺が生んだ」
「…………」
「…………」
世界が沈黙した。
俺の勝ちだッ!
☆★☆ 夏樹遊戯 ☆★☆
「冬二くんってさー、自分だけイケメンじゃないってよく言うけどさ? 私から見たら結構イケメンだよ?」
俺と冬子の会話に入って来た夏音が唐突にそう言った。
「慰めるなよ、俺には冬子がいるし、別に劣等感持ってるって訳じゃないからな」
「慰めなんかじゃないよ、冬二くんは優しそうな顔して、本当に優しいからぴったり『冬二くん』って感じでカッコいいよ」
最近夏音は、俺を褒めると冬子の機嫌がよくなる事を楽しんでいる節がある。
「えへへ~、流石夏音さん。冬子もそう思う~。冬二さんってカッコ可愛い~」
冬子はデレデレ状態だ。
だが、なぜか背後から殺気を感じる?
振り返るとそこには父夏樹が……
「冬二……ちょっと話がある……馬小屋の裏まで来い!」
「え? ちょっと待って親父?この会話の流れで俺が殺されるの?ええッ? ちょっと理不尽じゃね?」
「うるさい、口答えするなッ」
そう言って馬小屋の裏に連れていかれた俺は
「どうだ?私の演技は? 夏音がどうしても私に似合うからと、わざわざ台本まで書いてくれたんだ。見てくれこれを」
未だ最強武闘家の父、夏樹様より、たのしいネタばらしをして頂いた。
俺はダッシュで元の場所へと戻る。
夏音めッ、ウチの親父で遊ぶなーッ!
だが、夏音はすでに逃走した後であった……
☆★☆ カオスでも幸せに ☆★☆
もし仮に俺が冬子と結婚したとしよう。
俺と秋一は兄弟だから冬子は秋一の義妹になる。これはいい。
だが、冬子は雪子さんの娘だから、俺は雪子さんの義理の息子にもなる。ここまでもまあいい。
だが、雪子さんの娘である冬子は父夏樹の義理の孫で、俺は父夏樹の本当の息子。
そして父夏樹の嫁夏音は俺と同じ年で俺の義理の母。冬子の義理の祖母。まだ21歳なのに。ちなみに夏音は18歳で冬子の義祖母になっている。
もし俺が冬子の婿になった場合、夏音を俺の義祖母と呼ぶことも可能だ。
なかなかに説明しづらく、カオスな家族構成だが……
☆
「冬二さん?なんで難しい顔してるの? 考え事?」
6歳の頃からいつも一緒にいた冬子も、もうすぐ16歳の高校1年生だ。
「ああ、うん。ウチの家族構成ってさ、複雑すぎて説明しにくいカオスな状況だよなーって考えてた」
そして俺はもうすぐ22歳の社会人2年生。
「うん、確かに複雑すぎるけどさ~、特に困ったりしてないから別にいいんじゃない?」
「まあね、でもさ?俺と冬子が結婚したら、雪子さんがお義母さんになるのかお義姉さんになるのか、そこが問題だ、なんてね」
「あははッ、そうだよね……って、えッ? 冬二さんッ!?」
「どうした? 急に慌てて?」
「今、結婚って!?言った? 言ったよねッ?」
「ああ、言ったよ?」
「絶対だよっ?」
「何を今さら……毎日一緒のベッドで寝て、毎日一緒にお風呂入って、毎日のようにキスしてる俺たちだぜ? これで冬子と結婚しなきゃ、俺は一体誰と結婚するって言うんだよ?」
「冬二さん……」
「お、おい、そんなウルウルすんな。俺だってな、事故とは言え冬子と一緒のお風呂に入っちまったあの時からな、真面目に結婚を考えるくらいには冬子に惚れちゃってるんだよ」
「あのねっ冬二さん、好きです、大好きですっ」
「あはは、冬子ちゃんの『大好き』は、もう何百回も聞きましたよ~?」
「そうじゃなくって、高校生になった冬子が、大人としてもう一回言います」
子供の頃の癖を出しながらも大人になったと言う冬子が愛おしい。そしてさらに可愛い。激可愛。
そんな冬子が、真剣な表情で、深呼吸までして
「冬二さん、大好きです」
そう言ってくれた。だから俺も
「冬子、好きだよ。もう少ししたらちゃんと結婚しような」
真剣に、心を込めてプロポーズする。
例えどんなカオスな家族構成でも
「うんっ! じゃあそろそろ子どもを作る練習もしなきゃだねっ、今日からやるよっ」
俺たち家族は幸せになったんだからそれでいいじゃないか。
だから
「その練習も毎日するぞッ!」
俺たちも幸せになろうな
〈〈〈 おしまい 〉〉〉
最後までお付き合いいただき、ありがとうございましたm(__)m




