第九話『小野寺退場』
☆★☆ 許す気など無い ☆★☆
小野寺純が両親に付き添われて我が家を訪れたのは12月30日(土)の朝の事だった。
小野寺の両親が俺に謝罪したいと話したが、俺はまだ『四季庵』にいたから、じいちゃんが小野寺一家を『四季庵』の離れまで案内してきた。
☆
「この度はウチのバカ息子が多大なるご迷惑をおかけしました」
深々と頭を下げた小野寺の両親だったが、小野寺純本人は不満そうな表情だ。
もちろん俺は
「謝罪は受け入れないし、許す気もありません。帰ってください。そしてもう二度と俺に関わらないと誓ってください」
無表情のままこう言った。
「それに、肝心の本人はずいぶん不満そうに見えるんですがね?」
皮肉たっぷりのスパイスを効かせて俺は暗に「おまえも頭を下げろ」と促す。
頭を下げても許す気など無いがな。
☆★☆ 因果応報さ ☆★☆
「純!頭を下げなさい」
父親に促されてやっと小野寺が頭を下げた。
だが、謝罪の言葉はない。
しばらく待ってみたが小野寺は沈黙したままだ。
俺は退屈さを感じたからちょっと周囲を見回した……ら?
ホールの柱の陰から冬子ちゃんがこちらにスマホを向けている?
撮影してるのかな?
さらに父夏樹が外玄関中央で仁王立ちしていて、兄秋一と雪子先生は外玄関の柱の陰から覗き見している。
「小野寺、お前が何にも言わねえんならよ、これを聞いてくれ」
俺はスマホを出して、まず音量を最大に上げておく。
その後、夏音から貰った音声データ、それをさらに編集したものをボイスレコーダーで再生させた。
「お前の声だ」
『因果応報だっけ?世界って奴は案外上手くできてるじゃねえか?クククッ』
小野寺の表情が怒りに染まる。
怒れ怒れ、こっちはもっと怒ってるんだ!
「ふんっ、本当にうまくできていたな、世界って奴はよ」
そしてリピート。
『因果応報だっけ?世界って奴は案外上手くできてるじゃねえか?クククッ』
『因果応報だっけ?世界って奴は案外上手くできてるじゃねえか?クククッ』
『因果応報だっけ?世界って奴は案外上手くできてるじゃねえか?クククッ』
『因果応報だっけ?世界って奴は案外上手くできてるじゃねえか?クククッ』
☆★☆ 小野寺退場 ☆★☆
俺はスマホを下駄箱の上に置いた。
良く聞こえるように壁に立てかけて、電池が切れるまでリピート再生を続けるつもりだ。
手加減などしない。
「くッ! このッ! うおおおおおおおぉぁッ!」
小野寺が俺を殴りつけた。
「あっ!」
小野寺の両親が、小野寺の暴走を止めようとしたのだろうが、止める間も無かった。
だから、小野寺が兄秋一と父夏樹に取り押さえられたのは、俺が殴られた後だった。
「現行犯じゃな」
じいちゃんの呟きが、
「えっ?」
小野寺の両親を怯えさせた。
「あーもしもし? ワシじゃ、野村農園の……」
謝罪に来て許しを請いに来たはずの小野寺家は、全く逆の結果を手に入れた。
しばらく後、駆け付けてくれたお巡りさんたちに、小野寺純は身柄を拘束された。
目撃者が多数いる現行犯だから、証拠なんかいらないんだが、一応『四季庵』玄関の防犯カメラと、冬子ちゃんが撮影していたスマホの映像も見せておいた。
☆
後日の事になるが、小野寺純は保護観察処分中の身でありながら、再度暴行傷害事件を起こしたとして『少年院送致』となる。
今後、小野寺家が俺と俺の家族たちと関わることはもう一生無いだろう。
☆
『四季庵』の玄関内でうなだれている小野寺の両親にじいちゃんが
「目障りじゃからそろそろ帰ってくれんかの?」
鋭い眼光でそう言い放った。
「おさわがせしました…………」
「すみませんでした…………」
小野寺純による『寝取り八つ当たり事件』は、これを持って幕を閉じた……
☆★☆ お兄ちゃん ☆★☆
「お兄ちゃん、痛かった?ごめんね、見ているしか出来なくて、ごめんね、ごめんね……」
そう言って泣いているのは冬子ちゃんだ。
いつの間にか俺の事を昔のように「おにいちゃん」と呼んでいる。可愛い。
「大丈夫だよ、殴られたのはわざとだから。それに、兄貴の手加減パンチの方が100倍痛いんだし、こんなのスズメバチに刺されたようなもんさ」
「スズメバチに刺されたら危険だよっ!」
「はっはっは」
冬子ちゃんが救急箱から消毒薬を探し当てて、俺が殴られた痕を消毒し始めた。
打撲だから消毒は意味が無いよ、なんて言わないよ俺は。
だが、
「これは打撲じゃから、シップの方がええぞ?」
じいちゃんが得意そうに冬子ちゃんに指摘して、俺の気遣いをぶち壊した。
☆★☆ 小野寺を消した日 ☆★☆
「大丈夫だった?」
冬子ちゃんに治療されている最中に、なぜか夏音がやって来て俺を気遣ってくれた。
「あれっ夏音いつの間に? ってまあいいや、全然平気。むしろ面白かったよ」
「もう~、急に『夏樹さん』と『冬子ちゃん』から連続でメッセージが来たからびっくりしたよ~」
あれ? 冬子ちゃんとラインしてるのは知ってたけど、父も? あの父夏樹も?
まあいいか。
「あ、それよりも冬子ちゃん、さっきの動画うまく撮れてたか見たいんだけどいい?」
「うんっ、夏音さんにも見せたいから一緒に見よー?」
「いいの?どれどれ」
動画再生が始まった。
ちょっと遠いかな?でも、音声はちゃんと撮れてる。
あ、少し拡大した? 意外とスマホを使いこなしてるんだな。
「うわ~、あのセリフだけを連続再生って、冬二くん結構やるねぇ~」
「因果応報だったからな」
「私の恥ずかしい声が再生されてなくて良かったよ~」
「えっ?恥ずかしい声って?」
冬子ちゃんが食いついた。
「お兄ちゃん! 夏音さんの恥ずかしい声を悪用したら駄目だからね!?」
冬子ちゃんは一体何を言っているんだろうか? だが
「悪用なんかしないよ、それにもう目的は達せられたし、音声データは消すよ?」
俺は夏音と冬子ちゃんの目の前でスマホを操作して、あの忌まわしい音声データを消した。
「小野寺と関係あるデータなんか、全部消してやる!」
俺はクラスチャットも削除して、クラスのラインから抜けた。
これでいい。どうせ俺は今後クラスの奴らと仲良くする気は無い。
もしもいつか、友人になってもいいと思えるようなクラスメイトを見つけたならば、クラスなんかと関係なく、個人的に繋がればいいってだけなんだからな。
「私もクラスチャット削除しちゃお~っと」
夏音もクラスのラインから抜けた。
☆★☆ 幸せがいっぱい ☆★☆
「ところで冬二くん?」
「なに?」
「さっき、冬子ちゃんが冬二くんの事を『お兄ちゃん』って呼んでたけどどうして? 一体どういうプレイなの? 詳しく説明してくれる?」
「え? えええ~!?」
「さあ、さあっ」
「あ、あれだ、まだ冬子ちゃんが小さかった頃……」
「小さかった頃から仕込んでたの?」
「え? 仕込むって……一体何を?」
「しらばっくれちゃって~もしかして冬二くんってロリ…「ふ、冬子ちゃん?ふゆこちゃんの方から説明を頼む~!」」
☆
明日は大晦日で、明後日はお正月。
これからいろいろと忙しくはなりそうだけど……
明るくて楽しくて、嬉しくて面白くて、その上華やかな毎日が待っている俺の人生は今……
幸せがいっぱいだ。




