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第九話『ちっぽけな終わりと曙』

☆★☆ 東の空 ☆★☆



 9月、二学期。


 収穫の秋を迎えて、野村農園の仕事が忙しくなってきた。


 特に、父夏樹が田んぼにかかりっきりになると、畑でトラクターが使えなくなる為、そうなる前にと急ぎの収穫作業が始まる。


 俺も学生の身ではありながらも、朝は3時半に起きて農作業を手伝っている。


 冬子ちゃんも既に小学4年生だ。もう子守りの必要はない。


 俺ももう高校生、畑仕事への理解だって充分だ。


 農家の次男なんだという覚悟も、子供の頃から既にできている。だからもう俺は手加減なしで収穫を手伝う。


 夜早く寝る必要はあるが、早起きにだっていい事はたくさんある。



☆★☆ ☆★☆

 東の空が白み始めると、やがて空が薄黒い青色の(あかつき)に変わり、やがて薄明(はくめい) に、そして赤と黒を混ぜ合わせたようなおどろおどろしい空色の(あけぼの)へと、空が幾多にも表情を美しく変えてくれる。


 その風景は、『失敗』も『後悔』も『怒り』も『悲しみ』も、あるいは『生や死』だって、この圧倒的な大自然の前では、人間なんてほんのちっぽけな存在なんだって事を俺に教えてくれる。

☆★☆ ☆★☆



 この話を冬子ちゃんに一度したら、その次の日から冬子ちゃんも早起きをして、畑のお手伝いをしながら、俺と一緒に空を眺める習慣が日課のようになった。


 祖父にも、父にも、兄にも、そして雪子先生にも、俺のこのロマンチシズムは分かってもらえなかったが、朝焼けは綺麗だと言う認識だけは共通していた。


 だが、冬子ちゃんは、俺の『人間なんてほんのちっぽけな存在だ』という考えにも共感してくれた。


 それだけで俺は、産まれてきて、生きてきて良かった、などと感じることが出来ている。



☆★☆ 予兆 ☆★☆



 二学期。


 農繁期だから夜は10時には寝る事をあらかじめ夏音には話していたが、夜のラインのやり取りが止まった。


 朝起き掛けにスマホを見れば『あ~また間に合わなかったゴメン。おやすみー(22:25)』 と言った内容のメッセージが届いている。


 バイトの日の下校も、最近の夏音は「今日はさゆちゃんたちとちょっと遊んでいくからゴメンね」そう言って、教室から先に出て行ってしまう。


 俺は木曜日以外は一人で下校することが多くなった。


 デートでも以前のような元気がなく、何か悩んでいるような気配がしていた。


「大丈夫? 何か困ってない?」


 俺がそう聞いても


「何でもないよ~」


 と、急に元気な振りをするが、元気がないって事はお見通しだ。


 最近は手を繋ぐこともなくなって、俺の目標である『年内にはキス』が遙か遠くになってしまっている。


 学校でも夏音の様子が変わった。


 昼休みの弁当も、今までは俺と2人で食べていたのに、最近夏音は、クラスに出来た新たな友人たちと一緒に食べるからと、俺は1人になることが多い。


 そのグループが、小野寺の取り巻きの女子達だというのも気にかかっている。


 10月も後半になった。


 最近昼休みのボッチ飯を嫌って、俺は隣の2組を訪ねて中学時代の仲良したちと合流している。


 仮装大会で一緒だった、俺も含めて男子5人組だ。それに2人の女子が加わって7人。


 まだ交流が続いていたようで嬉しかったし、俺を気軽に受け入れてくれるところもまた嬉しかった。



☆★☆ 終わりの始まり ☆★☆



 11月。文化祭前日。




 変化は突然に起こった。


 バイトに行く前に明日の文化祭の予定の確認をしようと、俺は夏音に話しかけたのだが……


「あのね、冬二くん……私、この間『()()()』に告白されたの……」


「はぁッ!?」


 意味が分からなかった。


 まず第一に告白されたって? 俺と言う彼氏がいる訳なんだから断って当然じゃね?


 第二に『純くん』って誰だ? まさか?


「小野寺か?」


 俺を何かと敵視している小野寺だが、夏音が俺と付き合っている事くらい知っているだろうに!


「うん……」


 夏音の顔色が冴えない。まさか?


「俺と……別れたいって事?」


 なぜか俺は、最悪の予想から尋ねた。


「うん……」


 夏音が、俺の最悪の予想を……肯定した。



☆★☆ 終わりの終わり ☆★☆



「り、理由を聞きたい。納得できる理由を……」


 眩暈をこらえながらも俺は、尋ねずにはいられない。


「冬二くんは……私よりも仕事が大切……」


 それはそうだ。仕事というものは、家族を養うためには絶対に優先させなければならないものだと、俺は思っている。


「冬二くんとは……時間が合わない……」


「それって最近の夜の事? 畑仕事で早く起きなきゃいけないからって、早く寝る事?」


「うん……」


「だったら、そこは夏音が俺に時間を合わせる事も出来たよね……もしかして、そこまではしたくないって事?」


「うん……」


「そうか」


 これが、これが農家の弱みか……


「冬二くんは……優し過ぎる……」


「え?それは、どういう事?」


「9カ月だよ? 9カ月も付き合ってて、手を握った回数がたった3回……キスもしてくれない」


「俺は……ゆっくりと、距離を……キスは……ロマンが……」


 俺は一体何を言いたいんだろうか、もう頭が働かなくなっている事を自覚した。


「私は、もっと、強引でもいいから、冬二くんに奪われたかった!」


 俺にこんな事を……過去形で言うって事は?


「小野寺には、もう奪われたんだね……?」


「うん……」


「そうか……そうかッ! そうかよッ!!」





















 俺の初恋は終わった。




 そして俺は




 夜明け前の曙の風景を……今すぐ見たいと、無性に思った。







 

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