第八話『祝勝会と冬子の部屋』
☆★☆ 祝勝会は華やかに ☆★☆
俺たちはホールから応接室へと移動した。
大きめのテーブルが用意されており、8人位ならギリギリ丁度いいと言えるくらいのスペースで座れる。
で、そのテーブルの上には人数分の寿司折と中央にはオードブルが置かれていた。
「と言う訳で祝勝会じゃ」
じいちゃんが準備していたらしい。
4人ずつ横並びに座って向かい合う形で、俺は冬子ちゃんと雪子先生に挟まれている。
そして向かいには夏音。
夏音はお母さんと、我が父夏樹の間だ。
最近と言うか、学童保育を始めてからの我が家は、随分と華やかになったものだ。
家では女性など見かける事すら無い、男だけの生活ってやつを何年も、ずっと続けて来ていたと言うのにな。
☆★☆ 結果とアイコンタクト ☆★☆
食事を摂りながら、じいちゃんが裁判の結果について話し始めた。
「裁判費用じゃがな、弁護士はワシの友人に頼んだんで案外安く済んだ。その弁護士費用は冬二と夏音さんに支払われる慰謝料からの天引きと言う形にしてもらったから初期費用は何にも払っておらん」
俺と夏音は、席が向かい合って座っている。
だからお互いの顔や表情が良く見える。
へー、そういうやり方もあるんだ?(冬二)
難しい話になるのかな?(夏音)
「で、罪状なんじゃが、冬二に対するものはの『名誉棄損』『信用棄損』『侮辱罪』『傷害罪』のフルコースでごり押ししたそうじゃ」
俺と夏音は今、席が向かいだ。
全然わかんねえ……(冬二)
うん、良く分かんないね。(夏音)
「夏音さんに対しては『信用棄損』だけは付けられずに残り3つでごり押ししたとの事じゃ」
じいちゃんは寿司を1貫つまんで食べ終えるとまた話し出す。
「民事訴訟の方はな、思ったよりも慰謝料が少なかったのは残念じゃが、和解に応じず小野寺の孫の経歴に傷をつけるのが目的じゃったからまあ十分と言える結果ではあった」
俺と夏音は、席が向かいだ。
和解? うん、したくないな。(冬二)
うん、和解なんてしなくて良かった……。(夏音)
「刑事訴訟の方は、まさか保護観察処分を勝ち取れるとは正直思ってなかったが、どうやら小野寺の孫の態度が悪すぎてこうなったらしい。まあ自業自得じゃな」
俺と夏音は席が向かい。
終わったんだな。(冬二)
うん……。(夏音)
何となくわかった。これってアイコンタクト。
「ああッ!冬二さん、夏音さんと目と目で会話しないでーッ!」
何気に冬子ちゃんの勘が鋭い?
☆★☆ 静まる大人たち ☆★☆
冬子ちゃんが、祝勝会の宴もたけなわになってきた頃、突然爆弾を落としてきた。
「夏音さんって、冬二さんとはキスをしたの?」
「ええ~?」
当然驚く夏音。
言っていい?(夏音)
場所がまずいな~。(冬二)
「あッ! また目で会話してる~」
大人たちが何だか静かになった?(冬二)
ちょっと注目されちゃってるみたい……。(夏音)
「食べ終わったら少し、3人で俺の部屋に行ってみるか?」
「冬二くんのお部屋? 行ってみたい!」
と夏音が喜んで
「冬二さんのお部屋には入れたくない~」
と冬子ちゃんが嫌がった。
だから
「私の部屋でお話ししよう?」
冬子ちゃんのお部屋で話をすることに決まった。
☆★☆ 普段の距離 ☆★☆
「おじゃまします……」
夏音はそう言って冬子ちゃんの部屋に入る。
俺の部屋と違って、冬子ちゃんの部屋にはほとんど物が無い。
夜は眠くなるまで俺の部屋で一緒に過ごして、寝る時だけ部屋に戻るという生活スタイルの為、物を置く必要があまり無いからだ。
それでも座布団が3枚ある。
自分の分と雪子先生用と兄秋一用だ。
冬子ちゃんが座布団を床に並べて
「どうぞ」
と促す。
でも、
「冬子ちゃんと冬二くん? ちょっとくっつきすぎじゃない!?」
俺たちの普段の距離感に、夏音からのダメ出しがでた。
☆★☆ 冬子は小学4年生だよ? ☆★☆
「さっきも聞いたけど、夏音さんは冬二さんとキスした?」
「う~ん……しなかった…… と言うか、してくれなかったの」
ホッとした表情で冬子ちゃんが肩を降ろした瞬間
「私はしたよ」
止める間もなく冬子ちゃんが切り込んだ。
「えっ?」
驚く夏音。そりゃあ驚くだろう。何故なら、冬子ちゃんはまだ小学4年生なのだから。
よ ね ん せ い 。
「冬二さんが落ち込んでいた日の日の出前に、私と冬二さんはぴったりと肩を寄せ合いながらベンチに座って、東の空が暁から曙まで変化する美しくも圧倒的な光景を、私たちはただただ静かに眺めているうちに自分の中の感情が、お日様が顔を見せた瞬間の朝ぼらけの中、恥ずかしいという感情が小さくなったと感じて私の方から冬二さんに抱き着いて見つめ合って、その唇を……「ちょっと冬子ちゃん!?なにそれしゃべり過ぎー!」」
この子、本当に小学4年生?
☆★☆ 冬子と夏音 ☆★☆
「冬子ちゃんって、本当に冬二くんのことが大好きなのね……」
「うんっ」
冬子ちゃん? うんっ、って、流石にまだ子供だなぁ。子供って正直だね。
「よし、わかった。もう何でも聞いて? でもその前に一つお願い」
「なぁに?」
「私は、冬二くんの優しさに救われました。だからもう二度と冬二くんを裏切ったりしません。恋したりもしません。だから冬子ちゃん、私を冬二くんのお友達でいさせてください。お願いします」
「…………」
沈黙が訪れた。
まさか夏音がこんな事を考えていたとは……。
俺だってもう、夏音に恋することは無いだろう。
でも、友達か……
「……うんっ、夏音さんを信じる。冬二さんのお友達とは冬子も仲良くしたい」
ふふっ、冬子ちゃんが『私』と言わずに『冬子』って言ってる。懐かしくて可愛いな……
「ありがとう、冬子ちゃん。夏音も冬子ちゃんの恋をい~っぱい応援するからね?」
そう言えば夏音も小学校の頃は自分の事名前呼びしてたっけ。こっちも懐かしいな……
☆★☆ 消えた火花 ☆★☆
「と言う訳で、冬二くん?」
ぼんやりしていた俺は、急に名前を呼ばれてビックリした。
「え、な、なに? ちょっとぼんやりしていて聞いていませんでした、ごめんなさい~」
「何謝ってんのよ? じゃあもう一回言うけど、今度から私も『四季庵』の学童保育、お手伝いしに来るからね。アルバイトじゃなくて、お手伝いにね」
「お、おう? え、マジで?」
じいちゃんが手を叩いて喜びそうだな。
「そっか、一応バイト扱いにできないかどうかはじいちゃんに言ってみるね」
「ホント? でも、足を引っ張らないようになってからでいいわよ」
「まあ、言うだけだから気にすんなって」
「来年からは冬子も学童卒業して、お手伝いさんになるんだよ~」
「そっか~、来年は5年生だもんな」
「冬子ちゃんと一緒のお手伝いさんか~なんか楽しみ。ワクワクだよ」
2人とも凄く仲良くなったな~
さっきまでなんかバチバチ火花が飛んでたような気がしてたけれど
冬子ちゃんと夏音がこれからもっと、益々仲良しになってくれたなら
俺もワクワクだぜ。




