第一話『小野寺純というクズ』
☆★☆ 気に入らねえ ☆★☆
『上手くいった』と俺はほくそ笑んだ。
野村の事は、昔から大っ嫌いだった。
身長も、体力もいつも俺より上にいる。
特に持久走ではいつも野村は1位を取る。
持久走での1位は全員で走るから、たった一人しか得られない。だから目立つ。
短距離では俺の方が圧倒的に早いのに。
だが、短距離での1位は数人でしか走らないから、何人も得ることが出来る。だからあまり目立たない。
野村は昔から気に入らねえ。
☆★☆ 嫉妬 ☆★☆
野村は、地味な顔のくせに不思議な魅力がある。
男女を問わず、周囲を明るくさせちまうような不思議な雰囲気を持っている。
恋愛で言う『好き』とは違うが、周囲にいるクラスメイト達を安心で、安全な、信頼できる人といった無害な意味での『好き』と思わせてしまう感じだ。
野村は体力はあるくせに『球技音痴』と言う弱点を持っている。
球技だけは俺の方が遙かに上だと優越感を持っていた。
だが、野村は変にコミカルで可笑しな失敗ばかりして、それがなぜか皆にウケる。
俺が活躍すれば女子どもは歓声をあげる。
だが野村は失敗するたびに皆から盛大な笑いを取っている。
凄いのは俺の方の筈なのに、なんだか勝った気がしねえんだ。
☆★☆ 俺がやってやったんだ ☆★☆
野村の性格は良く知っている。
初心で奥手なロマンチストだ。
だから野村がアイツと結ばれちまう前に奪ってやった!
野村からアイツを奪う自信もあった。
俺の取り巻き達から、アイツの初恋の人が『俺』だったと言う情報が入ったからだ。
だが、まさかキスすらしてなかったとはな、野村って奴は馬鹿な初心だぜ! ハハハハハッ!
☆
初めて奪った日から1カ月半か、長かったな……
ようやくコイツと野村が別れた。
コイツとヤッてても、どうしても野村の影がちらついててな、本当にウザかったよ。
だがそれもあと少しだ!
どうだ! 見ろよ、あの野村の落ち込んだ顔をよ!
俺がやってやったんだぜ? ハハハハハッ!
☆★☆ 復讐計画 ☆★☆
野村とアイツが完全に別れた事を確認できた。
よし、最後のとどめだ。
クラスチャットで野村を煽る。
俺に寝取られたんだぞと書き込む。
俺がアイツと何をしたか、いつからシテたかもはっきりと書き込む。
野村のヘタレ加減は大袈裟に書いてさらに煽る。
怒れ、野村。怒って手を出してこいッ!
俺は反撃なんかしないからよ、怒り狂って俺を殴りに来いッ!
それをちゃんと動画に納めて……
野村ぁ、絶対にお前を退学に追い込んでやるからよぉ。
クックックッ……その時が今から楽しみだぜ……
どうだ! これが俺のやり方だ!
☆★☆ 文化祭 ☆★☆
文化祭には予想通り野村の奴は学校に来なかった。
計画通りだ。
だが、まだだ。今コイツを捨てれば、よりを戻す可能性がある。
面倒くせえがもう少し付き合ってやる。
「楽しかったねっ」
コイツの笑顔に野村の影がちらついてウザい。
「あぁ、楽しかったな」
「あ、でももうクラスチャットに変な事書かないでよね、すっごく恥ずかしかったんだからねっ」
「そうか……そうだな。わかった」
☆
文化祭から一週間経った。
…………。
おかしいな、野村がまだ俺に怒りをぶつけてこない?
「今日は……その……する?」
ふんっ、浮かれやがって。
「ああ、いいぜ」
少しずつフェードアウトして、そうだな、クリスマス前辺りで捨てるとするか……
「えへへっ、やったね」
☆★☆ 決行日 ☆★☆
文化祭から約1か月。
俺は最近、コイツの誘いを断り続けている。
「家の都合で忙しくなった」
「俺の親は次期社長だからな、俺も学ぶことが多いのさ」
「今日は疲れてるんだ」
みえみえの嘘だとは思うんだがな、何でコイツはこうも簡単に俺を信じるんだろう? 馬鹿なのか?
しかし……野村の奴が最近なぜか妙に元気になってきている。
少し早めに動くか……?
コイツはすでに野村から
『幻滅した』と言われたと聞いた。
もう、よりを戻す可能性はないだろう。
だったらそうだな、今日でいいだろう。もう面倒くせえ。
「純くん、最近釣れないね~? 今日もダメ?」
「今日はいいぜ、うちに来るか?今日は親が東京に行ってるから帰ってこないんだ」
ちょうどいい事にな。
「やったっ! ちょっと久しぶり」
「ああ、久しぶりだな」
オマエが絶望する理由は、野村にでも聞いてもらえ。
☆★☆ 嘘コクと因果応報 ☆★☆
「知ってると思うが俺は野村の野郎が大っ嫌いだ」
俺の話はここから始めた。
俺はあいつが嫌いな理由を全て話した。
その上で、野村を絶望させるためだけにお前に近付いた事も説明した。
「ど、どういうこと?」
だんだん、コイツの顔色が青ざめていく。
「そんな野村なんかのお下がりと付き合うなんて、これ以上できるかよっ、て事さ」
「そ、そんな……」
「最初から俺は、野村が絶望する顔が見たかっただけだ。お前になんか、これっぽっちも興味なんか無かったぜ」
「う…そ……」
「野村からお前を奪って、傷物にして、よりを戻す可能性が無くなるまで待つ。そして捨てる……最初からそういう筋書きの計画だったんだよ」
「ま、まさか……」
「嘘コクさ……クックックッ……矛盾した言い方になるが、これは正真正銘の『嘘コク』だったんだよ! 馬鹿め」
「ひどい……酷いッ!」
「酷いのはオマエもだろう? なんてったって、自分から告白したくせに自分から捨てたんだからな? 野村にとってもお前からの告白は『嘘コク』とおんなじくらいショックだったと思うぜ? ハハハッ、まさにブーメランさ」
「……冬二くん……」
「オマエがしたことを、今度はオマエがされただけだ。因果応報だっけ?世界って奴は案外上手くできてるじゃねえか?クククッ」
「…………」
「さあ、どうする? そのトウジクンって奴に泣いて謝るか?ハハハッ、とても許してもらえるとは思えないがな!」
「人でなしッ!」
「そうだ、俺は人でなしだ」
「私は……私は純くんの事を……本気で……」
「さゆからよ、オマエの初恋が俺だったって聞いた時からこの計画を思いついたんだ、あの女、俺に捨てられた割にはいい仕事してくれたぜ」
「さゆちゃんまでッ!」
「ああ」
「……帰るッ!」
「もう帰るのか? 今日は久しぶりにヤルつもりで来たんじゃなかったのか?」
「ッ!! もう二度と……顔も見たくないッ!」
☆★☆ 最後の布石 ☆★☆
「帰る前に今の会話受け取れよ。送るから」
俺は録音していた今日の会話をコイツのスマホに送った。
ピコン♪
「え?」
「野村に聞かせてやれよ……もしかしたらお前の為に怒ってくれるかもしれないぜ?」
野村の奴、なかなか俺に怒りを向けないからな。
「野村が俺を殴り殺してくれたら、オマエ嬉しくね?」
これで俺の布石は終わった。
後はその時を待つだけだ。
コイツは俺が送った音声データを確認した後で、どうやら俺とのラインをブロックしたようだ。
「地獄に落ちろっ!」
物凄い怒りの形相でこう吐き捨てて、コイツは出て行った。
☆
「地獄にか……そうだな、先ずはオマエと野村がな……」
そう言ってやった声はアイツには届かなかっただろうがな。
「くくくっ……先に地獄に落ちていろ!」
楽しくない話ですみませんすみません……




