第六話『高校1年の春~夏』
☆★☆ 俺と小野寺 ☆★☆
俺はどうやら『小野寺純』というクラスメイトに、本気で嫌われているようだ。
身体測定で俺が180cmだったのに小野寺が179cmと結果が出た時、奴は俺の方を見て「チッ」と舌打ちをした。
体育の授業で長距離を走らされた時に、俺が1位を取って小野寺が2位だった時にも、もの凄い形相で俺は睨みつけられた。
また、別の日の体育でバスケットボールをした際には、満足にドリブルも出来ない球技音痴な俺を見て、奴は「ハンッ」と鼻で笑っていた。
俺が奴に一体何をしたと言うのか?
そもそも奴は小学生の頃からこうだった。
小野寺は爽やかなイケメンで抜群の運動能力を誇り、男女を問わず人気者だ。
だけど、性格だけは絶対に悪いと俺は思っている。
☆★☆ 優しい冬子 ☆★☆
もともと優しい性格の冬子ちゃんだったが、最近更に優しくなってきた。
今までの冬子ちゃんは『受動的な優しさ』と言った印象だったのに対して、最近は『能動的な優しさ』を兼ね備えてきたような感じと言えばわかりやすいだろうか?
頼まれたことを引き受けるだけではなく、相手の為に気遣いが出来るようになってきたように思える。
天気予報を確認しないで家を出ようとした俺に
「冬二さん、今日は傘持って行った方がいいよ」
などとにっこり微笑みながら言ってくれるようになったし、
畑での手伝いが一段落した直後に
「ほかにも手伝えることはある?」
と、雪子先生や兄秋一に対しても、可愛らしい気遣いを見せてくれるようになった。
そしてついに、我が兄秋一の事を
「お義父さん」と呼ぶようになった!
これには流石の兄でも完全にノックアウトされたようで
「冬子、今日は『お義父さん』と一緒に寝ようか?」
などと言い出す始末だ。
ただし、冬子ちゃんが兄秋一の耳元で何かを囁くと、兄はなぜか納得して
「そうだな、冬子も少しは大人になったんだもんな」
と、俺に優しい瞳を向けて勝手にひとりで頷く。
まあ、冬子ちゃんの優しさで、わが野村家の雰囲気が、優しく温かい空気に変わってきているという事に、俺たち家族全員がちゃんと気付いている。
☆★☆ 服を買います ☆★☆
俺と夏音は週2回のデートを毎週楽しんでいる。
木曜日は学校帰りの制服デート。
そして日曜日にはわざわざ待ち合わせをして、私服デートをする。
今日のデートはカジュアルショップで俺の私服を夏音のセンスで選ぶ、と言う買い物デートだ。
お店の更衣室で俺は、当然のように夏音の着せ替え人形と化した。
やはり、俺が自分で選ぶような、ダサい服を夏音がチョイスする事はない。
ただ、
「お、これ俺に似合ってんじゃね?」
と、俺が黒ベースのちょっぴり尖った服装を気に入ると
「それ、ネタとして選んでみただけなんだけど?」
あはははっと笑われたり
「これはちょっと爽やか過ぎてんじゃん? 俺が爽やかってガラかよ~」
今度は俺がゲラゲラと笑い返したりして
「むーーーーーっ、凄く似合ってると思う私の一押しなんですけど?」
夏音が口を尖らさせて、頬をふくらませる。
そんなこんなで結局俺は、全て夏音のセンスでコーディネートをお任せにした。
そして今日買った服たちに『夏音'sチョイス』と名付け、他の服たちとは分けて保管する事とした。
そして今後夏音とデートする時は、俺がこいつらの中から組み合わせを考えてコーディネートする。
買い物が終わった後は、初めてのバーガーショップだ。
総菜パンのハンバーガーとは全然違う美味しさにも驚いたが、実は俺、フライドポテトにドはまりした。
フライドポテトをおかわりまでしてちょっと食べ過ぎたからか、その日の晩御飯をあまり食べられず
「冬二さん大丈夫?具合悪いの?」
と、冬子ちゃんに心配を掛けてしまった。
それでも、今日はなかなか有意義な一日だった。
☆★☆ 順調なバイト ☆★☆
ドッグシッターのアルバイトにも慣れて、俺は『山忠犬王』にいる全ての犬の名前を覚えた。
まあ、もともと半分以上はバイトする前から覚えていたけどな。
そして『四季庵』に新しく入った新1年生たちの顔と名前も概ね全員、一致するようにもなってきた。
犬が苦手な子が数名いるが、毎週火曜日、俺はそれ以外の学童たちを2班に分け、だいたい45分交代で2度に分けて『山忠犬王』に引率している。
嬉しい事に、俺は『犬と触れ合うお兄さん先生』と呼ばれ、なかなかに学童たちからは慕われている。
☆★☆ 『一日中冬子ちゃんと過ごす日』 ☆★☆
土曜日も『山忠犬王』でのドッグシッターとしてのアルバイトをしているわけだが、実は午後2時半~5時半というスケジュールの為、わりと午前中が空いている。
普段は畑の手伝いをしているのだが、集荷や出荷は午前中も早い時間に終わる事が多いため、余った時間を冬子ちゃんと勉強をしたり遊んだりする時間にしたい、と俺から申し出た。
それが6月3日だ。
俺がこの話を夕食時にしたら、予想通りに冬子ちゃんが大喜びしてくれたのは嬉しかったが、なぜか雪子先生が涙を流し、兄秋一まで目を潤ませていた。
後日、『山忠犬王』の忠臣兄さんから野村家への家電が掛かってきて
「毎週、土曜日のドッグランに冬子ちゃんが同席することを許可する」
といきなり言われて驚いた。
俺が頼んだわけじゃないぞ? 何かに変に気を遣った兄秋一が勝手に暴走して、どうやら『山忠犬王』の忠臣兄さんを脅したらしい。
俺はバイトに私情をはさんでいるような気がしてかなり気が引けたんだが、折角もらった許可だ。
俺だって冬子ちゃんとドッグランを楽しみたい。
兄には感謝などしなかったが、忠臣兄さんには感謝して、翌週の6月10日から土曜日は
『一日中冬子ちゃんと過ごす日』
となった。
やがてこれは、野村家全家族からの『指令』にもなった。




