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第三話『農業体験型学童保育』

☆★☆ 懐かれちゃった ☆★☆



 今日は4月1日。


 冬子ちゃんの母親が、就職先を探している間、冬子ちゃんをうちの学童保育で預かる事になった。


 祖父の手伝いをしている俺が今、冬子ちゃんの面倒を見ている。


 で、その肝心の祖父なのだが、学童保育を見切り発車させてしまった後始末だとかで、市役所やら不動産やらに出かけて行ってしまった。


 つまりと言うか何と言うか…… 今俺は、学童施設の中の、ホールの中央で胡坐を掻いて座っている。


 でだ、冬子ちゃんはそんな俺の()()()にちょこんと座っている。


 その上で俺は、可愛い絵が表紙の絵本を10冊ほど脇に準備して読み聞かせをしている。


 ここには俺と冬子ちゃん、二人っきりだ。


 始めて出会った日、あれほど俺は警戒されていたというのに、最早警戒心など欠片も見られていない。


(可愛すぎる……)


 今俺は、ほっこりとした幸せの中で悶絶している。



☆★☆ 仲間が増えた ☆★☆



 4月7日(金)


 新たな子供が学童保育にやって来た。


 タツヤくん。小学1年生。


 男の子だが優しそうで、やはり初日だからだろう。緊張して固まっている。可愛い。


 ちなみに俺はショタコンでは無い。絶対。


 冬子ちゃんが先輩の貫録を見せてタツヤくんをリードして、施設の中を案内している。可愛い。


 俺はそんな二人を見守っているが……


 じいちゃんはテレビを見ながら茶を飲んでいる。


 あれ? なんかおかしいぞ?



☆★☆ 夏休みの親は大変なのだろう ☆★☆



 夏休みになった。


 平日限定で5人の小学生が新たにここに預けられた。


 子供が夏休みでも、親の仕事には夏休みなんてないからな。


 メチャメチャやんちゃな1年生と2年生の男の子が合わせて5人。


 流石に持て余す。


 俺はみんなを外に連れ出し、父から教わった空手の型を教えることでコントロールしようと試みる。


 成功だ。


 ガキどもには『先生』と呼ばれるようになってしまったが、俺の言う事を良く聞いてくれるようになってくれた。


 そして冬子ちゃんは、そんな俺をうっとりと見つめている。


 ただ、じいちゃんはその時、施設の中で煎餅を食いながらテレビを見ていた。



☆★☆ 宝探し ☆★☆



 子供たち全員連れて、ジャガイモの芋掘りを見学しに行った。


 トラクターに牽引(けんいん)された収獲機が、一定の大きさ以上のジャガイモだけをガンガンと持っていく。


 だが、小さいジャガイモは畑に打ち捨てられていく。


 トラクターが去った。


 俺は閃いた。


「さあ、宝探しだ! 畑にはまだまだジャガイモが落ちているぞ~。拾った芋はお前たちのお母さんへのお土産だ。どんどん拾って来い」


 ガキどもに宝探しをさせておいて、俺は手つきビニール袋を人数分用意する。


 ギャーギャー騒ぎながら土塗れになってイモ集めするガキどもが妙に可愛く見える。


 俺はロリコンでもショタコンでもない。


 だが、もしそう言われて揶揄(からか)われても絶対に否定はしないという、変な覚悟が出来た。



☆★☆ ふかしイモ ☆★☆



 みんなでイモ洗いをした。


 お土産用には形の良い綺麗なものを選んで、ごつごつしたイモをふかしイモにして、ここで食べることにした。


 鍋に水を張り、蒸し器をセット。 その上に形の悪いイモをギュウギュウ並べる。


「これがボクのイモだからな!」

「僕のイモはこれ!」

「ぼくのはここ!」


 ギャアギャア(うるさ)いが、ふかして蓋を開ければみんなどれが自分のイモなのか分からなくなっている。


 そんなもんだ。


 俺と冬子ちゃんで、みんなに配給。


「これがお前のイモだッ」


 俺がそう言い切れば、流石に子供。 簡単に納得して受け取る。


 バターとしょうゆを好きに使わせて、みんなで「いただきます」をする。


「熱い熱い」


 そう言いながらも、みんなで食べる小さめサイズのふかしイモは、昔、家で食べた時のよりも、何故か美味しく感じた。


 そんな時でもじいちゃんは、ひとりのんびりと縁側でうたたねしている。


 俺は学童保育の職員では無いんだぞ? おい、じいちゃんやる気出せー



☆★☆ 二人だけの学童 ☆★☆



 夏休みが終わると学童はまた、冬子ちゃんとタツヤくんの二人だけになる。


 騒がし過ぎた夏休みだと思っていたが、アイツらが来なくなって少し淋しい。


 最近甘えなくなってきた冬子ちゃんが、久しぶりに俺に甘えて抱き着いてきた。


 冬子ちゃんも俺と同じく、淋しいと感じているのだろうか?


 俺は優しく冬子ちゃんを抱っこする。


「ずるーい……」


 タツヤくんも抱っこされたいのかな?


 そう思って俺は、冬子ちゃんを降ろした後で、タツヤくんを抱きしめようとした。


 だが違った。


 タツヤくんは冬子ちゃんを抱きしめようとしていた。


 なーんだ、そう言う事か~


 納得して「ハハハ」と笑って見守るが、冬子ちゃんはタツヤくんをさらりと(かわ)して抱き着かせようとはしない。


 結局俺にしがみついてきた冬子ちゃんを俺は笑いながら抱え、ついでにタツヤくんも抱える。


 二人を抱えたまま、施設の外に出て走り回る。



☆★☆ 収穫の秋 ☆★☆



 9月。


 畑は今、様々な野菜を収穫できる。


 父と兄が、懸命に畑仕事をしている姿が遠くに見える。


 俺は二人を抱えたまま、トマト畑に踏み入る。


「真っ赤になってるトマト、取り放題だ!」


 二人は俺から降りて、真っ赤に熟したトマトを選び始める。


 どうせ()()()()たトマトは()()()()からな。ダジャレじゃ無いぞ。


 俺は俺で、地面に落ちているトマトを拾う。


 二人も俺の動きに気付いて、もぐよりも拾うほうが楽だと思ったのだろう。地面に落ちているトマトを拾い始めた。


 落ちるぐらいに熟れたトマトはマジで美味い。


 ビニール袋いっぱいに拾ったトマトは、今日もお母さんへのお土産だ。


 農業体験型学童保育は、今日も子供たちの成長に大きな影響を与えていると思う。






 ところでじいちゃんは今、何をしているんだろう?




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